異世界金策 一攫千金!〜初心者冒険者必見?転移おっさんの怪しい儲け話Readme.exe〜 作:raixip
「返ってこない……?」
ジョンの顔から血の気が引いた。
金貨十枚。
今のジョンにとっては大金だ。
その大金が。
返ってこないかもしれない。
そんな話は聞いていない。
「えっと……」
ジョンは支店長を見る。
「昨日は、増えるって」
「はい。」
支店長は笑顔だった。
「増える可能性がございます。」
「でも返ってこないって」
「可能性がございます。」
「増えるんですよね?」
「可能性がございます。」
「返ってこないんですよね?」
「可能性がございます。」
同じだった。
何を聞いても。
同じ答えだった。
ジョンの頭がこんがらがる。
「おっさん。」
「なんだ。」
「この人、壊れてません?」
「壊れてるんじゃねぇ。」
おっさんは支店長を見た。
「完成してるんだ。」
支店長は笑顔のままだった。
「ありがとうございます。」
褒められたと思ったらしい。
違う。
全然違う。
ジョンはますます不安になる。
その時だった。
キュ太郎が。
また契約書を前足で叩いた。
ペシッ。
別のページだった。
おっさんが目を落とす。
眉がぴくりと動く。
「今度はなんです?」
ジョンが覗き込む。
当然。
読めない。
「……坊主。」
「はい。」
「これ。」
おっさんは紙を指差した。
「利益が出たら。」
「はい。」
「手数料を引く。」
「はい。」
「利益が出なくても。」
「はい。」
「管理手数料を引く。」
「はい。」
「途中でやめても。」
「はい。」
「違約金を引く。」
「……はい。」
「満期まで持ってても。」
「はい。」
「成功報酬を引く。」
ジョンは黙った。
少し考える。
そして。
「いつ増えるんですか?」
おっさんも考えた。
支店長も考えた。
数秒後。
支店長が口を開く。
「市場環境によります。」
また知らない言葉だった。
ジョンは諦めた。
分からない。
この人の話は難しすぎる。
すると。
キュ太郎が。
「キュ!」
突然。
契約書をくわえた。
「あっ!」
ジョンが止めるより早かった。
パクッ。
食べた。
「……」
部屋が静まり返る。
支店長の笑顔が。
初めて消えた。
「え?」
素の声だった。
契約書が。
なくなった。
完全に。
食べられた。
「キュ」
キュ太郎は満足そうだった。
数秒後。
ポトン。
机の上に何かを吐き出した。
一枚の紙だった。
ジョンが拾う。
「なんだこれ?」
昨日の契約書より。
ずっと短い。
紙一枚。
大きな文字だけ。
【元本保証なし】
【損失は契約者負担】
【当金庫は一切責任を負いません】
それだけだった。
ジョンでも読めた。
「……。」
ジョンは紙を見る。
支店長を見る。
また紙を見る。
「つまり。」
「はい。」
「これだけ読めばよかったんですか?」
支店長は答えなかった。
答えられなかった。
おっさんが吹き出す。
「はっはっは!」
久しぶりだった。
腹を抱えて笑っている。
「なるほどな!」
「キュ太郎は。」
笑いながら言う。
「難しい紙を食って。」
「大事なところだけ残したらしい。」
ジョンは感心した。
「すごい!」
「すごくねぇよ。」
おっさんは笑いながら首を振る。
「銀行が一番嫌がる能力だ。」
支店長は。
本当に嫌そうな顔をしていた。
その頃。
中立共栄大金庫ポーシャ支店。
副支店長が慌てて走ってきた。
「支店長!」
「大変です!」
「なんだ。」
「例の投資案件ですが!」
「契約者が……」
息を切らしながら叫ぶ。
「調査したところ!」
「ケムトレイルの王と関係がある可能性が!」
支店長は固まった。
ゆっくりと。
ジョンを見る。
ジョンは。
キュ太郎を撫でていた。
何も知らずに。
支店長は思う。
(……解約してほしい。)
昨日までは。
「もっと投資してください。」
だった。
今日になって。
「お願いだから関わらないでください。」
へ変わっていた。
もちろん。
ジョンは。
そんなことも知らなかった。
【あとがき:現在のステータス】
【スキル】
■武器系
刀剣スキル 20
盾スキル 3
戦闘技術スキル 13
■生産系
料理スキル 13
■その他
鑑定スキル 0.3
【所持金】
2,171g(銀行預け金:11,250g(銀貨11枚、銅貨2枚、半銅貨5枚))
【所持アイテム】
・???のスクロール 6枚
・奴隷のマクダフの野郎
・武器破損した剣
・???の指輪(バンステ金策で入手)
・ゴブリン(テイム)
・ケムトレイル群
立場:保護対象
詳細:不明
【投資・契約】
・中立共栄大金庫投資案件(ポーシャ支店)
元本:金貨10枚
状態:運用中
想定利回り:2倍〜5倍(説明ベース)
詳細:非公開/高リスク
【装備品】
・骨護札の首かざり
・水トカゲの手袋(呪)