異世界金策 一攫千金!〜初心者冒険者必見?転移おっさんの怪しい儲け話Readme.exe〜 作:raixip
ジョンは、権利を勝手に消さず、有効な契約を確認し、分からないものは分からないまま記録する方針を説明した。
そこへ現れたのは、百年以上前の統合契約の原本を保管してきた老人。
その原本には、すべての権利者の同意がなければ、統合契約を実行できないと記されていた。
さらに、最後の同意者を示す別文書も発見される。
そこに書かれていた名前は。
キュ太郎。
原簿中枢は、キュ太郎を最終同意者の候補として検出した。
もし、この契約が実行されれば、マーカット鉱山に関わる権利と債務が一つにまとめられる可能性がある。
しかし、その契約には、未確認の債務まで引き継がせる条項があった。
ゼロは、実行を止めようとしている。
そして。
キュ太郎は、初めてジョンの手から離れようとした。
「三百人って、本当に全員来るの?」
僕は、説明会の会場を見渡した。
鉱山の近くにある古い集会所。
そこに机を並べただけなのに、すでに人がいっぱいだった。
商人。
鉱夫。
冒険者。
銀行関係者。
貴族の使い。
そして、古びた紙を大切そうに抱えている人たち。
みんな、マーカット鉱山に関係する権利を持っているらしい。
「……僕、こんなに大勢の前で話すの?」
「そうだ」
ゼロが即答した。
「暫定管理者だからな」
「おっさん、代わりに説明してよ」
「俺は鉱山の管理者じゃねぇだろ」
「ゼロは?」
「俺は説明役だ。お前が決めた方針を説明するのは、お前の仕事だろ」
「うう……」
マクダフが横から顔を出した。
「旦那ぁ。ここは商売のチャンスですぜ」
「何の?」
「説明会の前に、資料を売るんです!」
「無料で説明するんじゃないの?」
「資料は別料金で……」
「駄目」
「まだ値段も言ってませんぜ!」
「言わなくても駄目だよ!」
おっさんが笑った。
「よし。これで最初の説明は終わったな」
「何が!?」
そんなやり取りをしているうちに。
リゼさんが前へ出た。
「皆様、本日はマーカット鉱山の旧契約について、確認と整理を行います」
会場が静かになった。
「最初に申し上げます。今日の説明会で、皆様の権利を一方的に取り消すことはありません」
その言葉に、何人かが顔を上げた。
「また、借金の額を勝手に確定したり、未確認の債務を新しい管理者へ無条件で引き継がせたりすることもありません」
会場がざわつく。
「では、何をするんだ?」
前列の商人が尋ねた。
僕は立ち上がった。
「誰が何の権利を持っているのか、順番に確認したいんです」
「確認して、どうする?」
「本当に有効な契約なら、ちゃんと守ります」
僕は一度、会場を見渡した。
「でも、もう終わっている契約なら、終わったことを記録します。分からないものは、分からないまま残して、勝手に決めないようにします」
少し静かになった。
「それだけか?」
「うん。それが最初の仕事だよ」
すると。
会場の後ろから声が上がった。
「そんな悠長なことをしていては、鉱山はいつまでたっても再開できない!」
貴族側の代理人だった。
「六千件以上の契約を一つずつ調べるつもりか? 何年かかると思っている!」
僕は答えた。
「分からない契約を、間違って引き受けるよりいいと思う」
「しかし、費用がかかる!」
「うん」
「調査する人間にも給料が必要だ!」
「うん」
「その費用は誰が払うんだ?」
僕は少し考えた。
「……それも、みんなで相談して決めたい」
代理人は、呆れたように息を吐いた。
「話にならんな」
だが。
会場の端に座っていた老人が、ゆっくり立ち上がった。
「いや。話になっている」
全員が振り向いた。
老人は、古い杖をついて前へ進んできた。
手には、革で包まれた細長い箱。
「若い管理者の言う通りだ。まずは、何が有効で、何が終わっているのかを確かめるべきだ」
リゼさんが尋ねる。
「失礼ですが、あなたは?」
老人は答える前に、革の箱を机へ置いた。
「私は、マーカット鉱山の旧契約を保管してきた者だ」
「旧契約の保管者?」
ゼロの目が細くなった。
老人は革を開いた。
中から現れたのは、何枚もの古い紙だった。
紙の端は黄色く変色している。
印章も、ところどころかすれていた。
しかし。
一番上の表題を見た瞬間。
ゼロの顔色が変わった。
【鉱山権利・債務統合契約】
その下には。
【原本】
と記されていた。
「……なんだと?」
ゼロが机に駆け寄る。
「その原本、どこで手に入れた?」
老人は静かに答えた。
「手に入れたのではない。私の家で、代々保管してきたのだ」
「なぜ今まで出さなかった!」
「出せなかったからだ」
老人は、ゼロをまっすぐ見た。
「この契約には、まだ公表していない条項がある」
会場が静まり返った。
僕は契約書を覗き込んだ。
難しい文字ばかりだったが、最後のページに目が止まった。
そこには。
赤い印が押されていた。
そして、その下に。
【統合契約の実行条件】
【全権利者の同意を必要とする】
「……全員の同意?」
僕が読み上げると、リゼさんが原本を確認した。
「確かに、そう記されています」
会場が一気にざわついた。
「待て! 全員だと?」
「三百人どころではないぞ!」
「すでに亡くなった権利者はどうするんだ?」
「相続先が分からない者もいる!」
老人は頷いた。
「その通りだ」
ゼロは歯を食いしばった。
「だから昔の管理者は、統合契約を実行できなかったのか……」
「違う」
老人が言った。
「実行できなかったのではない」
一拍。
「実行してはならなかったのだ」
会場が静かになった。
僕は老人を見た。
「どういうこと?」
老人は、もう一枚の紙を取り出した。
今度の紙は、ほかの契約書よりも古い。
表題もない。
ただ、中央に一文だけ書かれていた。
【最後の一人の同意が得られるまで、統合を実行してはならない】
「最後の一人?」
おっさんが尋ねた。
「誰のことです?」
老人は、ゆっくり首を振った。
「分からない」
「分からないのに、どうして保管していたんです?」
「この文書が、統合契約と一緒に保管されていたからだ」
ゼロは紙を見つめていた。
そして。
小さく呟いた。
「……そういうことか」
僕はゼロを見た。
「何か分かったの?」
「いや。まだ確かめる必要がある」
ゼロは老人に向き直った。
「この文書の最後に、名前はあるか?」
老人は、紙を裏返した。
そこには、古い署名が一つ。
かすれた印章とともに、名前が記されていた。
【最終同意者】
【キュ太郎】
「……え?」
僕は胸ポケットを見た。
キュ太郎が顔を出す。
「キュ?」
会場の三百人が。
一斉に、僕の胸ポケットを見た。
マクダフが、震える声で言った。
「旦那ぁ……」
「なに?」
「これ、もしかして……」
ゼロが、静かに答えた。
「ああ」
そして。
僕たちにしか聞こえない声で。
「最終契約を実行するかどうか、最後に決める権利を持っているのは――」
ゼロはキュ太郎を見た。
「お前の胸ポケットにいる、その毛玉かもしれねぇ」
キュ太郎は。
「キュ!」
と鳴いた。
その直後。
原簿中枢から、警告音が響いた。
【最終同意者を検出】
【キュ太郎】
【統合契約・実行条件が成立する可能性】
ゼロが叫んだ。
「全員、契約書に触るな!」
しかし。
もう遅かった。
古い原本の最後のページに。
新しい文字が、ゆっくりと浮かび上がっていた。
【最終同意者による確認を開始します】
僕はキュ太郎を抱き上げた。
「待って! まだ何も決めてないよ!」
表示は止まらない。
そして最後に。
たった一つの質問が現れた。
【マーカット鉱山に関わるすべての権利と債務を、ひとつにまとめますか?】
会場は、静まり返っていた。
僕は答えられなかった。
だって。
それを決めるのは、僕じゃない。
そして。
僕の胸ポケットにいるキュ太郎が。
初めて。
僕の手から離れようとした。
【あとがき:現在のステータス】
【スキル】
■武器系
刀剣スキル 20
盾スキル 3
戦闘技術スキル 13
■生産系
料理スキル 13
■その他
鑑定スキル 0.3
【所持金】
141G(銀行預け金:250G(銅貨2枚、半銅貨5枚))
ジョン「キュ太郎が、最後の同意者なの?」
おっさん「原本が正しければ、そういうことになる」
マクダフ「旦那ぁ。あの毛玉、鉱山の権利を全部まとめるかどうか決められるんですかい?」
ゼロ「まだ確定してねぇ! だから勝手に触るな!」
リゼ「まず、原本の真正性と条項の有効性を確認しましょう」
【所持アイテム】
・???のスクロール×6
・採掘計画書
・旧マーカット鉱山の古地図
・マーカット鉱山 最終採掘記録
・謎の紫色の鉱石
・謎の金属片(鑑定不能)
・採掘した紫色の鉱石×2
・新しく発見した謎の金属片
・「採掘は順調です。予定通り、地上へ出ます」と書かれた紙
・新M資金・マーカット鉱山復興応援券×1
・第零坑道採掘許可証0007
・第零坑道採掘管理記録
・第零坑道・旧採掘権証券×1
・マーカット鉱山・採掘権原簿(管理箱)
・ガレスのツルハシ(借用中)
・第七坑道作業責任者のツルハシ
・中古の斧(30Gで購入)
・新しい帳簿×5
・余り紙
・ロープ
・水筒
・奴隷のマクダフの野郎
・武器破損した剣
・???の指輪(バンステ金策で入手)
・ゴブリン(テイム)
・ケムトレイル群(立場:保護対象、詳細不明)
・キュ太郎(緊急保全管理権を取得)
・原簿管理妖精「ゼロ」
・旧労務台帳(確認中)
・第零坑道・最終作業記録(未完了)
・ガレス家の古い帳簿(調査中)
・副責任者の特別報酬記録
・鉱山永続維持契約の記録
・鉱山権利・債務統合契約の原本
・最終同意者に関する古い文書
【投資・契約】
・中立共栄大金庫投資案件(ポーシャ支店)
元本:金貨10枚
状態:運用中
想定利回り:2倍〜5倍(説明ベース)
詳細:非公開/高リスク
・旧契約6,420件が未確認
・未払賃金:金貨三枚
・受取人:ガレス家
・支払条件:第零坑道の最終作業完了後
・鉱山権利・債務統合契約は未実行
・原本に「全権利者の同意が必要」と記載
・最後の同意者としてキュ太郎の名前が記載
・原簿中枢がキュ太郎を最終同意者候補として検出
【M資金】
・小口M資金券が継続流通
・商人間の決済や商品購入に使用
・現金交換、転売、投資対象化
・第三者による派生券も存在
・マクダフ発行「赤字安心券」
・「採掘利益参加証」
・「旧債務連動券」
・マーカット鉱山関連券の取引市場
・M資金指数
・旧権利者説明会が開催され、原始契約に関わる重要な条項が判明
【所有者選定】
第一段階:経済的貢献度
→ジョンがトップ
第二段階:実地運用試験
→ジョンが暫定首位
第三段階:所有責任審査
→最終判定終了
現在の立場:
✅ジョンはマーカット鉱山の暫定管理者
✅旧権利者への説明と契約確認を開始
✅統合契約の原本が発見される
✅全権利者の同意が必要と判明
✅キュ太郎が最終同意者候補として記録されている
【本日の収支】
141G(変動なし)銀行預け金250G(変動なし)
※ジョン個人の所持金に変動はありません。
【今回の進展】
✅旧権利者説明会を開催
✅契約の原本を保管してきた老人が登場
✅統合契約には全権利者の同意が必要と判明
✅最後の同意者を確認するための別文書を発見
✅最後の同意者としてキュ太郎の名前が記載
✅原簿中枢がキュ太郎を最終同意者候補として検出
✅統合契約の実行確認が自動的に始まる
ジョン
「キュ太郎。これ、君が決めることなの?」
キュ太郎
「キュ……」
おっさん
「まだ答えを急ぐな。原本が本物か、権利が今も有効か、確認することがある」
ゼロ
「その通りだ。絶対に勝手に承認させるな」
次回。
第177話 キュ太郎が選ぶ答え
統合契約を実行すれば、複雑な権利関係が整理されるかもしれない。
だが、その代わりに、未確認の借金まで一つにまとめられる可能性がある。
ジョンたちは、キュ太郎が何を選ぶのか見守ることになる。
ところが。
契約書の裏側に、もう一つの署名が浮かび上がった。
その名前は――百二十年前に最終作業を担当した、ガレス家の人物だった。