【三章完結】いずれ神成る恋物語-天使と悪魔とラブコメ生活- 作:ビスマルク
多分今話は見直さないと思う。死ぬ。
女性が買い物をする時、基本的に男は荷物運びと首を縦に振る以外できないと聞いたことがあった。智弘君曰く普段ぐうたらな鈴ちゃんが買い物する時だけは俊敏に動いているという。要するに女性が何かに夢中になっている時、男は完全に無力なるということだ。それを僕は今実感している所だった。
「あの、これで三着目なんだけど……。そろそろ落ち着いて……」
「きゃああ!!!きゃああああ!!!!リョウ君!!リョウ君リョウ君リョウ君!!!!次は、次はこっちをお願いします!!!」
まったく落ち着く様子のないドレス姿のエルにされるがままに服を持たされ試着室に押し込まれる。今着ている服も上等な物だと思うのだが次に渡された服も同じくらい高そうだ。というかお客さんがいないからいいかもしれないけど本来はこんな着替えてばっかりと言うのは喫茶店としてはどうなのだろうか?というかエルが今まで見たことないくらいにスマホを使ってる。普段本当に使ってる様子がないからなぁ。カメラ機能も今日初めて使ったんじゃないだろうか。
「だけど、まぁエルが楽しそうならそれでいいか」
こういうのも惚れた弱みと言うのだろうか。だけど言った言葉は本心だ。彼女がここまで表情豊かに楽しんでいる姿は殆ど見たことがない。それを見続ける為だというのであれば着せ替え人形になるのも悪くはないだろう。渡された服に着替えた僕は試着室を出てエルと店員さんの反応を伺う。
「うーん、素材がいいわね。執事服をここまで着こなすにはしっかりした体格が必要なんだけどよく鍛えられてるわ。目が隠れてると少し印象が悪いからちょっと髪型をオールバックにして……」
「ひゃあああああああああああ!!??!普段あんまり見せない目がでて……!!リョウ君、そのままこのセリフを言ってほしいです!!!!」
「えーっと、なになに?えっ、これ読むの?本当に?」
「一生のお願いです!!!仕草もつけてくれると私はとても嬉しいです!!!」
「エルのテンションが高い……。いやまぁ、やれって言うならやるけどさ」
今までにないくらいにテンションが天井知らずになっているエルのお願いに屈した僕はそのまま彼女の顎を緩く掴み目線を合わせる。ルビーのような紅い瞳と視線が絡み合っているのが分かる。その紅い瞳と同じくらい赤くなっている顔は熱を持っていて風邪じゃないかと少し場違いな心配をしてしまった。
「『お嬢様。好き嫌いはいけないと何度言ったら分かるんだ?まさかとは思うが俺に無理矢理食べさせてほしいって言うんじゃないだろうな?食べさせ方なんざ口移し以外知らねぇぞ?』」
「あふん」
「うわぁあ!?エルが気絶した!?メディック!!メディーーーック!!!!」
誰が考えたんだこんなセリフ、そう思わせる言葉の羅列を至近距離で言ったらエルの意識が遠のいてしまったので慌てて抱きかかえる。幸いエルは軽いし衣装の重さが合わさっても素の力で抱きとめるくらいは出来た。
「大変ね沢渡君!!彼女の為にもこのセリフを読み上げるのよ!!」
「わ、分かりました!!『可愛い顔だ。だけど男の前でこんな無防備じゃ襲ってくれって言ってるようなものだよ。早く起きなよお姫様』」
「我が生涯に一片の悔いなし」
「エルっ!?エルぅううううううっ!!!?」
「頼まれた手前試してみたけど、この娘も存外倒錯してるわね……」
凄く気持ちよさそうな顔で気を失ったエルはそのまま僕の腕の中で眠りについた。いやまぁ本気で眠っているというより思い出を反芻して脳に刻み込んでいる感じだけど。もしかしてだけどエルにはお姫様願望があったのかもしれない。以前までは天使としての使命感とかで表に出てこなかった秘めたる願望と言うか。
「うーん、これはたまにお姫様って呼んだ方がいいのかな。それとも執事服着たりした方が楽しめるのかも?」
「オヒメサマ……」
「本当に稀にやるからこそ希少価値が出てくるものよ。そうね、彼女にそれを言っておけば向こうから言ってくれるでしょうからその時はそう扱う形にしたらどうかしら」
「オヒメサマ……」
「それもそうですね。ありがとうございます。ところで喫茶店独占してるみたいなものですけどいいんですか?」
「オヒメサマ……」
「ええ、ここは親戚がやっている服飾店の裏側にある趣味でやっているお店だから。ここでコスプレを楽しんで、気に入った衣装があったら表のお店で買ってもらうって形ね。中々評判がいいんだけど今日は貴方達が来るから二時間だけ貸し切りにさせてもらったの」
「オヒメサマ……」
「そんなことまで……。エルも楽しんでるみたいだし、ありがとうございます」
「オヒメサマ……」
意識が混濁しているエルを抱えたまま立ち上がり椅子に座らせる。ここではないどこか違う場所を見ているがこれはこれでちょっとムッとするな。なんか僕が思い出の中というか演技中の僕に負けてる気がする。
「……エル、言っておくけど君の事一番好きなのは僕だからね。幸せにするのも僕だ。それだけは絶対忘れないでね。もし忘れたら僕のやり方で刻み込むからね?」
「ここが天国……?」
「あっ、また意識が遠のいてる」
「彼女にとっては劇毒だったみたいね」
おかしい、普段の僕のセリフが一番エルにダメージを与えている気がする。しかしエルがこうなった以上執事服を着続ける理由もなくなってしまった。キッチリしすぎてる服というのはちょっと息苦しいし早く脱いでしまおう。そう思ったところ僕の影がひとりでに蠢きだし下から一人の美少女が現われた。
「成程……。つまり今日はリョウちゃんに好きな服を着てもらっていい日ってことね」
「リルナ、出てくるのはいいけど影から出てくるときは声を掛けてよ。人に見られたら大変だよ」
「大丈夫じゃない?事情知ってる人しかいないみたいだし」
「ええ。もう不思議なことには慣れてしまったから。お嬢さんは以前服を買ってくれた子ね。今日も着てくれてるみたいで嬉しいわ」
「目利きが完璧だったからねっ!!着やすいし楽だし可愛いもの!!」
「うふふふ、じゃあ次は秋服と冬服を見繕わないとね」
「その時はお小遣いで買いに行くわ!!!」
店員さんの対応力が凄すぎる……。リルナが出てくることに全く動じずペースを乱すこともない。これがあのショッピングモールで名物店員にまでなっていた人の実力か……。
「だけどリルナも出て来たなら色々と着替えて見たらどうかな?絶対に似合うのがあるはずだよ」
「うーん、そうだね。リョウちゃんを好き勝手着飾るのも良いけどアタシも楽しみたいかも。カタログ見せて見せて」
「ええお客さま。こちらになるわ」
カタログを手に持って目を輝かせているリルナは、エルと同様何かから解放されたような晴れ晴れとした表情をしている。復讐を終え、お姉さん達を送り出し、長女を取り戻すことが出来た。今はまだごく短い時間しか出来ないけど姉との話もしている。今のこの状況がリルナにとって降伏なら何よりだ。
「うーん、このチャイナ服って言うの試したいかも。スリットが入っててアピールにはちょうどいいかもだし。リョウちゃん脚フェチだし」
「ちょっと待ったなんでそんなことを知っているのというかそのエビダンスはどこにあるのいややぱり言うのやめて人前でそれは流石に駄目でしょ!!!!!!」
「だってリョウちゃん、おっぱい大きい人が目の前にいても最初に脚に目が向くもん。アタシにとっては幸運だけどねー。ほれほれ、見たいか見たいか~?」
スカートの裾を持ってペラペラめくって見えそうで見えないチラリズムを体現するリルナから必死に目を背ける。ここで見てしまったら僕が脚フェチというとんでもない風評被害が現実になってしまうからだ。僕は絶対に綺麗で白い脚なんかに負けない!!!
「ここにリョウとエルがいるって聞いてきたわ!!!あの子自慢げに写真送りまくってきたんだけど本当にリョウがコスプレしてる!!!ずるいわよ!!!私だって着せたい服あるのに!!!」
「シルフィ!?あれ何で!?今日天界で話し合いしてるんじゃないの!?」
「午前中で終わったのよ!!!それよりも何時も似たようなのばっかり着てるんだしこういう時くらい私も呼んでよ!!!着てもらいたいのいっぱいあるし言ってほしいセリフいっぱいあるのよ!!!」
「おー、やる気満々だねぇ風天使。良いじゃん良いじゃん、でも出てきたのアタシが早かったから先にアタシからだよ?」
「むぅ。でもトリって言うのもいいかもしれないわね……。うん、考えようによっては一番かもしれないわ」
なんらかの取引が二人の間で飛び交っている。本来だったら微笑ましい光景なのだろうけどその話の中心が僕だからどうにも背筋がゾクゾクしてしまう。なんか今の二人の目は獲物を見る飢えた獣を感じさせた。
ふと視線を感じてそちらを見ればいつの間にか元に戻っているエルが笑ってこちらを見ていた。どこか尊いようなものを見るようなその視線は温かく、いつまでも見ていたいと思っているようで。
「楽しいですね、リョウ君」
「それは否定しないけどさぁ!!!」
その後三人の美少女からもみくちゃにされた少年がそこにはいた。というか僕だった。
次回エル編最終話……のはず。
評価&感想及びお気に入りオネシャス!!!
これまでの章でお気に入り
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一章 愛と欲のカタルシス
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二章 歌と病のラプソディ
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三章 希望と炎とフラグメント
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四章 天使と悪魔とラブコメディ
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章ごとのバトルシーン
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章ごとのヒロインタイム