幼馴染(天使)が幼馴染(偽)だった。天使なのはガチだった   作:ビスマルク

22 / 50
デート編はいかがでしたでしょうか

こっから先はバトルや!!エルちゃん含めてみんな酷い目に合うでぇ!!!

ネタバレ:ドルザルク君最期は惨め



大飢万征

 

 僅かな違和感を感じる。いつも帰宅の時に使う道のはずなのに、何かが違うと本能が訴える。一週間前の僕であればその違和感を「そういうものか」と流していただろう。だが今は違う。今はそういうものを無視していたら命取りになることを知っている。

 

 

(人が、いない……?)

 

 

 自分達の身に近づく危険に本能のアラームが鳴る。この場を急いで離れなければならないと即座にエルの手を掴んで走ろうとして――――エルがその場から動くことはなかった。木の根が張ったように微動だにしないエルに驚きその目を見て。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 その紅い目が憤怒によって染まっていることが分かる。そしてその声はあの日、僕が悪魔との戦いを見た直前に言われた力ある言葉と同じ。それが効かないことをバレないように僕は行動しなければならないと僅かに残っていた理性によってあの時同様に演技をする。

 

 

「わ、かったよ……はやく、かえってきて、ね……」

 

「ええ、帰ります。だから家で待っていてください」

 

 

 エルの手を放してその場をゆっくり移動する。あの時と違い焦燥感を抱くも走れば違和感を持たれる。曲がり角で誰も見られてない事を確認しつつ曲がり、僕の中にいる共犯者である悪魔を起こす。

 

 

『リルナ、起きて』

 

『大丈夫だよ、あんな殺気ぶつけられたら即座に起きるもん。お兄さんがいても全く関係なし、ぶつける殺気は僅かに絞ってあるけどそれでも遠慮はない。間違いなくドルザルクだ』

 

「周囲に人はいないと思うけど……」

 

『そうだね、“影感知”でもおんなじ。こっちを監視してた天使二人もドルザルクの方に行ってるみたいだね』

 

 

 即座にリルナは応答して僕の知りたかった情報を確信をもって伝えてくれる。というか僕の知らなかったことまで教えてくれた。えっ、じゃあ何。あのデート全部第三者に見られてたってこと?クッソ恥ずかしいんですけど!!!

 

 

『そこでそう言えるお兄さんの余裕っぷりは流石の一言だよ。で、どうする?逃げる?』

 

『様子を見たい。この前みたいに影の中に入って近づける?』

 

『出来るけど危険……なのは今更か。いいよ、じゃあ入って』

 

 

 その場で沈み込むように影の中に入る。そのまま先程エルと別れた場所まで急いで戻る。戦いが始まるとは限らないが何か大事な話が始まる可能性はある。あの3mはある大男がいればすぐに周囲が慌てる、わけもない。“欲望”や“負の感情”を欲しがる悪魔が認識阻害なんてするとは思わない。だけど人がいなかったということは天使が事前に察知して人払いをしていたと考えられる。

 

 

「――――よう、光の。この前の宣言通り来てやったぜ」

 

「今すぐその首を胴体と切り離したいところですが我慢しましょう。何の用ですか」

 

 

 影の中から外を見ることは出来ない。声だけ聞こえるというのは不幸中の幸いではあるが物凄く不便に感じる。どうにかならないものかと目に力を入れて睨みつけると徐々に外の様子が見えてくる。これもリルナの力なのか、物凄く便利だが当然下から見ることになるのでエルのスカートの中身が見えそうになり目をそこに向けないように顔を背ける。

 

 

『えぇ……。お兄さんの“欲”が凄いのはそうだけどここまで出来るとかアタシ知らん、なにそれ……』

 

「リルナが知らないことを僕が知ってるわけないでしょ。それよりアイツが何するつもりなのか確認しないと」

 

 

 ドルザルクは翼を広げ空を飛んでいる。その腕には以前エルに貫かれた傷跡がしっかり残っているも、完治はしているのかなんの支障もなく動かしている。これが上級悪魔の回復力なのか、だとしたら相当厄介だとしか言えない。

 

 

「で、なんの用ですか『大飢万征』。私はすぐに帰りたいのですが」

 

「帰る、帰るねぇ……。そりゃあの人間(ゴミ)の所にか?あんな弱い、俺達の栄養にしかならない連中どうでもいいだろう」

 

 

 キレそう。その人間が居なければご自慢の力も振るえない憐れな寄生虫如きがなんで人間馬鹿にしてんだ。智弘君を始めとする僕の友達馬鹿にするとか死にたいのかコイツ。

 

 

「殺すぞ。その口でもう一度リョウ君を、私の周囲の人を馬鹿にするような言葉を吐くな。お前があの人達を評価しているという時点で虫唾が走るのに、それを口にするなど万死に値する」

 

「まァまァそう熱くなるなよ。俺ァ反省したんだ。あと、後ろに隠れてる連中も動かねぇ方が良いぜぇ?なんせ俺はこの場で即座にこの住宅街をぶっ壊せる」

 

「…………舐められたもんね。アンタ達悪魔が戦えているのは普段急襲してその場の人達を殺し、その時の“負の感情”で自己強化してるからでしょ。でも今アンタは目の前にいる、何をするまでもなく私達はアンタを殺せる」

 

「じゃあやってみろよ。出来ねぇだろ?俺ァ頭は良くねぇが、馬鹿じゃねぇ。感情に任せて突っ込むような典型的な奴じゃないと分かってるからお前らは俺を警戒する。違うかァ?」

 

 

 この場で即座に戦いが始まらないのはそういう理由なのか。エルも、ドルザルクの後ろに現れたエアロードさんもその手には既にそれぞれの武器を持って構えている。エルは光の槍、エアロードさんは小型の竜巻をいつでも放てるようにして、それでも動けない。今主導権を握っているのはあの上級悪魔、ドルザルクだ。

 

 

「ちょーっと他の上級悪魔に借りを作ったがなァ。“負の感情”は足りてる、それこそこの場で周囲全て巻き込むレベルの攻撃くらいはな」

 

「それを馬鹿正直に信じると」

 

「俺の眷属の下級悪魔が下水道にいる。俺が小型化してる奴だ。そして俺の能力(チカラ)の影響を受けてる奴はこの手で触れていなくても、遠隔だろうと巨大化も出来る。その意味が分かるよな?」

 

 

 それは明らかな脅迫だった。下水道に潜んでいる下級悪魔が何人いるか分からないが、その全てが巨大化したら舗装された地面も頑丈に作られている家だろうと即座に壊されるだろう。

 だが、そんなことをしなくてもアイツは周囲に細かい瓦礫でも投げてそれを巨大化させれば全てを破壊できる。つまり、これはエル達に対して交渉する為の準備ということになる

 

 

「なァ、光天使。俺とテメェで一対一やろうぜぇ」

 

「…………まさか、その為だけに人々を人質にしたんですか……?」

 

「あァ?それ以外に何の意味があんだよ。潰すなら適当に石でもその辺にばら撒くぜ」

 

 

 エルが絶句する。彼女と戦う為だけに周囲全てを人質にした。そして天使も即座に動けない。もしもこれが本当で、下級悪魔を一人残らず倒したとしてもそれが全てだと誰が判断できるだろう。総数はドルザルクしか知らず、それを口にしたとしても本当だという保証はない。

 

 死者さえ蘇らせることのできる天使達だが、そのエネルギーもまた有限だろう。広域全ての人々を生き返らせる保証など誰も出来はしない。出来たとしても建物の崩壊を直しきれないせいで人生が終わる人が何人も出る可能性が高い。

 普段の戦いからして、建物を完全修復しているわけではないのだ。この考察は当たらずとも遠からずと言っていいはずだ。

 

 

「……条件は?どこでやるんですか」

 

「エル!!!」

 

「シルフィ、動いてはダメです。今動けば、巻き込まれる人が多すぎる……!!」

 

「そうそうその通り。少なくてもあのガキは死ぬだろうな」

 

「ッ貴ッ様ぁ!!!!リョウ君に手を出したら必ず殺す!!!即座にその首を捻じ切って肥溜めの中に放り込んでやるッ!!!!!」

 

「良いねぇ、最高じゃねぇか。それはそれでいいが……当初の予定通りやるか。3時間後、前回やり合ったビル街、そこを再びぶっ潰す。テメェとはその場でやる。周囲の人間(ゴミ)共を逃がすかどうするかはテメェらの好きにしな」

 

 

 激昂するエルに対して余裕を持ちながらドルザルクは指を3本立てながら一方的に言い放つ。こちらの都合など何も考えず己の欲だけでここまで出来るものなのかと唖然とする。何がしたいのか分からない。だが、純粋な戦闘狂ではないと僕は感じていた。コイツはもっと“最悪”だと。

 

 

「拒否権はないのでしょう。拒否すれば即座に全て破壊すると」

 

「仕込んである下級悪魔も巨大化させて暴れさせるし、テメェらとやり合いながら被害広めるために好き勝手やるな。俺の力の被害規模は理解してんだろ?戦う場所、広めにとっておいた方がいいぜ?」

 

 

 好き勝手言いながらその翼を大きく振るわせ上空に上がる。悔しそうに顔を歪めるエルとエアロードさんは、しかし何もすることなくその場を見送る。

 出来ることなどなかった。一方的に言いたい放題し、彼女達に要求をのませた。馬鹿ではなくそれどころか狡猾で悪辣だ。相手の弱いところを突くことに何のためらいもなく、己の欲求を満たすことが唯一無二の至上主義。

 

 これだけで悪魔全体を評価したくはないが、リルナという例外が居なければ僕もまた種族全てが迷惑この上ない存在だと思ってしまいそうだ。

 同時に天使達が悪魔に味方する人間に対して過剰な反応をするのも理解できた。人間という“欲望”という燃料が悪魔の味方に付けばいくらでも能力を使いたい放題出来る。いつ世界が壊されるか分からない状況なのに、そんなもの見逃せるわけもない。

 

 

「……エル、どうするつもり」

 

「シルフィは本部と連携を取って即座に下級悪魔達の特定と討伐をお願いします。逃げ出す者もいるでしょうが、ドルザルクの能力効果範囲がどれほどなのか分からない。絶対に逃がせません」

 

「それは分かってる。感知系の能力を持ってる子を総動員してでもやり切るわ。だけど、奴の要求全てを聞いてエル一人で戦わせるのは反対よ」

 

「駄目です。この一ヵ月における奴の破壊はこの時の為の布石の可能性が高い。我々の処理能力も完璧ではない。節約はしていますが、これ以上の人死にが出れば取りこぼしが出る可能性が非常に高いし、建物に関しては手付かずになるかもしれない。そうなれば認識阻害自体の効果に不備が出るかもしれない」

 

「大地震、なんて言っても信じない人が出てくるか……。そうなれば、天使と悪魔の存在が公に出る可能性が高くて。その場合圧倒的なまでに悪魔側が優勢になる」

 

「不安も“負の感情”です。認識出来ないから抱かないのに悪魔の存在とその脅威を知れば抱くなというのは無理ですし、悪魔に協力する人間も必ず現れる」

 

「“愛”を得るのも難しくなって、私達は詰みか……。ドルザルクの思考じゃないわね。これは、アイツの後ろに誰か他の上級悪魔がいるかもしれない」

 

「だとしても、今は奴の用意した舞台に上がりそのままドルザルクを殺す。それが最適解なのは間違いないはずです」

 

 

 エルの目には決意がある。その決意は変えることどころか揺らすことすら出来ないと確信させるほどに強い。同じことを思ったのかエアロードさんもまた大きなため息を吐き、しょうがないとばかりに髪を乱暴にかき混ぜる。

 

 

「…………しょうがない。本当に嫌で嫌でしょうがないけど、確かに今はそれが最適かもしれないわね」

 

「すみません、シルフィ。奴が私に執着しているのはこの一ヵ月で知っていたはずなのに」

 

「良いわよ別に。私達がずっと一緒、子供の頃から助け合う。そうでしょ?」

 

 

 僕とは違う、本物の幼馴染なのかあの二人は。その事実に少し胸が痛むが今はそこに目を向けることはしない。それ以上に大切なことがあるから。

 

 

「……そうですね。いつだって、そうでした」

 

「だから今回もそうするだけ。ただし約束しなさいよ。さっさとあの野郎ぶっ潰して帰ってくるって。沢渡君だって絶対待ってるんだから」

 

「ありがとう、シルフィ。約束します。必ず勝つと」

 

 

 二人もまた空に翼を広げて空に上がりそれぞれの持ち場に急ぐ。3時間しかないのだからやるべきことは山程あるだろう。時間的猶予はなく、何をするにしても急がなければならない。

 

 そしてそれは僕もまた同じだった。

 

 

「リルナ」

 

『なにかな、お兄さん』

 

「契約だ。僕に戦う力をくれ」

 

 

 それを言った時のリルナの表情は、酷く悲しそうな笑顔だったことは分かった。

 

一章完結目前 ヒロイン誰が推し?

  • 無表情赤面幼馴染天使エル
  • ツッコミ系メスガキ詐欺悪魔リルナ
  • 承認欲求アイドル天使シルフィ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。