神に恋した芦の花   作:レガシィ

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それでは区切りの第二十話、お楽しみください!


第二十話 想いを繋ぐもの達

 消すことも容易かったであろう記録を全て残していたFUSHIとヤチヨは、映像媒体付きで一同に見せて説明し、脳が理解を拒んだ事実を受け止める。

 

 

 

「その荒唐無稽な話を信じろって…いや、映像もあるし、三人が生身な以上、信じるしかないんだけどよ…」

 

 

 

「…にわかには信じられん」

 

 

 

「ヤチヨちゃん、俺達のこと騙そうとしてるわけじゃないよね〜」

 

 

 

「ROKAたんに…彼氏がいるなんて俺は信じねぇぇぇええ!!」

 

 

 

「うっせぇっすよリーダー。それより、ROKAさん大丈夫っすか、動かねぇっすけど…」

 

 

 

「芦花、大丈夫…?」

 

 

 

 心配で声をかける彩葉。直後に脱力し、へたり込むように崩れる芦花。三人は"門"による移動で実態と五感を伴っており、身体を案じて駆け寄る。

 

 

 

「ROKAた──ぐぇっ」

 

 

 

「芦花!?」

 

 

 

「芦花、芦花ぁ…!」

 

 

 

 真っ先に反応した阿久魔は帝とコウガに首根を掴まれてとめられ、二人はそれより先に彼女を支える。

 

 

 

 心配をよそに顔を両手で覆い、嗚咽交じりに芦花は呟く。

 

 

 

「よかった…きらわれたわけじゃなかった…」

 

 

 

「…愛だねぇ」

 

 

 

 心底安堵した声で二人の親友が慰めながら泣く彼女に、現実的な問いかけをする帝。

 

 

 

「ナイア…だったか。この話全部そっくり本物だとして、相手は神なんだろ?芦花ちゃんには悪いが、記憶もないんじゃいい策も思いつけない…何かあるのか?」

 

 

 

「……何か…何かあるはず…きっと…」

 

 

 

 芦花は今までの人生に無い程思考を回す。

 

 

 

 決して天才などでなく、並外れた発想力があるわけでもなく、狂信者達のようにイカれた考えができるわけじゃない。

 

 

 

 しかし、彼との思い出が彼女にはある。

 

 

 

 考えろ。

 

 

 

 もっと考えろ。

 

 

 

 まだ、もっと考えろ。

 

 

 

 何度も何度も頭の中で彼と自分へ問いかけ、思考する。彼の性格ならこう言うはず、あぁ言えばこう返すはず。この方法なら。今まで得た全ての情報を整理する。

 

 

 

 ・ゲーム

 

 

 

 ・7月11日

 

 

 

 ・KASSEN

 

 

 

 ・神と人間

 

 

 

 ・花火

 

 

 

 ・魔術

 

 

 

 ・思い出

 

 

 

 ・時間

 

 

 

 焼ききれそうなほどの全ての情報を全力で処理し、点が繋がったような音がする。決して鳴らない祝福が頭に響いたかのように、芦花の納得のいくアイデアが浮かび上がる。

 

 

 

「…ヤチヨ」

 

 

 

「何か、思いついた?」

 

 

 

「うん…これで駄目でも諦めるつもりはないけど。でも、これなら大丈夫」

 

 

 

 まだ体調が良くないのか、ふらつきながら立ち上がり、二人はそれを支えられるように横に立つ。

 

 

 

 そして、芦花は自分の考えを話す。

 

 

 

「皆、本当に、本当に意味が分からない話だし、もしかしたら…気が触れてしまうかもしれない。だから無理に協力しろだなんて言えない…」 

 

 

 

 一同は静かに、まるでその沈黙が答えかのように、確かに彼女の次の言葉を待つ。

 

 

 

「でも…お願いします。絶対に、絶対に諦めたくないの。私の大切な人だから…だから…おねがいします、協力してくださいっ…!」

 

 

 

「「もちろん!!」」

 

 

 

「当たり前だ。妹の友達だとか以前に、ナイアってのとは友達だったらしいからな、ついでに俺達の記憶も戻させてやる」

 

 

 

「俺は構わない。乃依もだ」

 

 

 

「えー、めんどー…」

 

 

 

「ぅぐぅっ…ふぐっ…!ROKAたん…お…俺…俺も…」

 

 

 

「リーダー、諦めましょ。無理っすよ。今度合コンセッティングするんで。俺達もやるッス!」

 

 

 

 一同に深いお辞儀と感謝の言葉を紡ぎ、芦花は最後の"ゲーム"の内容を説明し始めた。

 

 

 

 ──ー

 

 

 

 外宇宙、月の表面。

 

 

 

 人の姿のまま、彼は星々を視界の端に地球を眺めていた。何もやる気が起きず、呼吸すら億劫なほど。

 

 

 

 何度も消そうした記憶は、自分の身体と魂が拒んだ。

 

 

 

「……綺麗な…星だ…」

 

 

 

 届かない星へと手を伸ばして呟く。

 

 

 

 時とは美しく残酷だ。

 

 

 

 楽しいと思うだけ速く美しく走り去る過去(思い出)になり、辛いと思うほど遅く残酷に歩く苦痛(現在)となる。

 

 

 

 まだたったの3日。刹那に感じた2ヶ月とはまるで違う。その日々で瞼に焼き付いた彼女の笑顔。脳裏に刻まれた過ぎ去った楽しい日々。

 

 

 

 八つ当たりに、いつか地球に向かう隕石を遥かな宇宙の先で壊して回っても、気に留めるほどでもない害意を持った下等種族を殺戮して回っても、どれもほんの少しでさえも心は動かない。

 

 

 

 眠ろう。

 

 

 

「次に目を開けるのは…明日か、1週間後か、1ヶ月後か、最低百年…叶うことなら、数億年ほど眠っていたい…」

 

 

 

 立ったまま、ポケットに手を入れたまま瞼を閉じた。

 

 

 

 不意に、なるはずのない宇宙空間に冒涜的な言葉と音が響く。

 

 

 

 ガギンッ!

 

 

 

 また痴れ者が自分を呼んだか。今は機嫌が悪い、全員の正気を食い殺してしまおうか。そう思考しながら、目を開ける。

 

 

 

 視界に飛び込んできたのは、褪せた日々に花をもたらした最高の場所。終わらせた筈の、月によく似た仮想の地。電子の歌姫を中心とした"元"友人(人間)達。

 

 

 

 足元にあるいつぞやの魔法陣を描いたのはヤチヨ。魔力は彩葉が。一人で発せられない言葉を紡いだのは黒鬼。冒涜を紡ぐ音色はヨウガとコウガがギターで再現したことを理解する。

 

 

 

 数十年という単位で継承され、数多の犠牲と人員を動員し、宇宙外の力をもってしてようやく行える儀式。

 

 

 

 奇跡的に揃えられた条件が彼を呼ぶ儀式を成功させた。

 

 

 

 無意識に流れ出す涙を身体ごと暗影で覆い、感動と同時に激怒する。

 

 

 

「ようこそ、再びツクヨミへ」

 

 

 

「…契約を違えたか、月見ヤチヨ」

 

 

 

 暗がりにいるわけではない、特殊なスキルやハッキングではない不定形で、歪で、無貌の影。分厚い氷が割れるような劈く音と共に、彼の形は人から乖離していく。

 

 

 

 やがてヤチヨに向かって伸びた触手と闇は、全てを覆い尽くす狂気がごとく広がり、彼女は包まれる。

 

 

 

「ハッハハ…!実体すら持たない月の下等種族の分際で、私との約束を違えるとは、見下げ果てた浅薄根性だ」

 

 

 

 形容にし難い足音が、乾いた笑いと共にゆっくりとヤチヨを中心に一同に近寄る。文字通りに息を呑み、アバターだというのに心臓を締め付けられる圧迫感と緊張で言葉を失う。

 

 

 

「この這い寄る渾沌を愚弄したその心根と正気、私自ら喰らってやる。そこを動くな。貴様らもだ、逃げてくれるな」

 

 

 

 しかし、それでも笑顔を崩さないヤチヨは自ら一歩歩み寄り、慈愛に満ちた表情で語りかける。

 

 

 

「生きるのどうですか?」

 

 

 

「……生きるも死ぬも、(邪神)には胡蝶の夢。そこに感情など伴うものか」

 

 

 

「あれから良いことあった?」

 

 

 

「…知るか」

 

 

 

「それとも泣いちゃった?」

 

 

 

「うるさい」

 

 

 

「全部大丈夫。どんなに辛い道のりでも、彼女との愛しい記憶が…君の足元を、これからの未来を、明るく照らしてくれるよ」

 

 

 

「黙れ!!!!」

 

 

 

 バゴォンッ!!

 

 

 

 感情が伴わないと発言した彼の仮面は、ヤチヨの言葉ですぐに崩れ去る。無貌から飛び出した触手は、彼の背後にあるデータの塊である部屋の壁を破壊し、膨れ上がるように影はおぞましく巨大な怪物の様相に変化していく。

 

 

 

邪神()相手に説得を試みたつもりか?揺らせる感情があるのだと勘違いでもしたか?私は邪神、這い寄る渾沌、■■■■■だぞ!?ただ一時、人のフリをして退屈を殺していたに過ぎない!!」

 

 

 

 邪神の激怒に扇子を広げて口を隠し、嘲笑するように語り続ける。

 

 

 

「あらあら、怖い怖い。感情が無ければそこまで怒りは見えませんことよ」

 

 

 

「ハッハハ!!勘違いどころか底抜けの能無しだ。これが怒りと?私のこれは──」

 

 

 

「哀しみ。そうでしょう?」

 

 

 

「は、ハッハハ…!!それこそ何を──」

 

 

 

「その笑い方、彼女に聞きました。何かを偽る時や誤魔化す時の君の癖だと」

 

 

 

「ッ!」

 

 

 

 捲し立てるように、宇宙の恐怖を相手に臆することなくヤチヨはさらに一歩踏み出し、彼の感情に針を刺していく。

 

 

 

「自分は邪神だと?人の子と相容れない者だと?同じ時を刻めないから、全ての想いをガラスの箱に閉じ込めてぽっかりと穴の開いた幸せを願おうと?」

 

 

 

 パシンッ!

 

 

 

 ヤチヨは開いていた扇子を音を立てて閉め、務めて冷静だった"ヤチヨ"の姿をこの瞬間だけ破り、声を上げて否定する。

 

 

 

「そんなの、全然ハッピーエンドじゃない!!!」

 

 

 

 重なるヤチヨの中のかぐやの影。彩葉と真実も続いて言葉をかける。

 

 

 

「この物語の始まりには、貴方がいたんだよ。時間だとか、心だとか、生だとか死だとかそんなのどうでもいい。ただ、私達はハッピーエンドにしたい」

 

 

 

「……矮小な…人間如きが…」

 

 

 

「貴方からみて、蟻んこくらいちっちゃな生物かもしれないし、犬や猫を愛でるのと変わんないのかもしれない。なんて、私は全く思わない。記憶がなくても分かる。あの子のために、今貴方は本気で怒って、哀しんでる」

 

 

 

 彼は後退り、揺らめく影は不定形に伸縮を繰り返してグニャグニャと形を変え続けて言葉を詰まらせる。

 

 

 

「そんなことがあるわけがない、私は…私は邪神だぞ!?君達とは全てが違う存在だ!!」

 

 

 

「なら、今すぐ人間の姿になってくださいな。貴方の紅い瞳が、深い蒼に溺れていないのなら認めましょう」

 

 

 

「…………ッ………」

 

 

 

 静かに、ヤチヨを除く記憶のない一同の前で初めて人間の姿へと変わっていく。

 

 

 

 180強程の長身、少しうねった茶褐色の短髪に黒い手袋、黒い芦の花が誂えられたスーツ。涙に溺れ、沈んだ紅い瞳は誰の目から見ても彼を"人間"と否が応でも認識させる。

 

 

 

 流れた大粒の涙達はぼたぼたと音を立てて電子の海を濡らす。

 

 

 

「………ヤチヨ…これ以上…もう私を乱してくれるな…もう終わらせたんだ…もう…これ以上、君達を…彼女を傷つけたくない……」

 

 

 

「ざっ…けんなっ…!」

 

 

 

 バギィッ!!!

 

 

 

 心からの本心。膝から崩れる彼の言葉を聞いた阿久魔が胸ぐらを掴み、全力で頬を殴り飛ばす。

 

 

 

「ふざけんなふざけんなふざけんな!俺から天使を奪っておいて!挙句自分は無力な神だから全部なかったことにしてハイ終わり!?もう我慢ならねぇ!!」

 

 

 

「リーダー落ち着いてくださいっス!」

 

 

 

「とめんじゃねぇ!さっきの態度も俺達がビビって突き放せればとか思ったんだろ馬鹿が!馬鹿な俺にでさえ分かる安っぽい演技しやがって、何が宇宙一のトリックスターだ、何が邪神だクソ大バカ野郎が!!」

 

 

 

 羽交い締めにされたヨウガがジタバタと暴れ、的を得た言葉で彼に意見を吐き散らかす。

 

 

 

「…君に何がわかる…人と同じ生を享受できない私のこの気持ちの…君に何がわかる…?」

 

 

 

「愛だ!!!」

 

 

 

「は…?」

 

 

 

「お前も、俺の天使も、顔見りゃ分かんだよ…心の底から、愛し合ってんだって…なんで幸せにしてやらねぇ…!」

 

 

 

 暴れるのをやめ、しおらしくなったヨウガの拘束を解く。その言葉を受けた彼は立ち尽くしてばかりだったが、零す涙を抑えて魔術を使おうとする。

 

 

 

「…駄目なんだ…もう、全部…全部…!」

 

 

 

 しかし、それを遮るのはヤチヨ。契約の穴を突く一手を指す。

 

 

 

「終わってません、最後のゲームが残っていましてよ」

 

 

 

「…酒寄朝日、彩葉。諫山真実、そして、ヤチヨ。君達は私に敗れた。口約束とはいえ、契約も果たしている」

 

 

 

「あの時、真実ちゃんは"この場にいる全員"って言ったの。まだ…彼女との勝負が残ってるんじゃない?」

 

 

 

 脳を駆け巡る一瞬の残像。心身の喪失にあった彼女をカウントするのは揚げ足取りも良いところだと、そう否定するのは簡単だが、彼はその言葉を飲み込んだ。

 

 

 

「……………これで本当に終わりだ…内容はなんだ。SETUNAか?花札か?またSENGOKUで君達が手を貸すか?」

 

 

 

 ヴゥンッ

 

 

 

 ヤチヨが手を振って映し出したウィンドウには、深夜にツクヨミ内で行われる花火大会の知らせ。

 

 

 

 物理的にそれを手に取り、眺める彼に内容とルールを説明する。

 

 

 

「内容は、ツクヨミ全土を使った隠れ鬼。このお祭りで、貴方は鬼から逃げればいい。制限時間は花火が打ち上がり、今日が終わるまでの約2時間」

 

 

 

「…魔術は?」

 

 

 

「いくらでもご使用くださいな〜。ただし1つだけ。20分事に貴方に贈られる計6つのメッセージを絶対に読むこと。それだけ守ってくれれば、何をしても構わないよ」

 

 

 

「……了解した。スタートは」

 

 

 

「今。開始地点は?招待コードを…」

 

 

 

「いらない。自分で行く」

 

 

 

 パチンッ

 

 

 

 指を鳴らして魔法陣を足元に出現させ、彼は初期位置へと赴く準備をして一同に向き直る。

 

 

 

「…これが正真正銘の最後だ。私が勝てば、記憶を全て消す。次はヤチヨもだ。荒っぽい手段になるがデータをデリートする。いいね?」

 

 

 

「もちろん。それが運命なら、従うよ。貴方が勝てば、貴方の望むままの世界にすればいい」

 

 

 

「…必ずそうなる。運命など私の前では無意味だ。それでは」

 

 

 

 カチンッ 

 

 

 

 虚空から取り出し、放り投げた魔道具の懐中時計。

 

 

 

 それをヤチヨがキャッチすると、時計が勝手に合わさり時を刻み始める。

 

 

 

 瞬間、彼の姿は消える。

 

 

 

「さて…後は見届けるだけだね!」

 

 

 

「お願い…上手くいってくれますように…」

 

 

 

「芦花、頑張って…!」

 

 

 

 七夕に祈りを込める三人。最後のゲームが幕を開けた。

 

 

 

 スタート地点。彼は初期位置であるツクヨミの入り口、鳥居の下に現れる。

 

 アバターは目立つのを避けるため適当なPLのものを借りて重ねる。

 

 ツクヨミはVRといえど広大な土地。まともに探してもほぼ確実に見つからない。

 

 ここにいるほど辛くなるとわかっているナイアは、思考をずらすため、1箇所に留まらないように歩き始めた。

 

 

 

 




この辺の話しはカロリー低いですね。
良い切りどころが思いつかなくて申し訳ないです。
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