【三章開始】いずれ神成る恋物語-天使と悪魔とラブコメ生活- 作:ビスマルク
感想たくさんありがとうございます。
うんうん、皆曇らせが大好きだよね!!!晴れること確定の曇らせは最高だよ!!!
その為に章開始の時に未来の描写入れてるし
『リョウ、ちゃん……!!』
背中から刺されて血を流す少年。咄嗟に影で逸らすことが出来たから心臓そのものを破壊されることはなかった。それでも身体を貫かれることを止めることは出来ずに流れだす血は致命傷に近い。身体を影で覆うことで体外に血が流れることを防いでも決して動けるような状態ではない。抵抗も逃げ出すことも出来ない状態になったリョウの仮面に『炎天渇奪』の手が触れてその能力が発揮される。
『ぐ、が……!?』
結ばれた魂の繋がりが無理矢理引きはがされる感覚。痛み以上にその喪失感に思わず呻く。何より大切なつながりを形にしたそれが奪われていく感覚はリルナを傷つけるが、それ以上にリョウへの心配が勝る。
『今、ここで契約を奪われたら、アタシの影操作は……!!リョウちゃんの傷を塞ぐことが出来なくなる……!!』
リルナの影に実体を与える能力はリョウの無尽蔵といっていいほどの膨大な“欲望”があって初めて成り立っている。ここで“魂魄契約”を奪われてしまえば当然その能力は使えなくなる。それだけではなくリョウの中にいる現状すら不可能になり、無防備な魂の状態で外に追い出されてしまう。だから必死に抵抗する。自身の望みの為に、何より愛しい少年の為に。
「無駄よ。さっさと私に寄こしなさい」
そんな想いを無意味だと踏みにじり奪い去っていく。大切な姉達の命を奪った時のようにそこに何の関心も持たずに自分を満たすことしか考えていない女に。そんな女の血を継いでいるという事実に全身をかきむしりたくなるほどの嫌悪感を覚える。
『お、前は……!!アタシから、また奪うのかァ!!!!姉さん達みたいに!!!今度はリョウちゃんまで!!!!お前は、この、クソ悪魔がアアアアアアアアア!!!!!!!!!』
「これで、最後」
『や、めろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
叫びを無視して無造作に奪われる繋がり。“魂魄契約”が奪われたことによりリョウの魂から弾き出される。無理矢理外に引きずり出された形になったリルナが一番最初に見ることになったのは、意識を失くし、影という蓋が消えたことにより吹き出す血と共に地面に倒れるリョウの姿だった。
「あ、あああああ……」
脳が現状を拒む。それでも冷静でい続けなければならないと考えていた心が現状を把握してしまう。赤い液体が宙に舞い、それが顔に降りかかりその暖かさが急速に消えていく。リルナが認識する前にその色の違う両目から涙が溢れでる。
「い、ゃ……」
魂が幻視する。かつて同じように倒れた愛しい人間の姿とリョウの姿が被る。
魂が拒絶する。天使と悪魔どちらになっても彼を守る為に、この光景を二度と見ないようにする為に魂を切り分けたというのに再びそれを見たことを。
魂が理解する。
「いやっ!!!!嫌だリョウちゃん!!!目を開けてよ!!笑ってよ!!!いつもみたいに大丈夫だよって言ってよ!!!!いつもみたいに頭撫でててよ!!!!いつもみたいにアタシの目を見てよ!!!!アタシの目を綺麗だって、いつもみたいに言ってよぉ!!!!!!」
弾き飛ばされた時に負った傷など目もくれずに倒れたリョウに駆け寄りすぐに傷を塞ごうと両手を当てる。そんなことが意味をなさないように噴水のようにどんどん血が流れていく光景に髪を振り乱して抵抗する。悪魔であるリルナに人間の医療知識などない。いやもしもあったとしてもこれが致命傷でありすぐにでも死ぬ運命を変えることは出来ないだろう。
「いやだいやだいやだいやだ……!!いなくならないでよ……!!あたしを、置いてかないでよ……!!ひとりはもう、いやだよぉ……」
リョウに縋りついて泣く。それしか出来ずに、憎く何より殺したいと思っていた相手を見ることもなくただそこにまだある命を確かめるように。それがどんどん流れて消えていくという現実を見たくないと言わんばかりに。リルナの心はもう限界だった。
「あ、は……!!」
倒れ伏したリョウと縋りつくリルナ。二人の強敵に目も向けずアドラメレクは狂笑する。契約を伝い流れ込んでくる“欲望”と“愛”に歓喜する。ようやく自分を見つけた、自分が欲するものを見つけた悪魔の笑い。
「あーーーーーーーーーはハハッハハハハハハハハハハははっはっはハハッ!!!!!!!そうよこれよこれが欲しかった!!!私は誰よりも、何よりも、それこそ天使以上に!!!“愛”を欲していた!!!!何よりも大きい“愛”を!!!!誰よりも熱い“愛”を!!!!!それを与えてくれる存在を求め続けてきた!!!!」
『炎天渇奪』――――否。『
「ずるいずるいずるい!!!!私はずっと知らなかったのに!!!みんな知っていたのね!!!この想いを、気持ちを、何より求め続けてしまうこの本能を!!!!でも手に入れたわ!!!私が欲するのは“愛”!!!!ああ、有象無象の“愛”なんて集めても意味がなかった!!!!だってこんなに凄いのがあるのですもの!!!!」
「お、まえぇ……!!」
笑うアドラメレクに涙を流しながらリルナが憎悪の瞳を向ける。ドロドロとした殺意を意に介さずアドラメレクは歩を進める。その目的は当然、倒れているリョウだ。
「どきなさい不良品。彼は私が貰うわ。私ならば死んだとしてもその身体を、魂を維持できる。この繋がりを利用すれば彼を生かすことも出来るでしょう。だから、彼を死なせたくないならどきなさい」
「お前、なんかに……!!お前なんかにリョウちゃんを渡すかァ!!!お前が、お前がこんな、死ね!!!お前なんか今すぐここで死ね!!!!リョウちゃんを返せクソ女ぁ!!!!」
「負け惜しみもここまで来ると笑えてくるわね。でもいいわ。今の私は今までの人生でない程に満ち足りて機嫌がいい―――――ぁ、え」
アドラメレクの足が止まる。身体を満たすはずの“愛”が、“欲望”が、その身体を強く攻め立てる。口を抑え、吐き出しそうになるほどの苦痛。その原因となりえるのはただ一人で、目を向けてみれば。
「――――――――」
両目がアドラメレクを見ていた。決してその契約を、繋がりを認めないとばかりに。意識を失っていたはずのリョウが強靭的な意志で目を開きアドラメレクを貫く。身体の奥底から湧き出てくる悪寒がここから離れろと警告する。リョウの自分の物を奪われたという強欲故の怒りがアドラメレクの足を止めさせた。
「そーーーーこぉ!!!!!!!」
「は?な、あああああああああああああああ!!?!!!?」
その一瞬の隙を突くように上空から風の槌が振り下ろされる。咄嗟に一歩下がることで直撃を避けることは出来たが、荒れ狂う風の流れによってアドラメレクは踏ん張りもきかずに吹き飛ばされる。店の一つに頭から突っ込んだ悪魔に目もくれず降りてきた天使、シルフィは現状をすぐに理解する。
「ッ!!!ドッペルの仲間!!!いるんでしょ!!!私が殿をする!!!早くリョウ達を連れて撤退しなさい!!!絶対に彼を死なせるな!!!仲間なんでしょ!!!!」
「――――当然よッ!!!!」
地面に倒れていたリョウ、泣き崩れているエル、縋りついているリルナを地面から伸びた影が捕まえ影の中に取り込んだ。ドッペルの能力を“模倣”したヒルダが汗を流しつつ保護したのだ。
「ディアンナ!!!すぐにリョウさんとリルナ様を連れて教授の元に行くわよッ!!!一刻の余地もないわ!!!!」
「今回ばかりは流石に仕事したくないとか言ってる場合じゃないデスね……。連続で行くから凄く揺れるデスよ!!!!」
「急ぎなさい!!ダフネの能力で巻き戻せる時間ないじゃないとリョウさんが死ぬわよ!!」
影の中で一時の安全を確保したヒルダは即座にディアンナに命令して動き出す。ものぐさなディアンナもこの時ばかりは冷や汗をかきながら能力を行使してその場から全員の姿が消えた。教授の実験室までは特殊な結界が張られている為何度か瞬間移動を繰り返さないと入れないようになっている。それ故にディアンナも急いでいた。
「リョウから奪った物、返してもらうわよクソ悪魔」
「悪魔が一度手にした物を返すわけがないでしょう、邪魔天使」
ただ一人その場に残ったシルフィはここでアドラメレクを殺すことを決意する。ここでやらなければ狡猾なこの悪魔は必ず被害を広める。それもリョウから手に入れた“欲望”を使って。何がどうなっているのかを完全に把握できておらずともシルフィは自分がやるべきことを既に定めていた。
「彼があんな姿になっているのに泣きわめくこともしないなんて、“愛”が足りてないんじゃないかしら?」
「お生憎様。私はただリョウが好きだって言ってくれた自分でありたいだけよ。役割を理解してそれを全うしようと努力してる姿が好きだって、そう言ってくれたもの」
「そう。でも悪いけどそれに付き合う気はないの。今は契約を通して流れ込んでくる暴れ馬みたいな“欲望”と“愛”を抑えなきゃいけないから。だから――――アネモネ!!!!」
「悪魔遣いが荒いのよアドラメレク!!!!」
一連の騒動の間に意識を取り戻したアネモネが復讐心を糧に能力を使用し大量のゾンビを生み出す。それでも先程の一撃は重かったのかゾンビの動きは精彩を欠き、半ば自動でシルフィに襲い掛かる。
「ここは引かせてもらうわ。貴女も見逃すから彼に伝えてちょうだい。近いうちに祭りを起こす。その時、私の元に来るようにね」
「シルフィ・エアロードォ!!!お前も、エル・ライトガーデンも私が殺す!!!!死体にしてずっと扱き使ってやる!!!!私の憎悪が簡単に尽きると思うなよォ!!!!!!!」
シルフィがゾンビを倒しきる頃には三人の上級悪魔の姿は消えていた。周囲を風探知で確認してそれを確認したシルフィは深いため息をついて項垂れた。
「これから、どうすればいいってのよ……」
そう呟いた彼女には、いつもの覇気はなかった。