幼馴染(天使)が幼馴染(偽)だった。天使なのはガチだった   作:ビスマルク

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影法師と『病孤涙苦』 ⑥

 

『まずいっす!!!このままじゃ、橋を越えて本土にまでこの混乱がッ!!!』

 

 

 病はまだ、収まらない。

 現状、暴徒が発生した最もあり得る可能性は『病孤涙苦』の仕業だ。だが当の『病孤涙苦』本人は既にこの場で打ち倒したはず。エルはそこまで考えて唐突に首を回し倒れている『病孤涙苦』の死体を見る。

 

 

「な、ぜ……!?」

 

「どうしたライトガーデン。『病孤涙苦』を倒したから次は俺を捕まえる気――――」

 

「『病孤涙苦』はまだ死んでないッ!!まずいです、これは本体ではなく偽物ッ!!!」

 

「は、はぁ!?」

 

 

 エルとアリナの通信を聞いていなかったドッペルはその言葉に目を見開く。続いてそのまま『病孤涙苦』の死体を見る。傷口からは血を流しており、その力はまさに病を操るという強大さに満ちていた。だというのに何がおかしいのか。

 

 

「通常、悪魔を殺した場合死体は残ります。だけど例外もある。その例外の一つが私の持つ光です。私の光で殺せば、悪魔の身体は意志という抵抗力を失いその死体は跡形もなく消える」

 

「つまり、ここに死体が残っていること自体がおかしいってことか……」

 

 

 倒れ込んでいる死体を抱え起こしたドッペルはその異様な軽さに気付く。まるでずっと何も食べてこなかったようなそんな軽さ。同時に化粧の濃さと香水の匂いが強いことにも。戦っている時は周辺の地面が腐っていた為気付かなかったが、その腐敗臭が『病孤涙苦』の身体からも漂ってきていることに。

 

 

「まさか、死体を動かしていたのか……!?確かに『大飢万征』も同じようなことをしてた。魂を移すことで人形に能力を使わせていたからありえない事じゃねぇとは思うが」

 

「不味いです、ここにいるのが偽装したものならば本体はどこか他の場所にいる。そしてそいつは今戦ったこの身体と同じことが出来るかもしれない」

 

「だとしたら狙いはシルフィ・エアロードしかねぇな。奴の執着心は本物だろうし、一度狙った獲物は逃がさねぇだろ」

 

「クッ……!!今このタイミングで暴動を起こさせたのは」

 

「俺達を分断させるつもりだろ。どれくらい魂を分けてたのかは分からねぇが、それでも半分近くはこっちに寄こしてると思う。その状態で俺達に負けたってことは本体の方も負ける可能性が高いってことだ」

 

『『病孤涙苦』なら既存の病気を改造させて時限的に暴動を起こさせるのも可能だと思う。条件を満たした時に正気を失わせるとかも。その上この状態が広がったら天使とか悪魔のことを暴露するしない以前に“負の感情”が沸き上がっちゃう』

 

 

 ドッペルにしか聞こえない声でリルナが『病孤涙苦』の狙いを見抜く。暴徒を止めなければ文字通り天使と悪魔の戦いにチェックメイトがかかりかねない。音楽フェスの観客の一部から更に広まった時、どれだけの死傷者が出るか分からない。その事態を防ぐ為に天使は動かざるをえない。エル・ライトガーデンもまたその使命を持つ。

 

 

「この隙にシルフィを……!!」

 

 

 だがそれは親友を狙っている悪魔を見過ごすことになる。暴徒の相手をしながら『病孤涙苦』を倒すことなど出来ないと今の戦いでいやでもわかってしまった。例えそれがドッペルに気付かれないように用意した増員を使っても。

 

 

「――――俺が行く。俺が、『病孤涙苦』を仕留める。だからライトガーデン、暴走した連中はお前らが止めろ」

 

 

 だから、その提案をドッペルがして来たことにエルは表情を取り繕うことも出来ずに驚愕した。とはいえ、見慣れていない者からすれば分からないくらい小さく眉を動かす程度だったが。

 

 

「『病孤涙苦』を確実に仕留める為、その後俺を捕まえる為に天界の連中と用意した人員がいるんだろ。そいつら使って暴走してる連中を止めてくれ。俺は戦う為の技でそっちほど応用力高くないし、何より人手が欲しいのはそっちだ」

 

「…………何故、私が仲間を控えさせていると分かったんです」

 

「企業秘密だ。そっちで勝手に考察して勝手に納得してくれ。それでこの話、受けんのか?受けねぇのか?」

 

「受けましょう」

 

 

 ドッペルの提案に即決で答えるエル。状況は既に崩壊へと近づいて行っている以上ここで問答している余裕はない。シルフィのことを考えれば自分がそちらに行きたいのは山々だが、そちらを優先すれば間違いなくシルフィは怒るだろう確信がエルにはあった。

 

 

「ドッペル、私は貴方のことを信用していません。信頼もしていません。今日この日貴方と共に『病孤涙苦』と戦ったのは勝率と周囲への安全を考えた時それが最善だと考えたからです。悪魔と契約し、悪魔の力を使い、悪魔と戦う貴方を私は認めない」

 

「そりゃそうだ。天使としてはそれが当たり前で、至極真っ当な意見だろうよ」

 

「ですがそれは天使としての私の意見です。……シルフィをお願いします。私の親友を助けてください」

 

 

 それだけ言いエルは飛び立つ。白い翼をはためかせてその使命を全うする為に。

 ドッペルもまたそれを見送り黒い影の中に潜り込む。彼女の願いを叶える為に。

 

 

「話しは聞いてたデスよドッペルさん。それでどこまで行くデスか?」

 

「エアロードの所にだ。奴はそこにいる。間違いなく」

 

「了解デス。ただ一分くらい待ってくださいデス。ドッペルさんが近くにいれば“欲望”のチャージがそれで終わるはずデスから。それとこれ教授から渡されてた薬、飲んでくださいデス」

 

 

 影の中にいるディアンナに連れて行ってもらうために一分待つ。その時間さえもどかしいがこれは彼女なりの気遣いだろう。ドッペルはエルから渡されていた小さい光の槍を手に刺す。

 身体を蝕んでいる病がそれだけで弱まっていくのを感じた。教授に渡された薬も飲むことで更に体調を整える。全快とまではいかないがそれでも戦えるだけの体調には戻る。

 

 

「しかしアレが偽物とはいやはや千年物の悪魔ってのは規模がやっぱり大きいデスね。本体をぶっ倒せば終わるのが不幸中の幸いでしたけど」

 

「ありゃ死体をあまり強く動かそうとしたらボロが出るから巨体に下半身埋めて誤魔化そうとしたんだろうよ。本体は恐らく、もっとコンパクトに狡猾に戦うはずだ」

 

「マジデスか。私は移動要因で助かったデス。あんなのとやり合ってたら命がいくつあっても足らないデスよ」

 

「そこに関しては俺も嫌になってる。面倒くさいったらありゃしねぇ」

 

 

 心底ウンザリした顔でウゲーと舌を出していやがるその姿に同意するドッペル。テンションが上がり口調が変わろうとその本質は平和を愛する少年であるリョウのままだ。エル達との生活を壊そうとしてくる以上敵対関係にならざるを得ないが関係ない所で何かあってもきっと放置しているだろうと自己分析している。

 もっとも、その自己分析に対して真っ向から異を唱えているのが相棒であるリルナだが。

 

 

(お兄さんの場合、知ったら飛び出しそうだから教授達も意図的に情報制限してると思うけどねぇ。お兄さんはお兄さんが思っている以上に優しくて、責任感強いから)

 

 

 教授達もまた悪魔の被害を知れば知るほど戦わねばならないという使命感を持ちかねないリョウに対して情報を伏せている。その才覚について今更疑うことなどないが、平和な世界で生きてきた少年を無理に修羅道に引きずり込むのは彼らとしても避けたいところなのだろう。

 『病孤涙苦』の件に関しては知らない方が問題になる上、被害がどうしようもないことになるから伝えたが他の上級悪魔の活動について何も触れなかったのがその証拠だ。

 

 

『だけどお兄さん。『病孤涙苦』が今どこにいるかなんてわかるの?あのマネージャーが本体じゃなかったとしたら誰がそうなのか分かんないと思うけど』

 

「あー、それは私も気になるデスよ。シルフィ・エアロードの所に向かうのはいいデスけど誰が敵か分からなかったら戦いようもないデス」

 

「『病孤涙苦』の本体についてはもう分かってる。というか、最初から名乗ってやがる」

 

 

 リルナとディアンナの疑問に対して白い仮面の下で心底屈辱感を味わっている顔をしながらドッペルは拳を強く握りしめる。そう、最初から『病孤涙苦』は名乗っていた。

 

 

「マネージャーが死体で、常にあんな香水やら厚化粧やらしてるのに拾われて十年間なんの疑問も思い浮かばないなんてことあると思うか?どんなに隠そうとしてもプライベートで腐敗臭だの顔色の悪さだの、絶対にどこかで怪しく思うはずだろ。悪魔は認識阻害を使えないんだから」

 

『あっ……』

 

 

 そう、認識阻害は悪魔と自分達の存在を隠す為に開発された天使達の技術だ。悪魔は使う必要がないし、その習性からして会得しようとも思わないだろう。どこまでも人を見下している彼らはバレても何の問題もないと思っているのだから。

 

 

「だから、最初から分かってたはずなんだ。アイツはただエアロードの警戒心を解く為に『病孤涙苦』があちらだと勘違いするように先んじて接した」

 

『無理なく、アイドルと歌姫として二人で接する時間を作る、ために……』

 

「ここで俺達に負けたのは計算外だったとしてもだ。元々天使達が警戒しているんだから必ずどこかで囮が必要になると思っていた。だからあんな遠目でも分かるような巨体を用意したんだろう。それが天使達とエアロードを分断する為に最初から決めていた段取り」

 

 

 ドッペルの存在は予想不可能だったとしてもエルとの戦いは予想していたはずだとドッペルは確信する。シルフィが天界に『病孤涙苦』について報告しなくても、元からこの国に来ていることがバレている以上警戒心は高いはず。だからその警戒心を向けさせる相手としてあの死体を本体として利用して使った。

 

 

「間違いねぇ。『病孤涙苦』は今、ジャネット・シックを名乗ってるあの女だ」

 

 

 名は体を表す。悪魔が二つ名を名乗るように『病孤涙苦』はかつて呼ばれた名前と性質を隠さず名乗っていただけだ。

 




裏の裏は表ぇ!!!!

一度怪しみ、そこから違うと思わせてしまえば正体を隠すのは訳がないという思考。
人は自分が一度確信した答えをもう一度確認するのは難しいのよね。

設定公開はどういう形にすべき?

  • 話しの中で自然にを頑張って欲しい
  • 設定だけで一話使ってほしい
  • 設定とかどうでもいいからストーリー書いて
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