異世界金策 一攫千金!〜初心者冒険者必見?転移おっさんの怪しい儲け話Readme.exe〜 作:raixip
「最後の契約だけは、絶対に実行させるな」
その意味が、少しずつ分かってきた。
マーカット鉱山には、維持費が足りなくなると将来利益を売り、その支払いが足りなくなると、さらに新しい権利を発行する仕組みが残っていた。
この仕組みが、過去の債務を膨らませた原因の一つだった可能性がある。
ジョンたちは、既存の契約を消さずに、新しい契約の自動生成だけを止める方法を見つけた。
しかし。
最後の契約だけは、通常の停止処理では止められない。
しかも、その契約の確認者に指定されているのはゼロだった。
百二十年前、ゼロは何を知り、何を止めようとしたのか。
そして、最後の契約を実行すると、何が起きるのか。
【最後の契約だけは、絶対に実行させるな】
古い作業記録の最後に。
ゼロの筆跡で、そう書かれていた。
「ゼロ。これ、どういう意味?」
僕が尋ねると、ゼロは黙って紙を見つめた。
いつものように怒鳴ることもない。
マクダフを馬鹿にすることもない。
ただ、じっと文字を見ていた。
「……俺の字だ」
「やっぱり?」
「間違いねぇ」
「じゃあ、百二十年前に書いたの?」
「そうらしいな」
ゼロは眉間を押さえた。
「だが、何を止めようとしていたのか、全部は思い出せねぇ」
「忘れちゃったの?」
「最後に残った魔力で、箱の中から外へ出るための文字を表示していたんだぞ。百二十年分の記憶を全部確認できるほど、余裕があると思うか?」
「ごめん」
「謝るな。お前は悪くねぇ」
少しだけ、ゼロが優しかった。
そのせいで、逆に不安になった。
おっさんが古い記録を机に広げる。
「まずは、最後の契約が何なのか調べよう。名前が分かれば、内容も探せるかもしれない」
リゼさんも頷いた。
「原簿中枢に、記録を検索させましょう」
僕たちは第零坑道の管理箱を起動した。
【検索対象】
【最終作業記録】
【警告文:最後の契約を実行させるな】
しばらく文字が点滅したあと。
新しい表示が現れた。
【該当契約を検出】
【契約名:鉱山永続維持契約】
「永続維持?」
僕は首を傾げた。
「鉱山をずっと維持する契約ってこと?」
「名前だけならな」
ゼロが不機嫌そうに言った。
「問題は、その方法だ」
原簿中枢に、契約の仕組みが表示された。
【第一条】
【鉱山の維持費が不足した場合、将来利益を販売して資金を調達する】
【第二条】
【販売した権利に対する支払いを、将来の採掘利益から行う】
【第三条】
【採掘利益が不足した場合、新たな権利を発行して不足分を補う】
僕は順番に読んだ。
「維持費が足りなくなったら、将来のお金を売るんだね」
「そうだ」
「そのお金で維持費を払う」
「そうだ」
「でも、将来払うお金が増えて、足りなくなったら……」
「また権利を売る」
ゼロが答えた。
僕は画面を見つめた。
「……ずっと続いちゃうの?」
「そうだ」
おっさんがため息をついた。
「最初は鉱山を維持するための仕組みだったんだろうな」
「うん」
「だが、続けるほど将来の支払いが増える。支払いが増えるほど、さらに資金を集めなきゃならなくなる」
僕は、これまで見てきた古い契約を思い出した。
採掘利益参加権。
最低配当保証。
将来利益を担保にした融資。
そして、未払いになった賃金。
「それで、借金が増え続けたんだ」
「可能性は高い」
リゼさんが帳簿を確認した。
「ただし、現在残っているすべての債務が、この契約によって発生したとは限りません。個別の確認は必要です」
「そうだな」
おっさんが頷く。
「でも、この仕組みが残っていたら、また同じ問題が起きる」
僕は驚いた。
「じゃあ、今のM資金も?」
ゼロが腕を組んだ。
「M資金そのものが悪いわけじゃねぇ。必要な資金を集めて、実際に採掘して、利益が出たら約束どおりに払う。それなら仕組みとして成り立つ」
「うん」
「だが、採掘も利益もないのに、新しい権利を売って古い約束を払い続けるなら……」
ゼロは画面を指差した。
「百二十年前と同じことになる」
マクダフが小さく手を上げた。
「つまり、今の俺が作ってる赤字安心券も……」
「お前の券には、そもそも正式な保証契約がねぇだろ!」
「そこは別問題ですかい!」
「別問題だから、余計に始末が悪いんだよ!」
おっさんが吹き出した。
僕も、少し笑ってしまった。
でも。
笑っている場合ではなかった。
原簿中枢に、新しい文字が現れたからだ。
【鉱山永続維持契約】
【待機中の処理を検出】
【次回の所有者確認時に自動執行】
「……次回?」
僕が聞いた。
ゼロの顔が険しくなる。
「今の所有者確認のことだ」
「でも、僕はもう暫定管理者になったよ?」
「だからだ。管理者として次の確認を行えば、契約が自動的に動き出す可能性がある」
「じゃあ、何もしなければいいんじゃない?」
「それだけじゃ駄目だ」
ゼロが首を振った。
「鉱山を管理する以上、点検も、記録の確認も、必要になる。ずっと何もしないわけにはいかねぇ」
なるほど。
何もしなければ鉱山を管理できない。
でも、普通に管理しようとすると、古い契約が勝手に動き出す。
まるで、鍵のかかった部屋に入るたびに、床が抜けるようなものだ。
「……困ったね」
「まったくだ」
ゼロが珍しく素直に答えた。
そのとき。
キュ太郎が管理箱の上に飛び乗った。
「キュ!」
小さな前足で、表示の端を叩く。
ぽん。
すると。
今まで見えていなかった項目が浮かんだ。
【緊急保全管理権】
【手動停止機能:利用可能】
「手動停止?」
僕が聞くと、ゼロが目を見開いた。
「そうか……!」
「何か分かったの?」
「契約の自動執行そのものを、手動で止められる可能性がある」
「じゃあ、すぐ止めよう!」
「待て」
ゼロが僕を制した。
「止める前に、条件を確認しろ」
表示を開く。
【自動執行機構・手動停止条件】
・現在処理中の契約を確認すること
・有効な既存契約を記録すること
・未処理の支払いを一覧化すること
・管理責任者と緊急保全管理者が停止を承認すること
僕は一つずつ読んだ。
「つまり、今ある契約を全部消すんじゃなくて……」
「動いている仕組みを止めるんだ」
おっさんが答えた。
「有効な契約は残して、勝手に新しい契約を作る処理だけを止める。そうすれば、今ある約束を確認しながら整理できる」
「それなら、いいね!」
リゼさんも頷いた。
「既存の権利を勝手に消さずに済みます。確認できた契約は守り、問題のある契約は個別に調べられます」
ゼロは管理箱に手をかざした。
【管理責任者:ゼロ】
【承認可能】
キュ太郎が前足を上げる。
【緊急保全管理者:キュ太郎】
【承認可能】
そして。
僕の名前が表示された。
【暫定管理者:ジョン】
【現行契約一覧の確認が必要】
「……僕も必要なの?」
「お前が管理者だからな」
ゼロが答えた。
「まず、今どんな契約が動いているのか確認する。これを怠ると、止めたあとで支払いが必要な契約まで見落とすことになる」
僕は頷いた。
「分かった。順番に確認しよう」
リゼさんが一覧を呼び出した。
古い契約。
未払いの賃金。
採掘権証券。
利益配分契約。
担保契約。
その数は多かった。
でも、ひとつずつなら調べられる。
「よし。まずは記録を残そう」
僕が言うと、原簿中枢が反応した。
【既存契約の一覧化を開始】
【有効性:確認中】
【停止予定:新規契約の自動生成】
しばらくして。
最後の表示が現れた。
【停止準備:完了】
僕たちは顔を見合わせた。
もう少しで、百二十年前から続いていた仕組みを止められる。
その瞬間。
ゼロが、古い作業記録を見直した。
そして。
顔色を変えた。
「……違う」
「何が?」
僕が聞く。
ゼロは、警告文の下にある小さな文字を指差した。
【鉱山永続維持契約】
【停止可能】
【ただし、最終契約を除く】
「……え?」
おっさんが身を乗り出す。
「最終契約だけは止められないのか?」
ゼロは、ゆっくり頷いた。
「そういう仕組みらしい」
「その最終契約って、何なの?」
ゼロは答えなかった。
代わりに、原簿中枢が新しい文字を表示した。
【最終契約】
【契約内容:非公開】
【実行条件:最終作業完了】
【確認者:ゼロ】
僕は。
ゼロを見た。
「……ゼロが確認しないと、動かないんだね?」
「ああ」
ゼロの声が低くなる。
「だから、百二十年前の俺は、最後の作業を終わらせなかったのかもしれねぇ」
「どうして?」
ゼロは古い記録を握りしめた。
「……その契約を実行すれば、今まで止めてきたものが、全部動き出す可能性がある」
僕は、画面を見た。
自動執行機構を止めても。
最後の契約だけは残る。
そして。
その契約を実行する鍵を持っているのは。
ゼロ自身だった。
次の瞬間。
原簿中枢に、短い文字が浮かんだ。
【最終作業の完了確認を要求します】
ゼロは。
画面を睨んだまま、動かなかった。
【あとがき:現在のステータス】
【スキル】
■武器系
刀剣スキル 20
盾スキル 3
戦闘技術スキル 13
■生産系
料理スキル 13
■その他
鑑定スキル 0.3
【所持金】
141G(銀行預け金:250G(銅貨2枚、半銅貨5枚))
ジョン
「勝手に契約を作る仕組みは、止められそうだね」
おっさん
「既存の契約を確認してからな。消していいものと、守るべきものを分ける必要がある」
マクダフ
「旦那ぁ、俺の赤字安心券も一覧に入ります?」
ゼロ
「お前の券は別途調査だ!」
マクダフ
「やっぱり!」
キュ太郎
「キュ!」
【所持アイテム】
・???のスクロール×6
・採掘計画書
・旧マーカット鉱山の古地図
・マーカット鉱山 最終採掘記録
・謎の紫色の鉱石
・謎の金属片(鑑定不能)
・採掘した紫色の鉱石×2
・新しく発見した謎の金属片
・「採掘は順調です。予定通り、地上へ出ます」と書かれた紙
・新M資金・マーカット鉱山復興応援券×1
・第零坑道採掘許可証0007
・第零坑道採掘管理記録
・第零坑道・旧採掘権証券×1
・マーカット鉱山・採掘権原簿(管理箱)
・ガレスのツルハシ(借用中)
・第七坑道作業責任者のツルハシ
・中古の斧(30Gで購入)
・新しい帳簿×5
・余り紙
・ロープ
・水筒
・奴隷のマクダフの野郎
・武器破損した剣
・???の指輪(バンステ金策で入手)
・ゴブリン(テイム)
・ケムトレイル群(立場:保護対象、詳細不明)
・キュ太郎(緊急保全管理権を取得)
・原簿管理妖精「ゼロ」
・旧労務台帳(確認中)
・第零坑道・最終作業記録(未完了)
・ガレス家の古い帳簿(調査中)
・副責任者の特別報酬記録
・鉱山永続維持契約の記録
【投資・契約】
・中立共栄大金庫投資案件(ポーシャ支店)
元本:金貨10枚
状態:運用中
想定利回り:2倍〜5倍(説明ベース)
詳細:非公開/高リスク
・旧契約6,420件が未確認
・未払賃金:金貨三枚
・受取人:ガレス家
・支払条件:第零坑道の最終作業完了後
・契約の自動執行機構を確認
・新規契約の自動生成を停止する準備が進行中
・最終契約だけは通常の停止処理の対象外
・最終作業の確認者としてゼロが指定されている
【M資金】
・小口M資金券が継続流通
・商人間の決済や商品購入に使用
・現金交換、転売、投資対象化
・第三者による派生券も存在
・マクダフ発行「赤字安心券」
・「採掘利益参加証」
・「旧債務連動券」
・マーカット鉱山関連券の取引市場
・M資金指数
・新規契約の自動生成が再開すれば、将来利益参加契約が発行される可能性
【所有者選定】
第一段階:経済的貢献度
→ジョンがトップ
第二段階:実地運用試験
→ジョンが暫定首位
第三段階:所有責任審査
→最終判定終了
現在の立場:
✅ジョンはマーカット鉱山の暫定管理者
✅キュ太郎が緊急保全管理権を保有
✅既存契約を一覧化して確認中
✅新規契約の自動生成を停止する準備が完了
✅最終契約だけは別途対応が必要
【本日の収支】
141G(変動なし)銀行預け金250G(変動なし)
※ジョン個人の所持金に変動はありません。
【今回の進展】
✅鉱山永続維持契約の仕組みが判明
✅将来利益の販売で維持費を払い、その支払いのために新たな権利を発行する仕組みを確認
✅過去の債務が連鎖的に膨らんだ原因の一つと判明
✅既存契約を残したまま、新規契約の自動生成を停止する方法が見つかる
✅キュ太郎の緊急保全管理権が停止準備に利用できると判明
✅最終契約だけは通常の停止処理で止められない
✅最終作業の確認者としてゼロが指定されている
ジョン
「勝手に契約を作る仕組みは止めたい。でも、必要な約束まで消しちゃ駄目なんだね」
ゼロ
「そうだ。今ある契約を調べて、正しく整理する。それが先だ」
おっさん
「そして最後の契約は、ゼロが何を知っているかにかかっている」
マクダフ
「旦那ぁ……この鉱山、まだ終わらないんですかい?」
ジョン
「うん。まずは最終契約を調べよう」
次回。
第175話 ゼロが止めた最後の契約
最終作業の完了確認を求められたゼロ。
彼は、ついに百二十年前の出来事を語り始める。
その契約は、鉱山を維持するためのものではなかった。
――鉱山に関わるすべての権利と債務を、一つにまとめる契約だった。