神に恋した芦の花   作:レガシィ

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機械仕掛けの神。
物語のメタ的な破壊装置兼、クトゥルフ神話における最強のメタ。
その名は、ニャルラトホテプ


第二十二話 DEUS EX MACHINA

 ──

 

 ヤチヨのいる場所へ、二人は手を繋いで結果を知らせるようにして帰還する。

 

 心の底から安堵した彩葉と真実は芦花を抱きしめ、5人もそれを見て安心する。

 

「で、俺達の記憶は?あの虹お前だろ?」

 

「今から戻すよ。ただ…心の準備がね…」

 

「なんだよ今さら。さっさとしろっての」

 

「そうだそうだ!正々堂々勝負しろやぁ!」 

 

 魔術【破魔】×6

 

 魔術【鏡合わせ】×6

 

「「「「「「………」」」」」」

 

 パチィンッ!

 

 記憶が戻ると同時に、ナイアの頬を2発の平手が襲う。

 

「「「(%(&¥("-:"&!!」」

 

「…すいませんでした…」

 

 ナイアは正座して言葉にならない怒りをぶつける二人の怒号を受け止める。怒っていた筈の帝と阿久魔は冷静になり、ひたすら落ち込むナイアを眺めている。

 

「ふぁー…俺帰るね。ナイちゃん戻ったし」

 

「俺も帰ろう。ナイア、リーダーはまだ言いたいことがあるらしい。暫く叱られておけ」

 

「……はい」

 

 雷と乃依は先に帰還し、帝は怒り続ける二人を宥める。

 

「……やっぱり納得いかねぇって!なぁROKAたん、俺にしとかねぇ?ぜってぇコイツより良いって!」

 

「お前また…」

 

「こりねぇっすねぇ…」

 

 人差し指を向けて芦花に向け、今までの苦労を全て無に帰すような発言をする阿久魔を見た帝とコウガは呆れたように頭を押さえる。

 

「いや、ごめん…無いかな。私にはナイアだけだから」

 

「芦花…」

 

「はぁ…リーダー、あんた前カノに振られた理由覚えてます?」

 

「は、そりゃ…なんだっけ。JDと飲み会して持ち帰ったからだっけ」

 

「そりゃ4つ前カノっス」

 

「あれか、カード勝手に使ったやつか」

 

「それは3つ前」

 

「えっと…そうだ、思い出したわ。風呂にいったからだっけな」

 

「えぇ、そっすね。お気に入りの娘に呼ばれたからって、彼女の誕生日忘れて。ROKAさんと付き合えたとして、辞めます?」

 

「忘れるもんはしゃーねぇだろ、詫び持ってったし。つかやめるわけねぇじゃん?普通だろ普通、なぁ帝?」

 

「お前もうマジで黙っとけ…」

 

「……最低」

 

「芦花、コイツだけは駄目だかんね」

 

「元々無いし…最悪」

 

「はぁ!?ネット見てみろって!そんなやつごまんと──」

 

 BAN

 

 突然ログアウトさせられた阿久魔。ヤチヨの管理者権限で追放された彼のアバターはそこから姿を消し、白々しい様子でヤチヨは手を振る。

 

「うん、まぁ…聞かなかったことにしようね〜」

 

「…まぁ、いるにはいるかもしれないっスけど、秘密にはしとくべきっスよね。つーわけでROKAちゃん、ぶっちゃけリーダーはオススメしないんで、ナイアさんとお幸せにッス」

 

「もう良いってば」

 

 そう言ってもコウガも追いかけるようにログアウトした。直後、怪訝な表情で手をあげてナイアは問いかける。

 

「……お風呂にいくのは、いけないことなのか?」

 

「「「!?」」」

 

「お風呂は命の洗濯だろう…?それほどお金がかかるわけでもないし…私は魔術が使えるから身体の時間を戻せば済む話だが…」

 

「あぁ…お前そういうのは疎いのな」

 

「??」

 

「いいよ、ナイアは知らなくて」

 

 正座したままのナイアの頭を撫で、ナイアはそれを了承した。

 

「まぁ、君が望むなら…?」

 

「さてさて〜、あとはお二人の時間だねぇ。今日はナイア君の誕生日なんでしょ?」

 

「あ、あぁ…そうだね」

 

「そうそう、おめでと」

 

「1歳の誕生日か、おめでとさん」

 

「誕生日おめでと~」

 

 残ったメンバーに祝福されながら立ち上がり、ナイアは頭を深々と下げる。

 

「皆には色々と…本当に色々と助けられた。また今度、常識的な範囲でお詫びするよ。もちろん、芦花を幸せにするというのは大前提としてだ」

 

「ふ~ん…今度こそ、絶対ぜーったいに守ってよ」

 

「次はほんとに許さないかんね」

 

「あぁ…もう二度と、同じ過ちは繰り返さないよ。例え芦花が離れようとしても離さない」

 

「そんな事ありえないけどね〜」

 

「ふ…じゃ、俺も帰るわ。じゃあな」

 

 ナイアの右手を握った芦花はいたずらに微笑んで答えその様子に帝は安心してログアウトする。銀の鍵の入手の経緯を説明し、生身の二人も魔術で家へと帰す。

 

「それでは。ヤチヨ、改めて…君にも感謝を」

 

「いいよいいよ~、芦花ちゃんとナイア君がハッピーエンドならヤッチョも嬉しいからね!…ね、芦花」

 

「!…うん、ありがとね、かぐやちゃん」

 

「……行こうか」

 

 かつての面影を見せたヤチヨ。詳しい説明がなくとも気づいていた芦花も確信し、彼女の過去を呼ぶ。

 

 二人は扉を通り、家へと帰っていった。

 

 ──ー

 

「「……」」

 

 顔を見合わせ、芦花は両手を広げる。あの時指摘された、彼の好きな言葉を待つように。

 

「ただいま…芦花」

 

「…おかえり!」

 

 零した涙で抱きしめたナイアの肩を濡らしながら、求めてやまなかった彼の帰りを噛みしめる。

 

 一件落着の様子。しかし、まだ足りない二人は互いに珈琲と紅茶を淹れてソファへ座り、たった数日離れただけの記憶を交換し始めた。

 

「あ、そういえばナイアへの誕生日プレゼント」

 

「…あの小包かい?」

 

「そう、あれ。記念日は花を買おうと思ってて、あっちの箱は誕生日プレゼント」

 

 彼への誕生日プレゼントを買い、花を買おうとした道中だと知る。忌々しい記憶ながら、確かに覚えているあの光景。顔を曇らせながらも記憶を辿り、虚空から乾いた血がついた箱を取り出す。

 

 ガタガタと震える手と、トラウマのフラッシュバックで冷や汗をかき、過呼吸気味の息をするが、芦花が抱きしめて慰める。

 

「大丈夫だよ…苦しいなら、捨ててもいいから」

 

「……いや……君の、選んでくれたものだ…」

 

 なるべく血を見るのを避けて箱の紐を開き、中から彼女の選んだプレゼントを取り出す。

 

「これは…砂時計?」

 

 中に入っていたのはシンプルな花が象られたアンティークの砂時計だった。

 

「そう。ナイアって時間を凄く気にするでしょ?遅れたことないし。だからさ」

 

 コトンッ

 

 ひっくり返した時計の砂はゆっくりと時を刻んで落ちていく。

 

 ナイアの右側に座っている彼女は、手を重ねて頬を寄せながら理由を続けて語る。

 

「神とか人とか、次の予定とか。砂が落ちるまでのちょっとした時間。ナイアは誰でもないし、その瞬間は何時でもない、切り離された時間。それで…この間は私だけのナイアってことで」

 

 紅色に染まる頬にキスをする芦花。胸を抑えて焦点の定まらない目のまま本心をさらける彼と、それよりさらに頬を真っ赤にする芦花。

 

「待て…か……可愛すぎないか…?心臓が張り裂けてしまいそうだ…」

 

「……うん…ちょっ、ごめ…言っててめっちゃ恥ずくなってきた。忘れて忘れて」

 

「それは嫌だが…この砂時計を使うタイミングは、少し考えようか。歯止めが利かなくなりそうだ」

 

「…別に、我慢はしなくていいけど」

 

 砂時計が落ちるまでの時間はおよそ20分程度。静かに時を過ごし、気づけば二人はソファで眠っていた。

 

 ──ー

 

「おはよ、ナイア」

 

「…おはよう、芦花。あの後眠ってしまったんだね」

 

「ふぅ…よしっ!」

 

 立ち上がった芦花はまだポヤポヤとした表情の彼の前で宣言する。

 

「じゃあ、今からナイアの誕生日を全力でお祝いします。バ先への連絡とか、学校とか配信とかは取り敢えずぜ~んぶ無視!最高の1日にしようね、約束!」

 

 小指を重ねて振りながら、素の笑顔で笑う二人。

 

「…ククッ…不良少女になったねぇ。予定は?」

 

「朝ごはん食べて〜、映画見てショッピング。それでカフェでランチとデザート。そのあとは、家でのんびりしよ」

 

「…ふはっ、最高だね」

 

 約束通り、いつかのデートコースをなぞるように二人は出かける。

 

 待ち合わせで互いのオシャレを褒め合い、手を繋いで出かけ、映画を見て感想を語り合いショッピング。

 

 折を見て、休憩の為にナイアが席を外して戻ってくる時。

 

 神話技能【成功】

 

「待たせてしまったね」

 

「…ううん、全然」

 

 笑顔で戻ってきた彼の右側に、いつも通りに位置する。

 

 腕を取り、背の高い彼の為に声を少し張りながら、なんでもない話をしながらデパートを巡り、人が少ない裏口の方に向かっていく。

 

「そう言えば、来週テストなんだよね〜」

 

「おや、それはがんばらないといけないね」

 

「ナイアだってバイト先に連絡しないといけないじゃん」

 

「私は問題ないよ、どうにでもなるからね」

 

「…ねぇ、一個聞いていい?」

 

「ん?」

 

「貴方、誰?」

 

 視線を前に向けたまま、芦花は問う。

 

 彼は、貼り付けた笑顔を崩し、人外を想起させる牙を見せて問い返す。

 

 [……いつ気づいた?」

 

「会った瞬間。あとナイアは自分から手を繋ぐし、私が話しやすいように少し屈んでくれる。何より…今朝したばかりの約束を、私から破ったことになんのリアクションもなかった」

 

 パチンッ!

 

 鳴らした指、瞬間的に世界から音と姿が消え去る。

 

 そして本性を表したように、彼は嗤う。

 

 魔術【表裏の世界(メビウス)】

 

 [お見事だ綾紬芦花。実に見事と、そう言わざるを得ない!」

 

「…ここは?」

 

 [気にするな、表も裏もない空間に過ぎない。改めて自己紹介だ!僕は這い寄る渾沌、ニャルラトホテプ。この退屈の世界を殺したいと願う者さ!」

 

「ナイアの親戚?」

 

 […え〜!?リアクション薄くない!?俺邪神だよ!?」

 

「見慣れちゃったと言うか」

 

 [ぶぇ〜、せっかく僕様が顕現してあげたのに。まいいや。本題に入ろうか」

 

 再び指を鳴らし、彼は道の真ん中に椅子を出現させる。

 

 ナイアが使っているゲーミングチェアと芦花の使っている鏡台前の丸椅子に二人は座る。

 

 [吾輩は君達に感謝しているのだよ!果てない退屈を3カ月も殺してくれた!ここまで見応えのあるシナリオになるとは思わなかったよほんとに!」

 

「感謝?貴方達邪神からすれば、3カ月なんてあっという間でしょ」

 

 [は?時間は時間だろ。なげぇよ。私達がどんだけ暇潰しに時間かけてると思ってんだ」

 

「ねぇ、せめてナイアの声と顔やめてくれない?」

 

 コロコロと変わる表情と一人称。一貫して不愉快なその態度に芦花は物申す。

 

「えー!この声ダメェ!?結構気に入ったんだけどなぁ。ンンッ…これでいいか]

 

 聞き取りやすい声でありながら彼の面影が消え、どちらかといえば女声に近くなる。顔も崩し、浅黒い肌に黒目、パーカー姿のラフな格好に姿を変える。

 

「それで、わざわざ感謝?見物料ならいらないからどっか行ってくれない?デート中なんだけど」

 

 [君態度悪くない?一応俺様神様なんですけど。君を指一本で殺せること忘れてる?」

 

「そんなつまらないことするように見えないもん」

 

 [フハハッ!邪神を落とすだけある。でも残念!」

 

 彼はゲラゲラと嗤うのをやめないまま、衝撃の事実を語る。

 

 [君が恋した彼は、邪神なんかじゃないんだなぁ!」

 

「?」

 

 [彼は数千億年前に作った私のコピーさ!使える魔術、知識。思考回路に権限、まーったく同じ。ただ一つ、人の身であることを除いてね。退屈しのぎに作ってお父様の子守を任せていたんだけど、まさか地球に勝手に降りたつとはね!」

 

 減少値【0】

 

「………」

 

 [あれあれあれ?悲しくなっちゃったぁ??この現実を知った君はもしかしたらこう考えたかい?「そんなこと関係ない!」いーや違うね、君が愛したのは邪神の彼であって人の彼じゃない!君との思い出に神話が混ざらないことが少しでもあったかい?魔術は?人外の美貌は?未来を過去を因果を現在を好きなように改変した彼の力は?それは全て神の力によるものだろう!それがなければ君は出会うことすらなかったというのに!それすら違う、きっと運命だと決めつけるのは実に愚かしく傲慢というものさ。切実に願い望み祈りを込めたとて結局は運命を弄ばれる供物に君達は過ぎないのだから!!」

 

 一息に言い切る彼、しかし芦花は動じない。

 

「長々と…結局、何が言いたいの?」

 

 [ははははは!僕は君が気に入ったんだ!穣秭垓年お父様に付き添う退屈より!百年生きるかどうかの君と生きる日常の方がずっずっと退屈を殺せると確信したのさ!」

 

「お断りします。はい、この話は終わりね、帰して」

 

 [君に拒否権などないさ。安心したまえよ、ナイア君も賛成だ。我の方が君を幸せに出来ると判断したようだ!」

 

『私じゃ…やっぱり駄目だったんだね…』

 

 指を鳴らし、映し出したウィンドウ画面には、泣き崩れてそれを了承するナイアの姿。

 

 間髪入れずに彼は、静かにナイアの声と姿で芦花へと嗤いかける。

 

「私は君だけの神様だ。虹を掴める力を、君の為だけに振るおうじゃないか。綾紬芦花」

 

「…嘘つき」

 

 しかし、そのウィンドウを手で振りはらい、彼女は一蹴する。

 

 その言葉の裏、心を読む魔術を使った彼は驚愕する。

 

 ただの一筋も、ナイアのことを疑っていない。

 

 […いやいや、君これ見えてる?」

 

「見えてるし聞こえてる。でも、ナイアがそんな事言うはずないから」

 

「………ッハッ!なるほどなるほど。狂った信仰心は目の前の現像すら逃避する。いかにも人間的だねぇ」

 

「逃避なんかじゃない。ナイアは絶対に、私から目を背けない」

 

 […なら、君はどうだい?記憶を消してナイアと僕が入れ替わった世界で、君はなんの違和感もなく過ごせるはずだ。君の役割は私の退屈を殺すことだ」

 

「いいよ、やってみれば?私はきっと貴方を一目で見抜ける。その代わり、見抜いたらもう干渉してこないで」

 

 [傲慢だね!良いだろう、君達に魔術的な関わりは持たないと誓おうじゃないか!」

 

 パチンッ!!!

 

 一際大きく鳴らされた指。崩れた世界が少しだけ巻き戻る。彼と芦花が出会ったシーンから、脚本が再生される。

 

「待たせてしまったね」

 

 彼女の宣言通りに、芦花の目を見て魔術で覗き聞いた心の声で確信する。

 

 見抜かれた。

 

 深い理屈も理由も根拠も無く、この女は自分をナイアではないと確信した。

 

 見た目も声も仕草も完璧だったはず。

 

 千の貌を持つ神の、絶対の矜持が傷ついた。

 

「待て…どうやって気づいた?何が確信させた?魔術も無しに、何処が違った?」

 

「…ナイアはどこ?」

 

 [答えろ人間!!!」

 

 バリィンッ!!!

 

 怒りに任せて芦花の腕を掴もうとする。瞬間、世界にヒビが入り、そのまま壊れ、その腕を万力の如くの怪力で掴みあげる。

 

「ナイア!」

 

「私の芦花に触れるな、下郎」

 

「貴様…!!」

 

 MA【成功】

 

 キック【成功】

 

 ダメージ【2D6+1D6=18】

 

 回避【失敗】

 

 腕を取り上げ、顔面へとハイキックを繰り出す。

 

 避ける余裕もなく直撃した彼は縹を流しながら数メートル吹き飛び、モールの床を粘着性の赤い血液を塗りたくるように転げる。

 

 絶叫や野次馬が三人をカメラで捉える。

 

 ナイアはスーツの上着を脱いで芦花を隠し、吹き飛んだ奴から目を離さない。

 

「……芦花、しまった。ここからノープランだ」

 

「だよね、これ下手したら警察行きかな…」

 

 [おいおいおいおいおいおぉ〜い…ザケンじゃねぇぞ人間の分際で」

 

 冷や汗をかきながらナイアは攻撃系の魔術を使う体勢を整える。

 

 電波障害を起こしつつ鼻血を治癒の魔術で治して怒りを向ける。数人の感受性の高い当てられた人間が泡を吹いて倒れ出す。

 

 […はぁ、もういい。契約は契約だしね」

 

「「!」」

 

 [お幸せにってね、僕は特等席で君達の先を見せてもらうからサ」

 

 パチンッ…!!

 

 再び鳴らされた指。全てが狂ったように世界が巻き戻る。

 

「「………」」

 

「はぁ…"私"が迷惑をかけたね…何か言われたかい?」

 

「ナイアは何も言われなかったの?」

 

「…あの"私"は、かなり長く生きている個体みたいだ。この世界が退屈で仕方ないんだろう」

 

「…こんなに楽しいもので溢れてるのにね」

 

「全くだ。さて…デート、続けようか」

 

 完全な記憶の消去とやり直し。ナイアでさえ巻き込まれた自覚がないままの超技術。

 

 しかし、二人にとってはただの厄介者で終わった。

 

 




次回、本編最終回(予定)です!
それが終わったら小ネタ集。次に不定期投稿になりますが視点別の物語をお送りします!
…この話、いるか?ってのは言わないでください。
作者の中ではいりますんで!
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