異世界金策 一攫千金!〜初心者冒険者必見?転移おっさんの怪しい儲け話Readme.exe〜   作:raixip

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第89話 銀行からのお願い

翌朝。

 

宿の食堂は妙に静かだった。

 

「……なんか視線を感じる。」

 

パンをかじりながら辺りを見る。

 

客が全員、こっちを見ていた。

 

目が合うと慌ててそらす。

 

「また何かしたんですかい。」

 

おっさんがため息をつく。

 

「してない。」

 

「本当に?」

 

「たぶん。」

 

俺は昨日を思い返す。

 

王都の調査官に話を聞かれた。

 

キュ太郎が契約書を食べ……いや、読んだ。

 

銀行の支店長が急に青ざめた。

 

……うん。

 

何も悪いことはしてない。

 

「全部ジョン坊が原因じゃないですか。」

 

「そうかなぁ。」

 

その時だった。

 

宿の入口から見慣れた男が入ってきた。

 

中立共栄大金庫ポーシャ支店。

 

支店長だ。

 

昨日とは違う。

 

顔色が悪い。

 

目の下にくままである。

 

「あ……。」

 

俺は立ち上がった。

 

「おはようございます。」

 

「お、おはようございます。」

 

支店長は深々と頭を下げた。

 

銀行の偉い人なのに。

 

ずいぶん丁寧だ。

 

「今日は追加の契約ですか?」

 

「い、いえ!」

 

ものすごい勢いで否定した。

 

「本日は別件でございます。」

 

「別件?」

 

支店長は周囲をちらりと見る。

 

「少々、お時間をいただけますでしょうか。」

 

「いいですよ。」

 

「ジョン坊。」

 

おっさんが小声で言う。

 

「また変な契約じゃありませんでしょうね。」

 

「昨日あんなことがあったばかりですからね。」

 

俺たちは宿の隅の席へ移動した。

 

支店長は座るなり、小さく頭を下げた。

 

「まず、お詫び申し上げます。」

 

「何をです?」

 

「昨日の契約でございます。」

 

「別にいいですよ。」

 

「いえ。」

 

支店長は苦笑した。

 

「私どもも利益を追う商売です。」

 

「商売ですもんね。」

 

「ですが……。」

 

そこで言葉が止まる。

 

何か言いにくそうだ。

 

「お願いがあります。」

 

「お願い?」

 

「はい。」

 

支店長はさらに声を小さくした。

 

「どうか……。」

 

ごくり。

 

唾を飲み込む音が聞こえた。

 

「当行を敵に回さないでください。」

 

「…………。」

 

「…………。」

 

俺とおっさんは顔を見合わせた。

 

意味が分からない。

 

「敵?」

 

「はい。」

 

「なんで?」

 

「え?」

 

支店長が固まる。

 

「え?」

 

俺も固まる。

 

「いや、敵って。」

 

「はい。」

 

「俺、銀行と戦う予定なんてありませんけど。」

 

「本当ですか?」

 

「本当ですよ。」

 

「巨大ゴブリンをけしかけたり……。」

 

「しません。」

 

「ケムトレイルを……。」

 

「知りません。」

 

「町を……。」

 

「壊しません。」

 

「……。」

 

支店長は椅子にもたれた。

 

肩の力が一気に抜ける。

 

「よ、良かった……。」

 

「何を心配してるんです?」

 

「いえ、その……。」

 

言いかけて、やめた。

 

話せない事情でもあるのだろう。

 

おっさんが腕を組む。

 

「支店長さん。」

 

「はい。」

 

「何を知ったんです。」

 

その一言で。

 

支店長の表情が凍った。

 

「……。」

 

「昨日と今日では別人ですよ。」

 

「……。」

 

「王都から何か連絡でも?」

 

支店長は答えない。

 

代わりに懐から一枚の封筒を取り出した。

 

「こちらを。」

 

「なんです?」

 

「投資契約の写しでございます。」

 

「写し?」

 

「はい。」

 

「重要事項だけをまとめ直しました。」

 

俺は目を丸くした。

 

昨日まで、

 

『読む必要ありません。』

 

そう言っていた銀行が。

 

今日は、

 

『読んでください。』

 

と言っている。

 

ずいぶん変わったな。

 

「ずいぶん親切になりましたね。」

 

「……。」

 

支店長は乾いた笑みを浮かべた。

 

「商売にも、時には誠実さが必要だと学びました。」

 

「へぇ。」

 

いいことだ。

 

世の中、正直が一番。

 

その時。

 

もぞもぞ。

 

ジョンの懐からキュ太郎が顔を出した。

 

「きゅ。」

 

支店長と目が合う。

 

「ひっ!」

 

支店長は反射的に椅子ごと後ろへ下がった。

 

「そんなに怖がらなくても。」

 

「きゅ?」

 

キュ太郎は首をかしげる。

 

そして。

 

封筒へ飛び乗った。

 

「きゅ。」

 

前足で、ぺらり。

 

中の紙を一枚だけ引き抜く。

 

「……またか。」

 

おっさんが苦笑する。

 

昨日と同じだ。

 

何枚もある紙の中から。

 

キュ太郎は一番大事そうな一枚だけを抜き出していた。

 

支店長は、その光景を見て青ざめる。

 

「やはり……。」

 

震える声が漏れた。

 

「読めるのですね。」

 

俺は笑った。

 

「毛玉なのに賢いですよね。」

 

支店長は何も答えなかった。

 

ただ。

 

キュ太郎を見つめる目だけが。

 

昨日よりも、さらに恐怖に染まっていた。

 




【あとがき:現在のステータス】

【スキル】
■武器系
刀剣スキル 20
盾スキル 3
戦闘技術スキル 13

■生産系
料理スキル 13

■その他
鑑定スキル 0.3

【所持金】
2,171g(銀行預け金:11,250g(銀貨11枚、銅貨2枚、半銅貨5枚))

【所持アイテム】
・???のスクロール 6枚
・奴隷のマクダフの野郎
・武器破損した剣
・???の指輪(バンステ金策で入手)
・ゴブリン(テイム)
・ケムトレイル群
 立場:保護対象
 詳細:不明

【投資・契約】
・中立共栄大金庫投資案件(ポーシャ支店)
 元本:金貨10枚
 状態:運用中
 想定利回り:2倍〜5倍(説明ベース)
 詳細:非公開/高リスク

【装備品】
・骨護札の首かざり
・水トカゲの手袋(呪)
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