「芦花〜…大丈夫?」
数間途絶えた連絡。"偶然"気づいた彩葉と真実、朝日が駆けつけた時、衰弱しきっていた芦花の様子を見て3人は救急車を手配、入院に至る。
「うん…大丈夫。あはは、ちょっと疲れてたのかな、少し記憶が曖昧で…」
「大丈夫、私は一流の精神科医だ。必ず君の不安を取り除いてみせるとも」
88【失敗】
減少値【2】
そう言いながら、芦花は右手の薬指を軽く撫でる。まるでそこに"何か"が嵌っているのが当たり前だったかのような気がするから。それだけじゃない、胸の中にあった大切な"何か"が欠けてしまったかのような、あったはずの
そんな虚無を抱えながら、入院して2日が経っていた。
気分を変える為と、まだ立ち上がらせるのは怖いからと車椅子で病院の庭を彩葉と真実、そして精神科の先生と散歩している。
心地よく吹く7月の初夏の風。
特段夏が好きなわけではないはずなのに、待ち遠しかったような気さえする季節の香りと風に、静かに目を瞑って身を任せる。
「気持ちい〜…」
79【失敗】
減少値【1】
病院内に併設されている広場で、心穏やかに過ごすひと時。心の底から信頼と好意を寄せている二人と、親身になってくれる先生。仲は元々良好な両親も折を見て彼女のお見舞いに来る。
そう、満たされている。
ーおはよう、芦花ー
71【失敗】
減少値【2】
満たされているはずだ。
ー何もしないのも贅沢だねー
67【失敗】
減少値【3】
何故、脳裏によぎる。
ーHappyBirthday、My Dearー
ー君はなにより美しいー
55【失敗】
減少値【4】
覚えのない言葉が脳内を駆け巡る。知らない記憶が流れて消えて、また声のない言葉が再生される。
ー世界で君だけの神様だー
ー約束だー
ー好きだ、芦花ー
99【失敗】
減少値【7】
アイデア【成功】
狂気内容【感情の噴出】
「芦花?」
「え…?」
頬を伝い、右手の薬指に落ちる一雫の涙。脳にこびりついて離れない"何か"との日々、自分の為だけに紡がれる愛の言葉。当たり前の日々を彩る自分には作れない味。まるで人間じゃないかのような、心地の良い香り。
五感が、脳が、魂が覚えている。
なのに、靄がかったように思い出せない。日に日に陰りは強くなって、時が刻まれる度に忘れたくないと身体が抵抗している。
噴出した感情で流れた涙。それをハンカチで拭おうとする真実を、身体が反射的に止めた。
「え?」
「え、あ…ごめん、違う、違うんだよ。哀しいわけじゃない、筈で…その…涙を拭ってくれるかなって…真実や彩葉じゃなくて、誰かが…きっと来てくれるんだって思えて…誰、かな…なんで…」
「芦花さん、今日は…」
ポスンッ
「「「?」」」
混乱する芦花の様子を見て、先生が戻ろうと提案しようとする。その時、彼女の膝に沢山の花が置かれる。庭を駆け回っていた数人の子供たちが、涙する芦花を慰めるために集めたのだと察する一同に、子供達はお礼とともに笑顔を見せる。
「雑誌のお姉ちゃん、泣かないで。これ、皆で集めたお花!」
「ちゃんと先生に取っていいか聞いたんだよ!」
「あ…ありがとう…雑誌…?」
「うん!今はいないけど、しょうにかの先生がファンなんだって!先月の、ウェディングドレスのお姉ちゃん、すっごい綺麗だった!」
「あ、あぁ…ジューンブライド…そんな撮影した…っけ…」
ー踊ってくれるかな?お姫様ー
77【失敗】
減少値【2】
また知らない声と言葉が反芻し、頭にずきずきとした痛みが走る。それでも子供のために笑顔を崩すことなく、芦花は微笑んで見せる。
「ありがとう…今度会いたいな」
「そろそろ時間ですよ〜」
付き添いだった小児病棟の先生の一人の合図で一斉に子供達は駆けていく。そんな中、たった一人の女の子が残った。他の子供より、ほんの僅かに大人っぽい少女。
「私はね、これ!」
頭に青いバラの髪飾りをつけた女の子。色とりどりの花を持ってきた他の子供達とは違い、たった1本の葉を見せて笑う。
「幸運の象徴なんだよ」
「四つ葉の…クロー…バー……」
また、熱い涙が溢れ出る。濡らしてしまった頬は風にさらされて冷たくなる。また混乱して涙を自分で拭っていると、少女は芦花の右手の薬指にクローバーを指輪のように巻き付け、みるみるうちに青い薔薇は枯れていく。
「…え…?」
魔術【道導】
「思い出して、お姉ちゃん。"神様"が泣いてるよ」
少女の一言が全ての霧を晴らす。
彼の体温、料理、手の大きさ、姿、匂い、言葉、紅い瞳、優しい声、最高の贈り物、互いに贈りあった極彩色の日々。二人だけの思い出。自分だけの、最愛の人
1【成功】
減少値【0】
身体中の水分が抜けていくんじゃないかと思うほど、熱い涙が溢れ出す。今までの感情が全て嘘なんじゃないかと思うくらいの深い愛おしさで、彼の名前を呼ぶ。
「ナイア…!」
「「「?」」」
「彩葉、真実!ナイアは、ナイアはどこ?なんで…なんでいないの…!?」
「待って待って、ナイアって…誰?」
「親戚?友達?」
二人の親友に問い詰める。たった3ヶ月の短い時間の記憶にいた、彼の存在を。
それらのフラッシュバックが彼女の脳に負担をかける。
発汗と動悸、ピクピクと瞼が痙攣する。衰弱した身体に魂の摩耗する体験は、客観的に見ても身体に影響を与えていることを知らせる。
しかし、その程度で止まるほど彼女の熱は冷たくない。
「まさか…そんな…!」
「ちょっ、危なっ!」
ふらつきながら倦怠感を押して無理矢理立ち上がり、二人に身体を預けながら必死に、二度と忘れないように彼の名前を混ぜて記憶を呼ぶ。
「ナイアは私の大切な人!ナイアは私を助けてくれた人!ナイアは私だけの…!!」
「え、ちょっとまって彼氏!?」
「知らない知らない、まって落ち着いて。なんでそんな人がここにいないの?」
精神分析【成功】
「芦花さん、落ち着いて。ナイアさんが誰かは分からないが、連絡手段は?大切な人ならきっと心配しているはずだ」
スマホを確認しても、彼と刻んだ日々は全て無くなっている。まるで最初から無かったかのように、白紙の予定表と、消えてしまった連絡先が芦花の心を抉る。
「…嫌だ…嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ…まだ何か…っ、先生、退院します、今すぐ!」
「えぇ!?」
「…駄目だ、認められない」
「もう全部思い出しました!今行かなきゃ絶対に後悔する!!」
説得【成功】
半ばヤケになった様子で芦花は退院しようと一人で無理にその場に立つ。風に揺れるコーラルピンクの髪に隠れる紫紺の瞳が、先生の心を強く揺さぶる
「まだ立つことも出来ない君を退院させるのは三流のやることだ」
「だったら…!」
「だが…患者の心を真に救うのが一流だ。責任は全て私が取る。二人共、彼女のしたいことを優先させてあげてくれるかな」
「…でも…芦花の身体は…」
「大丈夫、絶対に。全部終わってから、ナイアとまた会ってから全部話すから。今だけは…」
「…おっけ、絶対に詳しく聞くからね、その"ナイア君"のこと!」
「約束だからね、私タクシー捕まえてくるから!真実、芦花の荷物と着替えをお願い!」
三人は深く頭を下げて先生へお礼を言い、駆け出していく。
残された先生と少女。二人は互いを認識し、静かな会話の後に別れる。
「…君もか」
「先生も?」
「…随分と昔の話だよ。さ、行きなさい。部外者があまり長く居ると、親御さんを呼ばれてしまうよ」
「は~い」
──
数日振りの自分の家。
転げるように鍵を開けて中に入り、靴箱、洗面台、風呂、リビング等、順番にひっくり返すように彼の痕跡を探す。
いつになく必死の形相の彼女の姿に驚きつつも、二人は静かに協力する。
いよいよとなった彼の部屋を開ける。
「か…空っぽ…」
「押し入れにも何もない…芦花、この部屋って…」
「…ナイアの、部屋だったのに…なんにもない…」
同棲していた事実に驚愕するが、絶望しきって膝から崩れる彼女を、まだ万全でない体調を危惧して部屋へと肩を貸しながら運ぶ。
「こんなこと言いたくないんだけど…本当に…?」
「いる…ナイアは絶対にいる。約束したから。絶対に、いるはずなのに。なんで、私…何かしちゃったのかな…」
彼の行動の理由を知らない芦花は、不安と失意で俯いたまま動けなくなる。
アイデア【成功】
不意に見つめた自分の薬指のクローバー。同時に想起される、ナイアがいつもつけていた銀の鍵のネックレス。
あの雨の日から、彼はそれを身に着けていなかった。
何処に、一体何故、もしかして。
同時に処理される思考。芦花は机の引き出しを文字通りに全てひっくり返す。驚く二人を他所に、メイクの道具や装飾品が散らばるのを気にせず、次々に床に撒いていく。
チャリンッ…
金属が跳ねる音がした。
飛びつくように手に取ったそれは、彼の胸元にいつもあった"銀の鍵"。
使い方はなんとなく知っている。問題は、何処に繋げるべきか。
もしも、自分に問題があってナイアが拒絶しているとしたら?人間を愛する彼のことだから、もしかしたら何か危機に直面しているのかも?もしくは…飽きられてしまったのかも。
冷や汗と動機が止まらず、鍵を握ったまま胸を押さえて苦しむ。
ー好きだ、芦花ー
「…そんなはずない」
彼の言葉が、一歩を踏み出す勇気を与える。
「芦花、一回休もうよ!汗も凄いし、息だって…!」
「お願い、焦ってるのは分かるけどまた後で…」
「駄目…!今じゃないと!」
「…どうして…!」
「今この瞬間に頑張らないと…!また踏み込めずに終わるなんて絶対に嫌だ!」
何もせずに終わる悔しさを、芦花は知っている。
体調を案ずる二人を、芦花は振り向いて抱きしめる。
ごめんね。その謝罪の言葉と共に、二人にお願いをする。
「意味が分からないと思うし…今からもっと意味の分からない事をするけど…お願い、信じて」
「「もちろん」」
ノータイムでそう言い切る二人の優しさと信頼に甘え、芦花は立ち上がり、虚空に向けて鍵を差し込む。
ガキンッ
一回、二回…一捻りごとに、強く望む。全てを知っていて、きっと協力してくれる彼女のいる場所を。
やがて形をなしていく銀の門は重い音を立てて開き、三人は電子の海へ"生身"で侵入する。
45【成功】
67【成功】
減少値【2】
減少値【1】
目を文字通りに点にするヤチヨと二人を置いて、芦花は願いも定まらないまたに頭を深く下げる。
「ヤチヨ…!」
「うん…!もう一度、だね!!」
ヤチヨは受け入れ、決断する。今回の件に関わった全ての人を呼び、あり得ない現実にあった神話を話すことを。
いよいよ…もう何度目かのいよいよですね!
もう一度始めようとしている彼女と、終わらせたと諦めた邪神の神話を、どうか見届けてくださいませ!