幼馴染(天使)が幼馴染(偽)だった。天使なのはガチだった   作:ビスマルク

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基本的にリョウ君以外の視点では第三視点になります。

あとバトルの時もそうなります。リョウ君の思考を垂れ流すとバトル時の意外性なくなりそうなのでご了承してくれると助かります。


光天使の悩み

 

 

 質素というより簡素、その部屋を表現するならそれが一番正しくなるだろう。教科書や読んでいる本をしまう為の本棚と、夜寝る時に使うベッドに服を仕舞う為のタンス。それと学習机があるが、それ以外には小物の一つも置いていない。

 年頃の少女の部屋だと言えばまるで信じられない程の物の少ない部屋。そんな部屋の中で銀髪の少女は焦った様子でスマートフォンを操作していた。

 

 

「これは、これは不味いです……!!!」

 

 

 ドルザルクと戦っていた時以上の焦りの表情。風呂から出て来たばかりで完全には乾ききっていない髪を拭くことも忘れて鬼気迫る表情で指を動かす。未だに慣れていないのでその動きは酷く緩慢としていたが。

 何とか番号を入力ししばらくした後、スマートフォンの向こう側からこれまた少女の声が聞こえてきた。エルに比べて感情というものを隠さない声が。

 

 

『もしもーし。何よエル、こんな時間に。私今日は疲れたからレッスンもなしで寝る所なんだけど』

 

「リョウ君にデートに誘われました。対処方法を教えてください」

 

 

 画面の向こうにいるということも忘れたように実際に頭を下げてしまうエルだが、それを滑稽と言える人間はいないだろう。それくらいに切実な響きを持った言葉に画面の向こうにいる同じ天使の少女、シルフィは呆れた声を隠さない。恐らく実際対面すれば表情も呆れた様子だろう。

 

 

『なに?もしかしてアンタ達今までデートの一つもしたことなかったの?』

 

「ま、まだ同居して一ヵ月ですよ!?デートなんてそんな!!」

 

『落ち着いて聞きなさいね?普通同居はデートのはるか先にある物なのよ』

 

 

 天使は戦う力を得るために人間の“愛”を得る必要がある。その為の方法はこの世界に出来ている組織がいくつか提示し、その中から本人達が選ぶという形を取っている。

 シルフィのアイドルというのはその中でも特殊な部類だ。戦う為の力を得る、その為に厳しいレッスンなどを乗り越えてデビューするなど相当な覚悟が必要となる。彼女の場合はその承認欲求と努力家という諸々のピースが嵌った結果だ。

 

 その一方でエルのように一つの家に入り込むというパターンはそう多くない。何故なら数人から得る“愛”より、より大勢から広く集めた方が効率的だし力の増加率も上がる。中には家族という関係を得たいという思いから事情を知る家庭に養子として入るパターンもあるが、エルのように認識阻害を強化して入り込むなんてことは本来だったら許されない。弱冠17歳で上級天使に達した優秀な彼女であれば猶更だ。

 

 それが許されているのはひとえに沢渡亮から与えられる“愛”が質も量も多く、エルの実力を支えているという純然たる事実があるからだ。だからこそ彼に執着する理由を周囲の多くは聞けない。やるべきことはやっているので文句はないだろうというのがエルからのスタンスだからだ。なのでその理由を知っているのは彼女と交友関係を築いている少人数に限られる。

 

 そしてその理由を知っている数少ない天使仲間のシルフィは呆れ果てる。そこまでやっているのにお前まだデートの一つもしてなかったのかと。よくもまぁそれでそこまで想われているなと、若干嫉妬が混ざっていることにシルフィ自身も気付いていないが。

 

 

「私服が少ないので、一緒に買い物に行こうってリョウ君が……!!」

 

『ただの買い物じゃない。いいんじゃないそれくらい』

 

「だってリョウ君がデートってわざわざ言うなんて初めてなんですよ!?一緒に食料を買いに行ったりとかはしてましたけど、それはデートではなく生活の為ですし、こんな私的な理由で出掛けるなんて私は!!」

 

『だからあれほど服は買い揃えておけと言ったのに……』

 

 

 物欲もなく基本的に静かに過ごすのが好きなエルにとって休日とはリョウと共に背中合わせで本を読むだけの日だ。それだけで多幸感を味わえるのだからそれ以上を求めるという思考そのものが彼女にはなかった。だから一ヵ月共に過ごしてきてなお一緒に出掛ける機会など買い物のときなどしかない。それで双方ともに満足するのだから割れ鍋に綴じ蓋というべきか、相性が良すぎるのも問題かもしれない。

 

 ちなみに呆れ果てているシルフィだが、こちらは初恋もまだな乙女である。アイドルという表の職業が彼女の承認欲求と合致してそっち方面でブレイクしてしまったのだ。今やオリコンチャートで第三位くらいを行ったり来たりしている。本来地下アイドル程度を想定しているのにもかかわらずこの人気ぶりに天使の組織の上層部は頭を抱えていたりする。

 

 

「と、とにかくです。急いでリョウ君の行動予測を立てて対策を講じる必要があります。そうしなければ想定外のことが起きた場合が怖いです」

 

『デートにそんなガチガチにならなくてもいいと思うけど。言い方悪いけど服買って外食するくらいでしょ。何がそんなに不安なのよ』

 

「だ、だって……変なことしたりしたら、リョウ君に嫌われちゃう……」

 

『ありえないわ。今日一日会っただけで断言出来るけどそれだけはありえないわ。大事なことだから二回言ったのよ?聞こえてる?』

 

「シルフィは男女の機微に疎いからそんなことが言えるんですよっ!!!」

 

『えっ、なに。私相談という名の喧嘩売られてるの?なんでここで私の男女関係について突いてくるのこの子』

 

 

 質素な服しか買わないせいでピンチになってる同僚兼友人に痛いところを煽られてシルフィのこめかみに血管が浮かぶ。適当な事吹き込んでとんでもないことにしてやろうかと割と本気で思いかけて。

 

 

「とにかく、お願いです……。こんな事、シルフィにしか頼れなくて……」

 

『…………はぁ~~~~。分かったわよ。明後日辺りならトレーニングもないし予定も空いてるからうちに来なさい。最低限の小物とか化粧とか教えてあげるわ』

 

「あ、ありがとうございますっ」

 

『言っておくけど貸し1だからね!!いつか絶対返してもらうんだから覚えておきなさいよ!!』

 

「分かっていますよ。持つべきものは親友ですねっ!!」

 

『まったく都合のいいこと言って……一体誰の影響なのやら……』

 

 

 答えの分かりきったことを呟きながら通話が切れる。頼もしい味方を得ることが出来、エルは万の兵と国士無双韓信を軍師に迎え入れた気分になっている。要するに今日戦ったドルザルクの事は既に脳内から消えていた。どちらにしろ覚える価値もないと思っているので遠からずではあるが。

 エルは必要な物以外何もない部屋の唯一の例外である小さく、それでいて長年所有していたからか少し劣化している白うさぎのぬいぐるみを抱きしめて彼女はベッドに横になる。

 

 

「デート、かぁ……」

 

 

 小さく呟き誘ってくれた少年のことを想う。騙して嘘を吐き、関係性さえ欺いた少年のことを。誰かに想われることが天使の力になるのであれば、彼に想われたいと10年前からエルは望んでいた。天使らしからぬ欲望だが、それを最上級天使である彼女の師は許した。

 

 

「これ見たら、思い出したり……無理ですよね。認識阻害があるんだから」

 

 

 幼い頃を思い出す。戦う為の訓練から抜け出して天界から降りてこの世界で出会った少年のことを。泣いていた自分の手を引っ張り一緒の時間を過ごし、共に笑って、今この時一緒の家で暮らしている少年のことを想う。

 巻き込みたくはなかった。でも彼を忘れることも出来なかった。その結果がこのふざけた幻想の関係だ。全てが白日の下になれば間違いなくリョウはエルを嫌うという確信があった。

 

 

「嘘を吐いて、愛されて、それを楽しんで、何も言わない。最低ですね、私は……」

 

 

 全てを話し、リョウが『ツガイ』になってくれれば恐らくエルは天使の中でも10人しかいない最上級天使になることが出来るだろう。そうなればほとんどの悪魔を容易く滅ぼすことが出来る力を手に入れることが出来る。それがエルにとって価値があるかは別の話だが。

 

 エル・ライトガーデンは怖がりだ。戦闘において恐怖することなどないが、人間関係においては非常に憶病になる。自身の戦力的価値はともかく、人間性という部分には価値があるとは思っていない。だから彼女から全てを告げる日は永遠に来ないだろう。

 そんな彼女は当然のごとく交友関係が狭い。それを補って余りあるのが沢渡亮という少年で、彼の平和の為に戦うというのが彼女の一番のモチベーションだった。

 

 共にいるだけで幸せなんて思いながらも更にその先を望む自分の欲深さに呆れ、嫌悪する。こんな自分が周囲から「天使らしい天使」などと思われている事実に少し申し訳なく思う。

 数少ない友人達には非常に迷惑をかけて申し訳なく思い、同時に頼るきっかけになった少年の誘いを思い出し顔を赤く染める。

 

 

「今日、ちゃんと寝れるかな……」

 

 

 暗くした部屋の中で目を瞑るも、彼女が寝息を立て始めるのはそれから一時間を超えたあたりだった。

 その日、リョウと始めて出会った時の夢を見てエルは笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 なお、その頃の彼女の想い人と言えば。

 

 

「イエーイ!!!流石はお兄さん!!!この何もない空間で料理作るとかクレイジーだね!!!」

 

「やっぱり思った通り僕の心の中なら色々と再現できると思ったんだよ!!今日もメモ帳とか出せたしね!!!!」

 

「材料は用意してくれたし手順は見たからアタシも手伝うね!!!この玉ねぎっていうのめっちゃ目が痛くなるけどさ!!!」

 

「そういう時は鼻にティッシュ突っ込むかこの水中ゴーグルをつけるといいのさ!!玉ねぎの刺激から目を守ってくれるよ!!!」

 

 

 自分の心の中で悪魔であるリルナと共にカレーを作っていた。手際よく準備するリョウに対し、おっかなびっくりな手捌きでゆっくり野菜を切り分けているリルナは、やはり初めてだからかまったく慣れておらず手が震えていた。

 

 

「ここはこうするんだよ。芽を残すとお腹壊すかもしれないから注意してね」

 

「こ、こんな感じ?」

 

「そうそう、上手だよ。後は玉ねぎの皮を剥いてね」

 

「皮がどこまでで中身がどこまでなのか分かりにくいなぁ……」

 

 

 見かねたリョウはリルナの背後から手を伸ばし二人羽織のように悪魔の少女の手を握り先導する。背の高さや体の大きさに差があるからかまるで抱き着かれているようで背後に感じる体温にリルナは心臓が大きく鼓動していたが、それを無視して料理を続行する。

 包丁を持ち、人間の料理を作るというのは彼女の“姉”の一人が持つ夢だったから、それを真摯に叶えるために頑張ると決めて。

 

 

「ああ、もう、やっぱり髪が邪魔だなぁ。後で切り落とそうっと」

 

「それなら僕がやるよ。リルナがやると凄く適当にやりそうだし」

 

「それは助かるけどいいのかにゃ?好きな女の子がいるのに他の女の子に目を向けちゃって」

 

「良いんじゃない?別に手を出してるわけでも口説いてるわけでもないし。それにこうして誰かに料理教えたり髪を整えたりするの、僕は好きだよ」

 

「……それなら、お兄さんに任せてみようかな」

 

 

 この光景をエルが見た場合、ずるいと叫びながら乱入することは確定である。

 




こんな事言って友人の手助けしてるアイドル天使がメインになるのが第二章になります。

天使達による男の取り合いって最高よね!!!

一章完結目前 ヒロイン誰が推し?

  • 無表情赤面幼馴染天使エル
  • ツッコミ系メスガキ詐欺悪魔リルナ
  • 承認欲求アイドル天使シルフィ
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