幼馴染(天使)が幼馴染(偽)だった。天使なのはガチだった   作:ビスマルク

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天使と夕飯

「よし、準備完了……!!」

 

『この世界の人間の食事とか初めて見た……。なんか、全体的に茶色くない?』

 

「男子高校生の夕飯なんてこんなものだよ?サラダ用意してる分マシまである」

 

 

 エルが帰ってくる前に何とか食事の用意が出来た僕はソファに座り込んでゆっくり時間が過ぎていくのを楽しんでいた。こういう何でもない時間を一人で過ごすのが僕は好きだった。

 問題は今やどこにいても脳内に悪魔がいる関係上一人にはなれないという事だろうか。まぁこれもその内慣れると思うのでそれまで頑張ることにする。

 

 

『えーっと、この肉の塊がはんばーぐだっけ?で、この茶色いスープがみそしる……。対照的なこの白い粒粒の集合体がご飯で、緑色なのがサラダね。人間って色んな物食べるんだねぇ』

 

「そういう悪魔は何を食べるのさ。この世界に来て生活してるんだから何か食べてるんでしょ」

 

『いやぁ、アタシらみたいな一般兵は基本何かを食べたりしないよ?こっちの世界にいるだけで人間の欲望が自然に集まって魔力が溜まってエネルギーは充填できるし』

 

「ブラック労働にも程がある……」

 

 

 堂々と人間に交じって食事をしていたとは思っていなかったが、まさかのそもそも食事を必要としていなかったとは予想外だった。

 

 

『元の世界じゃ基本そこらの雑草食べてたねぇ。人間がいればその欲望から生きれるけど、さっきも言った通り人間いなくなったし。少なくとも悪魔が支配している土地には人間いなかったね。天使側が保護してたのかもしれないけどそっちはノータッチで分かんないし』

 

「…………勝手に人の心を読まないで欲しいんだけどなぁ」

 

 

 元の世界でもそうだったのだろうか。言葉にする前に心を読んだように答えてくれたことに少し驚きつつ、心の中に引きずり込むとか出来る時点で今更かと納得することにする。今後もこんな異常な状態が続くのならさっさと慣れるべきだ。

 

 

『このネックレスを付けてる限りアンタの思考は大体わかるからしょうがないね。人前でアタシと会話したいときは頭の中で語り掛ける感じでやればこうして返事するよん』

 

「口に出さなくていいと考えると大分ありがたいね……」

 

 

 最悪高校二年生になってまでイマジナリーフレンドがいる痛い奴を演じなくてはならないと思っていたのでこれは素直にありがたかった。

 とはいえぶっつけ本番というのも難しいので徐々に慣らしていく形になるだろう。天使と悪魔についてもまだまだ知らなければならない事は多い。

 同時にこの悪魔の少女にこの世界の常識を教えていかなければならない。突拍子もない行動のせいで被害を受けるのは僕になるのだから。

 

 

「そういえば、君の名前ってなんなの?まだ聞いてなかったけど」

 

『名前?ああ、中位悪魔になれば貰える個体名称ね。アタシはまだまだ下っ端だから何にもないかなぁ。適当にお前とかチビとか金髪とか呼ばれてたし』

 

「そういう呼び方する職場ならやめて正解だと思う」

 

『アタシも同感だね。いやぁ、ちょうどいいタイミングで都合の良すぎる人材がいてくれて助かるよ』

 

 

 それに関しては未だに疑っている部分はあるが。なにせあまりにタイミングが良すぎる。僕にとってではなく、彼女にとって。

 だが先程僕から反撃を受けていることに関して本気で驚いていた辺り全てが全て彼女が仕組んだことだとは思えない。あまりにちぐはぐすぎて誰かの意思を感じるがこれは正解が出ない問題だと切り替える。

 考えても答えが出ないのならば一旦考えることをやめるのも策の一つではある。

 

 

「だけど名前がないのは不便だな……。今度名前考えておいていい?」

 

『いいねぇ。そっちの方があっちと決別したって分かりやすいし。お前とか呼ばれるの結構ムカついてたし。アイツら下級悪魔の事大抵使い捨てにしてくるし』

 

 

 聞けば聞くほど過酷な職場だったというのが分かる。完全に信頼、信用することはできないしその言葉がどれだけ本当なのかはわからないがその声音から感じるウンザリするという感情は信じられるのではないかと人生経験の浅い僕でも思った。

 

 

『――――ん、帰ってきたみたいだねぇ』

 

「分かるの?」

 

『天使特有の気配があるのだよ。といってもかなり距離が近くなければ分からないくらいにはあっちの隠蔽技術も高いけどねぇ。このピカピカのうざったい光の気配は悪魔からすると本当に眩しくて目どころか頭まで眩むよ』

 

 

 うへぇと言わんばかりの言葉が終わると同時にドアノブが回される。

 そのドアの向こう側にいるのは僕が幼馴染だと思わされていた少女だ。彼女は僕やその周囲を洗脳して、記憶を書き換えてこの家にもぐりこんだ存在だ。

 憎むべき存在、怒ってしかるべき存在。そして、どう接すればいいか分からない存在。

 

 僕は彼女が好きだった。エルと過ごす日々が大切で、何気ない会話も楽しんでいた。それは彼女と共有した過去があったと錯覚していたからの感情ではないかと考えている。好きだと思うのも、大切だと思うのも何もかも。どこから本当でどこから偽物なのか分からない。

 だから、認識が正されているとバレるのは不味いと思う。そのきっかけが何なのかがバレてしまったら芋づる式に悪魔の少女まで辿り着かれる。それがきっかけでどんなことになるかは想像もしたくない。

 

 かと言って彼女と今まで通り過ごせるかと言われれば首を傾げてしまう。全部が嘘だと分かった上でエルと今まで通り、仲良く出来ると断言できる自信が今の僕にはなかった。

 

 

「ただいま、帰りました」

 

「うん、おかえり」

 

 

 だからいつも通りの声音で話し掛けることが出来たことを僕自身が驚いた。あちらがいつも通りに言ってくれたから、僕もいつも通りに返せたのだろうか。

 

 

「今日も遅かったね。バイトってそんな大変?」

 

「私の所は特に忙しいらしいですね。リョウ君も働く時は肉体労働以外にした方が良いですよ?帰ってきてから何もする気が起きませんから」

 

 

 本当のことを知った後からすると確かに戦いなんて肉体労働の極致だと頷かざるをえない。エルの普段あまり変わらない声音がウンザリという感情が少し漏れてる。普段変わらない目がどんよりしてるのは気のせいじゃないと思う。

 

 

「相変わらず大変な職場みたいだね……。お風呂とご飯、どっちも準備できてるけど先にどっちにする?」

 

「ご飯にしますっ!!!」

 

「はいはい分かりましたよ。先に荷物置いてきなよ。あと手洗いうがい忘れないように」

 

「リョウ君は私のお母さんですか?言われなくても分かっています」

 

 

 そう言いながら彼女は即座に階段を駆け上がっていく。その足取りは羽が生えているように軽やかだった。いや天使なら本当に生えてる可能性があるが。

 苦笑しながら彼女から受け取った空の弁当箱をキッチンに持っていき中身を洗っていく。今日も中身は綺麗に空っぽになっている。好き嫌いがないので作る側からすると非常に楽だ。

 

 

「リョウ君、ご飯を所望します」

 

「はい、今日も大盛りでいいよね」

 

「当然です。リョウ君のご飯は美味しいですからね」

 

 

 すまし顔で茶碗一杯に盛り上がるほどのご飯を持っていくエル、当然お代わり前提だ。同じ年代の男子高校生として食欲で負けるというのはなんとももにょるが、彼女はフードファイターかくあるべしと言わんばかりに食べまくるのでもう気持ちいいくらいだ。

 

 

「今日は豆腐とわかめのお味噌汁にハンバーグ、オニオンソースとデミグラスソース両方を用意しているとは流石はリョウ君。白いご飯もまた白銀に輝いており食欲を刺激します」

 

「ハンバーグもお味噌汁もお代わりあるから好きに食べなよ。それじゃあ僕もいただきます」

 

「我が主とリョウ君、今日も導きと恵み物に感謝します。いただきます」

 

 

 手に持ったお箸を器用に使いハンバーグを割り、中の肉汁に目を輝かせながら少しずつ口に運ぶ。はしたないと分かっているのだろう、その動きは丁寧だがあまりある食欲はごまかせないのかその動きは早い。早いというより速いが正しいと思えるくらいにはどんどんおかずが減っていく。

 

 僕は彼女と食事をする時のこの光景を見ているのが好きだ。自分の作った物を美味しそうに食べてくれる彼女を見ながら食べると一人で食べるより何倍も美味しく感じれるのだから。

 

 

「美味しいです。美味しいです。こんな美味しい物があるなんて思いませんでした」

 

「大袈裟だなぁ。もっと美味しい物なんていくらでもあると思うけど」

 

「ありません、リョウ君の手料理以上なんて神でさえも作り上げられないと断言します」

 

 

 天使なのにその言い草はどうなんだろうと思いつつ苦笑する。彼女は本当に美味しそうに食べるから作り甲斐がある。単なる家庭料理なのにその様子を見ていると僕も嬉しくなった。

 

 

「あっ……もうなくなっちゃった……」

 

「まだご飯もあるから、ほらお茶碗貸しなよ」

 

「っ!!ありがとうございますリョウ君」

 

 

 キラキラしている目が白米がなくなると同時に暗くなり、それに苦笑しながらご飯をよそい持ってくる。彼女の背後に尻尾が幻視出来るくらいに表情は変わらないのにその雰囲気は本当にうれしそうだ。幻視した犬の尻尾はブンブンと振り回されており、ご飯を受け取ると同時に再び食事を再開する。

 

 

「そういえばリョウ君、今日も事故がありましたが大丈夫でしたか?」

 

「うん。ああいうところには近づかないようにしてるからね。とはいってもどこで起こるかはわからないからそこらへんは完全に運なんだけど」

 

「そうですね。ただアプリでお知らせがあった後だと野次馬が集まってくることがあります。一応言っておきますがそれも危険なのでやめてくださいね?」

 

「わざわざ危険な所に行ったりしないよ。そういうエルだってそこには行ってないんだよね?」

 

「私の場合は仕事なので仕方ないです。行きたくはありませんが、それをしなければ生きてはいけませんから」

 

「エルは一々言うことが大袈裟だなぁ」

 

「そうかも、知れませんね」

 

 

 彼女はこうやって騒動があった日は決まって同じことを言う。僕を危険な現場に近づけたくないようで。それは天使としての使命感なのか、それとも一ヵ月一緒にいたことから生まれる情なのか僕には判別出来ずにいた。だけどその時の彼女の真剣な表情を僕は見間違う事はないから、こちらもしっかり近づくつもりはないと伝えておく。

 

 ただの事故でも行きたくはなかったのがそれが天使と悪魔の戦いの結果だと考えれば余計に行きたくはない。巻き込まれて発生した怪我人というのもその余波なのだろう。怪我なんてしたらエルの夕飯を準備することも出来なくなってしまうし。

 

 

「……………………」

 

「リョウ君?どうかしましたか?」

 

「う、ううん。ちょっと考え事。それじゃあ僕はごちそうさまでした。食器は水につけておいてくれれば後で片付けておくから。お風呂入ったらお湯抜いて洗濯機回しておいて」

 

「ええ、分かりました」

 

 

 一瞬生まれた考えに動揺しつつも、それを隠すようにその場を後にする。今はとにかく考えをまとめるために誰にも見られない自室に戻るべきだ。

 だけどその行く手を阻むように後ろからエルの、透明な鈴のような声がかけられる。

 

 

「リョウ君、何か不安なことがあったら相談してくださいね」

 

「……そんなに僕って分かりやすい?」

 

「いえ、これに関しては他の人だったら分からないと思いますよ?」

 

「それなら、なんで悩んでるって思ったのさ?」

 

「私がいつもリョウ君を見ているからです」

 

 

 エルはいつもの通り軽やかに少しだけ、分かる人にはわかる程度だけ口角を上げて微笑んでそう告げた。心が揺さぶられて、鼓動は早くなり、脳が一瞬だけ真っ白になる。

 

 

「リョウ君のことなら、何でも分かりますよ」

 

 

 ああ、やっぱり駄目だ。認めないとずっと気張っていたがどうやら無駄だったようだ。

 記憶があろうがなかろうが、どちらであっても関係はなかった。自室のベッドに倒れ込んで彼女の笑顔を思い出し、大きいため息を吐く。

 

 

「やっぱり、僕はエルが好きみたいだ」

 

 

 僕の恋心は変わらず、その難易度だけが嫌に高くなっている事実だけが残された。

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