【三章開始】いずれ神成る恋物語-天使と悪魔とラブコメ生活- 作:ビスマルク
溢れだした死体達に対して一切の遠慮なく光をぶつけていくエル。一撃でも当たればその時点でそのゾンビの魂は浄化されただの死体となり動かなくなる。故に『永死殺総』に対して能力の相性ではエル以上の適任はいないだろう。もし仮にここにいるのがシルフィだった場合、減らすことも出来ないゾンビの群れに対して圧殺されていた可能性が高い。もっともその場合、即座に離脱を選ぶだけの判断力がシルフィには存在しているが。
(とはいえ流石に物量がありすぎる。距離をとりつつ矢で撃ち落としていくにしても解放された死体を盾にして進軍してくるのは辛いですね)
最早死体以外は自分と『永死殺総』しかいないショッピングモールの一階部分を高速で飛び回りながら襲い掛かってくるゾンビを撃ち落としていくエルだが、その表情に余裕はない。能力としての相性は確かにいいが、それでも一度に放てる光の矢には限度があった。しかも壁となる解放された死体により時間が経つごとに当たりにくくなっていく。
「ヴェアアアアアアアア!!!!!」
「ッ!!!」
更に追加でゾンビとなり悪魔に使役されている天使による急襲が存在する。エルの死角から身体の負担を無視した速度で迫る天使を“光槍”で刺し貫き即座にその場を離れる。同時にエルに迫っていた天使の死体が見えなくなるほどの攻撃が一斉に叩き込まれる。天使ゾンビに捕まり一瞬でもその場から離れるのが遅れていれば巻き込まれていたのは間違いないだろう。
「“光矢”」
攻撃を放ってきた天使ゾンビに対してエルもまた能力を使用し迎撃する。迫りくる炎や水、風といった攻撃が光に阻まれ地面に墜ちていく。かつて“愛”を胸に悪魔と戦っていた天使が、その悪魔に使役され天使の仲間を襲うという光景。滲み出る嫌悪感から自然とエルの眉間に皴が寄る。
「ナオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!!」
(地面から大量に!!?)
激しい閃光によって相手の視界を潰す。光で貫けずともそれで時間を稼ごうとしたエルの足元の床がひび割れ砕ける。その中から天使を始めとした人間のゾンビも大量に襲い掛かった。空中に浮遊していたから即座に捕まるようなことはなかったが思いがけない奇襲に対し焦ったエルは周囲全てに対して武器化しないまま光を放った。
“光球”、エルの切り札の一つであり自身を中心に光を広範囲に放つというだけの単純な技。その威力は高く、悪魔に対しては絶対防御と絶対攻撃を両立できる大技。だがその威力と効果範囲に比例して“愛”の消費量もまた大きい。
(『永死殺総』相手に使うのは想定していましたが流石に使用タイミングが早すぎる……!!)
額に汗をにじませながらゾンビ達との間に出来た空白を利用し再び距離をとる。天使ゾンビとエルの間には確かな能力差があった。中には上級天使も混ざってはいたが才覚はエルが圧倒し、経験も負けない程に積んだ。だがそれらを無視する程の速度で天使ゾンビはエルに迫る。
(肉体の限界を無視させていますね!!肉が引きちぎれても、羽根が落ちても構わない特攻!!)
本来であれば無視できない程の痛みも動く死体となり、『永死殺総』アネモネに操作される身となった天使ゾンビ達は限界を容易く超え先を飛ぶエルに追いすがる。上級天使だけでなく、中級やなかには下級天使も混ざったそれは悪夢のような光景。
「寄コせぇ!!」
「ワたしにもちょウだいィ……!!」
「ずるいずるいずるいずるいずるいイイィイイイイイイイイイイイイ!!!!!」
比較的損傷の少ない天使ゾンビから“愛”を求める嫉妬の感情がエルにぶつけられる。そしてその感情はエルにも理解が出来る。いや、天使であれば誰であれその想いを理解し共感してしまうだろう。天使達のルーツは『嫉妬の魔王』が生み出した人間から与えられる“愛”を守ろうとする眷属。故に彼女達は“愛”を与えられれば満たされそれを与えてくれる人間を愛し返す。だが、一度“愛”を与えられていながらそれを奪われればどうなるか。
「哀れなもんだよねぇ♪」
アネモネは徐々に追い詰められていくエルを嗤う。嫉妬に狂い、理性を失くした天使ゾンビに追い込まれていくその姿をゾンビ達の視界をジャックすることで見ながら。だがその表情ほどアネモネに余裕はなかった。『炎天渇奪』との契約によりこの場で一定時間行動する事になっている悪魔にとってこの場は戦いにくい。なにせ自身の武器になりうる生者が殆ど残っていないのだから。
(外ならなぁ……ゾンビに人間を殺させて“負の感情”とゾンビを補充しながら一気に物量で潰せるんだけど。ゾンビの数が今の私のストック分だけとなると虎の子の天使共を使わないといけないのが痛いんだよねぇ)
『永死殺総』が天使と戦う場合、常ならば街などで迎撃していた。そして街一つを滅ぼしつつ物量で天使を殺しその死体を手に入れ自らの戦力を強化していくというのが本来のやり方。それを封じられている今、数に限りのある天使ゾンビを使わなければならない。そしてエルの能力を考えればその大半が浄化され手元に残ることはないだろうと理解している。
「でもまぁしょうがないか♪負けるよりは遥かにマシだしね♪」
密閉された空間で戦わなければならないのならばそれ相応の方法がある。どちらにしろ本体であるアネモネが死なない限りゾンビ達が動きを止めることはない。そして上級悪魔を即座に殺す方法など数は限られていた。エルの場合距離を詰めなければアネモネに止めを刺すことは出来ない。
「さっき私を殴り飛ばした時、鳥籠を奪うことを優先していなければよかったのにね♪あの時止めを刺しておけば、まぁ道連れであの人間達は殺してたと思うけどそれで被害は終わってた♪」
自身を殺せる唯一にして最大のチャンスを不意にしたエルに対してアネモネは嘲笑う。たった数組の家族を見殺しに出来ないその人間性こそが失敗だったと。それがなければ自分がゾンビに加わるなんてこともなかったはずだと。
「天使の最大の弱点は合理より感情を優先させるところだよん♪」
身体の負担を無視した機動で天使ゾンビがエルに殺到し、光の槍に貫かれて動かぬ死体に戻る。だが次々と飛来する天使ゾンビや、人間ゾンビが投げる死体の腕や足によって徐々に追い込まれる。どれほど優れた天使であろうとも“愛”を元に戦っている以上人間味は必ず残っていることを長い経験則からアネモネは知っていた。迫りくる死体に対して冷静さを保ち続けることが出来る者がいないことも。
「たとえそれが最高の天才といわれている天使であってもね♪」
才能に胡坐をかいていたわけではない。むしろそれを磨き続けたことが分かる技術の数々。だがそれらを無慈悲に打ち破る生者に嫉妬する死者の大群がエルに群がる。腕を掴まれ、足に噛み付かれその身を血で濡らしていく。それでもなおその目に宿る戦意は衰えない。
「いいよ、使いなよさっきの大技。そろそろガス欠になる頃でしょ。全部搾り切って、私の目の前に引きずり出されな。その時の目がどんなものか楽しみだからさぁ!!!」
ゾンビに囲まれた以上エルが出すのは“光球”だけ。それを使えば確実に今群がっているゾンビを倒せる。だがそれはアネモネにとっても狙うところだった。天使との戦いで最も勝利に近づく方法は能力を使用させ続けて“愛”を枯渇させること。それが終わってしまえば天使など羽根が生えている人間と大差ない。
「アッハァ!!!やっぱり使ったねぇ!!!!」
そしてゾンビの視界が光で満たされ視界ジャックが解除される。ゾンビの魂が浄化されたことでアネモネの能力下から解放されたのだ。だが即座にアネモネは浄化されなかったゾンビの視界をジャックし弱り切った天使の姿を見ようとして。
「…………いない?」
その姿がどこにも見えなくなっていることに疑問を持った。
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