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「…教授、その横に居るのはなんだ」
私がまだ教授に拾われて間もないころ、研究室へと訪れた一人の男が居た。
男は私の方をチラチラと見ながら暫く教授と何かを話していた。…何を話していたかまでは覚えていないが、それは恐らく私のことについてだったのだろう。
話を終えた後、男は近くにあるソファへと腰かけ、佩いていた剣を遠くへと立てかけた。
「ふむ…」
暫く私のことを見つめ、顎に手をやって何かを考えるような動作をした後、教授に「触ってもいいか」と聞いた。
…教授は許可を出したのだが、私が少し身じろぎをした拍子に彼の手の甲にわずかばかり傷を付けた。
しかし、彼はその手を離すこともしなかった。ただ私をひたすらに見つめ、その手をそっと身体へと置いただけだった。
暖かくもない、冷たくもない、微妙な感覚と彼の視線だけは良く記憶に残っていた。
それから時々、彼は私に会うようになった。
教授も元々彼のことは信頼に足る人物であったのか、途中から同伴は無くなっていた。
最低限の家具が置かれた無機質な部屋で、私たちはよく会っていた。
人としての姿を未だ取れていなかった私の身体を、彼は別れ際にそっと手を置いて、少ししてから帰っていくのが習慣だった。
様々なものを見たり、触ったり、学んだり…ただ、彼の剣を振る姿を見ているだけの日もあった。
「…またな。…あーっと、名前はなんだったか…この前教授から教えられたんだが、あの男はやたら話が長いんでな…。ああ、思い出した」
彼は、中途半端に人らしい私の頭に手を置いて言った。
「サンブリンガー」
私が人の姿を取るようになってからも、彼は時々研究所に訪れた。
変わったことと言えば、彼と外に出ることが多くなったくらいか。
…もっとも、私はあまり会話が得意でないらしい。彼と歩いている時も、何かをしている時も会話という会話はあまりしていなかった。
「私は、あまり会話が得意でない」
散歩をしている時だったか、研究室で話している時だったか、それともホロウで何かをしている時だったか。
いつだったかは定かではないが、そんなことを彼に言ったことがあった。
彼は珍しく声をあげて笑った。
「…?」
頭の上に疑問符を浮かべていた私の様子を見て、彼は笑うのをやめて「悪い」と言って、続けた。
「そうだな。確かにお前はあまり会話を得手とするタイプじゃない」
「でも、それでいいさ。お前にとって大事なのは、そこじゃない」
「人の姿を取っても、前の姿のままでも、会話が得意じゃなくても…俺はお前を大切な存在だと思っている」
彼は強かった。地図もないホロウに単身で突入して帰ってこられる程度には。
故に、闘うのが好きな彼と手合わせ、もしくは修行をする時は多かった。
そして私と彼が修行しているときやホロウに潜る前、彼が口癖のように言う言葉があった。
「俺が死んでも気にするな。もし死んでも後悔はない。後の奴らの足を引っ張るつもりはないんだ」
私は、最後の最後まで彼のその言葉が嫌いだった。
・ ・ ・
「わざわざ来てくれてありがとうね。ヨロイ」
とある日の算枢局。三人いるサンブリンガーのうち一人、ドラキナ・サンブリンガーとの初めての邂逅のおよそ数日後の事であった。
我が宿で暇をしていると、突然ボンプ便でドラキナ様直々にお誘いが来た故、胡乱な眼で見てくるレミエールを躱して我はやってきたのである。
—いえいえ。我も古い友人と話せるのは嬉しいですから…失礼、ドラキナ様個人として扱った方がよろしいか?
「いいえ、サンブリンガーとしての対応には期待しないでちょうだい。前も言ったけれど、あたしが持っている記憶は多くはないの。…あ、敬語はいらないわ」
__ふむ、承知した。しかし…なぜ我の膝の上に?
「?」
執務室の応対用のソファはテーブルを挟み二つあるのであるが、なぜか彼女は首をかしげて不思議そうにしながら我の顔を見上げている。
これは我がおかしいのであろうか?普通出会って二回目の男の膝の上に座ることはない…であろう?我が違うのか?
__いいや、別にドラキナさ…「ドラキナでいいのよ?」ドラキナがいいならそれでいいのであるが…
「じゃあそうさせてもらうわね…うふふっ♪」
目線を落とすと、楽しそうに足をパタパタとさせるドラキナ。最初に話したときは随分と落ち着いた雰囲気を感じたものだが、こういった子供らしい面も彼女らしさなのであろうか。
「まさか、こんなに時間が経ってもまだあなたに会えるなんて思わなかったもの。せっかくなんだし、こういう事もさせて頂戴?」
__一応、彼女とは定期的に連絡は取っていたのだがな…
「少なくとも、あたしたちが生まれてからはここには来ていないでしょ?」
__まぁ…しかし、我はロスカリファに入国できるような立場ではなかったのだ。ここの存在は地上の者がそう簡単に知っていいものではないし、暴風帯のせいで飛行船でもなければ侵入できぬであろう。
__今回も頼れる伝手を最大限使ってなんとか我も入り込んだのだ…一応、我はTOPSの者と言うことになっている。最も、上の面倒な付き合いに協力することはないが。
「あら、100年もここに来なかったあなたがそこまで来ようとするなんて…よっぽどの事情なのね」
__ハハ…まぁ。少々面倒な友人の我儘に付き合わされただけである。
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