幼馴染(天使)が幼馴染(偽)だった。天使なのはガチだった 作:ビスマルク
「エル……あそこで、戦ってるのね……」
シルフィ・エアロードは中断されたライブの舞台上から『病孤涙苦』の切り札である“病幻体”が崩れ去っていく光景を見ていた。ライブの途中、どこからでも見れる程に大きく膨れ上がったそれを見て観客達は急いで避難を開始したためここにいるのは彼女一人だった。
「私、何やってるんだろ……」
自分は『病孤涙苦』について誰にも漏らしていない。だがエルはどこからか知ったのかその存在を把握しこうして迎撃を成功させた。それが今、天使としてもアイドルとしてもシルフィに敗北感を与えていた。
どこまで行こうと自分はエルには届かない。エルのように光り輝き誰かを助けることなど出来ない。そしてそれに対して嫉妬してしまっている事実に、自分の醜さを直視させるようでどこまでも追い詰めていく。自分のことしか考えていないということもそれに拍車をかけて、一瞬消えてしまいたいと思ってしまう程に。
「駄目ね、私は。こんな誰もいないところにいるより早くエルを手伝いに行かないと」
「――――見つけたわ、エアロードさん」
「えっ?」
既にスタッフも避難しているこの場に誰もいないと思っていたシルフィはかけられた声に困惑して声の主の方を見る。そこには脂汗をかいているジャネット・シックがいた。整えられていたはずの金髪は振り回したように乱れており、歌姫と呼ぶにはその目は嫌に爛々と輝いている。
「さっき、スタッフさんから連絡が来たの。観客の人達が暴徒になって暴れてるって。だから早く避難しないとって思って。エアロードさんがまだここにいるって聞いたから、一緒に行こうって」
「暴徒……!?」
「うん。なんか、今広がってる病気のイオラって言うのが急に悪化したとかって。早くしないとここも危ないから行きましょう?」
イオラ、それは『病孤涙苦』が作り上げたと思われる病気。酷い熱と幻覚の症状が起き、寝ている間も悪夢を見ることで精神的に不安定になる病。致死性は低いが精神的に人を苦しませることに特化している病。対処法は、何かに集中させること。
(このタイミングでそれが発生したってことは元々『病孤涙苦』が仕込んでいたってこと?エルに負けたから最後の仕返しとして仕込みを発動させた……?ううん、あの上級悪魔がそんなことするとは思えない。
相手が天才であるエルだろうと千年を生きた上級悪魔である『病孤涙苦』が死ぬまでその手札を切らないとは思えない。それは『病孤涙苦』と直に接したことのあるシルフィだからこその答え。死ぬ前にそれを発動させればエルの集中を崩し反撃に出ることが出来るはず。それをしなかったということは。
(自分がその場で死んだと思わせた方が確実に目的を達成できるから。つまり、『病孤涙苦』はエルと戦ってなお死んでない。あの巨体が崩れていったのは死んだふりの可能性が高い。だけどエルが上級悪魔の死を確認しないとは思えない。じゃあ、あそこにいる『病孤涙苦』はエルに倒されているはず。その上で死んでないってことは、あそこにいたのは偽物の可能性がある……?)
「どうしたの、エアロードさん?」
親友の天使としての能力を知っているからこそどんどん疑惑が深まっていく。そもそも何故、ジャネット・シックと会ったタイミングで自分が『病孤涙苦』だとあのマネージャーは明かしたのか。それはもっと隠したい事実があるからではないか?あの時のことを記憶から汲み直して考えてやはりおかしいと考える。
(千年もの時を天使達から逃げて、撃退し続けた『病孤涙苦』がそこまで迂闊なことをするわけがない)
自分はあの時不安定になり天界に伝えることが出来なかった。だがもしも、自分がそれを伝えていたらどうだろうか?『病孤涙苦』は間違いなく強いが、その危険性をよく知っている天界組織が放置するはずはない。場合によっては最上級天使も出てくる可能性すらある。現に今エル・ライトガーデンによって敗北しているのだからありえない事ではない。
そんな危険性を『病孤涙苦』が考慮しないだろうか?いいや、そんなわけがない。間違いなく考えているしその対策だってしているはずだ。その上で、最大の目的であるシルフィを諦めないとしたら。
「エアロードさんってば、早く逃げないと」
「――――随分と慌ててるみたいじゃない、『病孤涙苦』。そんなにエルに叩きのめされたのが堪えてるのかしら?」
一度、『病孤涙苦』ではないと判断した元容疑者こそが最も怪しいことになる。半ば確信を持ってシルフィは翼を広げてジャネット・シック――――『病孤涙苦』に向き合う。
「答えなくてもいいわ。その姿を見るに、あっちで負けた結果本体にもフィードバックを喰らってるのでしょう?だけど、焦ってるからと言って直に私の所に来たのは失敗じゃないかしら。こんな状況でただのアイドルを迎えに歌姫が付き人もつけずに来るなんて違和感しかないじゃない」
シルフィに伸ばした手を下ろし、ジャネットは俯く。そして顔を上げた時、そこには狂気をはらんでいる光が宿っていた。それはシルフィがあの時のマネージャーに見たものと同じ、自分の“欲望”を叶えるために全てを使い捨てようとする目。
「やっぱり、貴女は私が思っていた通り優秀ですね」
「ここまで失敗を重ねてたなら馬鹿でも分かるわよ。で、いつからジャネット・シックに化けていたのかしら?」
「化けていた、というのは心外ですね。歌姫として活動したのは全て私ですよ?ええ、誰にも見られないスラムの子供を拾い、私の身体として育て、その意思を消して私の本体とした。それが私、『病孤涙苦』です」
その悍ましい真実を誇らしげに語る『病孤涙苦』に眉を顰めるシルフィの反応を見もせずに嗤いながら『病孤涙苦』は自分の罪を明かす。
「あのマネージャーの身体は病死したものを使ってきました。ええ、腐敗など私の能力さえあればどうとでも誤魔化せる。魂の三分の一を与えれば人形としてなら十分に使えます。そして私は自らの身体を病気として、細菌レベルで分解し宿主を代えていく。このジャネットの身体もまた、私にとっては幾つも代えてきた数ある身体の一つに過ぎない」
「自分で育てて、信じてくれた子供を裏切ったのね。アンタ、どんな気持ちでそれやったのよ」
「もちろんとても心痛みましたとも。お祭りは準備が一番楽しみだというのは事実ですね。身体を奪う為にその精神、魂を殺す想像をしていましたが……いやはや、抵抗力がなさ過ぎてあっけなかった。もっと悶え苦しみ、裏切られた事実を目にして恐怖してほしかったのですが」
「分かった。もう黙れ」
『病孤涙苦』の言葉を遮るように手の上に作り出した竜巻をそのまま放つ。風を操るシルフィの攻撃は不可視であり避けるのは非常に困難を極める。だが『病孤涙苦』は僅かな前兆を感じ取り大きく下がることでその攻撃を避けた。
「逃がすかぁ!!!」
「逃げる必要などありませんね」
シルフィの背後から幾つもの竜巻が現われそれぞれが『病孤涙苦』を追い詰めるように動き出した。誰もいないライブ会場を破壊することに申し訳なさを感じつつも攻撃の手を緩めることはしない。『病孤涙苦』を仕留めるには今を除いてありえないとシルフィは即座に判断していた。
(今の『病孤涙苦』はエルに半身をもがれている状態!!!疲弊もしている今、ここでやるしかない!!!!)
風を操り破壊したライブ会場の破片をぶつけようとする。瓦礫には天使の力が宿り『病孤涙苦』もそれにあたることを避けて後退を続け、それをシルフィが追いかける。空気の流れを感じ取り逃げる先を予測して放つ竜巻は『病孤涙苦』を捉え始め、徐々に削っていった。
(行ける!!ここでコイツを仕留めればイオラにかかっている人達も解放されるはず!!!!)
「そうやって、自分の思い通りになっていると考える所は若さですねぇ」
その声が届くと同時にシルフィの膝が崩れ落ちる。同時に風を操ることが出来ず竜巻が霧散する。何が起こっているか分からないシルフィはそのまま地面に倒れ込んでしまった。
「な、は……!?」
「即効性の弛緩剤、のような症状を持った病。それを貴女の風にのせて吸い込ませました。エル・ライトガーデンには能力の関係上使えませんでしたがね」
「お、ま……え……!!」
「ああ、そうそう。告げていませんでしたね。このジャネットの身体はもう使い物になりません。中身が悪魔である私とはいえ肉体は人間です。どこまで強化しようと病を操るという能力の都合上どうしても限界が来てしまうのですよ」
倒れ伏せたシルフィを見下しながら『病孤涙苦』は嘲笑い、今後どうするかを告げる。それは天使であるシルフィにとって絶対に許容できない未来。
「私の次の肉体は貴女だ。貴女の身体がいい。才ある者の身体はそれを使いこなすまでに時間がかかりますからね。それよりは努力で力をつけた貴女の方が都合がいいのですよ」
「な……ぁ……!?」
「私が貴女を求めたのはただ、エル・ライトガーデンより才能がないという一点です。それ以外は特にありません。才能がなかったが故に貴女は私に身体を奪われる……私に求められるのですから喜んでいいんですよ?」
「ッ……くぅ……!!!」
悍ましき未来を喜ばしく語る『病孤涙苦』に動けなくなった身体で悔し涙を流して地面を濡らす。歌も踊りも、今までの努力全てを否定される。才能がないから奪われる。価値がないから、こんな目に合うという事実にシルフィの心は折れかける。
エルだったらこんな目に合わなかったという事実がそれに更に拍車をかける。親友を恨みたくないのに、なぜ自分がこんな目にという考えが頭を離れなくて。どこまでも自分が惨めで、自分のことしか考えられないことが悔しくて。その涙は彼女のアイドルとしての衣装も濡らしてしまう。
「さぁて、それでは行きましょうか。貴女の最期は誰にも見られないということになりますね」
「そりゃテメェの末路だろうが」
『病孤涙苦』の高笑いが響くステージにそれを否定する声が静かに降り立つ。同時にそこから影が飛び出し『病孤涙苦』に殺到してその身をステージを破壊して更にその先に押し流す。
「よう泣き虫天使。アイツは俺の獲物だからさっさと引っ込んでろ」
影法師ドッペル。悪魔の力を持った人間が千年を生きる上級悪魔を仕留める為にその姿を現した。
設定公開はどういう形にすべき?
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話しの中で自然にを頑張って欲しい
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設定だけで一話使ってほしい
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設定とかどうでもいいからストーリー書いて