幼馴染(天使)が幼馴染(偽)だった。天使なのはガチだった 作:ビスマルク
「ふぅ、ふぅ、ふぅ……!!!」
『お兄さん、やっぱりやめた方がいいんじゃ……』
「いや、やるよ。今ここで伝えないと、エアロードさんはもう立ち上がれなくなる……!!!」
目の前のステージから『病孤涙苦』とドッペル……の姿を模したヒルダが消える。影を操る能力とその姿を“模倣”した彼女が今『病孤涙苦』と戦ってくれている。だがそれも長くは続かないだろう。いくら彼女の能力が“模倣”とはいえ上級悪魔相当の力をそのまま使えるわけではない。いずれ必ず限界が来て敗北する。
時間稼ぎ要因としてダフネも合流しているからか、その破壊音は姿が見えなくなった今でも聞こえてくる。
「早く、行かないと……!!」
『ああもう!!『病孤涙苦』の攻撃食らって感染した病気が治ってないのにドッペル化解くからもう!!!』
リルナの言うとおり、今の僕はただのリョウとしてエアロードさんの元に近づいている。ドッペルとしては伝えられないことをただの僕ならば伝えられるから。それが今、彼女に一番必要になると思うから。
とはいえ悪魔の力をその身に纏っていなければ『病孤涙苦』の能力が容易にこの身体を蝕んで行っているのが分かる。ただの人間では太刀打ちできないというのがよく分かる。
「エア、ロードさん……!!」
「さわ、たりくん……?」
徐々に死に近づいていく感覚が僕を襲う。恐怖で身体が竦んでしまいそうになるも、気合いでそれを捻じ伏せる。死の恐怖など、そんなもの彼女達が常に感じてきたものだろう。守ってきてくれた彼女達が耐えてきたものを僕が恐れてその歩みを止めることなど僕自身が許さない。
「なに、してるのよ。早く、逃げなさい……」
「うん、なんか……凄いことになってるね。あちこちで崩れて行ってるし……災害みたいだ」
ステージ端からステージの真ん中で倒れているエアロードさんの元に歩いていく。咳き込みは隠しきれないが、口までせり上がってきた血は頑張って飲み込む。エアロードさんは『病孤涙苦』の病のせいで未だに動けないでいる。彼女の目は未だに止まらない涙で濡れている。僕は彼女のそんな姿を見たくなかった。
「みんな、イオラのせいで暴徒になってるみたいで。逃げる場所があんまりないみたいなんだ。それにエアロードさんが逃げてこなかったってスタッフさんが言ってたから、皆で探してたんだよ」
「そう、なのね……。でも、私のことは、もういいから」
「良くない。絶対に良くないよ」
「ちょっ、なにして」
エアロードさんを頑張って横抱き、いわゆるお姫様抱っこで持ち上げて急いでここを離れる。ヒルダとダフネが抑え込んでくれている『病孤涙苦』がいつこちらに来るか分からない。早急に離れる必要がある。
「…………ねぇ、前私に言ってたわよね。私の価値は、誰かが決めるものだって」
「うん、言ったね」
「私の価値は、才能がないことなんだって言われたわ。才能がないから、狙われた。エルみたいになれないから、私は今こうなってる」
「どういう理屈かは分からないけど、そうなんだ」
「私は、私が大嫌いよ」
エアロードさんはそう言って俯いてしまう。それ以上何も言うことはないと言わんばかりに口を閉じる。心が折れてしまったのだろうか?いいや違う。心が折れれば楽になれるけれど、彼女は強いからきっと耐えてしまう。だから彼女はもうへし折って欲しいんだと思う。何もかも諦めてしまって楽になりたいと思って、だから僕に聞かせているんだろう。何を言っても彼女には届きそうにない。それでも伝えなくちゃいけないことがある。
眩暈で視界が歪みそうになって転びそうになるのを耐えながら一歩一歩確かに歩んで『病孤涙苦』から少しでも離れる。
「エアロードさんが、自分のことを嫌ってるのは分かったよ。僕がそれに何を言ってもきっとそれは変えられないと思う」
当然だ。僕達の繋がりなど精々一か月半程度だ。その程度の繋がりでどうして彼女の心を救うことが出来るだろう。そんなことできるはずもない。だから僕に出来るのは僕が伝えたいと思っていることを言葉にすることだけだ。
「僕は、君の歌が好きだよ。何度も言ってるし、何度でも言いたいけど」
「……………………」
「綺麗で、元気で、頼もしくて。そして何より、頑張ってるのが分かって」
ああ、そうだ。彼女に天使としての才能はないのだろう。相性があるとはいえ『病孤涙苦』と戦って短時間でこうなっていることからエル程の力がないのは分かる。
そしてそのことをエアロードさんが一番分かっていて、それでも諦められなくてもがいていることも分かる。
「エアロードさんは、自分に才能がないって言ってる。それは決して嘘じゃないと思う。どれだけの努力でここまで来たのか僕には想像もできない」
天使として、アイドルとして、どれだけ努力を重ねてきたのだろう。その重みを想像する事さえ僕には出来ない。それは認められたかったからという理由が一番なんだろう。誰かに自分を見てほしくて、存在を知ってほしくて足掻いてきた。
「天才だったら、もっと才能があったら、もっと楽にここまでこれたんだと思う。それはエアロードさんが思っている通りの事実なんだとも、思う」
「だったら」
「でも、この舞台に立っていたのは紛れもない君だ」
「っ……!!!」
そうだ。過程がどうあれ、結果として彼女はここまでこれた。『病孤涙苦』が手を回そうとしても、それだけじゃ不可能だ。この大型音楽フェスの舞台に立てたのは彼女の結果だ。彼女の歌が求められたからだ。彼女がステージ上で踊っている姿を誰もが望んだからだ。
「君の努力は無駄なんかじゃない。君の今までは無価値なんかじゃない。君の今がどれだけ人に元気を与えてくれたのか、それは誰にも君自身にも否定させない」
「うっ、く……!!」
「エアロードさんは、シルフィは絶対に凄い人だって僕は知っている。僕だけじゃなく君の歌を聞いた人みんなが知ってる。輝いて、綺麗で、手を伸ばしたくなる。きっと君みたいになりたいと思っている子がいっぱいいる。他でもないシルフィ・エアロードを望んでいる人がいる」
「う、ああぁああぁぁ……!!!!」
「アイドルならアンチとかだって当然出るだろうけどそんなの無視すればいい。それが出来ないなら僕が君の凄さをずっと言葉にし続けるよ」
彼女の目から涙が溢れていく。だけどその種類は『病孤涙苦』に与えられたものとは違うと思う、思いたい。意識が霞み倒れそうになるのを無理矢理一歩ごとに力を入れることでその弱さを踏みにじって先に進む。伝えたいことは、まだあるのだから。
「誰がなんと言おうと、君は凄い人だ。そんなシルフィにしか出来ないことが絶対ある」
伝えられた。最後まで言えたことを自覚して全身から力が抜けて倒れそうになるのを誰かに支えられる。いつの間にか影から出てきたディアンナが面倒くさそうな顔をしながら支えてくれていた。
「見つけたデスよ、沢渡さん。スタッフの言う事聞かないで探しに行くとかダメじゃないデスか。でもちゃんとエアロードさんは見つけたみたいデスね」
「あ、りがと……」
「ああもう喋らない。どこでどんな無茶したのか、滅茶苦茶熱あるじゃないデスか」
『病孤涙苦』にぶち込まれた病に、イオラが併発しているのだからそりゃ倒れそうにもなる。ここまで冷静に言葉を形に出来た自分のことを褒めてやりたい。
「――――ありがとう、沢渡君。ううん、リョウ……って呼んでもいいかしら」
お姫様抱っこしていたシルフィが、自分の足で立って僕の前にいた。そこには先程まであった絶望した顔なんてなくて。僕が尊敬した人が確かに立っていた。顔が赤い気がするが、先程まで鳴いていた影響だと思う。
「ううん、別に、構わないよ。僕も勝手に、名前呼び捨てにしちゃってたし……」
「そうね。アイドルを呼び捨てなんて普通は許されない……けど特別に許すわ。光栄に思ってくれていいのよ?」
「うん、じゃあ呼ぶたびに喜びを嚙みしめることにするよ……」
「そこまでしなくていいけどね……」
互いに笑いあう。互いに隠し事をしながら、それでも本音を話せたことを確信して。
「スタッフさん、リョウをお願いしてもいいかしら。私、やることが出来ちゃったの」
「ええ……。ここでエアロードさんだけ行かせるとなると私が後々叱られそうなんデスけど」
「お願い。この馬鹿騒ぎを終わらせる為だから」
「はぁーーー……。分かったデスよ。くれぐれも暴徒にあったりしないよう気をつけて下さいデスよ。責任取りたくないんで」
「ありがとう」
ディアンナのどこまでも面倒くさそうな声にシルフィは走り出す。その背を見つめながら何か声を掛けたいと思って、何を言うべきか分からなくて止まる。
伝えたいことは全部伝えた。伝えるべきことは全部伝えた。それならもう僕が言いたいことを言うしかないだろう。
「シルフィ!!最高の歌を聞かせて!!!」
「ええ、任せなさい!!全力の歌でみんなの目を覚まさせてやるわよ!!!」
アイドル天使は今までにないくらい、輝いた笑顔をしていた。
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設定公開はどういう形にすべき?
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話しの中で自然にを頑張って欲しい
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設定だけで一話使ってほしい
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設定とかどうでもいいからストーリー書いて