ゼンゼロのキャラに好かれ過ぎた男の話   作:しいたvol.3

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雲嶽山②

私がまだ雲嶽山に入って間もないころ、よく疑問に思っていたことがあった。

 

適当観で私たち兄妹が修行している時、いつも建物の軒下で座禅を組んでいる大きな鎧の人がいた。

 

朝から晩までずっと座禅を組んでいて、その人があまりにも動かないものだから、それが飾りでなく人間だということに気付くまで二週間かかった。

 

しばらく経った頃、あの人は偶にいない日があることに気付いた。

 

そういう日は決まって私たちが帰るくらいの時間に門を開けて、また禅を組んで朝までそのまま。

 

本当にあの鎧の人は人間なんだろうか。と不思議に思ったものだ。

 

毎日毎日へとへとになりながら修行している私たちを、まるで神様みたいに座って見守っていた。

 

他の弟子たちに聞いても、「あの人は大体そうだ」としか言わない。

 

唯一何か知っていそうな儀玄師匠も「古い友人だ」とだけ。

 

聞いたところによるとあの人は雲嶽山の所属じゃないらしい。

 

ずっと気になっていたけど、なんだか怖くて話しかけられなかった。

 

 

 

 

 

 

ある時、儀玄師匠が数日適当観を空けることがあった。

 

いつもは師匠や大姉弟子が修行を見てくれているけど、その時は誰もいなかった。

 

修行場所でお兄ちゃんと模擬戦をしていると、私はあることに気が付いた。

 

あの鎧の人が、立って私たちを見ていたのだ。

 

鎧の人は重い音を立てながら私たちに近づくと、しゃがんで私たちと目線を合わせた。

 

__儀玄から君たちの修行を見てやれと言われてな。数日は我がいろいろと教えることになる。

 

初めて声を聴いた。思ったより低くて、ずっしりしている声。

 

「は…はい」

 

お兄ちゃんがちょっと詰まって返事をした。多分鎧の人がちょっと怖かったんだと思う。

 

実際私も鎧の人は怖かった。

 

立てば見上げるほど大きくて、普段の振る舞いからも人間らしさを感じられなかったから。

 

それから、鎧の人との修行が始まった。

 

あの人は寡黙な人だったけど、私たちのことをしっかり見ていた。

 

__足さばきがなっていない。もっと体に軸を通してみなさい。

 

術法については知らないらしいけど、代わりに体術は物凄かった。

 

毎日毎日いつも以上に身体を限界まで追いつめて、倒れるまでやることもしばしばあった。

 

でも決して無理なんかじゃなくて、あの人はちゃんと私たちの限界を知った上で稽古をつけていた。

 

毎日私とお兄ちゃんはみるみる動きが良くなって、まるで魔法がかかったみたいだった。

 

あの人は、決まって一日の修行の終わりに私たち兄妹と2対1をさせた。

 

何もできずにやられていたけど、日を重ねるごとに私たちはあの人と戦えるようになっていった。

 

あの人が修行を付けてくれる最終日の朝、いつもと違って最初からあの人と戦うことになった。

 

何度も何度も地面を転がって、ようやく私たちは初めて一撃を入れることができた。

 

もうお兄ちゃんも私もボロボロでへなちょこの一撃だったけど、あの人は「よくやった」とだけ言って頭を撫でてくれた。

 

あの人は私たちを適当観の中に連れて行ってお昼まで休ませた後、こっそりルミナスクエアに連れて行ってくれた。

 

私もお兄ちゃんも子供みたいにはしゃいで、夜になるまで遊んだ。

 

結局帰ってきた師匠にバレちゃって鎧の人…いや、ヨロイ先生はこっぴどく叱られていた。

 

あんなに小さくなっている先生を見て、あの人はやっぱり神様なんかじゃなくてちゃんと人なんだなと改めて認識したのを覚えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

私がもっと先生を尊敬するようになったのは、それから少し経ってからだった。

 

あの日、私たち兄妹は師匠や兄弟子たちに黙ってラマニアンホロウに入り込んでいた。

 

今の私たちならきっと怖くないって。驕っていた。

 

でも現実のホロウは、残酷なまで私たちに牙をむいた。

 

エーテリアス達は何とか撃退できる。しかし、プロキシなんて雇っていなかった私たちは、ホロウの中で迷子になってしまった。

 

このまま私たちはじわりじわりと消耗してエーテリアスになってしまうのだろうか。

 

焦りとのせいか、兄とホロウの中をがむしゃらに動き回り、かえって体力を消耗した。

 

その時にはもう、私たちにエーテリアスと戦う体力なんて残っていなかった。

 

「ひっ…」

 

「GYAAAAAAUOUOOOOOOOOO!!!!!」

 

そんな時に、運悪く私たちは大型のエーテリアスに見つかってしまった。

 

「瞬光…逃げろ…」

 

お兄ちゃんが震える足でエーテリアスの前に立ちふさがる。

 

無理だ。私もお兄ちゃんも、とっくに動けない状態だ。

 

エーテリアスが大きな腕を振りあげ、私たちを潰そうとした。

 

 

 

 

 

 

 

まさにその時だった。

 

 

 

 

 

 

ガギィッ!

 

ギギギギギ…

 

激しい金属音と共に、エーテリアスの腕が止まった。

 

__間一髪、といったところか。

 

先生が、エーテリアスの腕を両腕で持ちあげていた。

 

「あ…せんせい…」

 

バギィっ!

 

先生が思い切りエーテリアスを吹き飛ばした。

あの巨大なエーテリアスを、術法もなしに。

 

__よくやった釈淵。後は我に任せておけ。

 

先生は腰に佩いている剣の柄に手をかけると、エーテリアスに再び向き合った。

 

言うまでもなく、エーテリアスは細切れになった。

 

あんなに速い先生は初めて見た。

 

__帰るぞ。動けないなら抱えていく。

 

その後、私とお兄ちゃんは先生に抱えられてホロウを出た。

 

抱えられている間、私は先生の胸でずっと泣いていたけれど。

 

__今は休め。どうせ帰ったら説教であるからな。

 

…先生の言う通り、私たちは師匠と先生から長いお説教を受けた。

 

でも、二人とも「生きていて良かった」といって最後は抱きしめてくれた。

 

多分、私はここから先生に憧れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いくらか季節を超えて、私は青溟剣に選ばれた。

 

師匠は私になるべく危険から遠ざけるようにした。

 

私がこの剣を抜く必要がないようにって。

 

この剣の副作用を抑える棺を完成させるまで、私の修行は先生がつけてくれることになった。

 

先生の青溟剣の事情は把握していて、初めて先生が困っている姿を見た。

 

__強力な武器というのは往々にして大きな代償を伴うわけだ。友人に妖刀を扱う者がいるが…まぁ振り回されると手が付けられん。我でも勝てる確率は五分もない

 

先生は青溟剣のとはちょっと違うけど、そういう類の剣を扱う人を知っているらしい。

 

__我も瞬光に青溟剣を抜かせたくはない。故に、お前は素の状態で強くなってもらう

 

久しぶりの先生の特訓は、やっぱり苛烈だった。

 

でもなんだか懐かしくて、先生のことを知った今では全く苦じゃなかった。

 

また毎日先生と稽古をして、帰る支度をしている時にちょっとだけ先生と話す。

 

短い間だったけど、夢みたいに楽しい時だったと今でも思う。

 

剣棺が完成して先生のもとを離れなきゃいけなくなった時、ちょっと駄々をこねたのを思い出す。

 

そんな私に先生は昔みたいに頭を撫でながら、

 

__少しの間だけの別れだ。心配するな、お前が帰ってくるまで我はここで待っている。約束だ。

 

昔と変わらず大きな手で、あの人は変わらず諭してくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「~♪」

 

そんな私は今、剣棺のある程度の調整が終わったため定期報告として適当観に帰ってきていた。

 

久しぶりに帰ってきた第二の家同然の適当観に、少し涙が出そうになる。

 

「いけない。そんなことより早くみんなに挨拶しなくっちゃ」

 

姉弟子やお兄ちゃん、ほかの街のみんなにも挨拶していく。

 

「…あれ」

 

一通り挨拶する場所は回ったはずなのに、一度も先生に会わなかった。

 

いつもいる場所にも…いない。

 

私が先生を探していると、儀玄師匠がちょうど門を開けて帰ってきた。

 

「お、瞬光。帰ってきたか」

 

「はい!ちょうど報告しようと思ってたんです!そういえば…ヨロイ先生ってどこに居ますか?まだ見かけてないんです」

 

「…」

 

私は先生の所在を師匠に聞いてみることにした。

 

しかし、ヨロイ先生のことを聞いた師匠の顔はずっと暗くなった。

少し間をおいて、師匠は目を細めて言った。

 

「あいつは…適当観から出て行った。『自分はもう必要ない』とな」

 

 

 

…えっ…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、ルミナスクエアのあるカフェ

 

「む、このメロン味のパフェは美味だな」

 

__そうか。良かったな。

 

「ほら、お前も食べてみろ」

 

男は無理やり口当たりにある鎧の隙間からスプーンを突っ込まれた。

 

__美味いな。ほら、我のチョコバナナパフェも食べるか?

 

男は自分が食べていたパフェを一口分掬うと、友人へと差し出した。

 

「ほう…あー…うむ、美味しい」

 

__そういえば「修行に付き合え」と言っていたが、これは何の修行なのであるか?

 

未だに小さい口でもぐもぐとパフェを頬張っているキツネのシリオンに男は問いかけた。

 

「…んぐ。『異性とでえとする修行』だ」

 

男は首を傾げた。

 

全身鎧の不審者と一緒にカフェでスイーツを食うことは果たしてデートなのかと。

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