読んでくださっている方、ありがとうございます!
あ、別に失踪の前触れとかじゃないですよ、前書きは何か書かなきゃと思ってるだけです。感謝は本物です!
それではナイア視点8話、お楽しみください!
昨夜は結局、10分きっかり彼女の背を借りてしまった。
化身を通してとはいえ、信者達からあらゆる狂気の明星として恐れられた私が、脈を打つ心臓や人肌の温度にあそこまで乱されるとは思わなかった。
「……嫌いではないが」
今日の配信内容はリクエスト企画。1週間でどこまで資格を取れるのかというものの発表。
結果としてはバイトや配信、数度の神格絡みや芦花の件が重なったおかげで20個程が限界だった。
「色々予定が重なってしまってね、細かいのを含めてこのくらいだったよ」
〈多すぎて草〉
〈CBTで出来る資格はほぼ網羅してんのキモすぎる〉
〈あ"?今ナイア様の事キモいとかいうたん?〉
〈SAN値チェック!SAN値チェックで粛清しろ!!〉
「こらこら、私の配信では喧嘩はご法度だ。最初に言っただろう」
少しオーバーに騒ぎ立てる、ネット特有のノリ。
今日は久し振りに雑談や相談配信。流れていくコメントから拾っていつも通りに私の考えを言葉にしていく。
「あ、そういえば、私のASMRが発売されるよ」
〈えぇやんええやん〉
〈即買い定期〉
〈タイトルは?〉
「えっと…全肯定邪神様に夕方の公園で甘やかされすぎた件」
〈タイトル読む声がえっち!〉
〈おい馬鹿やめろ〉
〈いつ発売なん?〉
「来週」
〈告知しろって!!〉
〈アカウントを作りなさいとあれほど言っただろうがぁ!〉
「アカウントはねぇ…申請が面倒で。別に不便はないし」
〈本当に自分のことに関して適当すぎる…親の顔が見てみたいぜ〉
「親か…私も見てみたいものだねぇ」
〈…え、それはネタなの、マジなの〉
〈おい、さっきのコメント打ったやつ、多分ファンブルしたぞ〉
〈すいませんした〉
まぁ、嘘は言っていない。"お父様"の顔なんて知らないし別に興味もないが、一度くらい見てみたくはある。
別に詮索されても平気だが、訂正も面倒なでそのままにする。私の配信では頻発することだが、結局私の正体な
ど知ろうとして知れるものではない。
「まぁ、そういうわけだから。皆是非買ってね。脳の髄まで響くような、邪神の囁きをお届けするよ」
〈表現がたまに怖いんだよな…〉
〈3000〉
〈今のどこにスパチャする要素があったん?〉
夕方の少し前程までの配信で予定は終わった。
今は5月の始まりだ。彼女と出逢ってたった一ヶ月。
"まだ"一ヶ月。宇宙にいる時は何千年が瞬きにすら感じられたのに。人間が愛おしい、愛おしくて仕方ない。
魔術で外から見てきた。争う姿も、文明を発展させる姿も、下らないことで滅んだ姿だって見てきた。
そんなのは、ほんの片鱗に過ぎなかったんだ。
人間と過ごして、色々なことに気づいた。
心臓は跳ねるし、脈は速くなるし、料理は楽しいし、退屈は殺せるし、時間が経つのは速く、遅く愛おしくなる。
自分で気づいている。この感情は、人間と過ごしているからじゃなくて、綾紬芦花と一緒にいるからだって。
許されないことだ、絶対に。
チーン!
間抜けな音と共に、手慰みに作っていたケーキが焼き上がる。
「やってしまった…」
普段は魔術で焼いていた分、オーブンモードで試しに作ってみたのが仇になった。
表面が焦げた丸いケーキが煙を立てている。
初めて失敗した。
並列思考が出来るというのに、一つの考えに割かれてしまった。
捨ててしまおうかと考えていた時、肩を叩かれた。
「っ…芦花か…驚かさないでくれ」
「ただいま〜、聞こえなかった?…なにそれ?」
「ケーキのつもりだったんだが、失敗してしまったんだ」
「えっ、超レアじゃん。ナイアも人並みに失敗するんだ?」
「いや、初めてだよ…最近どうにも調子が悪くてね。まぁ、魔術でどうとでもなる。時間を多少戻せば良いだけだ」
いつものように魔術を使おうとした瞬間、芦花がそれを遮って皿をオーブンから取り出した。
「表面だけだよ。勿体ないし食べよ」
「…物好きなことだ」
「ナイアには言われたくないかなぁ」
シンプルな甘いパウンドケーキ。芦花の言った通り表面だけが焦げ、中身はふわふわに仕上がっている。
芦花が表面だけを器用に削ってテーブルに並べる間に紅茶を淹れる。
「いただきま~す…うん、ちょっと香ばしいけど美味しいよ」
最近、芦花は本当に屈託のない笑顔を見せるようになったと思う。最初の頃のような"笑顔の仮面"ではなくなった。その笑顔が私に向けられていることも、今なら理解できる。
「どうかした?」
座高の低い彼女と私の体格差は大きく、テーブルの向かい側であっても、ちらを覗き込む時は必然的に下から見上げる形になる。
「…見上げられるのが、私は好きなのかも知れない」
「えっ…?ん?どういうこと?」
「あぁいや…忘れてくれ」
〈上目遣いを知らないとそういう表現になるんだ〉
〈男の子がドキッとする仕草TOP3に入るからね〉
〈どうした、かぐや〉
〈どう?ドキッとする?〉
〈しない〉
〈即答かよぉ、つまんね〜、世界のかぐやちゃんだぞこっちは〜〉
〈逆に聞くが、それで君に靡いたら私はどうなる〉
〈ここにいる皆と黒鬼から袋叩きにされるよ〜〉
「ナイア?」
「…いや、なんでもないよ」
安定しない感情を迎えたまま、数日が過ぎた。配信、バイト、芦花との一時。
最近になって彼女も料理が上達してきた。何度か包丁で指を切ったり火傷したりもしたが、今となっては2人で台所に立つことも増えた。
ASMRは好評で、声の仕事の誘いもいただいたが、興味が無くて全て断った。
撮影する時のアドバイスで、"大切な人"に向けて。なんて言われた時…何故、芦花の顔しか浮かばなかったんだろういや、決まっている。彼女が美しく、一番近い人間だからだ。それしかない。
「やっと給料日だ〜……ナイア君って給料何に使うの?」
休憩室で話していると、酒寄さんに問われた。
誰かにプレゼント、もしくは自分の好きなもの。
それならば、芦花に贈ろう。
酒寄さんに伝えると驚かれたが、贈り物などまともにした試しがない。
バイクを走らせながら、考えてみることにする。
「芦花の好きなもの…」
化粧品は好きだろうし、流行りのものもきっと嫌いではない。バッグについているオコジョのぬいぐるみ。あとはネイルやピアス、イヤリングといった装飾品だろう。
まだ開いていたモールで他のものも見て回る。
花や腕時計、絵画等も特定の者は好きだろう。
「……」
信用【成功】
「お困りですか?」
装飾品が売っているブースで店員に声をかけられた。
話をすると、一番は気持ちだという。そこは否定しない。私だって芦花が感情を込めてくれたらなんだって嬉しい。
どんな関係かと問われると、表現に困る。まさか邪神と共同生活しているなど言えるはずもない。
「少し複雑でね、少なくとも仲は悪くないと思うよ」
「もっと具体的に!」
「……私の作るご飯は好きだと言ってくれるね。それと、頼られてもいると思うし、尽くしている自覚もある」
やけに根掘り葉掘り聞かれる。随分と営業熱心だと感心する。
「恋愛感情はない?」
不意な質問に当然、"無い"と即答する。
〈はぁ!!?〉
〈んな訳ねぇだろ馬鹿!!〉
〈ちょ、やめっ…痛覚実装済みなんだから普通に痛い〉
〈仕方ないよ。この時のナイアはまだ人間年齢一ヶ月だし〉
〈宇宙人なのに、ナイア君は随分と内面の成長が遅いんだね〜〉
〈…そうなら、もう少し楽だったんだがね〉
無い。事実だ。私が彼女を愛でるのは、美しいから。
なんでもしてあげたいと思うのは、儚くて心配だから。
彼女に縋ってしまうのは、私が人間を理解していないから。そのはずだ。
だから、この胸のモヤモヤも、きっとバグだ。
「いや、なんだか胸がモヤっと……健康のはずなんだが……」
「お客さ〜ん、運がいいですね!」
再び熱烈な売り込みが始まった。
芦花の見た目を聞かれ、長々と語ってしまい、我ながらおかしな話をしている。この女性は人から信用を得るのが上手いな、つい本音が溢れてしまう。
やけに高揚した店員が並べた数多のアクセサリー。
ふと、一つの指輪が目にとまってしまった。
「……ふ、幸運か……これにするよ。彼女は幸運の象徴だ。いいセンスだね、店員さん」
幸運の象徴である四つ葉のクローバー。
笑えてしまう。彼女ほど不運な人間などこの世にいないだろうに。なんせ、
なんと傲慢で愚かなことだろう。
人生で初めての贈り物を購入して帰路についたが、ただ渡すのも面白くない。どこか、彼女を驚かせるタイミングで渡そう。
「…ただいま」
「おかえり〜」
まだ慣れない、この言葉。帰る場所があるというのは非常に安心する。私の障害や敵などこの宇宙には片手で数える程度しかいないというのに。
聞き耳【成功】
「…ふふ」
部屋に入ると、エプロン姿の彼女が台所に立っていた。
「上手に出来ているね」
「でしょ〜、はい」
「うん、美味しいよ」
料理はこの間一緒に作った和食の惣菜類。
煮物やお浸し、味噌汁に焼き魚。色々な料理法を教えるのに都合が良かったからの選択だが、彼女にはこっちの方が合っているのかもしれない。
夕食の準備を整え、二人で食卓を囲む。
「芦花、明日の土曜は休みかい?」
「うん。家にいると思うけど」
「この間、"忠犬オタ公"さんにコラボを持ちかけられて生放送の配信をするんだ」
「オタ公さんに?凄いね、あの人結構トップ層のライバーなのに」
私は芦花の配信を見るのは禁じられている。一度見たらふじゅーがバグを起こしてしまったらしい。芦花も私の配信を見たことがないのだが、基本は雑談と料理だから彼女の興味を引けていないのだろう。
チケットを送り、また普通の会話をきり出し、ASMRの話もしてみた。
「ナイアの声落ち着くもんねぇ、分かる」
「おや、意外だ。芦花もそう思うのかい?君の助けになれているのなら嬉しいね」
期待した通りの返事がない。どうかしたのだろうか、手も止まって、静かになってしまった。
「ちょっとだけね、学校とかバイト先に嫌なこととか苦手な人もいるの。そういう時に、ナイアの声とご飯は落ち着くんだよね〜…あ、な、な~んて…」
心理学【成功】
信用【成功】
彼女の落ち込む姿を見るのは胸が締め付けられる。
どうしようもなく苦しくなる。代わってあげられたらと考えてしまう。
だからせめて、芦花には少しでも安心して欲しい。
最初に、約束した。
「言ったろう、私は君だけの神様だと。遠慮なく話してくれていいし、頼ってくれていいんだ」
「あーもう、スパダリすぎ〜…離れられなくなったらどうしてくれんの?」
じとりとした目でこちらを見つめてくる芦花。僅かに浮かんでいる涙に触れるのは無粋だ。
この間覚えた私のお気に入り。約束の印を彼女と結ぶ。
「良いじゃないか。君に拒絶されない限り、私は黙って出ていかない。約束だ」
「指切りって……変なところで子供っぽーい…ナイアって髪撫でるの好きだよね」
「あ…すまない、嫌だったかい?」
「うぅん。撫でられると安心するなって」
本当は、君の顔がよく見えるようになるからなんて、言えるはずがないな。
────
「じゃあ、段取り通りに!」
夕方。既にツクヨミで生放送のスタンバイは終えている。芦花の友人が帝君を推しているらしく、ヤチヨに頼んだらあっさりと通ったが、まぁ問題ないだろう。
オタ公さんと照君は台本の確認。
ゲストの私達は何度かの会議で用意した話のタネを確認している。
そうこうしているうちに時間が来たことで、特設的に用意されたステージへ上がる。
「自分で言うのもなんだが…似合っていないな、この服」
「あら~、そんなことないですよぉ」
放送待機中のリスナーはまだ客席へ入れず、ステージも暗いままだが、用意されたキラキラとした衣装はどうにも性に合わない。
「ギャップも大事な要素だかんな、受け入れろよ」
「帝君達はやらないのかい?」
「う~ん…そういうものか」
恐らく多分、芦花は笑うだろう。いや、公私混合はしないと決めているのだから、彼女のことを考えるのはよくない。…いや、そもそもライバーも趣味だ、別に混同しても構わないはずだが。
「何を唸ってるんだ?」
「雷君、君も出るのかい?」
「いや、俺は今回出演しない。暇だから来ただけなんだが、裏へ通された」
「あぁ、そういうこと」
「折角だ。良ければフレンドにならないか?」
「フレ…?あぁ、それは構わないが、どうやるんだい?」
少し驚かれたが、彼は丁寧な男だ。フレンドのコードを打ち込み、具体的なメリットを要約しながら教えてくれた。
「フレンド欄に誰かの名前がはいるのは初めてだ」
「意外だな。お前なら誰とでも馴染めるだろうに」
元々この機能の存在を知らなかったのもあるが、そもそもそこまで深い関係になる人物なんていなかったから。
「フレンド第一号、よろしく頼むよ、雷君」
「あぁ。と、時間だな」
10のカウントダウン。直後に暗かった客席が明るくなる。
目星【成功】
我ながら笑えるな。ニ万人以上のリスナーがいて、前列の席も五百人近くいるのに、一瞬で芦花を見つけてしまった。
あいも変わらず、アバターの彼女も美しくて。
「ククッ…今日は楽しもうか」
アドリブで入れた台詞に、どうやら会場は沸いてくれたようだった。
も、いうことで、そろそろナイア視点も終わりが近づいてきましたね。いろやちかぐまみに見せているという点の以上、この視点は補填に過ぎないので、良い所で終わりますのであと2、3話ですね。芦花はさらに短くなる予定です。
なんですが、やはりまだ超かぐや姫!の熱は冷めていないので何かしら書きはすると思います。
なので、良ければまだまだお付き合いいただけると幸いです!