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「そんなに剣を振ってて、飽きないの?」
どこかの木の下で、男女が空を見上げていた。
呆れるほど青く綺麗な空には雲一つなく、ただ太陽のみが間接的に彼らへと主張している。
「毎日毎日、修行修行~。っていっつも何かと戦ってばっかり。私たちでもそんなに戦わないよ?」
重々しい鎧を身に纏った男はしばらく空を見ていたが、頭を少し女の方へ向けて言った。
「俺はそれでいい。それに、こうしてお前と話したり出かけたりすることはあるだろう」
それを聞いた女は不服そうな顔をして男をじっと見つめた。風が彼女のピンク色の髪を揺らし、少しだけその場の空気を冷たくした。
「…本気で言ってる?そういう時、決まって途中でどっか行くじゃん」
「…俺は修行者だ」
男は彼女に背を向けて地面に横になった。
「あ、逃げた!ねぇねぇ今誤魔化したでしょ~」
「…」
「その修行者さんは貴重なお時間を割いてまで私に会ってくれるんだね?光栄光栄♪」
しばらく、男と女は木の下でそんな会話をしていた。
口数が多くない男と、それをからかいつつ楽しそうに話す女性。
不思議と退屈しない時間が過ぎていき、やがて女性が時計を見た。
「…あ、時間だ。」
その言葉を聞いた男は、あっさりと彼女へと言い放った。
「そうか。ではさらばだ」
男は横にしていた身体を起こし、傍らに会った愛剣を手に取った。
彼女へと背を向けてその場を立ち去ろうとすると、がしりと肩を掴まれる。
男は後ろへと振り返り、同時に首を傾げた。
「どうした」
「さらば、じゃないよね?」
男は気づいた。彼女は男と別れる際、「さよなら」ではなく「またね」を言うことをいつも求めることに。
「…そうだったな、レミエール。またな」
「うん、またね」
互いに戦いに身を置く以上、只人より早く別れが来ることは理解している。
しかし、それでも彼女は「またね」を求めた。
少しでも彼と一緒に居たい、というささやかな願いと共に。
「…ねぇ」
暗い空。荒れ狂う炎。崩壊した建造物。
その中で、男女は剣を向け合っていた。
「なんで、分かってくれないの?」
男の体には既にいくつも傷がついていた。もはや立つのもやっとであり、女性の勝利は明白である。
きっかけは、男が高危険度なホロウに単身で乗り込もうとしたことだった。
男は強者であり、戦いを好む。しかし、いかに彼と言えど高危険度ホロウであればリスクは高くなる。
彼女…レミエールは、それを恐れた。故に彼と対立してでも止める必要があったのだ。
男は強かった。しかし、「初代虚狩り」に勝てるほど天下無双なわけではなかった。
「ごめんね。でも、私は君を失いたくない。…嫌われてでも」
そう言ったレミエールの腕は、震えていた。疲労ではない。
単に男に剣を向けたくないのだ。
嫌われてもいい?そんなわけがない。レミエールは確かに男の存在を必要とし、その身に刻み込んでいた。
それでも、男を守るためにはこうするしかなかった。
その意志だけで、彼女は男へと剣を向けていた。
「…」
しばらく、静寂が続いた。
「…そうか」
どれくらい経ったか、男は短くそう言って自身の愛剣を地面へと突き刺した。
破損した兜の奥から、いつも通りの冷徹な眼がレミエールを覗いている。
「お前の勝ちだ、レミエール」
「…なにも、嬉しくないよ」
男は彼女に背を向けて歩き出した。彼の代名詞であり、彼そのものと言える剣を置いて。
レミエールは男を追いかけなかった。追いかけられなかった。
…男は、その途中で何かを思い出したように振り返り、レミエールへと言った。
__さようなら、レミエール。
「ひゅっ」
酷く乾いた喉から、か細い息だけがそっと通った。
「はッ、はぁッ…!」
暗い部屋の中で、自分の荒い呼吸だけがその場を支配していた。
しばらくすると呼吸が安定し、残ったのはやけに多い汗と不安感、それと未だドクドクと響く自身の心音だった。
「大丈夫…きっと大丈夫。彼は…」
うるさい心臓を抑えて自分に言い聞かせる。
胃からこみあげてきていた異物を何とか戻し、ようやく少しだけ平静に近づいた。
「…あー、気持ち悪い。もう気が遠くなるくらい前の事なんだから、勘弁してほしいなぁ」
汗を拭いたレミエールは、おもむろにベッドから降りた。
月明りだけを頼りにして、自身の荷物の中からあるものを取り出す。
鞘からそれを引き抜けば、鈍く月光を跳ね返すその剣。
それはかつて、男があの日置いていった存在そのものだった。
「…絶対、逃がさないよ。あんな気持ち、もうごめんだから」
・ ヨロイさん
長生き虚狩りキラー。別に昔のことは気にしてないし、「あの時は若かったし、つい感情的になって悪いこと言っちゃったなぁ」としか思っていない。