【四章開始】いずれ神成る恋物語-天使と悪魔とラブコメ生活- 作:ビスマルク
「ねぇ、綺麗な湖に似合わないどうしようもない変態がいたんだけど。アタシ、あれにリョウちゃん近づけるの絶対嫌なんだけど」
「逆に僕はリルナが近付かせるのが嫌だね。手が出ないと保証できないよ?」
いっそ幻想的と言っていいほどの光景であることは確かだった。なるほど、リルナが泳ぐのにこれ以上適した場はないと言っても過言ではない。ユニコーンや光り輝く鱗を持ちどこか竜を思わせる大魚が語り合っている景色は言葉を失くす美しさと言っていいだろう。話してる内容が救いようのない性癖話だったことが唯一にして最大の問題だが。
エレベーターの扉を無理矢理少しだけ開けて中を伺えば未だに言い争いをしているユニコーンと大魚の姿がある。ぶっちゃけ言おう、関わりたくないのだがそれは出来ないのだろうか。今からでも市営のプールとかに行った方がいいのではなかろうか。そう思わざるを得ない光景だ。
「違いますわリョウ様、リルナ様。問題なのはユニコーンだけでバハムート様は常識人、いえ常識魚ですの」
「それがどうしたって言えるレベルで言ってること酷いんだけど……」
「というかそもそもの問題としてユニコーンとかが存在していることが驚きなんだけど」
「ああ、それなら簡単よ。あのユニコーン達は『憤怒』の魔王が作り出した魔獣がこちらの世界に逃げ出してきた個体なの。それこそ『病孤涙苦』達がこちらに来た千年よりも更に昔からこちらにいた……つまり伝承で語られているユニコーンはアレがモデルになっているのよ」
「千年越えて生きてるのにあの性癖なの余計に拗らせてる感があって怖いんだけど」
なんとも興味深い話を聞いたが最終的な感想がリルナの言葉に帰結するのが嫌である。というか大抵の悪魔や天使よりも年上なのかあの変態角馬。むしろ年齢を重ねた結果普通では刺激が足りな過ぎるという感じだろうか。でもあの変態性が生まれ持った物じゃないとなると長年生きたらああなる可能性があるってことだしそれはそれで非常に嫌な気分になる。
「ディーネはあれ、止められないの?」
「いえ、わたくしが表に出てく行くと……」
そこまで言ったところでユニコーンが何かに気付いたようにこちらを見た。視線が合ったのかびくりとリルナとヒルダの肩が跳ねる。ユニコーンは顔の半分を尊いものを見る表情に、もう半分を憤怒という言葉をこれ以上ないほどに表している表情になった。
「アレがわたくしが相手を出来ない理由になりますの。わたくしは、その、恋人がいますから、はい」
「ああうん、察したよ。確か上の会社の社員さんで事情を聞いても受け入れてくれたんだよね。うんうん、幸せを得るのはとてもいいことだ。胸を張っていいさ」
「それは別にいいんだけどあの目怖いんだけど。本気でどうすればいいの?」
「それに関しては大丈夫ですわ。あんなでも魔王の作り出した産物です。相手の強さには敏感で明確に上の存在には決して逆らえないのが本能として刻み込まれているので」
「要するに力の差を見せつけろってことかぁ。分かった、それじゃあ行ってくるよ」
「うぅ、本当にいくのリョウちゃん……?もう帰っても良いんだよ……?」
「いいのいいの。リルナがちょっとふくよかになったのは僕のせいもあるからさ。これくらいはさせてほしいんだ」
「それは嬉しいけどふくよかとか余計な一言は言わないでほしいかなって」
力の差を見せるとなると適任は僕になるだろう。リルナとヒルダは中級悪魔、ディーネは中級天使。力の総量ではそこまで高くはないし全員戦闘タイプではない。これまでの戦いの経験で目が肥えた僕から見てもあのユニコーンは上級悪魔のちょっと下くらいの力を持っている。勝てるとしても圧倒的と言えなければ屈服を選ぶことはないだろう。
そう考えれば“我欲”で強化すれば上級悪魔とも殴り合える僕が一番だ。ドッペルにならずともそれくらい出来るようになった。エルとの話や夜のあれこれで気にしないようになっている今、この力を役立てるなら喜んでやろう。カッコいいこと言っておいてやることは変態を威圧するというのが非常に悲しいのだが。
『出てきたのは素晴らしき香りのする二人の華ではないのだな。だがそれもよし、華は隠れていてもそこにあるだけで価値があるのだから』
「そこには同意するけど言い方が非常に気持ち悪いから黙ってほしい」
『人間?人間が何故このような場所に?』
脳に直接声が響くような感覚は慣れないと気分が悪くなりそうだ。目の前のユニコーンは先程の気持ち悪い顔から元の気品のある普通の顔に戻っている。なんというか馬なのに分かりやすいくらいわかるあの顔の変化はどう表現していいのか分からない。簡単に言うとギャグ顔になるのだろうか。
『人間よ、ここは我らが『観測希究』と契約し住処としている土地である。迷い込んだのであれば今すぐに戻れ。これは忠告である』
「問題ありませんわバハムート様。この方、リョウ様は教授様の誇る最高戦力ですの。ぶっちゃけ言ってこの方に勝てる者は世界でもそうはいませんわ」
『ディーネ・アクアか。そなたの言葉を軽んじているわけではないがにわかには信じがたい。人間が悪魔や天使を含めた生物に勝てるとは思えん。人間とは群れてこそその真価を発揮する者であろう?』
「何事も例外があるのです。リョウ様ははっきり言って人間とは思えないバグやチートと言った存在です。この方を基準に人間を考えてはいけないと百人に聞けば百人が何十回も首を縦に振るでしょう。生きた例外、外れ値、平均を求めるのに含めてはいけない人、端的に言ってなんで生きてるのあの人。この方を象徴する言葉ですわ」
「待って、僕みんなからそんな呼ばれ方してるの?というか誰が言い出したのそれ。一回お話させてほしいんだけど、ねぇ誰が言い出したのさ」
「「「ディアンナだよ(ですわ)(よ)」」」
即座に三人に売られたディアンナには今度OHANASIをすると決意した。色々と聞きださないとまた要らない事を言いふらされる可能性が高い。
『黙れ、売却品の言葉など我には届かん。我は真に価値ある者の言葉にしか耳を貸さんのだ。人のモノになった女など見ているだけで悲しい気分になってくるだろう』
コイツ処女厨なんじゃなくてただ単に心が弱いだけなのではなかろうか。なんか目に涙が溢れてるように潤んでるし。
『それで我の前に姿を現した勇気ある人間よ。だがしかし勇気と蛮勇は紙一重。我の前に
「ちょっと待ってアタシそれ聞いてないどういうことなのか教えてくれないリョウちゃん」
「そ、その話はまた今度ということで」
エレベーターの扉の後ろから様子を伺っていたリルナがいつの間にか隣にいて僕の腕を万力のように掴んでいた。限界を超えた力でギリギリと絞めあげられる腕は悲鳴を上げているがここから解放される術はない。エルとのあれこれを隠していたことが予想外の所でバレてしまった。そういうことをやる時はリルナが寝ている時だったので非常に不味い状況である。土下座すれば許されるだろうか?
「成程ねぇ、あの銀髪天使がこっちを見る目にどこか優越感と言うか上から目線になっていたのはそう言う理由からかぁ……。……滅茶苦茶腹立つけどいいよ、リョウちゃんがそれで満たされてるなら。無理矢理とかじゃないみたいだし、ストレス発散にもなってるみたいだし。隠されてたのはムカつくけど、それも納得する」
「ちゃんと伝えなくて、ごm「ただし!!!」」
今にも関節技に移行しそうになっていた腕掴みを解放して両手を握られて真正面から見つめられる。色の違う双眸がこちらを見つめ、吸い寄せられるように合った視線が外せなくなる。
「次は、アタシが勇気出すから。その時はちゃんと受け止めてよね」
「……リルナが勇気を出せるよう、僕も頑張るよ」
まったくもって僕の周囲には強い女性しかいないみたいだ。何も成長しないままでは格好つけることすら難しくなる。だけどそれでいい、僕達はそれがいい。一緒に生きて、一緒に幸せになる。そう決めたのだから弱さを見せても格好いいところを見せたいという想いだけは忘れずに行こう。
『ゴホンゴホンゴホン!!!我の前で華を散らす話をするのはいただけんなァ!!!!』
「あ、いたんだ。存在ごと忘れてた。出来れば忘れたままでいたかったけど」
「言い過ぎ……とは言い切れないなぁ……」
まぁリルナからしたらなんか気持ち悪い変態からそういう目で見られるのは気持ち悪いに決まっている。僕もまた腹立たしいが、このユニコーンは何故か強気だ。コイツの子の自信はどこから来ているのか。
『舐めおって……!!人間よ、貴様『病孤涙苦』という悪魔は知っているな?』
「まぁ、知ってはいるよ」
『ならば聞いて驚け。我は彼の『病孤涙苦』に狙われながらも撃退した者である。そのようなことをなせる者がどれほど貴重か分かるであろう?実力というものはこういうものを』
「『病孤涙苦』ならリョウ様とリルナ様が殺しましたのでもういませんわよ。『怠惰』の魔王のお墨付きなので確実ですわ」
『……………………』
『ほう。誠か、そこの人間よ。あの生命力に特化した化け物を殺したとは?』
「影で逃げ場失くして燃やし尽くしたね。その後鈴ちゃんに後始末させちゃったのはちょっと油断してた。次に似たような奴にあったら確実にトドメ刺すよ」
ユニコーンが口を大きく開けて黙り込んでいる。バハムートもまた大きな目をこちらに向けている。発せられた言葉から驚いているのが分かる。まぁあの生命力がゴキブリを超える病原菌が死んだというのは普通なら信じられないかもしれないので仕方ないが。
『我はあの『永死殺総』にコレクションにされそうになりゾンビの大群に襲い掛かられたが無事無傷で逃げ切り』
「あー、『永死殺総』かぁ。アイツ本当しつこいというか面倒くさいというか。ゾンビにした連中の能力使えるとかずるくない?量で押してきたから質で押し返したけどさぁ」
「あの氷の能力使ってた天使は強かったね。多分卑怯な手で殺されたんだと思う。あそこで解放できて良かったよ」
「はい。今ので分かる通り『永死殺総』も既にいませんわ。ついこの間このお二人と上級天使の仲間によって撃ち滅ぼされていますの」
『……あの、その、実は『炎天渇奪』に狙われたけど逃げ切ったって話も』
「あ”あ”っ!?もしかしてあのクソ女が狙ってたのを逃がしたって言って癇癪起こした原因お前か!!!そのせいで3姉が八つ当たりで火傷させられたんだけどぉ!!?」
「落ち着いてリルナ。それに関しては『炎天渇奪』のアホが悪いのであってコイツは悪くないから。それにアイツには完全無視した上で見下してた奴らに殺されるって最大の報いを与えたわけだしさ」
「チッ。リョウちゃんの優しさに感謝しなっ!!!馬刺しにされたくなかったらねぇ!!!!」
『はい申し訳ございませんでした』
それまでの尊大な態度がどこかに消えユニコーンは逆らうこともせずに伏せの体勢に入った。完全降伏、白旗のように尻尾を揺らしている所を見る限りそう受け取っていいだろう。
『すみません。股間舐めるので許してください』
「ねえリョウちゃん、やっぱりコイツ反省してないって殺そ?」
その後リルナを宥めるのに凄い時間をかけた。ユニコーンはその間ずっと土下座のようにひれ伏していた。でも本当に反省しているのかは僕達全員判別がつかなかった。
これまでの章でお気に入り
-
一章 愛と欲のカタルシス
-
二章 歌と病のラプソディ
-
三章 希望と炎とフラグメント
-
四章 天使と悪魔とラブコメディ
-
章ごとのバトルシーン
-
章ごとのヒロインタイム