神に恋した芦の花   作:レガシィ

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いやったぁぁぁぁ!!
皆応援しようね、私もこういう形でコンテンツを広げていくよ(泣)

それでは第二話、お楽しみください!


第二話 月によく似た仮想の地

 食事を終え、ナイアの優雅なエスコートで店を出て芦花は自分の新居へと向かう。

 

 外見や仕草は殆ど完璧に人間社会に溶け込んでいる彼に、どんな話をすればいいのだろうと頭を悩ませながら歩を進める。

 

 その様子を、ニコニコと笑顔を絶やさずにナイアは見つめていた。

 

「……見すぎなんですけど〜」

 

「おっと、すまないね。君の悩んでいる顔が好きなんだ」

 

「それ、あんまり言わないほうがいいよ」

 

「ハッハハ!手痛いね。もちろん、君にしか言わないさ」

 

 お店を出てからずっと笑顔の彼は、道行く人たちの視線を釘付けにしている。かくいう芦花自身も自分磨きを怠らない、天性の美人。

 

 各所から飛んでくる美男美女を称える声にいたたまれなくなり、足を速めた。

 

 ──ー

 

 都心のマンション。インフルエンサーとしての配信も続け、両親からの仕送りもある彼女は、ロフト付きの2DKの賃貸を契約している。

 

 配信部屋、自分の部屋と分けるつもりだったのが、予定が狂ってナイアとの同居になってしまった為、部屋の構成を見直そうとしていた。

 

「貴方って眠るの?」

 

「睡眠や食事の必要は無いけれど、なるべく君達と同じ日々を過ごしてみたいからねぇ。勿論、家賃や生活費は払うよ」

 

「じゃあ、ここの部屋使っていいよ」

 

「……部屋を使っていいのかい?倉庫やロフトの上くらいを覚悟していたが」

 

「その巨体入るのも窮屈だろうし逆に気になるわ。あ、それと配信の邪魔はしないでよ」

 

「配信……有名人なのかい?」

 

「そこそこね」

 

「……承認欲求は時に身を滅ぼす。厄介な輩が現れるとも限らないし、気を付けないといけないよ」 

 

「まさに今からまれてまーす」

 

 ナイアの性格をだんだんと理解してきた芦花も緊張がほぐれ、友人とまではいかずとも言葉に恐怖が含まれなくなってきている。

 

 魔術【無貌の触手】

 

 バツンッ!

 

「!」

 

 55【成功】

 

 減少値【0】

 

 まだ終わっていない引っ越しのダンボールの荷解きを進める最中、そのダンボール達が急に一人でに開く。

 

「私も手伝おう。見てはいけないものはあるかな?置く場所も指定してくれると助かるよ」

 

「びっ……くりした。今さらだけど、さっきのとかそれって魔法?」

 

「というより、魔術と呼ぶ方が正しいね。これらは技術だから、人間でも頑張れば使えるよ。魔法は理外の理だから、使える生物は限られる」 

 

「……これは?」

 

 プカプカと空中に浮かぶダンボールの中身たちが、芦花の指さした場所に飛んでいく。芦花にはもちろん驚きもあるがそれを冷静に受け止めた好奇心の方が勝ってしまった。

 

「透明な触手を、私の魔力を媒介に生やして動かしているんだ。君は魔術の才能もあるし、頑張れば半月くらいで1.2個くらいはちゃんと使えるようになるよ」

 

「い、いらないかな。勉強あるし」

 

「そう、それは残念」

 

 ナイアの手伝いであと2日程はかかると思われていた荷解きや、置いただけの家具の移動、リビングの模様替えなどが数十分足らずで完了する。未知の技術を扱い、丁寧に仕事を終わらせる姿に素直に感心する。

 

「さて、これで終わりかな?」

 

「ありがとう。七時……ご飯にしなきゃ」

 

「おぉ、家庭的だ。何か得意な料理でも?」 

 

「実はそんなに得意じゃないんだよね〜、ついこの間まで実家暮らしだし。自分で作るとしたらスムージーとかかな」

 

「……それはいけないだろう。食の為に命をかける連中も今までたくさん見てきたぞ私は」

 

 目星【成功】

 

 数種類の野菜や果物を冷蔵庫から出しながらそう言う芦花の手を、小言を言いながら制止する。その時にふと、ナイアは気付く。

 

「……芦花、少し袖をまくるよ」

 

「え、何急にちょっとっ……て、うわ……」

 

 捲った腕に、しっかりと残っている先刻のストーカーが掴んだ手の跡。痛みこそないのだろうが、確かに刻まれたそれに対して、ナイアは怒りと沈んだ表情を見せる。

 

「すまない……気が付かなくて……」

 

「ちょっとそんな顔しないでよ、大丈夫だって、明日には……あれ……?」

 

 見せた笑顔とは裏腹に、芦花の頬を涙が伝う。遅れてきた恐怖に、意思に反してカタカタと震える手に、驚いたナイアは神らしかぬ仕草でオロオロと慌てる。

 

「ろ、芦花……!?す、すまない、離れたほうが……!」

 

「う、うぅん、違う。ナイアじゃないよ……ただ、今さらになって……おかしいよね、ごめん……」

 

 目を擦って涙を零し続ける芦花の手を取り、その後にさらに静かに抱きしめてナイアは頭を優しく撫でる。

 

 移っていく確かな人と同じ体温に安心する彼女の震えはだんだんと収まっていく。

 

「大丈夫、大丈夫だよ。君はおかしくない、謝らなくていい。私の配慮が足りていなかったんだ。君達は脆いと知っていたのに……離れていようか。この身体では君の精神(こころ)が……」

 

「……お願い、もうちょっとだけ、このままでいて……」

 

「……お安い御用だ」

 

 落ち着く時間を作ろうとして抱擁を緩める彼だったが、反対に芦花は離れようとするナイアの腕をつかむ。彼女の願いを聞き届け、弱さを見せる芦花を抱きとめ、数分間の優しい沈黙が流れる。芦花は、弱さを見せることを恥じているわけではない、自らの気質も知っている。しかしそれ故、周りを気遣いすぎる彼女には、自分より努力している人間がいるという環境は自分を精神的に静かに追い詰めていたのだ。

 

 さらに、その人間が想い人ともなればなおさらであった。

 

「……うん、もう大丈夫」 

 

「そう……失礼、触るよ」

 

 スゥッ……

 

 流れた時間の後に、腕に向かってナイアが掌をかざして優しく撫でたことで、跡形もなく痕跡は消え去り、その光景ももう何度か見た魔術だと気付く。

 

「……ありがとう」

 

「すまない……君の心に傷をつけてしまった。あれだけ豪語したのに」

 

「謝らないでよ。ナイアがいなかったらもっと酷い目に遭ってたんでしょ、私なら大丈夫」

 

「……強いね、君は」

 

 聞き耳【失敗】

 

 呟くように言ったその言葉を拾えなかった芦花が聞き返そうとする。照れ隠しなのか、ナイアは芦花の頭を不意に撫でて食材達の処理を始める。

 

「座っていてくれ。まずは簡単で、美味しいものを振る舞おう。腕によりをかけるよ」

 

「なんか不安なんですけど……あんまり高いのとかやめてよ?」

 

「食費は私も出すよ?」

 

「感覚狂っちゃうって友達が言ってたし」

 

「なるほど……そういうことなら気をつけよう」

 

 制作[料理]【決定的成功/クリティカル】

 

 魔術を何の遠慮もなく使用し、虚空から食材を出してナイアは晩御飯を作り上げていく。気にしても疲れるのと恐らく害になるものは入れないだろうという、出会って数時間程度の小さな信頼から、それらを放置してスマホで友人と連絡を取りあう。

 

「8時半から……」

 

「何かあるのかい?」

 

「うわっ、早っ。もう終わったの?」

 

「あぁ、後は煮込んで終わりだ。あんまり本格的に作ると時間がかるから、今回はお手軽なものをとね」

 

 とても綺麗に片付けられた台所からはコトコトと鍋が音楽を奏でるように鳴っており、気付くと目の前でナイアは珈琲を飲んでいた。

 

「……それ、どうやって?」

 

「私(神)に聞くのかい?」

 

「確かに……って、そう、私その時間から友達と待ち合わせがあるから」

 

「待ち合わせ?こんな時間に?夜の一人歩きは危ないんじゃないか?」

 

「違う違う、"ツクヨミ"で」

 

「?……?あの矮小な生物のことか……?そもそも、場所ではなかったと記憶しているが……うん?君はアレと交信が……?」

 

 矮小。仮にも日本で最も有名な神の一柱をそう言い切る目の前の男(神)。面食らって、疑問が次から次へとという様子で浮かぶ彼の質問に、もはや慣れてしまった芦花は自然に答える。

 

「Virtualreality、仮想空間ってやつ。これ。"スマコン"っていうんだけど、これでログインするの。ツクヨミはその空間の名前。その辺の情報は疎いんだね」

 

「コンタクトじゃなかったのか……やたら最近の人間は探索したがらないなと思ってはいたが、まさかそんな物があったとは」

 

「人間のものなのに知らないんだね」 

 

「うーん……私は人間が好きなんであって、君達から創り出された物にイマイチ興味が持てないんだよねぇ、ドリームランドなら詳しいんだけれど」

 

「ドリームランド?」

 

「興味あるかい?そのうち行ってみようか」

 

「やめとく〜、もうそういうのお腹いっぱいだし」

 

「はは、美人に空腹は似合わないよ。食べてもらわねば困るけれど」

 

 バサァッ

 

 彼は大きな白い布を机に被せると、一気に空気を揺らし、舞うように払う。そこへ瞬時に現れたのは皿に盛り付けられたシチューとシンプルなサラダ、カクテル風に盛られた果物に、芦花が常食していると言っていたからか、作りたてのスムージーがテーブルを一瞬で彩った。

 

 11【成功】

 

 減少値【0】

 

「…………」

 

「ふふ、頑張ってみたんだ。君に振る舞う初めての食事だからね。明日からはもっとコストを抑えるから、今日は何も言わずに賞味してほしい」

 

「もうほんと……なんでもありだね」

 

 静かに手を合わせて、若干の怖さがありながらも食事を口へ運ぶ。その所作を真似するナイアは、自分も同じ事ができるのがとても嬉しいと言いながら食事を始める。

 

「美味っし……!完全にプロじゃん!」

 

「良かった。頑張った甲斐があったよ」

 

「もうさ、家に居候するならご飯全部ナイアが作ってよ」

 

「私は君の作るご飯も食べてみたいんだけどねぇ。自信がないなら、今度一緒に作ろうか」

 

「スパダリ〜……」

 

 食事を終えた一人と一体。協力して片付けをしていると、待ち合わせの時間が近づいていることに気付き、芦花は自分の部屋へと戻ろうとするのをナイアが呼びとめる。

 

「ツクヨミにはそれがあればいけるのかい?」

 

「そうだけど、うちにはこれしかないよ。行きたいの?」

 

「さっき少し調べたら興味が湧いてね。少し見てみたくなったんだ」

 

「難しいかも。パソコンは使ってもいいから、それで少し調べるくらいで我慢して」

 

「むぅ……まぁ、君が言うならそうしよう」

 

「じゃ、部屋には入らないでよ」

 

 パタリと閉じられたドア。暫し立ちつくした後、ボコボコと謎の目玉が浮くワインのような飲み物を嗜みながら、リビングにあるノートPCを開いて検索を始める。

 

 コンピューター【決定的成功/クリティカル】

 

 アイデア【決定的成功/クリティカル】

 

 知識【決定的成功/クリティカル】

 

「ふむ、なるほど……理解した。ふふ……」

 

 リビングの暗闇、彼の姿は次の瞬間に無くなった。

 

 ──ー

 

 ナイアと別れた後、自室で起動したスマコンで電子の海へと飛び込む。一瞬で変わる景色、コーラルピンクの髪色と鹿角に、自分の顔に似せた自らのアバター。

 

 味覚や嗅覚、触覚といったものは実装されていないものの、他の感覚が全てを行楽へ直結させる。空を飛び回るネオンの海洋生物や列車、そこかしこにある大きなモニターに映るAIライバー、"月見ヤチヨ"が盛り上げる、今宵もツクヨミは大勢のアバターで賑わっていた。

 

 リスポン位置は出店通りの外。

 

 既に待ち合わせの二人は待っていた。

 

「お待たー、待たせちゃった?」

 

「あ、芦花。全然、二人とも今来た所」

 

「わたしも~」

 

 マイペースだがしっかり者で、食べることが好きな諫山真実、アバターは丸い耳とふわふわの尻尾にもこもこのケープ、それにおにぎりやメロンパンなどの装飾を服につけたもの。

 

 狐の耳に黒を基調とした着物と現代的な組み合わがされた服にブーツ、鍵盤を模した対人ゲームの武器を背負っている酒寄彩葉。

 

 二人は芦花にとって大切な友人であり、先刻芦花の誕生日を祝った人物である。

 

「改めて〜、お誕生日おめでとー!」

 

「誕生日おめでと!」

 

「あはは、ありがと」

 

 ファンファーレとクラッカーの演出と共に二人は再び芦花を祝福する。

 

「でも珍しいね、いつも一番速いのに、何かあった?」

 

「家族と過ごしてた?」

 

「うん、そんなとこ〜」

 

 芦花は彩葉に特別な思いを寄せていた。彼女は昨年、大切な目標と大事な人を見つけ、もう芦花自身の春は過ぎていた。諦めきれない思いは虚となり残っていたが、彼女はそれを決して二人の前に出さない。

 

 無論、先程までの心の荒ぶりも表に出すことはない。

 

 隠すことに慣れてしまった彼女は、今日も笑顔を貼り付ける。

 

 歩き出し、賑やかな通りを会話しながら歩き出す。

 

「三人で集まれるの久し振りで楽しかったねー。芦花は一人暮らしの荷解き中でしょ?私明日手伝いに行こうか?」

 

「私も時間取れるよ。三人ならすぐじゃない?」

 

「あ、荷解きはついさっき終わったよ」

 

「え、もう?荷物届いたの昨日の夕方って言ってなかった?」

 

「すごっ、私の時なんて買い出し含めて丸一日かかったのに」 

 

 言いくるめ【成功】

 

「あはは、私、荷物少ないからね〜……」

 

 確かに終わってはいるが、それが人知を超えた力によるものだとは流石に言い出せない。しかし、この場の三人は昨年に似たような超常の現象には既に出会っている。

 

 隠し事はしたくない芦花は近いうちに言い出そうと思っているのは事実。

 

「今日KASSEN潜る?」

 

「いこいこ、ふじゅー欲しいし」

 

「お、行っちゃいます?いろPの神エイム期待してますよ〜」

 

 ふじゅー。現実でも使える電子マネーの類であり、ライバーや誰かの心を揺さぶるといった条件で運営から支給される。

 

 真実は飲食系で人気のライバー、彩葉は昨年、かぐやという少女とコンビで主に音楽と対人ゲームでNo.1ライバーに輝き、現在もその知名度は健在。

 

 芦花も美容系のライバーとして知名度は上がり続けている。

 

 しかし3人ともついこの間まで華の高校生。

 

 違えることのない友情をもつ少女達は今宵も普通にゲームを楽しもうと意気込んだ。 

 

 ──ー 

 

 コンピューター【自動失敗】

 

 目星【自動失敗】

 

 聞き耳【自動失敗】

 

 舞台、ツクヨミ。大きな丸い地形を見渡せる城を模した建築物。そこには歌って踊れて分身できるAIライバー。そう自ら設定した、元月人、月見ヤチヨの本体が座している。しかし何者かの不正な侵入に気付き、彼女と相棒であるウミウシ型のアバター、FUSHIはツクヨミ中の映像を確認していた。

 

「ヤチヨ、どうしよう、まただ。見つからないよ」 

 

「……いとあやし。私の作り上げたプロテクトを何度も抜けてこれるなんて。……仕方ない、念の為に彩葉に連絡しましょう。何処かのイタズラ猫ちゃんの仕業かもしれないし、そうじゃないかもしれない」

 

 ──ー

 

 KASSEN(神戦)。陣取り合戦システムSENGOKU、一対一のシステムSETUNA。非対称攻防システムTENKATORI

 

 三人はSENGOKUに参戦し、トップランカーに引けを取らない彩葉のプレイスキルと連携で勝利を重ねていく。

 

「さっすが、彩葉強すぎ〜」

 

「いえーい、芦花と真実も牛鬼撃破ナイス!」 

 

 3人がハイタッチして先刻の勝利を祝っていると、不意に彩葉に連絡が届く。

 

「うわっ!ヤチヨからだ!!?」

 

「えー、なになに?またライブやるの?」

 

「いろPの新曲聴けちゃう感じ?」

 

「いや、今は流石に作ってないけど……」

 

 しかし、二人の冷やかしとは別に彩葉の顔は少しずつ曇っていく。その表情は、まるで昨年起きたあの不運と同じような。そう感じた二人は彩葉に視線を向ける。

 

「あ……えと……ごめん、二人共。ちょっと用事出来ちゃった!芦花、本当にごめんね、埋め合わせはまた今度する!」

 

「うんうん、大丈夫。でも、何かあったら絶対に頼ってね〜」

 

「そう。また抱え込んじゃったら、彩葉のこと私達で囲っちゃうかもよ〜」

 

「あはは!悪くないかも。じゃ落ちるね、ごめん!」

 

 ポリゴンとなって彼女は呼ばれた場所へ行ってしまった。さっきの言葉が、半分本心だと、真実は気付きつつも余計な言葉は紡がず、芦花と共に皆が普段集まる彼女の家を模した場所へ移動しようとした。




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