幼馴染(天使)が幼馴染(偽)だった。天使なのはガチだった   作:ビスマルク

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影法師と光天使 ①

「むぅ……今日は天界から何も言われてないからリョウ君と一緒に帰ろうと思ったのに……。あちらがバイトというのは計算外でした……」

 

「まぁリョウパイセンにも色々とあるってことっすよ。今までがエルっちパイセンを優先しすぎてたってところじゃないっすか?」

 

「うぐ。た、確かにリョウ君がいつも私と一緒にいようとしてくれていましたし……。一緒に暮らし始めた時からずっと……」

 

「マジっすか。べた惚れじゃないすかリョウパイセン」

 

 

 時間軸は数日前に巻き戻る。日常の学校生活を終えたエルは天使、高校両方の後輩であるアリナと共に帰路についていた。リョウとの生活においてどのように“愛”を集めているか、その参考の為に話しを聞きたいというアリナの頼みを断り切れなかったからだ。

 

 

(いやしかしこれは参考にならないっすね……。やってること高校生同士の同棲じゃなくて熱々夫婦みたいなもんっすし。なんすかこれ。ちょっと前までは専業主夫を捕まえたエリート会社員みたいなもんで今は共働きだけど互いに互いを優先する夫婦みたいっすし。言ったら熱暴走起こしそうっすから言わないっすけど)

 

 

 アリナの懸念は当たっていた。べた惚れという単語でさえそれを聞いたエルは顔を赤くしているのだ。熱々夫婦とか聞いたらその場で立ち尽くしてしばらくの間思考が止まって頭から煙が出てくる可能性すらある。

 

 

「というかエルっちパイセン、二年後くらいのことちゃんと考えておいた方がいいっすよ。高校生活ならまだしも社会人になっても今のままなんてありえないんっすから」

 

「む、私だってそこはちゃんと考えていますよ。リョウ君は高校を卒業したら大学に入る予定です。この前聞いたらスメラギ製薬の社長さんと仲良くなったということで大学卒業後そちらに雇われることも視野に入れているとか」

 

「すんません、リョウパイセンの人誑し力舐めてたっす。最早一種の特殊能力じゃないっすか?洗脳とかに足一本くらい突っ込んでないっすか」

 

「失礼ですよアリナ。それに、洗脳しているのは私達の方でしょう」

 

 

 最早日常になった愛しい少年との日々を思い出すことは、その土台が洗脳から始まっていることを自覚しているエルにとってはダメージにもなる。何の対策もなくこの事実を伝えればエルの“愛”が消える可能性もある。

 最大戦力である最上級天使に最も近いとされている彼女の戦闘力に直結する以上安易にばらすという手は打てない。天使としての使命を忘れていないエルにとっては自分の我儘で前線離脱する可能性をとることは出来なくなっていた。

 

 

「リョウパイセンなら大丈夫だと思うっすけどねー。案外認識改変切れてもエルっちパイセンとかの接し方変わらない気がするっすよ」

 

「そんなことあるわけないじゃないですか。もう少し考えてくださいアリナ。リョウ君は確かに優しいですけど厳しい所もあるんですよ。もし知られたら……しばらくの間口をきいてくれなくて私の嫌いなものを敷き詰めたお弁当を渡してくるかもしれません」

 

「バレてもその程度で済むって思ってんすか……?それはそれで失礼じゃないっすか……?」

 

「安心してください、冗談ですから」

 

「表情変わらないから本気なのか冗談なのかまるで分らないのやめて欲しいんすけど。シルフィパイセンとかリョウパイセンなら見抜けるかもしれないっすけど」

 

「まだまだですねアリナ。精進しなさい」

 

「いやエルっちパイセンの表情の違いを見抜くのに精進とか……」

 

「そちらではありません。近くに出た悪魔の気配くらい察せられるようにという事です。もっとも、貴方は悪魔とは気配が違いますが」

 

 

 いつの間にか周囲から人の気配がなくなっている。そのことに気付いたアリナは隣のエルを見て既に戦闘態勢に入っていることに遅まきながら気付いた。咄嗟に自分も羽を広げてこの場から離脱出来るようにする。エルやシルフィと違いアリナは純粋なサポート型。自分がいるだけで邪魔になるのは間違いないという判断だ。

 もっとも、エルはここで戦う事にはならないとも直感していたが。

 

 

「お久しぶり、というべきですか?ドッペル」

 

「好きにすればいいんじゃないか?エル・ライトガーデン」

 

 

 エルの声掛けに音もなく電柱の影の下から姿を現すドッペル。その姿は墨を被ったように黒く、唯一白い仮面の下から発せられる声はどうにも捉えにくく辛うじて性別が男であることが予想出来るくらいだった。

 

 

(こいつが、ドッペル……!!エル先輩と戦って弱った後だとしてもあの『大飢万征』を単独で倒した推定人間……!!)

 

 

 突如現れた悪魔の能力を扱う人間と思われる存在に警戒心を最大にしたアリナはじりじりと下がる。上級悪魔と単独で渡り合える相手とエルが本気で戦った場合周囲の被害は計り知れない。その前にここら一帯を結界で閉じることで外に被害を出さないようにしなければならない。アリナの能力はそういった物だった。

 

 

「落ち着きなさいアリナ。ドッペル、そちらもそのような登場の仕方をすれば警戒心を煽るだけだと分かりませんか?」

 

「生憎、天使との付き合いは殆どなくてな。あんまり警戒しないで欲しいもんだ。こっちはそちらに有益な情報を持ってきたんだぜ?それとも聞きたくないか?だとしたらさっさと帰って後の始末は俺がつけるが」

 

「聞きましょう」

 

「エル先輩!?」

 

「ここで聞かない方が後々厄介になりそうです。それに、単独でどうにかなる相手ならばわざわざ私に接触するような真似はしないのでは?」

 

「……………………」

 

 

 エルの問いかけに無言を貫くドッペル。それは最早答えているのと同じだった。仮面の下の顔は果たしてどのように歪んでいるのかアリナは想像しようとし、そんな余裕はないと首を振って気を引き締める。

 

 

(まぁこういう感じでリョウパイセンに接することが出来ればすぐにゴールできると思うんすけど本当にもどかしいったらありゃしない)

 

 

 目の前にいるドッペルの中身こそがリョウだと想像すらしていないアリナだったが、案外その考えは合っていた。仮面の下では天使らしさ全開のエルの凛々しい表情にリョウが物凄いいい笑顔をしていたのだから。リルナから警告されなければ声音に喜びが漏れ出ていたかもしれない。。

 

 

「分かってるじゃないか。俺の次の狙いは『病孤涙苦』だ。奴は厄介でな、俺一人じゃ手に余る」

 

「……海外からこちらに来ているのは天界も把握していましたが、貴方が先に掴むとは。その言い方、まさかとは思いますが共闘のお誘いですか?」

 

「ああ。流石に千年も生きてる化物相手に一人で調子乗るほど馬鹿じゃねぇからな。もちろん周囲の被害を考えないのであればやりようは幾らでもあるが」

 

 

 これは純然たる事実だった。今『病孤涙苦』はジャネット・シックのマネージャーとして活動している為、人前に出ている。そこに奇襲を仕掛ければ優位に戦況を進めることが出来るだろう。だがそれを選ぶことは出来ないしやらないと決めている。

 勝てば官軍負ければ賊軍というのは勝ち方を選ばなくていいという事ではないのだから。

 

 

「俺は奴を潰し、奴が持っているであろう上級悪魔の情報を手に入れたい。お前らは天使としての使命を果たせる。互いに利のある話じゃないか?」

 

「エル先輩、あまりに話しが上手すぎるっす。罠を仕掛けている可能性だってあるっすよ」

 

「おいおい、アリナ・スペース。信用出来ないのは分かるがそれをわざわざ俺に聞かせるなよ。そりゃ余計な警戒心を生んで連携に罅を入れるきっかけになりうるぞ」

 

「私が貴方と組むとは決まってないでしょうに話しを進めないで欲しいですね。情報をくれるのであればありがたく貰います。その上で『病孤涙苦』は私達天使で抑えます。戦う力があるとはいえ、人間に手を貸してもらう程天界は人手不足ではありませんよ」

 

 

 聞けば人間を下に見ているような発言だがエルの理解者を自称しているリョウには分かる。これは本気でこちらを心配しているだけだと。悪魔の能力を使えるようになっているとはいえ中身は人間なのだから無理はするなと、それ以上の意味はないのだと。

 

 

『ぶ、不器用にもほどがあるでしょ……』

 

『そこが可愛いんじゃねぇか。とはいえこのまま断られたら困るのも事実。エアロードさんには悪いが、ぶっちゃけさせてもらうか』

 

 

 口調が荒っぽくなろうと中身は変わらずリョウである。べた惚れ度は変わっていないので口が悪く聞こえる凛々しいエルの姿にもドキドキしていた。こんなに心臓が早く動くのはつい先日リルナを心の中の部屋で着せ替えた時以来だ。リョウの心臓は最近過剰に動いている気がする。

 

 

「あー。だが天使があんまり大っぴらに動くのは不味いと思うぜ」

 

「ほう。その理由は?」

 

「シルフィ・エアロードが脅されている。天界に知らせたら広範囲に病原体を振りまくってな」

 

「ッ――――――」

 

「し、シルフィ先輩が?」

 

「『病孤涙苦』の正体はジャネット・シックのマネージャーだ。少し前に接触して、勧誘を受けてたな。まぁ勧誘とは名ばかりの脅迫だったが」

 

 

 この情報を漏らすのはドッペルにとっても危険だ。どこからドッペル=リョウの図式が浮かぶか分からない以上こちらの情報を流すのは出来る限り抑えたい。

 だがこれ以外にエル個人に協力を仰ぐ方法が思いつかなかった。それは教授達も同じだ。最も協力的になってもらう方法は真正面からぶっちゃけることだとリョウは理解していた。

 

 

「……それが本当だとして、そっちが情報流す理由はなんすか。仲間がいるんじゃないんすか」

 

「仲間はいる。色々と出来るサポート型がな。だが上級悪魔と戦うには不足だ。天使で一番信用出来るのはそこの甘ちゃんのライトガーデンくらいでな」

 

「甘ちゃんとは言ってくれますね」

 

 

 もちろんドッペルの本音としては他に接触できる天使がいないからである。一番信用出来るのは間違いないが同時に一番巻き込みたくないというのが本音なのだから。

 だが『病孤涙苦』の被害規模を考えた場合最早打てる手は全てうたなければ最悪の結末に進みかねない。

 

 

「音楽フェスの時、奴が一人になる時がある。その時俺が奴と話す。その様子を見て、お前が俺と共闘していいと思ったなら奴に最大火力をぶつけろ」

 

「……いいでしょう。アリナ、このことは内密に。組織に知らせればシルフィにも伝わります。この件は、我々が秘密裏に処理する」

 

「うぇー……、まぁたエルパイセンの無茶ぶりが……。分かった、分かったすよ。そいつの周囲を結界で覆って戦える準備しとけばいいんすね」

 

 

 話しはここにまとまった。千年を生きた上級悪魔を討ち取る為に天使と悪魔の力を持つ人間が手を組んだ。彼らは知ることがないが、これまでの天使と悪魔の長い戦いの歴史の中で初となる。

 

 

「ところでドッペル、一つ聞かせてください。何故貴方は『病孤涙苦』を討とうと?『炎天渇奪』の情報を手に入れる為だけならあちらと交渉するだけでいいでしょう?」

 

「…………別に、ファンなだけだ」

 

「え?」

 

「だから。俺はシルフィ・エアロードの歌のファンなだけだ。メンタル崩した歌なんて聞きたくねぇってだけだ。これで良いならもう帰るぞ」

 

 

 背中を向けて影の中に沈んでいくドッペルのその言葉にクスリと笑ったエルは、顔を隠す白い仮面の下で仏頂面になった少年の顔を幻視した。

 

 

「貴方の事、少し分かった気がします」

 

「そう簡単に分かられてたまるかよ」

 




上級悪魔は基本的に三大魔王の傘下に入ってます。忠誠心の高さは各々に寄りますが。
己の“欲望”の大本になる魔王の傘下になっています。

ドルザルクも『病孤涙苦』もどちらかというと『傲慢』よりだけどもう死んでるので次に向いている『強欲』の傘下になっていました。

『強欲』に対する忠誠心が高い『病孤涙苦』はかなり珍しい方です。傘下だけど『炎天渇奪』とかは機会と実力があれば下剋上する気満々です。

設定公開はどういう形にすべき?

  • 話しの中で自然にを頑張って欲しい
  • 設定だけで一話使ってほしい
  • 設定とかどうでもいいからストーリー書いて
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