異世界金策 一攫千金!〜初心者冒険者必見?転移おっさんの怪しい儲け話Readme.exe〜 作:raixip
百二十年前にゼロが止めた最後の契約。
それは、鉱山に関わるすべての権利と債務を一つにまとめる契約だった。
一見すると、複雑な権利関係を整理する便利な仕組み。
しかし、その契約には、未確認の権利や借金まで管理者が引き継ぐ条項があった。
問題を整理するつもりが、一人に押しつけてしまう。
それが、ゼロが契約を止めた理由だった。
ジョンは、未確認のものを勝手に引き受けるのではなく、まず権利者と契約を確認し、有効な約束を守りながら整理する方針を決めた。
そして。
そのための旧権利者説明会を開くことになった。
ところが、参加希望者はすでに三百件。
銀行、商会、古い権利証券の保有者まで、続々と集まり始めている。
鉱山を再開する前に。
まずは、百年以上積み重なった約束を整理する。
「最後の契約だけは、絶対に実行させるな」
百二十年前の記録。
その言葉を残したのは、ゼロ自身だった。
僕たちは、原簿中枢の前に集まっていた。
「ゼロ。その契約って、何なの?」
ゼロは、しばらく黙っていた。
やがて。
「鉱山に関わる権利と借金を、一つにまとめる契約だ」
と答えた。
「一つにまとめる?」
「そうだ。採掘権、利益を受け取る権利、担保権、借金。バラバラになっているものを、一つの仕組みで管理する」
僕は少し考えた。
「それって、便利なんじゃない?」
「便利だ」
ゼロは即答した。
「だからこそ、危険なんだよ」
おっさんが腕を組む。
「もう少し説明してくれ」
ゼロは、原簿中枢に図を表示した。
【現在の状態】
採掘権を持つ人。
利益を受け取る人。
お金を貸した人。
鉱山の設備を管理する人。
それぞれが、別々の契約を持っている。
「こんな状態じゃ、誰に何を支払えばいいのか、確認するだけでも大仕事だ」
ゼロが説明した。
「そこで昔の管理者たちは、全部を一つの原簿にまとめようとした」
表示が切り替わる。
【統合後の予定】
・権利者を一つの記録にまとめる
・債務と支払先を整理する
・利益の分配を一括管理する
・鉱山全体の運営責任者を一人に定める
「なるほど」
僕は頷いた。
「帳簿が一冊になれば、分かりやすくなるんだね」
「帳簿が一冊になるだけならな」
ゼロが苦い顔をした。
「問題は、その次だ」
原簿中枢に、契約の最後の条文が表示された。
【統合に伴う承継条項】
【未確認の権利および債務は、統合後の管理者が引き継ぐ】
「……え?」
僕は文字を読み直した。
「未確認のものまで?」
「そうだ」
ゼロが答える。
「誰の権利か分からないものも。金額が決まっていない借金も。支払いが必要なのか分からない契約も。全部、管理者が引き継ぐ仕組みだった」
マクダフが青ざめた。
「旦那ぁ……」
「なに?」
「これ、俺でも危険だと分かりますぜ」
「珍しいね」
「珍しいって何ですかい!」
おっさんが苦笑した。
「つまり、権利を整理する代わりに、分からない問題を全部一人に押しつける契約だったわけか」
「その通りだ」
ゼロは頷いた。
「昔の管理者は、それで解決できると思ったんだろうな」
僕は、少し考えた。
「でも、権利者も借金も、全部調べてからまとめればよかったんじゃない?」
「……」
ゼロが僕を見た。
おっさんも、リゼさんも黙った。
「何?」
僕が首を傾げる。
ゼロは、ゆっくりと息を吐いた。
「それができなかったんだよ」
「どうして?」
「時間も人手も足りなかった。それに、契約が増えるたびに、管理する仕事まで増えていった」
ゼロは古い記録を指差した。
「急いで整理するために、分からないものまで一括で引き受けることにしたんだ」
「……」
「だが、未確認の権利が残ったまま契約を実行すれば、どうなる?」
おっさんが答えた。
「今ある借金を整理できても、後から新しい請求が出てくる」
「そうだ」
ゼロが頷く。
「管理者が知らない借金まで、全部引き受けることになる」
僕は、ようやく分かった。
権利を一つにまとめれば、確かに管理はしやすくなる。
でも。
分からないものまで引き受けたら。
整理するどころか、新しい問題が増える。
「だから、ゼロは止めたんだね」
「ああ」
ゼロは目を伏せた。
「最初は、俺もこの契約が鉱山を救うと思っていた」
「……」
「だが、最後の条文を確認して気づいた。これは、問題を解決する契約じゃねぇ」
一拍。
「問題を、一人に押しつける契約だった」
僕は、ゼロの顔を見た。
百二十年前。
彼はその危険に気づいた。
だから、最終作業を完了させなかった。
契約が実行されないように、止め続けたのだ。
「でも、ゼロ」
「なんだ?」
「ずっと止めていたら、鉱山の問題は解決しないよね?」
「……その通りだ」
ゼロは苦笑した。
「だから今、こうなってる」
未整理の契約が六千件以上。
古い借金。
分からない権利者。
そして、勝手に契約を作ろうとする自動執行機構。
全部が、今も残っている。
「じゃあ、今度こそ整理しよう」
僕が言った。
ゼロが目を上げる。
「どうやって?」
「まず、誰が何を持っているのか調べる」
「うん」
「本当に払う必要があるお金なのかも調べる」
「うん」
「それから、確認できたものだけをまとめる」
僕は原簿中枢を指差した。
「分からないものは、分からないまま記録しておく。勝手に僕の借金にしない」
おっさんが笑った。
「いい考えだ」
リゼさんも頷いた。
「確認済みの権利と、未確認の権利を分けて管理するのですね。それなら、正当な権利者を守りながら整理を進められます」
「ただし」
ゼロが釘を刺した。
「それを実現するには、今の原簿中枢の仕組みを変更しなきゃならねぇ」
「できるの?」
「分からねぇ」
「……」
「だが、試す価値はある」
そのとき。
原簿中枢が光った。
【鉱山権利・債務統合契約】
【実行条件:最終作業完了】
【実行予定:管理責任者の承認後】
ゼロの顔が険しくなる。
「まだ、俺の承認を待ってやがる」
「じゃあ、承認しなければいいんだよね?」
「今はな」
ゼロが答えた。
「だが、管理設備の異常が続けば、別の条件で自動処理が再開する可能性がある」
キュ太郎が、管理箱の上に飛び乗った。
「キュ!」
【緊急保全管理権】
【統合処理の停止:一時有効】
【恒久停止:条件未達】
「……まだ完全には止められないんだ」
僕が呟く。
「そうだ」
ゼロが頷いた。
「最終作業を完了させるには、古い契約の問題を整理する必要がある。そして、その前に自動執行機構を安全に管理できるようにしなきゃならねぇ」
おっさんが腕を組んだ。
「つまり、やることは三つだな」
指を折る。
「一つ。旧契約を確認する」
「うん」
「二つ。自動執行機構を安全に管理できるようにする」
「うん」
「三つ。最後の契約を実行しなくても、最終作業を終えられる方法を探す」
ゼロは頷いた。
「そういうことだ」
僕は少し安心した。
全部を一度に解決する必要はない。
順番に調べていけばいい。
そのとき。
原簿中枢に、新しい文字が浮かんだ。
【未確認権利者への通知】
【管理者ジョンによる契約整理方針を検知】
【権利者への確認手続きが必要です】
「権利者への通知?」
リゼさんが表示を確認する。
「契約の整理を進めるなら、関係者に知らせる必要があります。確認に参加してもらうための手続きでしょう」
「なるほど」
僕は頷いた。
「じゃあ、みんなに知らせよう」
ゼロが笑った。
「そうだな。鉱山を動かすには、地下で帳簿を見てるだけじゃ駄目だ」
マクダフが勢いよく立ち上がった。
「旦那ぁ! 通知なら俺に任せてくだせぇ!」
「本当に?」
「ええ! 町中に知らせてきます!」
「じゃあ、勝手に券を作らないでね」
「……」
「分かった?」
「分かりました」
マクダフは肩を落として出ていった。
僕たちは、まず関係者への通知と旧契約の確認を始めることにした。
ところが。
しばらくして、マクダフが戻ってきた。
「旦那ぁ……」
「どうしたの?」
マクダフは、申し訳なさそうに一枚の紙を差し出した。
【マーカット鉱山・旧権利者説明会】
【参加者:自由】
【議題:古い契約の確認と整理】
「うん。いいんじゃない?」
「その下を見てくだせぇ……」
小さな文字で、こう書いてあった。
【参加費:無料】
【ただし、参加者は自分の権利証券を持参すること】
僕は頷いた。
「これなら、みんなに来てもらえるね」
ゼロが紙を覗き込む。
「……おい」
「なに?」
「なんで、もう参加申し込みが三百件も来てるんだ?」
「えっ?」
僕は紙を見た。
確かに。
裏面には、参加希望者の名前がびっしり並んでいた。
しかも、その中には。
【中立共栄大金庫】
【セドリック商会】
【旧採掘権証券保有者連絡会】
など、見覚えのある名前が並んでいる。
おっさんが笑った。
「ジョン。説明会を開くだけで、町の大事件になりそうだな」
僕は、少しだけ不安になった。
でも。
これまでのように、勝手に契約を作るわけじゃない。
まず、話を聞く。
誰が何を持っているのか。
何を約束したのか。
そして。
何を守らなければならないのか。
それを、一つずつ確認する。
「よし!」
僕は帳簿を抱えた。
「説明会の準備をしよう!」
ゼロがため息をついた。
「……今度は、契約書の山に埋もれることになりそうだな」
そして。
原簿中枢の奥では。
【最終契約】
【実行待機】
という文字が、静かに点滅し続けていた。
【あとがき:現在のステータス】
【スキル】
■武器系
刀剣スキル 20
盾スキル 3
戦闘技術スキル 13
■生産系
料理スキル 13
■その他
鑑定スキル 0.3
【所持金】
141G(銀行預け金:250G(銅貨2枚、半銅貨5枚))
ジョン
「分からない借金まで、勝手に引き受けるのは駄目なんだね」
おっさん
「そうだ。まず調べる。それから判断する」
マクダフ
「旦那ぁ、説明会の参加費を取れば――」
ゼロ
「無料って書いてあるだろうが!」
マクダフ
「冗談ですぜ!」
ジョン
「本当に?」
マクダフ
「……半分くらい」
【所持アイテム】
・???のスクロール×6
・採掘計画書
・旧マーカット鉱山の古地図
・マーカット鉱山 最終採掘記録
・謎の紫色の鉱石
・謎の金属片(鑑定不能)
・採掘した紫色の鉱石×2
・新しく発見した謎の金属片
・「採掘は順調です。予定通り、地上へ出ます」と書かれた紙
・新M資金・マーカット鉱山復興応援券×1
・第零坑道採掘許可証0007
・第零坑道採掘管理記録
・第零坑道・旧採掘権証券×1
・マーカット鉱山・採掘権原簿(管理箱)
・ガレスのツルハシ(借用中)
・第七坑道作業責任者のツルハシ
・中古の斧(30Gで購入)
・新しい帳簿×5
・余り紙
・ロープ
・水筒
・奴隷のマクダフの野郎
・武器破損した剣
・???の指輪(バンステ金策で入手)
・ゴブリン(テイム)
・ケムトレイル群(立場:保護対象、詳細不明)
・キュ太郎(緊急保全管理権を取得)
・原簿管理妖精「ゼロ」
・旧労務台帳(確認中)
・第零坑道・最終作業記録(未完了)
・ガレス家の古い帳簿(調査中)
・副責任者の特別報酬記録
・鉱山永続維持契約の記録
・鉱山権利・債務統合契約の記録
・旧権利者説明会の案内
【投資・契約】
・中立共栄大金庫投資案件(ポーシャ支店)
元本:金貨10枚
状態:運用中
想定利回り:2倍〜5倍(説明ベース)
詳細:非公開/高リスク
・旧契約6,420件が未確認
・未払賃金:金貨三枚
・受取人:ガレス家
・支払条件:第零坑道の最終作業完了後
・鉱山権利・債務統合契約は未実行
・未確認の権利や債務を管理者が引き継ぐ条項が存在
・契約の自動執行機構は一時停止中
・新規契約の自動生成を恒久停止する方法は未確定
・旧権利者説明会を開催予定
【M資金】
・小口M資金券が継続流通
・商人間の決済や商品購入に使用
・現金交換、転売、投資対象化
・第三者による派生券も存在
・マクダフ発行「赤字安心券」
・「採掘利益参加証」
・「旧債務連動券」
・マーカット鉱山関連券の取引市場
・M資金指数
・旧契約の整理方針が周知され、権利者への説明と確認が必要になった
【所有者選定】
第一段階:経済的貢献度
→ジョンがトップ
第二段階:実地運用試験
→ジョンが暫定首位
第三段階:所有責任審査
→最終判定終了
現在の立場:
✅ジョンはマーカット鉱山の暫定管理者
✅キュ太郎が緊急保全管理権を保有
✅有効な契約を守りながら、旧契約を整理する方針
✅未確認の権利や債務を自動的に引き受けない方針
✅旧権利者説明会を準備中
【本日の収支】
141G(変動なし)銀行預け金250G(変動なし)
※ジョン個人の所持金に変動はありません。
【今回の進展】
✅最後の契約「鉱山権利・債務統合契約」の内容が判明
✅未確認の権利や債務まで管理者が引き継ぐ条項が存在
✅ゼロが過去に契約の危険性に気づき、実行を止めていた
✅確認済みの契約と未確認の契約を分けて整理する方針を決定
✅新規契約の自動生成を安全に停止する必要性が明確になる
✅旧権利者説明会を開催する準備が始まる
✅説明会に三百件の参加希望が集まる
ジョンの一言
ジョン
「まずは、みんなの話を聞いてから決めよう」
ゼロ
「それでいい。契約を整理するのは、勝手に消すためじゃねぇ」
おっさん
「正しい権利を守りながら、問題のある部分を一つずつ整理するんだ」
マクダフ
「旦那ぁ、三百人も来るなら会場が必要ですぜ」
ジョン
「じゃあ、みんなが入れる場所を探そう」
次回。
第176話 旧権利者説明会、参加者三百人!
ジョンは、初めて大勢の権利者を前に説明することになる。
しかし。
参加者の中には、自分の権利が消されると勘違いしている者や、まだ有効か分からない証券を高値で買った者もいた。
そして説明会の冒頭。
一人の老人が、誰も知らないはずの「最後の契約」の原本を持って現れた――。