ゼンゼロのキャラに好かれ過ぎた男の話   作:しいたvol.3

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雲嶽山④

衛非地区を離れてからおおよそ1か月が経過した。

 

男は粗方やりたいと思っていた娯楽を消化し終わり、依頼と修行に追われるいつもの日常が帰ってきた。

 

ルミナスクエアから2駅ほど離れた町のそこそこのアパートの一室を借り、細々と暮らしている。

 

今日もあまり変わり映えのしない修行の日だった。

 

とはいえ、毎日は発見の連続である。今日も新たに自身の成長の方向性を見定めることができた。

 

それなりの満足感を得つつ、近くの店で今日の夕餉分の食材を買いためておく。

 

男はそれなりに家事ができる方である。

 

かつては戦場で火すらまともに使えなかった状況を考えれば、蛇口をひねれば水が出て、コンロを付ければ火が使えるのは幸せなことだ。

 

と、よくある事を考えつつ男は星の輝く夜空の下、静かに帰路へとついていた。

 

見慣れた街灯の横を通り抜け、突き当りの曲がり角を抜ければ、すぐに男の家の前へと到着した。

 

男は鍵を取り出し、鍵を開けてガチャと玄関のドアを開けた。

 

「お、帰ってきたか。もう夕飯はできているぞ。それとも風呂が先か?」

 

 

 

バタン

 

 

 

 

…どうやら、男は厳しく自分を追い込みすぎたらしい。

 

このヤヌス区にいるはずのない旧友が、満面の笑みで玄関にいるように見えたのである。

 

本物?まさか。

 

男は儀玄に自分の新居の場所など教えていない。

 

まして、部屋の鍵など自分と大家以外の誰も持ちうるはずがないのだ。

 

きっと、先に見た旧友は幻覚だったのだろう。そうだ、そうに違いない。

 

 

 

 

ガチャリ。

 

 

 

 

 

 

「なんだ、忘れ物でもしたか?早く上がれ、飯が冷めるだろう」

 

 

男は、空を見上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「味は?」

 

__美味い。こんなに料理できたか?

 

「私だって成長するんだ。まぁ、お前には及ばないかもしれないが」

 

ひとまず、男は一か月ぶりに顔を見た友人の言うとおりにすることにした。

 

笑顔の裏にある悍ましいほど圧に負け、せざるを得なかった。というのが正しい表現かもしれないが。

 

「…それで」

 

「どうだ?衛非地区を出て」

 

__ふむ。まぁ、出た最初の方は色々とあったが…最近はまた修行の日々である。

 

__それで、何故我の家まで?…後、どうやって入った。

 

「ま、鍵の方は術法でちょちょいっとな。来た理由の方は…」

 

儀玄の言葉の続きを待っていると、儀玄は懐から札を取り出した。

 

 

 

 

瞬間、男の周りには彼女が使用する玄墨の棘が無数に展開していた。

 

 

 

 

__どういうつもりだ?儀玄。

 

「さすがのお前も、念入りに準備されたこの部屋なら捕まるか」

 

「悪いな。どうにも拘束だけだとお前に抜けられる気がした」

 

男は剣を自身の椅子に立てかけている。

 

斬れる。しかし、彼女ほどの実力者に攻撃の余地を与えさせずに、という条件が加わっての行動は不可能に近い。

 

「こんなことをしておいてなんだが、私に敵意はない。殺意もない」

 

確かに、男の長年の経験から目の前の友人が殺意をもってこの行動をしているわけではない事は分かる。

 

しかし、余計に男はこの状況が理解できなかった。

 

「理由を言うとするなら…ちょっとした嫉妬だ。醜い、女の嫉妬だよ」

 

儀玄が男の兜に触れた。

 

男は、彼女の怜悧な眼の奥がいつもと違い黒く濁っていることに気が付いた。

 

黒という存在そのものを煮詰めたような、どろどろの漆黒。

 

本能的に、男は恐怖を覚えた。

 

「少し前、虚狩りの星見雅とデート紛いのことをしていたな?しっかりと、説明してもらおうか」

 

どうやら、あの投稿で勘違いを生んだのは雅だけではなく自分もだったらしい。

 

男は様子のおかしい友人に違和感を覚えつつ、ひとまず誤解であることを説明した。

 

「…ほぉ。つまり星見雅とはただの友人で、彼女の独断専行だったと」

 

儀玄はしばらく目を細めて男の方を見つめていたが、やがて大きなため息をついて棘をひっこめた。

 

「…はぁ。ややこしい事をするな。危うく取り返しのつかないことになることだったぞ」

 

__申し訳ない。我ももう少し考えて行動すべきだったな。

 

「おっと、もう一つ言うのを忘れていた」

 

「雲嶽山に入れ。ヨロイ」

 

__む?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

成程。

 

儀玄からの説明を聞いたところ、どうやら追放と言うのは我が早計すぎたと。

 

雲嶽山の弟子としてでなく、定期的に指導をする講師側で加わってくれないか、という話だった。

 

「私が言い澱んだのが完全に悪かった。すまない。でも、雲嶽山にはお前が必要だ」

 

そう言うと、儀玄は頭を下げた。

 

勘違いして勝手に出て行ったのはこちらだというのに、その頭を下げさせるのはこちらも申し訳ない。

 

__謝るのはこちらの方だ。その話、是非受けさせてくれ。

 

「…助かる」

 

儀玄は頭をあげた。その顔に先ほどまでの黒いモノはなく、安堵と喜びだけが浮かんでいた。

 

その後、男たちは食事を再開した。

 

しかしその食事を食べ終えた後、男はふと思った。

 

__儀玄。我の家にはベッドが一つしかないぞ。宿はどうするつもりだ。

 

一緒に食器を片付けていた彼女は、まるで当たり前かのようにけろっと言った。

 

「何言ってるんだ。一緒に寝るに決まっているだろう」

 

「ほら、私は風呂に入るからさっさと皿を洗っておけ。もうそこそこ遅い時間だ」

 

儀玄は皿を片付け終わると、するりと男の横を抜けて浴室へと入っていった。

 

「あ、そうだ」

 

しかし、すぐに儀玄は浴室から顔だけ出すと、

 

「覗くなよ?」

 

とだけ言って戻っていった。

 

 

 

 

ふっ。

 

馬鹿にしないで欲しい。

 

男は筋金入りの童貞である。そんな勇気があったらとっくに魔法使いを卒業しているのだ。

 

浴室から聞こえてくるシャワーの音を聞き流し、男はさっさと食器を洗うのであった。

 

 

 

 

 

 

「なんでお前そんな端っこにいるんだ。もっと近寄れ。落ちるぞ」

 

その後、男は強制的に儀玄と同じベッド寝ることになった。

 

男がかなりの巨体であるため、ベッドのサイズはかなり大きい。

 

とはいえ、隣の友人にくっついて寝るというのも…

 

というわけで、男はベッドの隅っこで縮こまっている。

 

儀玄は先ほどから男を引っ張ってこちらへ来させようとしているが、男は断固として動かない。

 

「…そういえば、明日は空いているか?」

 

そんなことをしていると、ふと儀玄が男に聞いた。

 

__空いているが。

 

「なら、さっさと衛非地区に戻るぞ。お前のせいで瞬光が…ヤバいことになっている」

 

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