モード TENKATORI
・攻城側7人と防衛側1人の非対称型戦闘モード
・残機は攻城側1人1つずつ、防衛側7。
・勝利条件
攻城側
最初に出現する、3つの櫓を落とすことで現れる2つの陣城を落とし、最後に天守閣を落とす。もしくは、7つの残機を削り切る。
防衛側
攻城側の残機を7つ削るか、1時間の天守閣防衛を成立させる。
・攻城側のPLにはスキル1つとウルト1つ。
・防衛側のPLにはスキル7つとウルト3つ。
・防衛側のPLは残機を消費することで牛鬼と呼ばれる強力なモブを好きな位置に配置させられる。
・防衛側はミニオンを自由に櫓、陣城、天守閣の周囲に5種類の設定された陣形を配置できる。
独自のルールとモードです。覚えなくてもいいです。
タイトルはざっくり冒涜的神話のその先。です
──
日が落ちるまでおよそ2時間。
それまでに事情を話し、人を集める。
黒鬼、阿久魔ヨウガ、彩葉と真実、ヤチヨ。
「……おい、あの野郎どこだ、今すぐぶっ殺してやる」
「やめてください……ナイア君だって望んだことじゃない」
血管が切れるのではないかというほどの青筋を立ててヨウガは怒りを顕にする。しかし、事情を知っている4人は彼の怒りを鎮めようとする。
「ナイア君なりの凄く苦しい決断だったんだよ」
「決断だぁ……?ゲームで人の人生決める程度のクソ邪神だろうが。ROKAを大切にするとかほざく嘘つきのクズの肩持つのか?」
「おい、やめろって」
「だったら最初から人の真似事なんざすんなっつー話だ。所詮お遊びなんだろ、大体神っつーくらいだ、最初から感情なんて──」
「やめてよ!!」
バチンッ!
ヨウガの止まらない暴言に、真実が声を荒げて静止した直後、頬に平手打ちをする。無論、痛みなど無いVRだが、確かに一同に傷を残す。
「二人のことなんにも知らないくせに!!」
「真実、待ってやってくれ……阿久魔も動転してるだけだ、な?」
「……」
「いいや、俺は正気だ。帝、この話降りさせてもらうぞ」
「!?」
「やってられるか。ROKAたんの記憶からクソ野郎が消えるならケッコー。俺がROKAたんを幸せにしてみせるぜ」
「……最ッ低!!」
「さんざん嘘の愛を伝えたあげく、ポイ捨てするどこぞのカスより百億倍マシだろうが。テメェらも目ぇ覚ませ。さっさとあんなヤツ忘れろ」
荒々しい言葉を吐き連ね、阿久魔はログアウトする。
「アイツも前のコラボで少し聞いただけだが……芦花ちゃんに救われてる口だし、否定だけはしてられない。悪くだけ思わないでやってくれ」
「……時間もない、作戦会議に移ろう」
帝と雷が主体でTENKATORIの作戦会議を始める。
「てか、今回のルールTENKATORIってマジ?確か神戦でまっったく遊ばれてないクソゲーでしょ?」
「よよよ〜……非対称戦はどうしてもバランスの調整が難しいのです〜」
「あぁ、総人口はKASSENの1%未満。"防衛側"が圧倒的に不利なルールだ」
「その理由は……」
「防衛側のやることがとにかく多すぎる。その点攻城側は楽だ。スキルとウルト一つずつで攻め落とすだけ。残機も単純に1人2つ持てる」
「……改めて確認しても酷いな。バランス」
「誰もやってないから結構放置しちゃった。でもでも、今回に限っては有利に働くし!」
「そうだ。1人抜けたのは痛いが、制限なしのヤチヨちゃんも今回は参加する。"月人"との戦い……あの時の轍は踏まない」
「チート使うの?」
「あぁ、今回は完全なプラベマッチ。ヤチヨちゃんも協力してくれるからエラコは出ないし強制解除もない」
「でも相手はナイア君。文字通りの神だよ」
「あぁ、魔術も遠慮なく使ってくるだろうな。だから……俺達の勝利条件を追加する。ヤチヨちゃん、"アレ"再現できるか?」
「もっちろん!でも、始まってから最低でも30分はほしい」
下準備は完璧。それぞれがゲーマーで人外との交戦経験もある現状最適の陣で、宇宙一のトリックスターに挑もうとする。
「芦花の為に、ありがとうございます!」
「うん……!絶対、絶対勝とう!それで……!」
「ハッピーエンド。だろ?やるぞ、雷、乃依。これ以上、宇宙の奴らを相手にブラックオニキスの敗北は重ねさせない」
「りょーかーい」
「あぁ」
──ー
一同が奮起する中、ログアウトした阿久魔は日課のギターを弾いていた。
頭の中では彼も分かっている。二人が幸せになるしかないことぐらい。自分では彼女の隣に立てないことくらい。
自分が先だった、自分の方が、自分だって。
何度も、何度も何度も問いと答えを繰り返す。
結果は全て同じ、彼しかいない。
「あぁ……くっそ。辛ぇな……!」
時計を見ると、開始まであと少し。
ふて寝しようとベッドに横になり、フォルダ化しているROKAの動画を流す。
配信初期の辿々しいもの、少し前の楽しそうに学生を謳歌している彼女。待ちに待った、卒業後の眩しすぎる笑顔。しかし、それら全部が百%の笑顔だったのに、この数ヶ月の動画には笑顔の中に混じる幸せの表情もある。
「ちくしょう……!!」
ピロンッ
不意に鳴るスマホの音。プライベートマッチの招待コード。送り主は、何故かメンバーのコウガ。
彼は今仕事中だと怪訝に思いながら、添付されたメッセージを読む。
説得【成功】
『お疲れ様っす、リーダー。俺バカなんで遠回しとか、誘導とか無理っす。だから直でいいます。行ってください。アンタが芦花ちゃん好きなことは重々承知で、ひっでぇこと言ってる自覚もあります。でも、やっぱりリーダーは行くべきっす。チェインロッカーズは、完全撃墜完全勝利。勝って、その上で正面から堂々と勝ち取ってください!!振られたら合コンセッティングするんで!吐くほど呑みましょう!』
「文がなげぇよ馬鹿野郎……お前に言われたら、行くしかねぇだろうが」
スマコンを装着し、彼は招待コードの場所へ飛んだ。
──ー
神戦 KASSEN
モード TENKATORI
「……来たか」
ヴゥンッ
戦闘アバターでステージ中央にて、星空を見上げて座るナイア。
顔を無貌の影で覆い表情を見せず、六人を待っていたと言わんばかりに立ち上がる。
「……1人、足りないが」
「気にすんな。それより、約束は守れよ」
「それこそ気にしないでくれ。契約は違えない。それが邪神というものだ」
ドロドロと不定形の触手が生え揃い、異形を為す姿。
その影から生成されるいくつもの化身の形。
そのどれもが、かの有名な"千の貌"だと察する一同。
「正気は削れない程度に調節する。君達の武器も、
「……なんで……」
「魔術は使わせてもらう。ルールから過度に逸脱しないよう、使う魔術は7つの魔術と3つの大型魔術に設定した。他は君達も好きにしろ」
普段の彼からはあり得ないほど素っ気ない態度。
突き放すことで自らの正気を安定させようとしているのだと、理解するのに難しい思考はいらない。
振り向いて自陣に向かう彼を、真実が呼びとめる。
「待って、ナイア君。一つだけ聞かせて」
「……なんだ」
「……芦花のこと、好き?」
「……………………でなければ、ここまで苦しんでいない」
やはり、彼女への想いには嘘をつけない。
ハッキリ言葉にしないのが唯一の彼の抵抗なのか、表情も声も形も不定形なまま答えた彼。
ギャリリイィィィンッッッ!!!
静かな開戦を、打ち破る一つの轟音。
エレキギターがかき鳴らされ、神を冒涜するが如く、静戦の両断を行い、矮小な悪魔が喧嘩を売りに現れる。
「邪神よぉ、聞いているかこの音色ぉ!!神だ人間だの前に俺と同じ女を愛した男同士!!とうとう登場、俺様轟々!!正々堂々……決着つけようぜぇ!!」
再びかき鳴らされるギターで場の雰囲気が触発される。
彼の登場に驚くでもなく、彼はそれを受け止めて自陣へと移動した。
攻城側
「……俺滑ったか?」
「いやまぁ……変にしんみりするよりかマシかもしれねぇ。それより言う事あんだろ?」
「……悪かったよ、真実、いろP。俺も分かってはいる。嫉妬で意地悪言ったわ」
「……うん。とにかく、二人の為に協力してくれるなら……」
「あぁ、そこは違う。これは俺の為」
「は?」
「ROKAたんを正面から正々堂々奪うことにしたぜ。完全撃墜、完全勝利が俺のモットーだからな!」
「……はぁ……まぁいいよそれで」
「で、作戦は?」
「30分。とにかく時間を稼いで〜、後はやっちょに秘策あり!あと今回は管理者権限でぜ~んぶのステータス大幅に上げてるから、やれるなら倒しちゃっても良いよ」
「おぉマジか!なんだよ、ヤチヨがズル許容すんならイケんじゃん!ここツクヨミなんだし!」
「……相手はナイアだぞ」
「どんな理不尽が来てもおかしくないよね〜、月の奴らん時もそうだったし」
「……時間だ。向こうはもう準備を終えてる」
防衛側
「………………開戦……」
残機を3つ消費
化身
赤の女王、チクタクマン、暗黒のファラオを配置
ミニオンとしてシャンタク鳥、
普段の角笛で始まる開戦とは異なり、邪神を崇め祀る冒涜的なキャロルが流れる。
時間制限もある中、7人は二手に別れる。
黒鬼三人と、他の四人。
ミニマップに等間隔で並ぶ最初の櫓を目指してライドに乗る七人。
「「「!!?」」」
開始、わずか16秒。
魔術(スキル)【無欠の投擲】×3
魔術(スキル)【
魔術(スキル)【肉体の強化】
ダメージ【2000D8=8991】
ダメージ【2000D8=5899】
ダメージ【2000D8=6624】
帝、ヤチヨ、彩葉が落ちる。
地上、上空、無差別に無数に振り注ぐ、あるいは撒き散らす、あるいは荒れ狂う理不尽。
一本の槍が透明な鏡板を通った瞬間、無限とも言えるほど増殖し、彼らを襲った。
阿久魔は先程の自分の発言を恥じる。
本心ではあったが油断があったわけではない。一度刃も交えた。だから彼の強さは誰より知っているはずだった。
浅はか。
邪神の力を、人の身で量ることなど出来はしない。
自陣で3人がリスポーンする。
「「「……」」」
「防げたか?」
「無理。見えただけでも50本以上同時に飛んできた。連発は出来ないみたいだけど……」
「い、今はとにかく合流を……あぁでも……」
「……ヤチヨちゃん、ここで待機。駄目だこれ、完全に対策されてるわ。特に主力になるメンバーを狙って落としに来てる。準備急いでくれ」
「うぅ……ごめんね。なるべく早く準備するから」
──
阿久魔サイド
「んっだありゃぁ!?ド級のチートも良いところだろうが!」
「舐めてた……ここまでなんて……!」
「このミニオン達も強ぇ!普通にその辺のPLとおんなじくらいだろ。油断したら被弾する!」
「?なに、急に動きが……」
「……」
パヒュンッ!!
突如、周りのミニオン達が平服して跪く。真実は知っている、いつぞやに見た、深紅のドレスを身に纏った女王。彼女は洋扇を振り、近くの夜鬼の首を落として嗤うと、優雅なカーテシーを披露する。
「ナイアーラトテップの化身が一つ。"赤の女王"。踊ってくださる?子猫ちゃん達。気に入ったら飼い殺してあげる」
「お断りだぜクソババァ」
直後、流れ出す舞踏曲。二人は頑張る体を押して戦いに臨んだ。
雷、乃依サイド
「無理でしょこれ」
「……言うな。俺達にやれることをやるだけだ」
一瞬で見せつけられた圧倒的な実力差に、半分諦めている乃依と雷はチートでさらにステータスを向上させ、ミニオン達を蹴散らしていく。
突然、轟音と共に地面が砕かれて化身が現れる。
浅黒い肌に、エジプト式の様相。攻撃性のなさそうな杖と、ナイアの面影は全くないものの、小柄ながら万人受けする顔をしている。
「我、化身の一つ。"暗黒のファラオ"。いただくぞ、ウヌらの魂」
「うっわー……」
「やるぞ、乃依。リーダーが来るまで時間を稼ぐ」
──
自陣、ナイアはピアノを弾いて歌を歌う。
最初の投擲以降、彼は干渉していない。
横では脛ほどまでの大きさで顔がスケルトンの時計になっている化身、"チクタクマン"がカチカチと速いテンポの音を鳴らしながら踊っている。
魔術【
──痛んだ胸も、弾んだ息も一つ残らずあなたのせいね──
歌う。ただ、奏で、歌い、自分の心根を音に乗せる。
"言葉"にすると戻れないと知っているから。決して色褪せないあの日々を、終わりにしたいから。ただ口から紡がれる音にする。
魔術【壊れた時計】
──消えない悲しみも、綻びも、あなたといれば、それでよかったねと笑えるのが──
化身がを一つ屠られるたび、残機を消費してチクタクマン以外の化身を向かわせる。
櫓が落ち、陣城が現れる。最初以降気が締まっているとはいえ、あの時以降誰も落ちていない。優勢を保てている。戦えている、まだ時間もある。そう一同は戦いの中で自分の時を刻んでいる。
自陣にいたヤチヨだけが、この不気味さに気づいた。
「……なんてこと……」
掌の上で転がされるとは、まさしくこのことだと。
やがて、一同は陣城を落として天守閣へ六人揃って辿り着く。
魔術と使い魔に演奏させ、骸骨の花嫁と天守閣で踊っていたナイアは、最後の魔術を発動する。
カチンッ……
魔術【壊れた時計】
──僕なしでどうか幸せになってね──
カチンッ……
「ミニオンは無し。残機も使い切ってる。後はお前が落ちるだけだ」
カチンッ……
「もう、私達の勝ちは揺るがないよ」
カチンッ……
「ナイア君……約束守ってくれんだよね、男に二言はないよね」
カチンッ……
「……リーダー、何か……おかしい気がする」
カチンッ……
「ねぇ、俺もなんか……」
カチンッ……
「クソッ……お前!!」
バシンッ!!
手遅れの違和感に気づいた帝はウルトを使って斬りかかる。しかし、魔術の触手が腕を掴んで武器を弾き落とす。
カチンッ……!
「今ここに、12の刻は刻まれた。人に非ずして、神に非ずの愚か者。悲しきかな、くらぶるかな?憐れよの、私」
「……タイムアップだ」
直後、七人のウィンドウに映るLOSEの文字。
帝とヤチヨ以外は驚愕の表情で固まる。それを嘲笑うかのようにチクタクマンが答え合わせを始める。
「「「「は……?」」」」
「なんで…まだ三十分くらいしか…!」
「"壊れた時計"この魔術は時間の間隔を早め、鈍らせる。君達人間の体内時計などアテにならんのだよ。最初からじわじわと、ゆっくりと、時間切れによる防衛の成功が、私の狙いだったのだよ。のう、私?」
「…………」
「おい……待てよ、そんな、ふざけんなよ……!」
「契約は……契約だ……!」
グパァッ……!
「ひっ……」
魔術【無貌】
ナイアの影が大きな口を開く怪物に変化し、最初に彩葉を呑み込む。
「1人…」
「彩葉ァ!!」
「「!」」
「2、3人……」
斬りかかる帝を躱し、即座に反応して雷と乃依がスキルで空中へ逃げて反撃するが、追撃に伸びた無数の触手が全て口に変化し、呑み込んでいく。
ゴォンッ!!
殴りかかる帝の金棒を片手で受け止め、左手を顔に向ける。瞬間的に逸らして飛び退くが、それはフェイクで足元から伸びていた影が口を開き、彼を落下させて呑み込む。
「4人」
「ふざけんな……ふざけんなっふざっけんなよ!正々堂々やれよ!」
「……やれば、満足かい」
銀の剣を取り出したナイア。怒りに身を任せて振り下ろされる両斧。
両斧【成功】
両斧【成功】
受け流し【成功】
ショートソード【成功】
ショートソード【成功】
ショートソード【成功】
ショートソード【成功】
ショートソード【成功】
回避【成功】
ダメージ【8D10+5D5=78】
78HIT!!
スキルも魔術も使わずして、一瞬の攻防に阿久魔のHPが削り切られる。
基礎性能の差。魔術など使わずとも、相手は理外の存在。人間の土俵にいくら降ろそうと、埋まらない差があった。
「阿久魔ヨウガ……いや、安久津陽くん」
「俺の……」
「……彼女を……頼むよ」
「ッふざっ……!!」
バクンッ!
「……5人」
呑み込まれ、ステージから消える。
無謀の影に浮かぶ無数の紅い瞳に睨まれ、真実は失意でへたり込み、謝ることしかできない彼女に、ナイアは左手を向ける。
「安心。かどうかはわからないが、肉体や精神に異常はない。私と深く関わった者達は……10分もすれば、忘れていく。諫山さん」
「うっ……うぅぅ……芦花ぁ……ごめんね……ごめん……」
「……ありがとう。ただ一時……夢を見せてくれて」
バクンッ
──
自陣から管理者権限で彼の前に立つヤチヨ。怒るでもない、悲しいでもない、ただやるせない。そんな複雑な表情で問いかける。
「これで、満足ですか。ナイア君」
「……さぁ…ただ…虚しいよ、果て無く」
「…………理外の理……ここまで太刀打ち出来ないとは」
「大方、羽虫の魔法陣で私に魔術を使わせないとかそういったところだろう。残念ながら、この身体は人より遥かに頑丈だし、死を知らない。ただの出来レースになる」
「……だから、自分を殺せる武器を授けたと?」
「……無意味だったがね。さぁ、終わりだ……もう、全部終わり。百年後か千年後か、ツクヨミが残っていればまた会うこともあるだろう。さらばだ、弱竹のかぐや姫。この這い寄る渾沌との契約、違えてくれるなよ」
パシュンッ
「……最低な…バッドエンドだよ…こんなの…!」
最後の後片付け。ナイアは芦花の家、自分の部屋だった場所に移動し、全てを虚空にしまい込む。
自分がいなくなったあと、衰弱している彼女の為に三人を残していた為、必然的に最後に顔を合わせる事になる。
「ごめん……ごめんね芦花……ごめん……」
「「…………」」
ただひたすら泣きじゃくる真実。立ち尽くす彩葉と朝日。
マグカップ。包丁。日用品。元々多くない所持品と共に、思い出と日常を消していく。
最後に、眠る芦花の薬指からクローバーの指輪を静かに外し、魂を戻す。
「…………」
ただ、静かに。元から何もなかったかのように、渾沌は消えた。
人の記憶とは、都合の良いように作り変わるもの。それを利用した忘却の魔術。
経過した時間でナイアの存在は忘却され、代わりに衰弱した芦花が目の前にいる。数日連絡の取れなかった"彼女の為"に来たのだと、三人は救急車を呼んだ。
阿久魔はライバーと推し活に精を出し、黒鬼達も1千万以上のファンの為にまた今日を生きる。
誰一人、人間達は不幸にならない。当たり前の奇跡を日常にしていく。
これがこのシナリオのエンディング。ただ未来に向かってひた歩んでいく。
ただ一時、たった3ヶ月の物語だったのだ。
〜完〜
ご愛読、ありがとうございました。
コロコロコロッ…
■■■のいた事実は世界から消えた。
人の脳というのは、一ヶ月の記憶の2割も覚えていられないらしい。そんな話をヤチヨはどこかで聞いた。
電子の歌姫であり元弱竹のかぐや姫、ヤチヨの中ではこの物語は終わり。彼女以外の人間にとっては、始まりすらない、題名などない冒涜的なお伽噺。いや、神が関わったのだから、神話と言うべきだ。
だから、これで終わり……だ、から……おわ……おワワワワワ
だ妛ら彁れ槞蟐終わ挧
…………………………
終わらせない。まだ、終わっていない。
──────────
契約通り、彼女は口を硬く閉ざし、重く受け止めた。
彩葉のような都合の良い超人は現れず、相手は万物を掌の上で転がせる神。
だからこそ、もしこの物語をもう一度始めることが出来るとするならば……それはきっと、実力の伴わないただの幸運だ。
コロンッ
幸運【決定的成功/クリティカル】
「ヤチヨ……!」
「芦花ちゃん……?」
ヤチヨ以外に許可なく侵入できないこの場所。見覚えのあるエラーコードと共に開いた扉から現れた二人と彼女の、決死の形相で全てを理解する。原理は分からず、彼女の頼みもまだ分からない。だが、それでも彼女は、応援したくなった。一言、優しく微笑んで応えた。
「……そっか。うん……もう一度、だね!!」
ここからは、語り手が放棄した人と神の物語。
はて…語り手とは?