ゼンゼロのキャラに好かれ過ぎた男の話   作:しいたvol.3

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数話完結で何陣営か書きたいなと思ってます。


雲嶽山①

某日、衛非地区にある適当観にて。

 

現雲嶽山の宗主・儀玄とその一番弟子・橘福福は、今日も修行に励む弟子たちの指導を行っていた。

 

「ふぁ~あ。少し眠いな…」

 

「お師匠様!あくびが出てますよ!」

 

「仕方ないだろう。昨日は面倒な会議続きだったんだ」

 

衛非地区において有力な存在である上、その実力から彼女は様々な場面で頼られることが多い。

故にこの適当観を空けることも多くある。

 

「そういえば、最近あの人を見かけないですね」

 

福福は修行中の弟子たちを見渡すと、ある人物が居ないことに気づく。

 

儀玄もその事に気づいたものの、特に気にしていない様子。

 

「いつもの事だ。どうせホロウに潜って夢中でエーテリアスを狩っているんじゃないか?」

 

「確かに…あの人、とにかく強い人と戦うのが好きですからね」

 

「彼、ずっと昔からお師匠さまとお知合いですよね。あたしが弟子入りした時にはもう居たような…」

 

福福は自分が儀玄に弟子入りした時のことを思い返していた。

 

そう、その時にも確か彼女の隣にその男は立っていたのだ。

 

「そうだな。あいつと出会ったのは…」

 

儀玄がある男の話をしようとしたとき、ガチャリと適当観の扉が開いた。

 

「…おっと、噂をすればなんとやらか?」

 

__…なんだ。我のことを噂していたのか?

 

鈍い金属音を立てながら歩くその男は、全身を鎧に包む大男だった。

 

__ホロウで調査をしていたら少々遅れた。すぐ帰るつもりだったのだが…気づけば朝になっていてな」

 

それを聞いた儀玄と福福はまたかという表情で呆れかえっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして、鎧の汚れを落とした男は適当観の中で儀玄と共に茶を啜っていた。

 

「ホロウの様子は?」

 

__少々エーテリアス達の気が立ってはいるが、特段気にするほどではない。

 

男は雲嶽山の所属ではないが、よく力を貸していた。

 

適当観の経営を一時的に担ったり、一部の弟子たちに剣術を教えたり、様々である。

 

「そうか。ならいい」

 

「…」

 

空間は静寂に包まれた。

 

時々外で修行中の弟子たちの声が聞こえてくるくらいである。

 

「なぁ」

 

その静寂を、儀玄が一声で切り裂いた。

 

鎧の男はピクリと体を動かし、明後日の方向を向いていた顔を儀玄の方へと向ける。

 

__なんだ?

 

「私とお前は、なかなか長い仲だろ?」

 

__まぁそうであるな。10年近くにはなるか

 

「雲嶽山の宗主を継いだ時から、お前は客人としてこの適当観の経営やホロウの調査を協力してきたわけだ」

 

「もうこの適当観の経営は安定するようになった。弟子たちも育ち、客人としては受け入れられん」

 

男は察した。今儀玄が言っていることを要約すれば「もうお前は用済みだから出ていけ」ということである。

 

もともと男は放浪の身であり、その先で出会った儀玄が困っていたから協力していただけに過ぎない。

 

役目が終われば、おとなしく去るのが定めだろう。

 

「だから…その…」

 

__儀玄。

 

言い澱んでいる儀玄を制止し、男は話し出した。

 

これ以上彼女に酷な事を言わせるわけにはいかない。

 

__我はここを出ようと思う。

 

「…は?」

 

儀玄が素っ頓狂な声を出して驚く。

 

__ヤヌス区の方に用事があってな。しばらく戻らぬ。

 

嘘である。

 

宗主が客人を追放したという汚名を着せないために、男自ら去ったという事実を用意しようとしただけだ。

 

それを聞いた儀玄はいつになく動揺し、その瞳は大きく揺れた。

 

「おい…お前、なんで」

 

__我はもともと放浪の身なのだ。それに、我はもうここに必要ない。

 

「ち、違う…違うんだ。お前は…」

 

__世話になった。弟子たちに囲まれて、幸せになってくれ。

 

弱弱しく手を伸ばす儀玄に背を向け、男は部屋を去った。

 

長く滞在していた衛非地区を離れるのは少し名残惜しかったが、今更ここに居座るというのも憚られる。

 

少ない荷物をまとめ、男はヤヌス区へと向かうことにした。

 

幸い男にはそこそこの貯蓄があったのだ。

 

しばらくはゆっくりと休暇を取りながら仕事でも探すか、と男は呑気に旅に出るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あいつ」

 

彼女一人しか居なくなった部屋で、儀玄はひとり呟いた。

 

「私が必要ないなどと言うわけがないだろ…」

 

確かに、適当観に鎧の男を客人として受け入れ続けることはできなかった。

 

しかし、それは「客人」としてのみに限るのだ。

 

もともと、儀玄は男を雲嶽山へ勧誘しようとしていた。

 

知己であり、古くから自分に協力してくれた男のことを、儀玄は衛非地区から出したくなかった。

 

が、儀玄がそう言う前に男はこの適当観を去って行ってしまった。

 

あの場で自分が言い澱まずに勧誘を行えていたら、何か変わったのだろうか。

 

ありもしない妄想ばかりが儀玄の頭を支配していた。

 

夕日に照らされてその場に立ち尽くしていると、福福が部屋に入ってきた。

 

「お師匠さま?さっきヨロイさんが出ていきましたけど…」

 

はっとして儀玄は現実に帰ったような気分になった。

眼前の福福を見つめ、ふぅと一息つくと、再び脳は思考を始めた。

 

今、自分はこの地を離れることはできない。

 

すぐにでもあの男の背中を捕まえ引き戻したかったが、面倒な会議や仕事が入っていて儀玄の自由を奪う。

 

となれば、綿密に計画を練る必要性がある。

 

「…ああ、大丈夫だ。少し考え事をしていてな…」

 

「そうですか?もう夕ご飯の時間ですから、早めにいらっしゃってくださいね!」

 

福福はそれだけ言うと、また部屋から出て行った。

 

「…はぁ」

 

再び部屋に一人取り残された儀玄は、紙に今後の計画を書き連ね始めた。

 

「逃がすものか。お前だけは絶対に…」

 

舟に乗り、呑気に夕日を眺めている男の背中には、黒い感情がべたりべたりと這い寄っていた。




ヨロイさん
・クソボケ系の人。童貞。つよい。
儀玄
・誤解されて出ていかれてしまった人。つよい。
橘福福
・ヨロイさんは不思議だけど優しい人だと思っている。
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