感想・評価いただけると作者が喜びます。是非。
現在から約10年前、旧都陥落が起こった。
多くの市民の命と住居がホロウによって奪われた中、この燃え盛る古式ゆかしい屋敷でも未来の虚狩りの卵がその一歩を踏み出し始めていた。
星見雅。
今しがたエーテリアス化しかけていた母を手にかけ、茫然自失としているこの少女は、後に新エリー都の虚狩りとして活躍することとなる。
「…うっ…うぅ…」
星見雅は泣いていた。自身の溢れる悲しみとその他の感情を無理やり暴走させ、何とか燃え盛る屋敷からは抜け出した。
しかしその後の雅は生ける屍が如く、ただ暗い空と炎に包まれた故郷、そこに響き渡る誰の物かもわからない悲鳴をただ立ち尽くして聞いているばかりだった。
「*?!”#$?”>」
そんな雅のもとに、エーテリアスが一体近寄ってきた。
今の彼女は無手、いかに剣の寵児といえども未だ幼子であり、傍から見れば絶望的な状況。
「?>!”)$!!!!」
エーテリアスがその刃となった腕を雅に降りかかる中でも、雅はただそのエーテリアスの動きを凪のごとく見つめていた。
極限まで死が迫っている状況の中で、雅の視界は極限のスローに見えていた。
(…ああ)
雅はそっと瞼を閉じた。自分も母のもとへと行くのだと。
このままエーテリアスの刃が雅を切り裂く…その、ほんのコンマ数秒前だった。
ぼとり
何かが落ちる音がした。
それは雅の何かが切れた音ではなく、エーテリアスの振りかぶっていた腕…否、身体の胴が袈裟に断ち切られて落下した際の音だった。
「…無事か。そこの幼き子供よ」
極めて落ち着いた低い声。耳をピクリとさせた雅は目を開けた。
…大きすぎたため雅は遥か上を仰ぎ見た。見たところ、今の雅よりはるかに大きい、鎧が立っていた。
「おお、反応を見る限り無事そうだな。多少のやけどはあるが…大きな怪我はないようだ。我は妖しいものではない。この状況を見てただ命を救いに来ただけだ」
「この燃えている屋敷は君の家か。…辛いことを言うが、生きている者は…君以外には居ないようだ」
男は落ち着きつつも、ただ目の前の失われた命を見て悔いたようなことを言った。
「…致し方ない。幼子よ、名を言えるか?」
「…みやび。ほしみみやび」
雅が小さくそう言うと、男はその冷たい兜の中で驚いたような様子を見せた。
「…星見?星見だと?…その耳…まさか」
雅が男が何やらぶつぶつと言っているのをただぼーっと立ち尽くしてみていると、向こうから大きな爆発音が聞こえてきた。
「否、こんなことを考えている暇はないな。雅、しっかり捕まっていろ。君を安全な場所まで連れて行って見せよう」
男は雅を抱えると、大地にひびが入るほどの踏み込みで一歩を踏みだした。
ドガアアアアンッッ!
臨時で作られている避難民用のテント。ホロウからかなり離れた場所に作られており、ここに居ればひとまず次の避難場所への準備も物資も十分に行える場所である。
おおよそエリー都の中心から6分ほどで到着した男と星見雅は、そのテントの隅で調査員への報告を済ませていた。
「お名前は星見雅さん…星見家の娘さんですね。ご家族や関係者各位の避難情報が出ましたらすぐに報告します。ご協力ありがとうございました!」
「うむ。…さて、我が手伝えるのはここまでだ。星見の娘よ」
ここに来てからずっと椅子で下を向いている雅に、男は言い放った。
「…鎧のひと。」
「む?」
男と雅が出合ってから、名前以外で初めて雅は口を開いた。
男たちはここに来るまでに様々なエーテリアスに襲われた。男よりも小さいものもいれば、圧倒的に大きいものもいた。
…しかし、そのすべてを男は雅を抱えた片腕の状態で切り伏せて見せた。
「また、あえる?」
その剣術はあまりに暴力的で、実直で、ただただ強かった。
雅の短い人生の中でも、それはこのエリー都で他に並ぶ物などない、圧倒的なものであると確信していた。
「…我は流浪の身ゆえ、どうだろうか」
「しかし、我は三代目しか知らぬが…君はそっくりだ。特に我の剣術を全て見透かしたように観察する、その眼がな」
男は雅に背を向けて、自らの腰から剣を引き抜いた。
「…否、そうであるなら答えは決まっていたな。次会う時は、剣を交える友であることを願っているよ」
カンっ
先ほどの踏み込みとは違った軽い一歩で、男は再びホロウへと向かっていた。まだ救える命を、少しでも取りこぼさないように。
「…なにをしている?」
「椅子に座ったままお前を倒す修行だ」
「随分舐められたものだ…いかに虚狩り相手とはいえ、そう甘くはないのだぞ」
「弱くはない。ただ我らに勝つほど強くもない」
「このチビが…」
「斬る」
「立ってるぞ。修行の意味がない」
「…むう」
とある建物の一室で、鎧の男とキツネ耳の少女が話していた。
少女の方は刀を構えつつ男の方へ向けており、なぜか椅子に座ったままである。
「しかし、その刀は凄いな。お前自身の技術もさることながら、その狐火と出力があれば斬れぬものはないだろう」
「褒めても斬撃しか出ない」
ガギィっ!
床をえぐるほど鋭い青色の斬撃が男の方へを飛んでいく。
反射的に男は剣を抜刀し袈裟に返したものの、若干馬力負けし防御のまま1mほど後退した。
「…意外と修行になりそうなのが困りものだな」
「あ、また鎧君と修行やってる!」
「…なんだ、レミエールか」
互いに抜身の剣を向け合う男と少女の背後から、レミエールが現れた。
「全く…二人が揃うとずっと修行しかしないんだから。揃って剣術バカ!」
「失礼な。このチビと一緒にするな」
「同感だ。こんな珍妙な甲冑と一緒くたにされたくない」
「「なんだ?」」
バチバチと両者の視線が交差する。もうすぐ激しい戦闘が始まることは火を見るよりも明らかであった。
「あーもう…」
結局飽きれたレミエールを差し置いて、男と少女は終日剣を交えたのであった。
・ヨロイさん 虚狩りキラー。アホ。剣バカ。やさしい(?)
・星見雅 将来この鎧とずっと修行を繰り返すようになる人。この後めちゃくちゃ修行した。
-
レミエール
-
葉瞬光
-
星見雅
-
アストラ
-
イヴリン