【三章開始】いずれ神成る恋物語-天使と悪魔とラブコメ生活-   作:ビスマルク

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基本悪魔はカスで書いています。

上位に行くほどカスになります。今更ながご注意を。


光天使と『永死殺総』 ②

 

 その戦闘は一見すると一方的なものだった。数えきれないほどの光の槍や矢が一人の悪魔に殺到しその姿を見えなくするのだから。だがそれを放った上級天使であるエルの表情には安堵などまるで浮かんでいなかった。それどころか常に感情を表に出さない彼女には珍しく非常に苦々しく眉をひそめ睨んでいる。睨んだ先は棒立ちで光を迎え撃った悪魔が瓦礫や煙で姿を隠している。

 

 

「外道が……」

 

「それを相手にしてるってもう分かってるんじゃないかな♪」

 

 

 悪魔に対して特攻であり、貫かれればその時点で悪魔であれば致命傷になる光。それが数えきれないほどぶつけられたはずなのにその上級悪魔、『永死殺総』アネモネは軽薄な笑みを浮かべる余裕さえあった。

 

 

「私の大切な玩具をこんなにしちゃってさぁ、人の心とかないのかなぁ♪」

 

「その言葉、お前にだけは言われたくありませんね」

 

 

 無傷のアネモネの周囲には死体が転がっている。それはこんな事態になる前まで幸せを満喫していたはずの人々の死体。悪魔という災害に巻き込まれた結果死後の安寧すら許されず死体の中に魂を押し込められていたゾンビ達。それがアネモネの意思により動かされエルからの攻撃を受ける盾となった。

 

 

(んー、ちょーっと厄介かなぁ。私の能力で操ってる死体は部位ごとになっても余裕で動かせるけどあの光に貫かれたらもう動かせない。多分死体内の魂が浄化されてるね。となるとこの子と戦ってると私の玩具がどんどん減らされるわけでしょお♪)

 

 

 睨んでくるエルを見ながら笑みを浮かべるアネモネだがその脳裏は冷静に計算を行っていた。天使との戦いを真っ向から打ち破ってきた自負もあるがそれで手傷を負うなどと言った無駄を嫌う悪魔らしくこの場をどうやり過ごすかを。

 

 

(アドラメレクとの契約がなければもうこの時点で逃げてるんだけどね♪彼女の攻撃一発でも当たったら死体も浄化されて手数減っちゃうしぃ。でもでも、どーしても欲しいんだよなぁ)

 

 

 『炎天渇奪』アドラメレクとの契約。この場において迎撃してくるであろう天使達の足止め。それを行った場合報酬としてとある死体を譲り受ける。それがアネモネが交わした契約だった。有象無象の死体などこうした場に来ればいくらでも集めることが出来るが、その死体はアネモネにとっても非常に高い価値を持つ貴重品。

 

 

「『傲慢』の魔王の死体♪」

 

 

 地球に来る前、遥か遠い過去で人間によって討伐された『傲慢』。その死体をアドラメレクは所持しているという。死体を操りその能力を引き出すアネモネにとってそれは垂涎の的。その力を完全に引き出せるわけもないし、魂のひとかけらも残っていないかもしれないが適当な魂を放り込めば100分の1の力を発揮させることは難しくない。

 

 

(そうすれば、天使達なんてもう構う必要ないもんね♪)

 

 

 可憐な見た目からは想像もできない酷薄な嗤いを浮かべた悪魔はこれからの未来に想いを馳せる。魔王の力は絶大で、それさえあれば自身の“欲望”を邪魔しようとする天使達を迎撃することなど容易い。もう何も我慢することなく全てを自身の下に置くことさえ夢ではなくなる。

 そんな素晴らしい未来を思い描く『永死殺総』は、だからこそ気付くことがなかった。目の前で翼を広げ空中に浮かんでいる美しい銀髪の天使が憤怒の表情に歪んでいることに。

 

 

「殺す」

 

 

 その一言が耳に届く前にアネモネは遥か後方まで吹き飛んでいた。遅れてやってきた痛みが自分がたった今殴り飛ばされたことを理解させる。

 

 

「ッ!!“死体遊戯(デッドパレード)”ッ!!」

 

 

 ショッピングモールの端から端まで吹き飛ばされたアネモネは咄嗟にスカートの中から小さい鳥籠を山のように無差別に取り出しその能力を使用する。鳥籠が弾けその中に収まっていた死体が山のように現れてもなおエルの様子は変わらない。

 

 

「あちらに私の仲間が出口を作っているはずです。後ろを振り向かずに逃げてください」

 

 

 音速で殴り飛ばした際にアネモネから奪った鳥籠を破壊しその中にいた生存者を逃がす。一切視線を向けずに、ただ死体の山の向こうにいる悪魔を見据えて如何に殺すかのみを考える。

 目の前に現れた死体の中には手足を失くした天使達の姿もある。白かったはずの翼は自分の血か、あるいは周囲の死体からついた血で赤黒く変色してしまっている。それが更にエルの理性を怒りで焼く。

 

 

「お、お姉ちゃんありがとっ!!!」

「あ、ありがとうございましたっ!!」

「このお礼は必ずする。約束する!!!」

 

 

 一組の家族のお礼に溜まった憤怒が少しだけ抜け、ほんの一瞬だけだが微笑みを浮かべることが出来た。それを見た親子はそのまま逃げていく。生き残ってほしいと思う。父親と母親が子を想い共に歩むその姿に羨望(嫉妬)の目を向けそうになる自分を嫌悪する。

 

 

「リョウ君には、見せられませんね」

 

 

 憤怒に歪んだ顔も、嫉妬を滲ませる目も、愛する人に見せたくない。自分を想ってくれる彼にはせめて綺麗な自分だけを見せたい。そんな自分勝手な常日頃から持っている考えを捨てて戦闘にのみ思考を割く。既にアネモネの姿は死体の山に隠されて見えない。あの中から本体を見つけるのは非常に困難だろう。

 

 

(『病孤涙苦』と違い、『永死殺総』はあの死体とは一体化はしていませんね。そもそも山のように見えるのは大量の死体が重なっているだけで個体同士で合体しているわけでもなさそうです。奴の“欲望”を考えればそれは当然かもしれませんが)

 

 

 上級悪魔と戦う時に必要なのはその能力以上に“欲望”を暴き理解することだ。悪魔の能力はほぼ全てが自身の“欲望”が根ざした物になる。アネモネの場合、生者を殺し使役することで自分の価値を相対的に上げることを求めている。そんな彼女が死体と一体化などするだろうか?答えはありえない、だ。

 

 

(これだけの物量。既に一階から飛び出て二階、三階にまで届いている。だけど上からの反応はなし。それ以前にこの階層以外から生き物の気配を感じない。他にも上級悪魔はいるらしいですが、空間を歪めているのが間違いなく一体はいますね)

 

 

 悪魔、天使達が元居た世界と地球。これらは別の次元に存在している。紙の表と裏に描かれた絵のように決して交わることはないが、その距離は決して遠いわけではない。それと同じことがこのショッピングモールでも行われているとエルの冷静な部分が察する。この周囲を覆い包み、出ることも入ることも拒絶する結界。それを使っている者の仕業なのだろうと。

 

 

(『永死殺総』は違う、とは言い切れない。情報によれば奴は殺した人間・天使の死体を操る。それはつまり)

 

「やっちゃいなよぉ!!!!」

 

 

 死体の影から聞こえてきたその声に反応しエルと同じく宙に浮かんだ天使達が動きその能力を使う。上級天使も含んだ天使達が同系統の能力を同時に使用することでその威力を大きく跳ね上げて発生した鉄砲水がエルに殺到する。

 

 

「温い」

 

 

 当たればただでは済まない。その上で空中に逃げても逃げ切れるか分からない物量。それを目にしてエルは作り出した光の槍を手に持ち、槍投げの要領で思いきり投げた。

 槍は洪水のように殺到する鉄砲水をうち破りそれを生み出していた天使の死体達の半分を削る。二つに分かれた大量の水はその勢いを失くし地面に溜まる。一切身体を濡らすことなくエルはそれを見下ろし、『永死殺総』を見下す。

 

 

「お前を殺します。精々ゴキブリのように逃げ回りなさい、『永死殺総』」

 

「あまり舐めるなよ、クソガキが」

 

 

 天使の中で最も才能に溢れたと言われる最高の個と、悪魔の中で最も天使を殺したとされる最強の群が今ぶつかろうとしていた。

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