【三章開始】いずれ神成る恋物語-天使と悪魔とラブコメ生活- 作:ビスマルク
ちなみに二章から三章の間で二ヵ月ほどあったのでリョウ君は各地で何人かの天使&悪魔&人間の脳を焼いてます。何人か研究室入りしてたりする。
語る機会は……あるのかなぁ……。
ディアンナの連続転移によってついたドッペルの拠点、教授の実験室では大勢が慌ただしく動いていた。教授やドッペルの活動によって集められた、集まってきた悪魔や天使達が全員一つの目的の為に行動している。瀕死の重傷を負っている少年を助けるという目的の為に。
「教授ッ!!!早くリョウさんの治療を!!!!」
「分かっているのだよ!!ダフネ君、今すぐ可能な限り沢渡君の時間を巻き戻してくれ!!!」
血まみれのリョウに肩を貸しながらヒルダが叫ぶ。事前に状況を知らされていた教授達は一目散にリョウを担ぎ流れる血を止める作業をしながら悪魔の力による治療を試みた。常に闘争欲に満ちているダフネもまた自身を全く寄せ付けないリョウの死にかけの姿を見て冷や汗を流す。
「今すぐやるが2分前が限界だぞ!!!上級悪魔への移行途中で“欲望”が溜まってねぇ!!!それに“魂魄契約”にまで手を出すのは無理だ!!!」
「それで構わん!!ドール君!!今すぐ治療ポッドの準備を!!!傷を塞ぎ次第ぶち込んで絶対安静にする!!!」
「もう既に準備は出来ております。教授達が沢渡様の治療をしている間、リルナ様に仮の義体を用意することをお許しください」
「君の権限で出来る範囲のことをしたまえ!!!手術要員はすぐに準備を!!!ダフネ君の能力行使後、すぐにでもやるぞ!!!」
ストレッチャーに乗せられ治療室の中に運び込まれる。悪魔の技術を使っている為そこらの病院よりもよほど充実した機材全てを駆使してリョウの延命に走る。そう、ここまでやってもなおリョウの生死は五分よりも悪い。血を流し過ぎ、更に“魂魄契約”を『愛求堕喰』に奪われたことによる魂への負担。普通ならばこの時点ですでに死んでいてもおかしくない。
「ふぅ……。わたしが出来ることはここまでデスね……。とりあえずもう一度戻ってあの風天使連れてくるデス。ドッペルさんの安否とか知らせないとその内探し出して粘着してきそうデスし」
「ええ、頼むわ。こっちはこっちで厄介なことになりそうだし」
やるべきことを済ませ、あとは教授達に任せるしかなくなったディアンナはそう言ってまた転移した。殿として残ったシルフィは事情を知ってもリョウの味方をしてくれるであろう貴重な上級天使だ。戦力的にも人格的にも信用出来る存在は今この時黄金よりも希少で価値があった。
そして何より、今この場で最も狂乱している少女を止められるとしたらシルフィ・エアロードしかいないだろう。それ以外、確実に止められる少年は今ここにはいないのだから。
「リョウ君が、ドッペルで。ずっと、戦って、守って、傷ついて。私も槍を刺したりして、それでも、ずっと笑ってくれて。あ、はははは……。なんですか、これ。私が全部、巻き込んで、私がいたから、こんなことに……」
紅い瞳を更に赤くして涙を流し続けているエルは延々と呟き、自己否定を繰り返す。愛しい少年が今までやってきたことを正確に把握してしまったからこそ後悔は続く。リョウをよく知るが故にどうしてその選択をとったのかを理解して、気付かなかった自分の愚かさを嘲笑い、自身に殺意を抱く。
「死ね、死ね、死んじゃえ。何が守るだ。何が巻き込みたくないだ。何が何が何が何が……。うぅうううあああああ……。リョウ君、リョウ君……やだ、やだぁ……死なないでください、逝かないでください、置いてかないでください……。リョウ君がいなきゃ、生きてる意味なんて……」
その瞳にはなにも映っておらず、ただリョウが消えた治療室にだけ視線が向いている。中級悪魔として生きてきたために天使に対して好意的ではないヒルダからしても同情を禁じ得ないほどに今のエルは壊れてしまっている。だがそれに構っている余裕は残念ながらなかった。
「離せぇ!!!!リョウちゃんと、リョウちゃんと一緒に居させろ!!!どけ、邪魔だ!!!ぶっ殺すぞ!!!!アタシから奪うな!!アタシからリョウちゃんを取るな!!!アタシのだ!!アタシと約束して、契約して、一緒に頑張った!!!リョウちゃんとの関係は全部全部全部アタシのだ!!!リョウちゃんを返せええええええ!!!!!!」
「落ち着いてくださいリルナ様。一度この義体に、魂だけの状態では危険です。今の貴女は外の影響を受けすぎるのです」
「五月蠅いッ!!!アタシのことなんかどうでもいい!!!リョウちゃんを、リョウちゃんを治せよッ!!!リョウちゃんを!!!治るならアタシの命だってあげるからさぁ、リョウちゃんを治してよぉ!!!!!」
美しい金色の髪を振り乱して、取り押さえているドールを無理矢理引きはがしてリョウが消えた治療室に入ろうとしているのはリルナだった。中級悪魔上位の力を持つドールでさえ抑え込むのに苦労する程に今のリルナは異常だった。リョウと契約していなければただの下級悪魔だという事実を信じられなくなるほどの威圧を感じ、ヒルダは思わず一歩引いてしまう。
「最悪の空気ね……」
「そりゃそうだろ。旦那が殺されかけた、ってだけで大事件だ。今にも飛び出しそうな連中だっているんだぞ。大抵はサポート型の能力だから抑えはきくけどな」
「ダフネ……。リョウさんは、どう?」
リョウの治療の為に時間の巻き戻しを終わらせてきたダフネは頭をかきながら首を横に振る。それだけで普段粗暴で戦いに全振りしている同僚でさえ現状に参っていることが分かった。それほどまでに沢渡リョウという少年の影響は大きかったのだ。
「ギリギリ治療可能くらいまで時間を巻き戻せた。教授が前もって旦那の血液を大量に培養してたからそれを輸血しながら手術してる。あのおっさん、経済学だけじゃなくて医療知識も持ってる上に手術技術もそこらへん下手な医者より上手いから何とかなる……とは思いたいんだけどな」
「やっぱり、難しい?」
「金髪小悪魔が咄嗟に剣を逸らしたから心臓に傷はついてねぇ。そのおかげで延命自体は何とかなる。だが……意識がいつ戻るかは分からねぇし、前みたいに動けるかは保証できねぇってよ。手術自体も成功するかどうかだ。これ以上は俺も分かんねぇ」
「そう……、いえ、でもそれだけ分かればいいわ。リョウさんなら、少しでも可能性があればそれを掴み取ってくるでしょう?」
「…………否定は出来ねぇな。なぁ、旦那って本当に人間なのか?たまに本気で疑問に思えてくるんだけどよ」
「教授曰く、肉体的には人間のはず。魂は……なんかちょっとおかしいみたいだけど」
「これで魂が普通って言われる方が困惑するからそこは逆に安心要素だな」
「それはそうね」
から笑いでも口角を上げられることはこの状況では貴重だ。なにせこれから間違いなく忙しくなる。リョウとリルナから“魂魄契約”を奪った『炎天渇奪』改め『愛求堕喰』。更にそれに協力している二体の上級悪魔。『永死殺総』アネモネと『盗炎結偽』ベルサシエが近いうちに再び動き出すことが確定しているようなものだ。
三体の上級悪魔が手を組んだ場合被害がどこまで広がるかは想像したくもない。今日のショッピングモールの悲劇が可愛く見えるほどの惨劇が近いうちに起こる可能性が非常に高い。そしてその計画を阻止できなかった場合、天使の認識阻害をもってしても状況を隠しきるのは難しくなるだろう。
「戦力的な意味でも、精神的な意味でもリョウさんには戻ってきてもらわないと。私達だけじゃ対応できないわ。悔しいけど、ね」
「しばらく俺の方は動けなくなるからよろしく頼むわ。上級悪魔への移行には時間がかかるからな。途中で中断しちまったけど、出来るだけ早く済むようにする」
「ええ、頼んだわよ。うちのチームの実力ナンバーツーさん?」
肩越しに手を振り部屋を出て行くダフネを見送って現状を改めて再認識する。自分達は追い詰められている。それは間違いないだろう。それでもまだ絶望しかない訳じゃないのだと前を向くことが出来るのは未だに現実感がないからかもしれない。自身の主が今、死に向かっているという事実が。ヒルダはフワフワとして現実味のない感覚を味わいながら今後のことを考えていくのだった。
ちなみに次章は何の事件もないイチャラブ短編集になる模様。
夏休みの海、夏祭り。二学期の学園祭等々の癒しが待っているのでそこまで頑張る予定です。その後?うん、まぁ、あれだ。魔王大戦?