【四章開始】いずれ神成る恋物語-天使と悪魔とラブコメ生活- 作:ビスマルク
「よ、よぉし……!!泳ぐ、泳ぐぞぉ……!!!」
「リルナ、震えてるよ?」
「しょ、しょうがないじゃん!!アタシお風呂以外で水の溜まっている所に入ったことなんてないし!!」
準備体操を終わらせた僕達はついにこの広い湖で泳ぐことになった。とはいえ実のところ僕の身体はあまり浮かばないので泳ぎはあまり得意ではないのだが。体脂肪率が低いと浮かびにくいとか聞いたことがある。筋トレが趣味なのでその影響かもしれない。
とはいえ今の不安がっているリルナにそんなことを言えば余計に泳ぐのに恐怖を覚えてしまうかもしれない。無論溺れかけたら助けに入るがまずは水に慣れることから始めるべきだろう。初心者はちゃんと手順を守って教え込まなければ危険だからね。
「リルナ様、大丈夫よ。悪魔は呼吸しなくても生きていけるから最悪溺れても水の中に沈むだけになるわ」
「呼吸による生命維持をしない場合“欲望”で代用することになりますから徐々に生命の危機になるのは間違いありませんが。リルナ様の場合リョウ様と繋がっているので死ぬ心配は欠片もございませんわね」
「二人共不安を取り除こうとしてくれてありがとう。だけどそれあんまり慰めになってないよね。恐怖が増してくるだけなんだけど」
「泳げないと沈んで、死なずにずっと溺れているだけっていうのは中々にきつそうだね……」
「アタシそんなになるの絶対嫌だからその時はリョウちゃんが助けに来てよ?」
「何言ってるのさ。そんなことになる前に助けるに決まってるでしょ。僕そんなに頼りなく見える?」
「ううん、リョウちゃんはいつだって最高に頼もしいよっ!!だけどいつも頼るのは申し訳ないし、アタシだって頑張らないと……。ふぅー、はぁー……。よぉし!!行くぞぉ!!!!」
自分の頬を叩いて気合いを入れたリルナはそのまま湖に真っ直ぐ走っていった。青く澄んでいる湖は透明度が高く、スキューバダイビングなんかをやったら楽しそうに見える。バハムートに頼んでもし溺れそうになっても助けてくれることになっているので安心なはずなのだがやはり初めての水場となると不安感が勝る。
「ひゃっ!?冷たっ!!あ、でもこれ気持ちいいかも」
「泳ぐよりまずは水に慣れることからの方がいいと思うよ。膝まで沈むここでちょっと遊んでさ、怖さを消した方がきっと上手くいくと思う」
「うーん、それもそうかも。でもこういうところで人間ってどう遊ぶの?」
「えっ。えっと、あんまり自信ないけど……水の掛け合い、とか?」
「……それって何が楽しいの?ただ冷たいだけじゃないの?」
「やったことないから分かんないなぁ。試してみたら分かるかもしれないねびゃ!?」
「ねびゃ!?だって!!にゃはははははびょっ!!?」
喋っている時に水をかけられた僕は仕返しとばかりに大笑いしているリルナに向けて水をかける。僕の頭にはリルナのかけた水の中にいた水草がついている。一方リルナの頭には小さい蟹がチョキチョキと鋏を鳴らしている。
僕はリルナを見つめ、リルナは僕を見つめる。普段であればロマンチックと言えるだろう光景だが今だけは違った。その目には明らかな戦意が宿っている。これから起きる戦いを予感しそれに勝利することを求める目だった。恐らくは僕も同じ目をしているだろう。
「リルナは知らなかったかもしれないけど僕はやられたらやり返す男なんだ」
「リョウちゃんは知らないかもしれないけどアタシ滅茶苦茶負けず嫌いなんだよね」
「「勝つのは僕(アタシ)だッ!!!!!!」」
それから数十分勝ち負けの判定方法も分からないままお互いに水をぶっかけ合った。
◆
「アタシ達、何やってんだろ……」
「分かんない……」
膝までしか水に入っていないはずなのに二人して全身ずぶぬれである。水着を着ていてよかったと思うが本来水に濡らす予定のなかったTシャツが肌に張り付いて気持ち悪くなり脱ぎ捨てる。
「……リョウちゃんって筋肉質だよね。よだれ出そう」
「リルナはここ最近欲望を垂れ流すようになったよね。そういうの良いと思う。リクエストあるなら好きなポーズとかとるけど?」
「えー、そんなこと言っちゃうのぉ?アタシ悪魔なんだよぉ?欲に忠実なんだよぉ?」
「リルナの欲に付き合えない程情けない男にはなりたくないからね」
「んー、じゃあ今はいいや!!それより泳げるようにならないとね!!!リョウちゃんは泳げるの?」
「人並みくらいにはね。でも泳ぐの上手い人に教えてもらった方がいいと思うよ」
「分かった!!じゃあディーネに教えてもらう!!!」
元気よく駆けていくリルナを見送って安堵の息を吐く。ここのところ『盗炎結偽』、いやベルサシエと言うべきか。彼女の行く末が決まることに不安を抱いて夜も眠れなかったのは知っている。ただ何もしないでそうしているときっとリルナは自分を責め始めると思ってゲームなどの時間潰しを教えたがそれでも完全には熱中出来ていなかったようだった。
だけどベルサシエの助命は決まった。もちろん条件はあるし、もしそれに反した場合僕達が直接手を下さなければならない。だけどそれだって事前に止めることが出来ればお咎めはなしだ。リルナにとってたった一人残った姉が助かった事実は彼女の心に乗っかっていた重い物を降ろすことが出来たに違いない。ディーネと一緒に泳ぐ練習をしている彼女の表情を見ればそれくらいは分かる。
「あの光景を見れば安心できるかしら?」
「うん、まぁね。リルナには僕を介した関係以外を持ってほしかったから。今回はちょうどいい機会だったと思うよ」
「心配性ねぇリョウさんは。そこまで想われてるリルナ様に少し妬けるわ」
腰を下ろした僕の横にいつの間にか立っているヒルダは保護者の目でリルナを見ている。相性が良いというのもあるだろう。『炎天渇奪』からの遺伝なのか、どことなく気品があるからかヒルダを従者のようにしているリルナに違和感はない。ヒルダの方も付き従うことに不満はなさそうでどこか楽しそうだ。
「そういえばリョウさん、リルナ様の身長伸びてるの気付いている?」
「そりゃいつも見てるから大きくなったなって思ったよ。中級悪魔になったんだっけ。その影響なのかな?」
「年月によって成長することもあるけど大抵は階級によって変わるわね。上級悪魔にまで上がると自分の好きな状態になるらしいわ。もっともどんな姿にも好き勝手になれるわけじゃないけど」
「リルナが大人っぽくなったら毎日心臓に悪そうだなぁ……。絶対に美人になるでしょ。今だって凄い美少女なのにさ」
美人は三日で慣れるというがあれは絶対嘘だと思う。だって僕はエル達と毎日一緒にいるが一向に慣れる気がしないというか、幸せ過ぎて不安になるというか。時たま髪型とかを変えてるところを見るとそれだけで心臓が爆音を鳴らすのだから。
「……そういえばリルナ様、自分の身長が伸びてることに気付いてなかったりするのかしら」
「まぁ、十中八九気付いてないよね」
「リョウさん、気付いていたならなんで言ってあげないのよ?」
「まぁ、お菓子とか食べまくって運動もしないから。もう少し健康的になってほしいというか……そもそも悪魔って体重増えたりしないと思うんだけど」
「まぁある程度自由に出来るけど意識しないと変化させられないわね」
「成程なぁ……。まぁ動くことの楽しさも知ったみたいだし戻ってきたらやり方教えてあげて」
「ええ、そうするわ。ところでリョウさん、後ろ見た方がいいと思うわ」
「後ろ?」
言われるままに振り向いてみればいつからそこにいたのかリルナが酷く良い笑顔で見下ろしていた。嵌められたと気付いた時にはもう遅く、僕に覆いかぶさるようにリルナが倒れ込んできて地面の上に寝転ばされる。
「ねぇリョウちゃん。なんでアタシの背が伸びてることに何も言わなかったの?アタシがダイエットしなきゃって思った時なんで何も言ってくれなかったの???」
「いやだって、リルナはもう少し動いた方がいいと思ったから……」
押し倒された状態で恋人つなぎになった右手をギリギリと握り締めてくるリルナに冷や汗をかきながら答える。“我欲”で強化すれば抵抗はもちろんできるがそれをすれば彼女を傷つけてしまうかもしれない以上選択肢にも上がらない。それを知っているからかリルナは僕に負けるとは思っていないように額に血管を浮かべながら清々しい笑顔をこちらに向けている。とても可憐だが、同時にとても怖い。
「そっかそっか。リョウちゃんはアタシの為に考えてくれてたんだもんね。アタシがちゃんと運動しなきゃって。うんうん、おかげで泳ぐの楽しいって思ったしたまにならやってもいいかなって思ったよ」
「リルナに新しい趣味が見つかったみたいでよかったよ」
「うん、本当にねー。でもさぁ、運動と言えばアタシ、一つ思い浮かんでるのがあるんだよねぇ」
「な、何でしょう。僕にはさっぱりわからないんだけど」
「本当に?」
リルナの指がシャツにかかり脱がしていく。そのまま手は下半身の方にまで及び始め僕は何をされそうになっているのかに気付いて慌てるも上手く体重をかけられているのかバランスを崩し上半身を起こすことも出来ない。
「柔よく剛を制す、だったっけ。力で負けてるなら技術で勝たないとリョウちゃんの場合押し倒すのも難しいからさぁ、ヒルダに習ってたんだよ?人間の技術って凄いねぇ」
ヒルダの方に勢いよく首を回してみれば先程までそこにいた彼女は既に姿を消していた。こうなることが分かっていたからあんな風に会話をコントロールしてリルナに聞かせたのだと今更になって分かっても後の祭りである。
「ねぇリョウちゃん。アタシにリョウちゃんをいーーーーっぱい刻んでね♪」
その笑顔はまさに“欲望”に生きる悪魔の物だった。それを受け入れる以外の選択肢は僕にはなかった。多分後の人生で思い返してもこれは仕方ないことだったと思えることだろう。
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一章 愛と欲のカタルシス
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二章 歌と病のラプソディ
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三章 希望と炎とフラグメント
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四章 天使と悪魔とラブコメディ
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章ごとのバトルシーン
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章ごとのヒロインタイム