【四章開始】いずれ神成る恋物語-天使と悪魔とラブコメ生活- 作:ビスマルク
「ダイエットに一番大事なのは何か!!はいリョウちゃん!!!」
「え。う、運動、とか?」
「その通り!!ネットで調べたら泳ぐのが良いって書いてあったから泳ぎます!!!」
右手を高らかに上げて宣言するリルナは非常にやる気に満ち溢れている。この状態の彼女に泳げるのかどうかを聞くのは野暮というものだろう。と言うかそんなの聞こうものなら隣でパチパチと嬉しそうに拍手してるヒルダに叱られそうなので黙っておく。
「でも泳ぐってどこで?プールとか行く?」
「え、ヤダ。知らない奴に水着見られるとか気分悪いもん」
「うん。リルナならそう言うと思ったけど……。教授に相談してみよっか」
「そうする!!というわけで場所用意して教授!!!」
「うむ?それは別に構わぬが……ダイエットの必要はあるのかね?」
「あるに決まってんじゃん!!!乙女の美意識に文句言いだしたら喧嘩売ってるのと同じことなんだよ!!!メイドだってそう思ってるはずだって!!」
「率直に言って、教授は天才ですが食べた分だけ肉がつく仕様にした事だけは大変腹立たしいです」
「ドール君!!?」
まぁ男の中でも太ってるのは嫌だから運動するって人も多いし、女性ならば猶更だろう。そしてそれは種族に関係なく当てはまっているようで教授の隣に控えていたドールさんも文句を言っている。しかし教授の凝りようは凄いな。まさか自分の作るメイドさんをそこまで仕立て上げるとは。流石はロマンに生きる男と言うべきか。理解出来るこだわりにうんうん僕が頷いている間に彼女達の話しは進んだようだ。
「と言うわけで泳げるところない?」
「ふむ。それならばこのラボの更に地下に作ってある自然エリアに行くといい。湖を再現している階があるからそこならば誰にも見られることなく泳げることだろう」
「……あの、教授?ここの地下に更に何か作ってあるんです……?」
「うむ。雇った天使達や悪魔達からの要望に合わせて作り上げたのだよ。人手ならば人形達を使えば事足りるし、特殊な工程が必要でも天使悪魔の能力があれば容易に可能だからな」
この組織に所属してからそれなりに経つのに初めて知った事実に驚愕する。というかこの人会社の地下に秘密のラボなんて作ったのにさらにその下に自然地区みたいなの作るとか馬鹿気た技術力をしている。上級悪魔としての戦闘力を全て技術力にぶち込んでいると周囲から言われているのも納得である。
「では吾輩はまだ仕事が残っているので会社に戻るのだよ。天界との話し合いをする準備も必要だし、時間は有限なのでな」
「あ、はい。お疲れ様です」
「構わんとも。命懸けの戦いをしてくれている沢渡君やリルナ君の手助けをするのは吾輩の趣味のような物なのでな」
笑いながらエレベーターに乗り上にある会社に向かった教授を感謝しながら見送る。僕達のこうしたお願いを聞いてくれることは大変助かる。その上あのキャラの濃い社員たちの相手をいつもしているのだから頭が上がらない。
「それじゃあ行こうか。道案内は誰かいるのかな?」
「そうね。地下の湖区域なら適任はあの子かしら」
心当たりのあるヒルダの後ろについて向かった先は地下の研究施設だというのに木々が生えている部屋だった。自動ドアを潜り抜けた先にいたのは鼻歌を歌いながら草木に水をあげている紫紺の髪をした少女だった。人工的に作られた明かりで照らされた彼女は一目でヒルダ達とは雰囲気が違うと分かる。彼女は悪魔ではなく天使だった。
「――――あら?リョウ様にリルナ様、ヒルダ様までこんな所で何か御用ですの?」
こちらに気付いた彼女は微笑みながらこちらを向く。手に如雨露を持ち、大きな麦わら帽子を被っている彼女はエルより背が高く、僕より背が低いちょうど中間くらいだった。紫紺の髪は一本のリボンで結ばれておさげになっている。上品な雰囲気とその在り方は自然と空気を柔らかいものにする。
ディーネ・アクア。かつて『大飢万征』に囚われていたが、奴を僕達が倒した結果教授に保護されてこの地下施設の観葉植物や実験用の薬草などの管理を任せられている中級天使である。天使でありながら共に囚われていた悪魔に対して強い仲間意識を持っている彼女は天使と悪魔の間の潤滑油として働いてくれているとは教授の弁である。
「趣味を楽しんでいるところ悪いわねディーネ。リョウさん達に湖区域を案内してほしいのよ。あそこを一番知っているのは貴女でしょう?」
「ええ。あそこの水関連はわたくしの仕事ですので。しかしあそこに向かうとは……何かありましたか?」
「アタシが泳ぎたくなったから案内してほしいの。ちょっと、その……体重増えちゃったから」
「ああ……。それは、女性としては気になりますわね。分かりましたわ。このディーネ、リルナ様の努力の為に案内させていただきます」
天使と悪魔、敵対する別種族だとは思えないほど和やかに話しが続いていく。リルナもまた僕を介さずにちゃんと会話することが出来ている。他者を容易に信じることをしなかった彼女にしては非常に珍しいともいえる。ただまぁここまで話せるようになったのは彼女達の為人を僕の中で数ヵ月見ていたからというのが大きいかもしれない。だがそこの改善は今後の目標として一歩ずつ進んでいけばいいだろう。
「しかしあの区域、泳ぐにはあまり適して……。いえ、危険はない……はずですわね」
「ごめんディーネ。凄い不安になってきたんだけど大丈夫なの?」
「恐らく、危険はないかと。リョウ様が一緒に向かうのであれば間違いなく大丈夫ですわ」
「それなら大丈夫でしょ。リョウちゃんとアタシが離れるなんてありえないし!!!」
ガシッと僕の腕を力強く掴んだリルナは初めて出会った時から考えると信じられない程力が強くなっていた。中級悪魔になった影響からか、それともあの時は“欲望”が足りな過ぎたせいで衰弱していたのか。恐らくは両方だろう。あとちょっと成長の兆しが見える柔らかい部分が当たって僕の理性をちょっと削ってきている。ある意味でエル以上に距離感がおかしい気がするのだがリルナの場合それを学べる環境になかったので仕方ないと思うことにする。断じてこの柔らかさを感じていたいという事ではない。
「分かりましたわ。それでは早速向かいましょう。善は急げ、思い立ったら吉日とも言いますから」
「うぇーい!!あっ、ところでディーネってチョコ菓子はなに派?」
「トッポ派ですが?」
「あー、手が汚れないのがいいみたいな?」
「ポッキー派には負けられませんわね」
また火種を投下しつつエレベーターに乗り地下に行く。以前会社の地下がこんなになっていて大丈夫なのか気になり教授に聞いてみたのだがどうやら僕達が参加する以前からの協力者がいて、その人の能力によって空間が弄られているとのことだ。その人物は非常に出不精で警戒心も強く僕達も会ったことがない。種族が天使なのか悪魔なのかすら分かっていない。教授もかなり謎の多い人物だが、信頼できることに違いはないので相手が会いたくないといっているのであれば無理にとは言うまい。
「着きましたわ。ではこちらへどうぞ」
「少し長かったね。それだけ厳重なのかもしれないけど」
一分ちょっと、止まらないエレベーターに乗っているにしては長いと思うが空間がぐにゃぐにゃになっている為重要なエリアに向かう時はこんな感じだ。エレベーターの中にいる人達をスキャンして危険性がないかの確認をしているとはドールさんの言葉だったか。
「ラボには色々なエリアがありますので。その中には危険物や危険生物がいるエリアもありますわ。力量が足りなさそうな場合はそのエリアに行くことは出来ずに元の階層に戻らされることになっておりますの」
「へぇー。基本ラボの階しか行かないから知らなかったや。アタシはどこまで行けるんだろ?」
「リルナは僕と一緒ならほぼ全てのエリアに行けるよ。逆もまた然りだね。僕達二人なら関係ないとは思うけど他の人の安全性を考えるとこれはすごいことだと思うよ」
「人も増えましたから不用意に危険な場所に向かってしまうことがないように教授が空間管理をしている人に頼んだらしいわ」
扉が開いた先は太陽光が再現されており非常に明るかった。木々が風になびき葉が舞っている。水のせせらぎが聞こえてきそうなほど穏やかな光景。目の前に広がる湖は想像以上に大きく、水は光を反射し綺麗に輝いている。そんな幻想的な光景で僕達を迎え入れてくれたこのエリア。そんな僕達がここで初めて耳にしたのは。
『処女こそ美しい!!!なぜそれが分からん!!!!』
『処女以外に価値がないといっているその言葉を理解できんと言っておるのだ!!!飲み込むぞ角あり馬が!!!』
『上等だ!!我が誇り高きこの槍で貴様の○穴を貫いて処女を奪ってやろう!!!』
『我は雄だし魚だぞ!!!!!』
『魚にも穴はあるだろう!!!!!』
湖から顔だけ出した大魚と言い争いをしているユニコーンの姿がそこにはあった。僕達は無言でエレベーターの扉が閉まるのを待った。
これまでの章でお気に入り
-
一章 愛と欲のカタルシス
-
二章 歌と病のラプソディ
-
三章 希望と炎とフラグメント
-
四章 天使と悪魔とラブコメディ
-
章ごとのバトルシーン
-
章ごとのヒロインタイム