幼馴染(天使)が幼馴染(偽)だった。天使なのはガチだった 作:ビスマルク
「は……?え、なんでいるの……?」
「そりゃお見舞いに来たからだけど。その様子じゃあんまり調子も戻ってないみたいだね」
エアロードさんの住んでる部屋についてインターホンを鳴らしたらドアの鍵を開けてすぐに彼女が出てきた。これだけでもう彼女がかなり判断力を失っていることが分かる。普段の彼女だったらまずは誰が来たかを確認するはずだろう。
「ひゃわっ!?」
「ちょっと失礼。うん、まだ熱いね。パジャマも結構汗吸ってるみたいだし」
「マジで何のためらいもなく自然に女の子の額触ってるっすよこの先輩……」
エアロードさんの額に手を当てて大体の体温を測る。恐らくは38度前後だろう、今日一日寝ててこれという事は性質の悪い風邪なのかもしれない。教授から教えられた『病孤涙苦』の接近のせいで勘ぐってしまいそうになるがなんでもかんでも疑うのは良くないだろう。というか例の上級悪魔の仕業なら同じ天使であるエルを狙わない理由もないし。
「わ、私は大丈夫だから。風邪、移しちゃうかもしれないから、かえって」
「うん、ごめん。そんなフラフラしてる人の言う事聞けない。物凄い嫌だろうしこれで嫌われても仕方ないけど看病させてもらうよ。スペースさん、エアロードさんに肩貸してあげて。汗かいてる時に男に触られたくないだろうから」
「アリナでいいっすよ。んじゃシルフィパイセン、悪いっすけど運ばせてもらいまーす」
「きゃっ、ちょ、アンタ!?」
そのまま俵のように持っていかれるエアロードさん、運んでいたアリナの後ろをついて部屋の中にお邪魔する。エアロードさん曰くいつも食事は近くのアイドル寮の食堂で済ませているとのことで大した食材もないと思いある程度は買ってきた。ちゃんとした物を食べる元気がないかもしれないのでゼリーのような物もだ。
「…………なにこれ」
「うっわぁ、またまた散らかしてるっすねぇ。本当自分のことになると大分適当になるというか、興味がないというか」
「ゴホッゴホッ!!あ、アリナ……アンタ、覚えておきなさいよ……!!」
リビングの部屋は何というか、ズボラな人の部屋という感じだった。あちこちに脱ぎ散らかされた服や下着が落ちており、ゴミこそないが全体的に掃除されているとは思えない。しかもアリナの言い方的にこれが毎度のことらしい。
「―――――よし、再起動。アリナ、エアロードさんのことお願い。一度全部脱がして汗を拭いてあげて、その間に氷枕用意しておくからそれ使って。もし洗濯物があったらそのまま持ってきて」
「あいあいさー。じゃあ行くっすよシルフィパイセン」
「アンタ、沢渡君を止めなさいよ……!!」
「いやだって短い付き合いっすけどリョウパイセンはかなり頑固者だと分かるんすもん。無駄な抵抗はしないに越したことはないっす」
そう言って奥の寝室に行くアリナ達を見送って頬を両手で叩いて気合いを入れ直す。こんな空間で生きていたら今回の風邪が治ったとしてもまたどこかで体調を崩すかもしれない。これから彼女は大事な時期なのにこんなつまらないことで躓いて欲しくはない。本当に嫌われるだろうが、僕個人のことより彼女の夢の方が大事なので進めるとしよう。
「アリナ、アンタなんで沢渡君を連れてきてんのよ……」
「いやだってエルっちパイセンを誘ったら行けないって言われたんで。そしたらリョウパイセンが代わりに来るって言うから。アタイ一人で看病とか無理っすからね」
リョウの指示通りシルフィのパジャマを脱がして汗を拭きとっていく。そのパジャマも汗を吸ってこころなしか湿っている気がするので洗濯物行きだと判断したアリナは代わりのパジャマを勝手知ったる部屋の中から取り出しシルフィに着せる。
もはや抵抗する気力もないのかされるがままになっているシルフィはそれでもリョウを連れてきたことに文句だけは口にする。ありがたいのは本当だが、それはそれとして彼女のプライドは弱い所を見られたことを許容しきれない。
「文句なら元気になった後、リョウパイセンと一緒に聞きまくるんでそれまで眠ってくださいっす。この様子じゃ本当に一日中ただ寝てただけみたいっすね」
「それ以外する気力がなかったのよ……。連日結構大変だったから、それで体力削られたみたい。ドルザルクのアホのせいで大分苦労してたところに表の仕事が入って……」
「本当碌なことしないっすねぇ悪魔ってのは。さっさと絶滅してくれればいいのに」
「本当にね……。平穏というものを大切にしてほしいもんだわ……」
学生生活に天使としての悪魔との戦闘。“愛”を補充する為のアイドル活動。シルフィの活動量は他の天使達と比べてもかなり多い。いくら身体が頑丈な天使とはいえ疲労が溜まらないわけではない。そうなればこうして体調を崩すこともある。
この中でも悪魔との戦闘、これには体力はもちろん精神も削られる。前線に出れば猶更だった。敗北すれば自分はおろかその周辺地域がどうなるか分からないのだから、使命感の強いシルフィにとってはストレスが酷かったことだろうとアリナは分析する。
(ここで一度寝込むのは悪いことじゃないかもっすねぇ。エルっちパイセンもそうっすけどどこまでも突っ走るところあるっすし、この人も)
「冷えペタも持ってきてるんで動かないでくださいっすねー」
「ん……。冷たい……」
「じゃ、ちゃんと寝ててくださいっす。氷枕持ってくるんで」
「ありがと……」
(弱ってるシルフィパイセン可愛いっすねぇ。小柄なのもあって小動物的な感じがするっす。いけないいけない、なんかイタズラしたくなるっすけど元気になった後本気でボコられそうだし我慢っすよアタイ)
汗を拭きとり終わり、脱がしたパジャマを持って部屋を出る。今の弱っているプライド高い小柄な先輩を見ていたらなんか変な気分になってきそうだと首を振りながらアリナはリビングに戻った。
「リョウパイセン、氷枕はどこに……」
「ああ、そっちに用意してあるよ。あと寝る前にゼリーくらい飲ませて上げて。何もお腹に入れないよりは大分マシなはずだから。パジャマはその洗濯籠に入れて。まとめて洗っちゃうから」
「はいっす。……いやそうじゃなくて、なにしてるんすか」
「なにって、洗濯物を集めて分別してるんだよ。洗い方別に」
「えぇ……。顔色なにも変えずに言ったよこの人……」
思わず素に戻るくらいには衝撃的な光景だった。リビングに戻ったアリナが見たのは床に脱ぎ散らかしてあった下着や服を集めているリョウの姿。言い方を考えなければ不審者感が凄かった。よく言うのであれば子供が散らかした跡を片付けている母親だろうか。
「あの、流石に下着はアタイがやるっすよ……?というか触ったってバレたら後が怖いと思わないんすか……?」
「いや怖いは怖いけどそれ以上にエアロードさんが元気になることの方が優先だし。これがきっかけで嫌われても仕方ないけど、やらないとまた困ることになるかもしれないんだからやるべきでしょ。アリナにはエアロードさんの近くにいてあげて欲しいし」
「いやいやいや。エルっちパイセンに知られたらとか思わないんすか」
その言葉に作業をしていた手を止めて顎に手を当ててその光景を想像するリョウを見て、これで止まってくれるとアリナは期待した。
デートの時に覗き見していた時の光景を思えばこの人間の先輩がエルのことを想っていることは分かっている。それを引き合いに出せば引いてくれると思ったのだ。
確かにシルフィは自分の住む環境とかに興味はないし、部屋着などは脱ぎ散らかすがそれでも男に触れられるのは嫌だろう。リョウもそれは分かっているはずだ。ならそれと合わせてエルを出せば、そう思ったアリナは間違いではない。
「…………うん、エルだったら「リョウ君らしいですね」って言うね、多分。まぁこれで嫌われたら、泣くしかないけど」
だから少し考えた後手際よく片付けていく姿を見てアリナは唖然とする。想い人から“愛”を向けられなくなるのを恐怖するのは天使も人間も変わりないはずなのに、その危険性を理解したまま彼からは何のためらいも感じないのだから。
「いや、こんなことで嫌われたら死んでも死にきれないと思うんすけど。アタイがやるって言ってるんすから」
「駄目だよ。エアロードさん、かなり弱ってるみたいだから。アリナには近くで手でも握ってて上げて欲しい。多分一人だと駄目になるタイプだから、彼女」
「思い当たる節はあるんすけどぉ……。というか下着とか見ても大丈夫なんすか……?」
「洗濯してる時エルのをよく見るし別に気にしないよ。下着なんか所詮女の子の付属品だしこれ単体に興奮するとかありえないね。これをエアロードさんが着けてるところを見たらヤバいかもしれないけどこんなのただの布じゃないか。言っちゃ悪いけど洗濯してない下着とか汚いし」
「この人本気で言ってるよ……」
デリカシーというものをどこに置いてきたのだろうか。ちょっと変なところはあるけれどまともだと考えていた過去の自分を殴ってやりたいと本気で思う。
(しかもこの様子見る限りエルっちパイセン達同様ものすっごい頑固なタイプだ……。周りの人大変だっただろうなぁ……)
「はい、氷枕とゼリー。エアロードさんにお腹は空いてるか聞いておいてくれると助かるかな。掃除が終わって食欲あるみたいだったらお粥でも作るから」
「ああ、はいっす」
用意された氷枕とゼリーを持たされたのでそのまま寝室に戻る。シルフィが孤独に弱いというのは確かだったし、リョウにはいくら言っても無駄だと経験則で理解したアリナはそれ以上言うことなく言われたとおりにした。
(この機会に近くで観察しようと思ったんすけど、考えてた数倍は躊躇いってもんがないっすねぇ。いや、それよりもシルフィパイセンに対しては欲があまり浮かばないのかな?性癖の不一致って奴っすかね)
新しいパジャマに身を包んだシルフィは再び寝息を立てていた。だがうなされているようでその表情は苦しそうに歪んでいた。その頭に氷枕を仕込み、手を握ることにする。すると強張っていたその表情が明らかに緩んだ。一人暮らしをするというだけでかなりストレスになるのだろう。これも長年一緒にいれば気付くことではある。
(だけどそこまで付き合いは長くない、というよりこの前初めて会ったばっかっすよねぇ。それなのにここまで理解してる上に、心に入り込むのが上手いというか……要注意かな)
シルフィの手を静かに握りながらアリナは考える。このことを上層部に伝えるべきかを。いずれ最上級天使になりえるエルに“愛”を与えている者の異常性を。
(いや、まだ駄目っすね。下着拾いだけでそこまでするのは心配性越えてそれこそ異常っす。異常って言うのも言い過ぎっすし。ただ単にデリカシーが欠片もないクソボケなだけの可能性が高いっすし)
天界上層部からこの地域の天使の監視を任されているアリナ・スペースはそう考えて頭を振る。仕事柄なんでも疑いにかかるのは自分の悪い癖だと思って。
なお近い未来「やっぱこの人頭おかしかったっすね……」と疲れた顔になることを彼女は知らない。
どのパートが一番面白い?
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ラブコメ、甘すぎるラブコメ!!
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設定語り。もっと見せろぉ!!
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バトルよバトル。もっと濃密に!!
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その他ァ!!!