【二章完結】いずれ神成る恋物語   作:ビスマルク

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『強欲』

「我が王、お久しぶりです。壮健なご様子でなによりです」

 

「ああ、良い良い。楽にしろ。酒飲んでる時にうだうだ言う程(オレ)は野暮じゃねぇよ。テスパレット、(オレ)とアドラメレクにおすすめ寄こせ」

 

「かしこまりました、我が王」

 

 

 そう言ってこれ幸いと言わんばかりにそそくさとカウンターから離れ奥の倉庫に向かったテスパレットを軽く睨みながらアドラメレクは誰にも聞かれないように溜息をつく。どうして今ここに魔王の一角がいるのか、それは考えるだけ無駄だ。

 

 誰にも補足されず誰も傘下にしない『怠惰』のベルフェゴール。

 未だにこちらの世界に来ず、元々いる世界の生き残りを全て滅ぼうそうとしている『憤怒』のサタン。

 この二人においては接触そのものが難しい。前者はそもそも出会えないし、後者は顔を合わせたところで眷属になっている者以外は即座に殺しにかかる。

 

 それに対し『強欲』のマモンはフットワークが軽いことで知られていた。方々を歩き回り、欲しいと思った物を蒐集し、やりたくなったら他者を救済することも虐殺することも躊躇わない真正の悪魔。“欲望”の行きつく先の一つがこの魔王だ。

 

 

「んで、アドラメレク。中々に楽しそうなことしてるじゃねぇか。(オレ)もあやかりたいもんだ」

 

「お戯れを。私がやっていることなどマモン様にしてみれば小細工に他ならないでしょう」

 

「そうか?よく言うじゃねぇか。祭りは準備の時が一番楽しいってな。それに(オレ)だって色々と準備はしてるんだぜ?天使共にバレないようにアレコレとせっせとな」

 

 

 190を超える高身長に、燃えるような赤髪を丁寧に切りそろえたスーツ姿がそう笑う。サングラスの奥にある目は蛇のようにこちらを見つめている。恐らく本人的にはにこやかに、それこそ友好的にしているつもりなのだと付き合いが浅いアドラメレクでさえ分かる。『病孤涙苦』と言った極まった忠誠心を持つ者達にとってはそこがいいと言っていたが、正直彼女にとってはライオンが餌を前にして嗤っているようにしか見えなかった。

 それでも目の前の魔王がここで自分を消しにかかる可能性は0だということも理解していた。マモンは『強欲』だが、それ故に傘下になった者には甘い。

 

 

「天使にバレないように、ですか?失礼ですが、マモン様ならばバレたところでどうとでもなると思いますが」

 

「あーまぁ上級天使程度なら100来ようと消し飛ばせるんだがなぁ。最上級天使が動くと面倒だ。(オレ)は死なねぇが、計画の要が殺される可能性は高いからな。しばらくはゆっくり眺める程度に留めておかねぇと」

 

「……それほど時間をかけるなど、何をされたいのですか」

 

 

 アドラメレクが知る限りこの魔王は即断即決を座右の銘にしているとしか思えない行動ばかりをとる。欲しかったらそれが人材であろうと物であろうと即座に手に入れにかかる。時間をかけるというのが苦手というのが彼女からのマモンへの印象だった。

 その印象自体は間違いではないがアモンは時間をかけなければ手に入らないと思えばそれ相応を時間を使う。例えば、相手の心を奪うなどの場合は。

 だからマモンにとって今回の計画は時間をかけるに値したのだった。

 

 

「いやちょっと世界をぶっ壊そうと思ってな(・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 こともなくそう言い切るアモンの表情には面倒だという気持ちと、楽しみだという気持ちが現われている。それを見て自分の王が本気でそれをやろうとしていると理解してしまった。

 

 

「ベルフェゴールはともかく、サタンがこれを知ったら真っ先に(オレ)のことをぶっ殺しにかかるだろよ。その場合未だにあっちにいるアイツがこっちに来るのは避けられん。アイツは全生命体を殺したがるようなキチガイだ。この世界の人間まで皆殺しにされたら(オレ)はともかく、“欲望”の種がなくなるお前らは困るしな」

 

「…………わざわざのご配慮、ありがとうございます」

 

「あー、安心しろよ。ぶっ壊すっつってもお前らは俺が保護してやるから。その後のことは自己責任だから好きにしろって感じだが」

 

 

 手に入れた者を縛ることなく自由にさせる。そういえば聞こえはいいが要するにただの放任主義だ。傘下に入ったからと言ってこの魔王が何かをしてくれた試しはない。ただ、たまに求めている答えを手に入れた悪魔がいるだけで。

 

 

(私には縁のない話ね)

 

 

 自身が求める“欲望”の輪郭すら掴めず、他者から奪った“欲望”から自分の求める物を探しているアドラメレクにとって『強欲』のその在り方は火に油を注がれる気分になる。

 悪魔にとって“欲望”を求めるのは呼吸と同義だ。『大飢万征』であれば支配を。『病孤涙苦』であれば承認と絶望を。『斬念死極』であれば斬り合いと死体をそれぞれ求めている。

 

 

「そんなに自分が求める物が分からなくて不安か、アドラメレク」

 

「ッ……!!?」

 

「そんな顔すんな。(オレ)はお前の王だぞ。お前は俺の所有物(モノ)だぞ。考えていることくらい手に取るようにわかる」

 

「…………でしたら、私の求める物が何か王は知っておられるのですか?」

 

「ああ、知ってる。お前が求めてやまない“欲望”の形を(オレ)は知ってるぞ。まぁ教えてやらんが。言っても納得しないだろうしな」

 

 

 何でもない事のように言い切るその姿からは嘘がまるで感じられない。聞けば長年探し続けた答えを知ることが出来るかもしれない。そんな希望もすぐさま断ち切られたが。

 教えないと言った以上この魔王はそれを口にすることはない。それは非常に残念に思うが一つ希望が出来た。

 

 

(この方が知っている以上、私の“欲望”が求める物はきっと見つかる)

 

 

 何の根拠もないただの願望かもしれないが、マモンの言う通り探し続ければいずれ見つかるかもしれない。それだけで全てを燃やしつくす気力が湧いてくる。

 

 

「――――そういえばマモン様、ドッペルに関して何かありますか?捕らえるべきと考えられるのであれば……」

 

「気にしなくていい。アイツはもう(オレ)の物だからな。だからといってアイツを殺しても俺は責めんから好きにやれ。(オレ)の物同士が壊しあっても俺は関与しない。今まで通りな」

 

「…………どういう意味かお聞きしても?」

 

「教えてやらん。ドッペルを殺すことが出来たら教えてやる。アイツの正体とかのヒントはなしだがな。だが、まぁアイツと殺し合えばお前の求める答えが出るとは思うぞ?」

 

「そうですか。なら、準備を早めに終わらせて仕掛けてみましょう」

 

「おうおう、好きにやれ。“欲望”のままに……ってのはお前に対しては嫌味になるな。お前の求める物の為にやり切ってこい」

 

 

 『鬼死海生』の中にある扉をくぐりアドラメレクは姿を消した。その後ろ姿を見ていたマモンにそっとカクテルを差し出すのは『斬念死極』テスパレットだった。彼は腰に付けた刀を揺らしながらこの場から去ったアドラメレクについて考える。

 

 

「『病孤涙苦』が敗北した以上、彼女まで失えば天使達が活気づく可能性があると愚考しますが」

 

「そうなったらお前が嬉々として殺しに行くだけだろうが。それに何度も言うが上級程度なら片手間で遊べるから構わん。最上級、特にミカエル辺りが出てきたら面倒だが奴らは早々こちらには来ん」

 

「ふむ……。まぁ確かに天使と鎬を削るというのは中々に楽しいものですからな。しかしマモン様をして面倒と言わせるとは、最上級天使とは会ったことがありませんがそれほどですか?」

 

「アドラメレクの計画を一人で台無しに出来ると言えば厄介さが分かるか?」

 

 

 日本全国に種を仕掛け、一気に起爆させるつもりのアドラメレクの計画。それをただ一人の天使がうち滅ぼすという言葉に絶句する。良くも悪くも個々人の力関係は悪魔側が有利になる。その分天使は連携によって戦うことが多い。だからこそ単独で脅威になる存在とは悪魔にとっては厄介なのだ。

 

 

「ま、あいつらは出てこねぇ。何度も言うけどな。自縄自縛ってやつだ。テメェでやったことのせいで身動きが取れなくなってやがる」

 

「はて?それは一体どういう……」

 

「あー、そうだな。良い機会だから教えておいてやる。(オレ)も偶には知識を曝け出したくなる時があるからな。聞いていけ」

 

「拝聴させていただきましょう」

 

 

 マモンが口角を上げ、獣のように嗤う。テスパレットもまた席に着き自らの王の言葉を一言一句聞き逃さないように集中する。

 

 

「天使共の言うツガイ、ってのは知ってるな?」

 

「ええ。天使の力である“愛”を供給する人間。特に天使と契約を交わすことでその質と量を増やした存在のことですね」

 

「ああ、そうだ。それが上級までの天使共の認識だ。だが最上級に上がった連中はそれじゃ足りないと判断した。(オレ)達魔王と戦うにはそれじゃ不十分だってな」

 

「確かに、魔王様方はそもそもの“欲望”の貯蔵量が並の上級悪魔数十人分でしたからな」

 

 

 悪魔の位階はその“欲望”の貯蔵量と力の規模によって決まる。どれだけ人間から“欲望”や“負の感情”を集め、それを溜め込み、使えるかが強さの証明となる。

 上級悪魔数十人分というそれだけで途方もない力。人間で言うならば1万人ほどの“欲望”をその身に溜め込み、なお理性を保ち動けるという異常性を魔王は持つ。

 

 

「それだけじゃねぇよ。“我欲”に目覚めた(オレ)達魔王は他者からの供給を必要としない。自給自足、全てが自分だけで完結している。己が欲によりその力を使える」

 

 

 それこそが魔王と呼ばれる存在の最も厄介な点。極論から言えば人間など存在しなくても魔王は困らないのだ。全て自分から生み出された“欲望”や“負の感情”によって賄えるのだから。

 そしてそれは天使達にとって絶望的な情報だった。ただでさえ力の規模が世界を滅ぼしうるのに、その能力の源は実質無限なのだ。そんなもの勝てるはずがないと諦念を抱く者も多いに決まっている。

 

 

「だからこそ、最上級は考えた。どうすれば(オレ)達に対抗できるか。ツガイによる供給では間に合わない。ならばどうすればいいか?答えは目の前にあった」

 

「……魔王様方と同じように、自らが生み出した“愛”をエネルギーにする、と?」

 

「そう。その為にアイツら自分のツガイを(バラ)して自分と合成しやがった。ご丁寧に肉体だけではなく、魂も含めてな。(オレ)達と戦うために自分の最愛を言葉通り犠牲にしたんだよ」

 

「それは……本末転倒なのでは?」

 

「そこらへんは知らねぇなぁ。使命感とかそういうのでやったんじゃねぇか?ただまぁ結果的に(オレ)と戦える程度の力は手に入れた。(オレ)を倒すには圧倒的に足りないが、厄介だと思わせる程度の力をな。代償に強迫観念と言っていいほどの悪魔滅殺の理念と人の心のない合理性が加わったけどな」

 

「自分を最も愛し、自分が最も愛した者を手にかけたのですから当然なのでは?我々悪魔には理解しがたい話ですが」

 

「まったくだ。自分達のルーツも知らずに魔王を殺すだのなんだの言ってんだからな。滑稽、というのはまさしくアイツらの為にある言葉だ」

 

 

 蛇のような目を細めて嘲るように嗤う。どこまでも愚かな、何も知らない子供を馬鹿にするかのように。

 

 

「『嫉妬』の馬鹿が作った眷属が独り歩きした結果がこれだ。親が早死にすると子供が苦労するってのはどこの世界でも同じなのかねぇ」

 




ところどころで伏線を張っていくスタイル。
なお最後のインパクトで全て持っていかれる模様。

詳しい設定が知りたい?今急いで考えてるから待って……。

各章終わりにネタバレ含むキャラ紹介&ストーリー紹介書いていい?

  • いいとも!!
  • それより本編書くのじゃ
  • キャラ紹介だけでいい
  • ストーリーネタバレOK
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