【三章開始】いずれ神成る恋物語-天使と悪魔とラブコメ生活- 作:ビスマルク
「チッ」
「面倒なことこの上ないわね」
互いの能力が膨張し破裂して相手に襲い掛かった。黒い影が炎を飲み込もうとし、赤い炎が影を食らいつくそうと侵食していく。能力の規模はほぼ互角、であるのであれば勝敗を決めるのはそれ以外の要因となる。それを瞬時に判断したアドラメレクは翼を消しショッピングモール屋上を駆ける。
「寄こしなさい、お前の“欲望”」
炎を物質化し、鎌の形に変えて振るう。本来草や穀物を刈るための三日月形の刃と柄からなる農具である鎌は武器としては扱いやすいとは言えない。だが一振りにおける攻撃範囲は剣や槍よりも大きい。そして『炎天渇奪』の能力は触れればその力を発揮する。
「“影爪”」
『思いきりぶちかましてリョウちゃんッ!!!』
炎と影の爆発に身を隠しながら接近したアドラメレクの動きをドッペルは既に“影感知”で把握している。振るわれた炎の鎌をその場で軽く跳び身体全体を回転させることで回避しつつその勢いのまま腕に構築した爪を鎌を振って無防備になった状態のアドラメレクに振るった。
咄嗟に鎌の柄の部分で受け止めたアドラメレクはその場から大きく弾け飛ばされる。今のドッペルは数ヵ月の戦闘経験と“欲望”を身体になじませることにより純粋な身体能力のみで下位の上級悪魔を圧倒することが出来る。上級悪魔の中でも上位ではあるが肉体性能はそれほどでもないアドラメレクが耐えられる道理はない。
「“突影”」
『ぶっ飛びなァ!!!!!』
たたらを踏みながらも体勢を整えようと踏ん張っているアドラメレクにドッペルの影が膨張して追撃する。ここで踏ん張ればそのまま飲み込まれると判断したアドラメレクは勢いを殺すことを諦めてそのまま空中に跳ぶ。黒い翼を再び広げ空中に逃げ出した『炎天渇奪』が攻撃準備をし終えれば攻勢が止まると半ば本能で分かったドッペルは伸ばした影の一つに乗りアドラメレクを追う。
「しつこい男は嫌われるわよッ!!!」
「生憎好いてくれる奴がいるんでなッ!!!そこらへんは気にしねぇよ!!!!」
追ってくるのを当然と考えていたアドラメレクは追いついてきたドッペルの攻撃を鎌で受け止める。至近距離で爪と影をぶつけ合い火花が散る。互いに一撃を食らえばその時点で致命傷になりかねないと理解している二人は攻め切ることが出来ない。一歩前に進めばそれが終わりになるかもしれない緊張感の中で互いの武器を振るう。
「“略奪の炎”」
「“
埒があかないと焦れたアドラメレクは武器のぶつかり合いによって開いた距離を利用して自身を中心に炎を爆発させる。それを自身を囲むように最硬度の影を展開して受け止めたドッペル。最初のぶつかりと似たような光景が広がるもその意味は違う。
「空中じゃ探知も出来ねぇな……」
『だけど“影牢”の中なら少しは休めるはずだよ。それにアイツの能力の本質は奪う事。リョウちゃんとアタシの影が影響を受け始めればすぐに分かる』
地面であれば“影探知”によりその動きをある程度把握出来たが空中では影に触れることが出来ない為それもかなわない。周囲を全て囲んだからか視界も届かない。相手がどう動くか分からなくなっている。
「だがリルナの予想通り、俺に執着し始めてる。この機会を逃がすわけにはいかねぇ。取り戻さなきゃならねぇもんもたくさんあるしな」
『アイツのやり方は姉さん達から聞いてたからね。リョウちゃんの無限ともいえる“欲望”を手に入れようとするのは目に見えてた。問題はどうやってアイツに人間達の“欲望”を吐き出させるかだけど』
既に先手を取られて大勢の“欲望”を奪われている以上それを取り戻さないという選択肢はドッペル――――リョウにはなかった。取り戻したいという“欲望”が力になっている為リルナもそれを止めることはない。元々復讐以外では主体性をあまり出さない彼女はリョウの方針に基本的に逆らうことはしない。
「奴の炎に接触して、そこから侵食し返して乗っ取るってのは?」
『それが出来れば話しが早いんだけど……。アタシとアイツの能力はほぼ真逆って言っていいからね。干渉するってところが難しいのがネックだなぁ。似たような能力を持ってるのがいればそこを突破口に無理矢理リョウちゃんが奪い返すことも出来そうだけど……』
「……そういえば、なんかいつの間にか呼び方がリョウちゃんに変わってるな」
『嫌だったかにゃ?』
「いや全然。その呼び方の方がやる気が出るってもんだッ!!!」
『そりゃよかったねぇ!!!』
いつまでも影の中に引きこもっていられない。“影牢”の外は炎がまとわりついて一切ドッペルが出ることを許さない。だがそんなものは一瞬の枷にもならなかった。
「“
“影牢”が形を変えて纏わりつく炎を引きはがすように多数の棘を生やし、そのまま回転を始めた。しつこく浸食をやめようとしない炎を弾き飛ばしたドッペルは“影牢”を解除し再び空中で影のに立ち、変わらず見下ろしてくるアドラメレクを見据える。
「やるわねドッペル。正直予想外だったわ。お前は強いと言っても上級悪魔の上位には勝てないと思っていた。でもその身体能力は私よりも上、さらに言えば能力も私と互角。このままやり合えば私はお前に負けないまでも今後の活動が難しくなるわ」
「そんな心配する必要はねぇよ。テメェはここで終わるんだ。テメェが考えるべきは遺言に何を言うかくらいだ」
「私に望みを自覚することなく死ねと?」
「望みを自覚する為に他人を襲ってる奴の言う事じゃねぇな」
話しながらも影と炎はぶつかり合っている。燃やし奪う事を目的とした赤い炎が、倒し守り切る為の黒い影が防ぐ。互いの価値観を理解し、戦いを有利に進めようとするドッペルとアドラメレクは言葉を止めない。少しでも敵の情報を抜き出す為に。
「私を殺せば人間達の“欲望”は帰ってこないわ。それでもやるというなら……予想していたよりも合理主義なのね」
「そんなもんテメェをぶっ潰したあと無理矢理引っぺがせばいいだけの話だ。俺には頼りになる仲間がいるんでな」
「あら、仲間なら私にもいるわよ。ほら、お前のすぐ後ろに」
『リョウちゃんッ!!!』
その言葉と同時に青い炎がドッペルを飲み込もうと背後から迫る。影による防御が間に合わないと踏んだリルナは咄嗟に避けびそれに反応してドッペルはその場から空中に跳ぶ。次の瞬間には足場にしていた影が飲み込まれて燃え尽きた。
「“爆略炎”」
「“壁炎”」
「チィ!!!」
アドラメレクの掌から蛍のような光が幾つも飛びだしドッペルに纏わりつこうとする。逃げようとするドッペルを青い炎が行く手を阻むように壁となる。反射的に脚を止めた瞬間纏わりついた蛍の火が爆発しドッペルを焼く。
「“
その炎を影で吹き飛ばしつつ分身を生み出しアドラメレクに向かわせ屋上に立つもう一人の上級悪魔にドッペルが迫る。同じ上級とはいえその中でも上位に位置するアドラメレクよりももう一人の方が弱いはずだと考え、数を減らす為にその懐に入り込み影で作った爪を振るう。名前も知らない奇襲をして来た悪魔は爪をかいくぐりドッペルの腹部に掌底を放つも、飛び退いたドッペルにダメージはない。
「あのタイミングの攻撃を後ろに跳んで威力を減らすとは、流石に強いな……ッ!!!」
『な、んで……。なんで、ここにいる、の……?』
短くした金髪をたなびかせドッペルを見据える悪魔の青い目には罪悪感と、それを超える決意の光が宿っていた。その姿を見たリルナは目の前の光景を信じられないとの声は震わす。
「許しは請わないよドッペル。僕の妹の為に死んでくれ」
『姉さんっ!!!』
アドラメレクの処刑から唯一生き残り、下級悪魔から上級悪魔に成りあがった少女がドッペルの前に立ちふさがった。