探索した部屋は2つ、半分の部屋の探索で丁度時間も半分くらい。少しペースを上げなければ。二手に別れるのは悪手。何故なら、礼拝室は明らかな危険部屋の香りがプンプンするんですから。
「ということで〜、北の部屋!多分スープの予備なんで簡潔にいきましょう!」
振り向くと、テンションを上げていこうと手を振り上げる私に合わせ、2人も静かに右手を上げる真似をしている。二人の紅い目と合わさって兄妹か親子にも見えてしまい、なんだか微笑ましい。
真っ白な板みたいなドアノブの無い押し扉。
壊すでもない不思議な開き方ですが、全部の部屋が違うのは制作者の拘りを感じで個人的には好きです。
「おろろ、随分綺麗な部屋ですね。つか明るっ」
目星【失敗】
「う~ん、なんも無いっ……お、どしました、サチちゃん?」
目星【成功】
腕を引かれ、導かれた寸胴鍋。澄ませなくても分かるほどの悪臭がします。なんでこんなの見つけらんないんだよ。なんてセルフでツッコミしながら蓋を開けるか迷っていると、ナイアさんが提案する。
「開けないのかい?」
「いやぁ、中身わかってるしなぁってですね。それよりも、ナイアさん……っと、探索は参加しないんですかね」
「ふむ…そうだな。これは独り言だが、中世の王侯貴族は、銀食器を好んで使っていたらしい」
おっと、これは聞き逃がせない情報です。詰まらないように誘導してくれているんでしょうか、やや強引な気がしないでもないですが、ここは素直に受け取りましょう。
「聞きましたかサチちゃん!銀食器を探しましょう!」
目星【失敗】
両手をぐっと握ってサチちゃんも張り切っている様子。
相変わらずナイアさんはポケットに手を入れて視線を適当にしながらも私を監視しています。隙がない、良いテスターですね彼は。っとしまった、彼に目がいき過ぎてて探すのに集中してなかった。
目星【成功】
「……!」
なんて思っていたら、サチちゃんのお手柄です。
どうやら引き出しの一部に入っていたらしい銀の食器を数本持ってきてくれました。
「おぉ~!お手柄ですね!…で、銀の食器見つけて何するんです?」
「…さぁねぇ」
うぐ、流石に頼り過ぎはいけないのでしょうか。銀の食器の用途までは教えてもらえませんでしたか。
しかし中世ですか……歴史を少しかじっていても、そこまで詳しいわけではないんですよね。
歴史【失敗】
う~ん、やはり記憶を辿ってもそれらしいのが思い出せません。サチちゃんはピコピコと手を振るばかりで分かりませんし、時間もこれ以上は無駄にできません。
「うぅ……仕方ありません。無視して次です」
南の部屋。
聞き耳【成功】
小窓付きの、他より一回り大きな厚い鉄扉。
小窓がついているといっても、中は暗いので大して見えません。少し鱗?が見えますし、聞き耳を立ててみたら中からズルズル聞こえるんですよ、大蛇でしょうかね。
しかもメモには万人だの活きが良いのを食べるだのと、物騒なことが書いてました。でも毒の資料と、多分このゲームの黒幕的なサムシングな神様がいそうなんです。
「テスターとしては、やっぱり見ておきたいところ……」
明らかにサチちゃんは首を振って私の裾を掴んできますし、やっぱりヤバい部屋。
でも毒が……ゲーマーといえるほどではありませんが、これでもそっち方面を生業とする者です。少々屈辱的ではありますが、ここは甘えてしまいましょう。
「ナイアさん、救済処置とかあります?」
「……ふむ。なら、30秒。君が部屋に入ってから耐えしのげば、私が助けてあげよう」
「具体的には?」
「番人を倒すでいいかな?」
「んー、オッケイです!」
評価は下がってしまうかもしれませんが、これも自由度の高いゲームの魅力ということにしておきましょう!
「あ、サチちゃんは一応ここにいてくださいね」
さて、忠犬オタ公の正念場です。
いざ!
私はそう意気込んで扉を開けました。ですが入った直後、酷く後悔しました。
広がっていたのはぼんやりとした青白い部屋。
小窓から微かに覗いていた鱗を持った大蛇は、あろうことか翼を持って狭い部屋を飛び回り、パックリと開いた蛇のような顎と、獲物を見つけたと一際開いた赤い眼光は私を見据えてきました。
33【成功】
減少値【4】
再三言わせてもらいますが、グロすぎだったり怖すぎだったりは今時流行りませんよ!?
こんな……こんな奴、正直胃から酸っぱいものが上がってきそうなくらい気持ち悪いし怖いです。特有の口の中の不快さだったり、頬を伝う冷や汗の温度も感じられるのがこのVRの世界を現実みたいにしてて、実に恐怖が駆り立てられます。
しかし30秒。それだけ凌げば、無敵のKP様の手助けが入ります。
意を決し、構えました。
噛みつき【失敗】
バギンッ!!
奴自身も暗くて見えていないのか、私の真横まで高速で飛翔し、壁を噛みちぎる。
あの頑丈そうな鎧には反撃なんて無意味でしょう。
ならば
回避に専念する【回避+10】
これしかありません。暗闇で闇雲に動き回るより、一度見た奴の動きを正確に見極めて予測する!
噛みつき【成功】
回避【成功】
今度は正確に私を狙ってきましたが、咄嗟に横に飛び込んで何を逃れます。髪が少し巻き込まれて千切られましたが、鋭い歯のおかげで引っ張られることはありませんでした。
「くっ……こんな細かい所にまで当たり判定あるんですね!?」
感心と同時に流石に少し焦りが出ます。感情の機微にここまで反応するのか、身体から冷や汗や震えが止まりません。しかし、このゲームの主人公は私、忠犬オタ公です。自分の為、そしてサチちゃんの為の未来を描くのです。
「熱くなってきましたね……!」
おそらくあと十秒ほど。避けきる……!
そう覚悟した瞬間でした。
尾(組み付き)【成功】
視覚の端から私に近寄ってきていた奴の尾を見逃しました。一瞬で足首から持ち上げられ、天地を逆さにされてぶら下がります。抵抗も出来ない辱めを受けている気分です。
「痛たたたっ!ここまで触覚リアルなんですかぁ!?」
また運営に報告する箇所が出来てしまいました。
流石にリアルすぎる痛みは笑えませんて。ガバリと開く口に対して、抵抗手段もないまま……
「……いや!サチちゃん、使わせてもらいますよ!」
拳銃【決定的成功/クリティカル】
ダメージ【3d6×2=26】
バンバンバンッ!!
「ぐえっ!」
念のためにと左手に握っていた拳銃を握り直し、硬そうな皮膚ではなく、通じる可能性があり暗闇でもなお光る赤い目玉へと銃口を向け、発射しました。
銃なんて撃ったことありませんでしたが、ピンチになると本能的に五感が鋭くなるんでしょうかね。見事に命中して、地面に這いつくばるようにして私は離されました。
激昂する様子で私に襲いかかろうとしする化け物。しかし、コチラにはそれを容易に覆すジョーカーがいます。
「30秒。お見事だ」
ガキンと、金属のような音を立てて化け物の牙をナイアさんが片手で受け止めました。一緒にサチちゃんも私の横にすり寄って来て、2人で観戦を始めます。
やっぱり探索者側が抵抗できないようなステータスの値なんでしょう。
頷いて納得しますが、ここから私の本領です。
芸術[実況]【成功】
「さぁ、メンバーチェンジです!私、オタ公は元より戦闘など出来ない身!少々ズルいと姑息だと笑われるかもしれませんが知ったこっちゃあありません!」
「「……」」
「恐怖を駆り立てるクサリヘビVS謎のイケメンによるキャットファイトです!」
「ククッ…だって、"狩人"君?」
「ご、冗談を…わ、わた、私は……退散……」
声は聞こえませんが、ナイアさんが語りかけているようにも見えますし、あの化け物が何か言っているようにも見えます。だとしたらもしや交渉の余地があったのでは?いえ、問答無用な感じでしたし、ゲーム的にサチちゃんを生贄になんて言われたら頷くわけないのでこれが最適解でしょう。
「連れないことを言うな。遊んでいけ」
「おお〜っと、先制はナイア選手!仕掛けたぁ!!」
【手加減】
跳躍【成功】
キック【成功】
ダメージ【2D6+12D6=35】
瞬き一瞬、ナイアさんが化け物に向かって飛び込み、ハイキックを繰り出しました!
ステータスの差でしょうか、拳銃以上の威力の凄まじい蹴りです。顔面が割れ、壁に叩きつけられた化け物は苦しそうに呻いて動けません。
「見事なハイキックが顔面にクリーンヒットォ!!たまらず化け物はダウ〜ン!畳み掛けるようにナイア選手が何かするぞぉ!?」
「たった二人の観客だが、愉快で私も気分が良い。ご褒美だ。君の終わりに、彩りを添えてあげよう」
「ぁ……」
魔術【圧縮】
まるでスーツケースに無理矢理大量の荷物を押し込んだ時のような、圧のある音が部屋に充満する。
私の3倍はあったような巨躯が、少し大きめのガシャポンのカプセルのようなサイズと形に"圧縮"された。
「決まったぁぁ!!ナイア選手の圧勝だ!怪物VSナイア選手の勝負は、怪しさ溢れるゲームの管理者、ナイア選手のパーフェクトゲームで幕を閉じましたぁぁ!」
「はい、あげる」
「ありがとうござっ……いや、いらないです。うわ気持ち悪っ」
体液がびちゃびちゃと床を汚し、うぞうぞと細胞が生きているような丸い肉塊。それを渡してくるのを受け取りかけてしまいましたが、流石に拒否しました。
「ついで。サービスだ」
パチンと指を鳴らした途端に部屋が明るくなり、奥にあった石像の姿が顕になりました。
「何でしょうあれ?ガネーシャ?キメラ?」
「あぁ、君か」
「?」
「おっとすまない、こっちの話」
また意味深発言だ。探索者に不安を与える演技が上手いなこの人。もう意味ないのに。内心思いながら、私は像に目を凝らすと、私は紙切れと石板があるのに気づきました。
目星【成功】
〜真ん中の 弱々しい 太陽の中。
もしくは 黒染めの 夢の知識。
そこに 調味料は 隠れている〜
アイデア【成功】
「……あっ、毒かこれ!?あっぶねぇ〜!?」
多分、弱々しい太陽は豆電球。夢の知識っていうのはスープの夢についての本のことでしょう。つまり、私の手に付いてたこれは
「舐めたりしたら死ぬじゃんこれ!」
「ククッ、その通りだね。ついでに言うと、銀の食器は毒と反応するから、中世貴族の間で使われていたのは毒味の意味があるよ」
「ほぇ~……じゃあ解決ですね!石板は……多分鏡文字?タイムリミットまであと10分くらいですかね……」
少し悩みましたが、折角なので完全クリアを目指しましょう!
〜数分後〜
5分程で読み解ける程度の文章量でした。
「簡潔にまとめると、ここは夢の中で、目の前のアレはチャウグナーフォーンとかいう"邪神"。クトゥルフ神話には詳しくないんですけど、そういうのがいるんですね多分」
「それで、君の選択は?」
「う~ん、悩みましたが一つです。サチちゃんと私で毒入りスープを飲みます!」
「理由は?」
「……この神は、石板を読む限りは人の身体と精神を変容させる能力を持っています。なので私はともかくとして彼女は多分、夢の存在……ですが、私はこの物語を最後まで描くと決めたのですから、二人揃ってハッピーエンドです!」
あくまでもゲームです。でも、私はハッピーエンドがいかに素敵なものか知っています。なので私は、無駄だと知っていてもこの選択をします。
とても長く感じる静かな時間が数秒……彼の反応を待ちます。
「……いいね、素敵だ」
「っ、ですよね!そうと決まれば、ささっと毒を飲みましょう!」
サチちゃんは怯えているようにも見えますが、そうは言っていられません。早速書物庫から毒を拝借し、まだほんのり熱が残るものの、ぬるくなったスープに銀のスプーンで毒を突っ込みます。
「さて……飲むの結構勇気いりますね。ナイアさん飲みます?」
「まぁ私は別にどちらでも」
「サチちゃんも同じですか……では、せーので皆飲みましょう」
意を決し、私は厨房から持ってきた皿に取り分けたスープを持ち上げます。
「いきますよ……せー、の!」
POT対抗【自動失敗】
POT対抗【自動失敗】
POT対抗【自動成功】
一口、口に運びました。
同時に、焼け付くような喉の痛みと絶叫マシーンに乗った直後のような酔いの低迷感。
呼吸が、心拍が激しくなっていく。
無いはずの心臓が激しく脈打ち、口には血が溢れます。
サチちゃんも同じようで、ナイアさんだけはご馳走様といいながら舌舐めずりをしています。
明らかに苦しすぎます。明らかに痛すぎます。
明らかにリアルすぎます。
アイデア【成功】
リアル……?ここがVRなんて、誰が保証した?
ナイアさんは、一言もゲームなんて言っていない。
ゲー厶を結論づけられる要素なんて、このアバター程度しかない。
まさか、全て
「本…物…!?」
「何をいまさら。まぁ、ノッた私も私だが」
「騙……した……んですね……」
「心外だ。私は君を助けたというのに」
スープを飲んで十数秒の地獄。
彼を睨む。殺したいほど憎悪が湧いた。
自分のこの感情はどこか知らない誰かのものなんじゃないかと思うほど、初めてのものでした。
「……?身体が……」
「結末はとうに定められた。だが、折角だ。少しだけ物語の続き、エピローグを見ていくと良い」
急に文字通りに毒気が抜けました。サチちゃんも同様のようで、疑問符を浮かべて私の側に張り付きます。
今までの話が全て本物だとして、彼は人間ではありません。怪物以上の力を容易に持っている。
警戒心を強めて距離を取ると、さっきまでいた礼拝室から重いものを引きずる音が聞こえてきました。
「……この音は……?」
「さっきまで一緒に見ていたじゃないか」
ケラケラと嘲笑う彼と一致した私の視線の先、開いた扉から現れたのはただの石像、だったはずの本物。チャウグナー・フォーン。
77【失敗】
減少値【8】
アイデア【失敗】
ゲームの設定だと笑っていたのは数分前。もう笑えません。目の前にして初めて分かった圧力、立つどころかピクリとさえ動けず、思考が凍りつきます。ガタガタと怯えるサチちゃんと私ですが、ナイアさんは堪えきれないと言った様子で余裕に笑っています。
「……何故、貴様のような存在がここに」
喋れるんですかあなた。
「好奇心だよ。君は、このシナリオをクリアした彼女の為に、何を用意しているのかな?」
「ふん、下らん。矮小な生物に勇気が示された。私から逃れた。それだけで身に余るこうえ──ッ!?」
魔術【クトゥルフの鷲掴み】
「ナンセンス。つまんないね、君」
何が起こった。彼?が人差し指を下に向けた瞬間、象が地面に潰された。
抵抗している様子はあるものの、全く歯牙にかけていません。
「彼女はこの何の面白みもない白い部屋で、物語を描いたんだ」
「ものがたり……だと……!?」
「そうとも。ただの幻想と知ってなお、下僕を人と同じに扱い、自分を主人公に見立て、描き、ハッピーエンドへと向かった。ここで終わるはずの"サチ"の、続きを描こうとしたんだ。実に……人間的で素晴らしい。オタ公さん」
「へぁっ!?」
突然の呼びかけ、驚いて変な声が出ちゃったじゃないか。
「私が代わろう。さて……勇敢なる者よ、現に帰るがいい」
「は……へ……?」
「君"達"のこれからに、さらなる光と幸せを。ツクヨミにさらなる彩りを。
彼は味方だったのか?これは夢だったのか?最後のは言葉の綾だったのか?私はどうなるんだ?
無限に続く疑問。それらを処理できないままに、どんどん意識が遠のき、やがて視界は真っ白になりました。
──
あれから少し経った。
アレはやはり夢だったのか。今でも鮮明に思い出し、時折脳裏をよぎる。
いつものように、私はいつも一緒に仕事をする乙事照琴と共にツクヨミを盛り上げる企画を考えていた。今回はトップライバー、ブラックオニキスからの重大発表があるらしく、リーダーの帝も交えて生放送のメンバーを選んでいた。
「そう言えば、俺気になってる奴がいるんだよな」
「ほうほう!貴方が気になるとは……かぐや以来っすね〜どちら様です?」
「コイツ。初ログインで1回会ったんだけど、最近勢いあるんだよな」
「おぉ!この人ですか。俺も1回配信で相談したことありますよ、オタ公さん知ってます?」
「へー、どれど……あっ!!?」
夢じゃなかった。
であれば、やはり全て現実。
彼の言葉に、嘘偽りなど無かったんだ。
「ふふ……あっははは!」
思わずおかしくて、嬉しくて笑ってしまった。
"這い寄る渾沌"。彼の言葉が全て本物なら、彼女も……サチちゃんも何処かで笑っているに違いない。
そうだ、この物語に名前をつけてしまおう。
呆気ないけど、深みがあって、誰でも色んな想像ができる、そんなこのシナリオの名前は。
「"毒入りスープ"うん、これにしましょう!」
困惑する2人をよそに、私は笑っていた。
シナリオ通過
超クトゥルーエンド
"明日にサチあれ"
報酬
クトゥルフ神話技能+5
SAN値回復1D10=6
這い寄る渾沌によって、サチの存在がこの世界に認められました。縁があれば、また会えるでしょう。