神に恋した芦の花   作:レガシィ

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三話がちょっとローカロリーな話だったのでちょっと詰め込んじゃいました。
ヤチヨのねぇ!ウェルカムアナウンスがねぇ!可愛くてねぇ!
彩葉のねぇ!舌回ってない感じがねぇ!可愛くてねぇ!
第5弾のポスカがねぇ!多くてねぇ!ちょっと3枚は無理ですねぇ!
次のウェルカムアナウンスは黒鬼か芦花真実か…。最後はかぐいろやちだと思ってただけに分からんな…


第四話 無貌の影

 ジワ……コトコト、トントン。

 

 そんなオノマトペを耳にしながら、いつもより少しだけ遅く芦花は目を覚まし、昨夜の記憶を整理して頭を抱えながら、身体を起こす。

 

 まだ僅かな寒さを残しつつも、起きるのが苦ではない春先。寝起きが得意とは少々言い難い芦花は少しうとうとしながらリビングを通り、途中で先に起きていたナイアとでくわす。

 

 当たり前に台所で背を向ける彼の後ろ姿が、まだ覚めていない脳を刺激する。

 

「おはよう、芦花。朝ごはんが出来るよ。顔を洗っておいで」

 

「……ぅん……」

 

 視線を芦花に向けないようにしながら顔を洗うように促す。

 

 メイクをしていない姿が美容にこだわる彼女にとって、気分の良いものではないと察した彼の気遣いを悟り、小さい返事をして洗面所へ向かう。

 

「朝ごはんは食べたほうが健康に良いらしい」

 

 軽くメイクを整えて戻ってきた芦花の前に、そう言って焼きたてのトーストと恐らく手作りであろうジャム、昨夜と同じスムージーを並べる。

 

「ありがと……いただきます」

 

「召し上がれ」

 

 向かい側にナイアも座り、朝食を食べながらタブレットでニュースをつける。芦花の呟いた美味しいという言葉に、ナイアは自然に頬をほころばせる。

 

「今日の君の予定は?」

 

「昨日買った化粧品の紹介動画撮ろうかなって。後は明日の準備。そっちは?」

 

「私はスマコンでツクヨミとやらに行こうと思っているよ」

 

 慣れてきた芦花は自らの予定を話して問いかけ、昨日の出来事をとぼけながらナイアも同じように話す。

 

「昨日から不思議だったんだけど、お金って何処から出てるの?まさか違法じゃないよね」

 

「ちゃんとこの国の法に則っているよ。株と、いくつかの宝石を売っただけさ」

 

「宝石?」

 

「欲しいかい?なら作るけど」

 

「は?」

 

 26 【成功】

 

 減少値 【0】

 

 そう言うとナイアは両手を合わせ、その隙間からジャラジャラと小石程度の大きさからピンポン玉程のサイズまでの宝石をコロコロとテーブルに雑に落とし、拾い上げた一つの宝石を芦花に見せて無邪気に笑う。

 

「…………」

 

「どれも天然と遜色ないよ。あ、これ良いね。君の綺麗な髪色と同じだ」

 

「そういうの、外で絶対やめてよ?」

 

「流石にその辺りは弁えてるよ。それで、欲しいのあるかい?」

 

「無い無い無い無い、貰えないって!」

 

「そう?じゃあいいか」

 

 パシュンッ

 

「物欲がないんだねぇ。芦花は」

 

「そういうのは普通、人間は頑張って働いて手にするものなんです〜」

 

 風船の空気が一気に萎むような音と共に宝石達は虚空へと消え去る。

 

 もはやそれを不思議にも思わない芦花は自分の感性とナイアの発言に呆れつつ、朝食を食べ終える。

 

 ナイアは食後にコーヒーを、準備を終えた芦花には紅茶を淹れて話し合いを始める。

 

「ルールその1。外で魔術を使ったり話したりは基本駄目。貴方、たまにズレてるから」

 

「了解したよ」

 

「ルールその2。家事と生活費は分担……えと……洗濯は分けること」

 

「理解っているよ、了解した。その分掃除と料理当番を頑張ろう」

 

「ルールその3。私と貴方の関係は……そのうち友達とかには説明するけど、極力秘密にすること。その為なら魔術使ってもいいよ」

 

「ふむ……そうか。まぁ、君が言うなら」

 

「約束ね。ご馳走様、食器の片付けくらいはやるよ」

 

「お粗末さま、ありがとう」

 

 最後の約束にだけ歯切れの悪い返事をしてナイアは了承し、食事を終えた二人はそれぞれの今日を過ごし始めた。

 

 ──ー

 

「あ……」

 

 昼頃、集中していた芦花は撮影を終えると、リビングに背筋を伸ばして欠伸をしながら息抜きをしに戻る。

 

 そこではツクヨミにログインしているのか、目を瞑ったナイアが足を組んで椅子に座っていた。

 

 まるで美を追求した彫刻のような出で立ちに神聖さすら覚え、向かいに座ってなんとなしに眺めてしまう。しかしその気配に気付いたのか、ナイアは目を閉じたまま芦花に話しかける。

 

「や、芦花。今は広場でライバーとやらの演奏を聴いているよ」

 

「ARモードでもないのに……もう驚くのも疲れた」

 

「芦花も来るかい?」

 

「目立つしやめとく。それより、お昼どうする?」

 

「おや、もうそんな時間か」

 

 ナイアはパチリと目を開けてスマコンを外す。

 

 目が紅いこともあり、橙色の輪郭が現れる瞳に黄昏の夕日を彷彿とさせ、芦花の視線は奪われる。それに気づかないまま、ナイアは台所へと立つ。

 

「さて、何か食べたいものはあるかな。予算内で努力しよう」

 

「えっと、健康に良いもの……とか?」

 

「健康……漠然としているね。野菜を沢山使ったハンバーガーでも作ろうか」

 

「本当に人間味あるね……別に一人暮らしも出来たんじゃない?」

 

「寂しんぼなんだ。それに、誰でも彼でもいいわけじゃない。君じゃなかったら声をかけていないよ」

 

「それ、イケメンだから許される発言だからね」

 

「ハッハハ!ならこの顔で良かった。まぁ、君達(人間)に何を言われてもどうとも思わないが」

 

 制作[料理]【成功】

 

 雑談をしながらもナイアの手は淀みなく動き、ミニサイズのハンバーガーを数種作り上げる。魔術を使って工程を短縮しているとはいえ、元々が器用なのだろうと感心する芦花はテーブルセットと飲み物を用意し、食卓を整える。

 

「さ、召し上がれ」

 

「いただきます……あーもう、めっちゃ美味しい、自分で作れる気がしないよこのクオリティ」

 

「ふふ。畑が違うとはいえ年季が違うさ。でも、そろそろ芦花の作ったものが食べてみたいものだけどね」

 

「……料理苦手って言ったけど、あれ嘘なの。本当は壊滅的だよ。食べるのキツイと思う」

 

「問題ないよ、例え炭でもショゴスでも、君が作るものだ、完食してみせよう」

 

「何そのゲテモノみたいな名前……期待しないでよ?」

 

「大いに期待するさ。君の作るものなんだから」

 

 その後に笑顔で楽しみだと付け加えるナイア。

 

 いつもの笑顔と違う、心臓に悪い子供のような素の笑顔に僅かに心臓が脈打ち、照れ隠しに目を背けた。

 

「そういえば、今朝は明日の準備と言っていたけれど何かあるのかい?」

 

「入学式、専門学生だもん。帰りにバイトの面接も行くから、明日帰るのは夕方だと思う」

 

「学校か。頑張っておいで、応援しているよ」

 

「ありがと……その間ナイアは何するの?」

 

「やりたいことは色々あるのだけれど、まだ情報を集めたい。その為の君だし、不用意に動いて迷惑はかけたくないからね」

 

「ふ~ん……外に行かないで暇なら、ライバーでもやってみたらいいんじゃない?企画って言っておけば色々やれるし、器用でイケメンだから人気出るかもね〜」

 

「ライバー……なるほど、ふむ、良いアイデアだ。そうしよう。そうと決まれば、機材を揃えなくてはね」

 

「え、ホントにやるの?」

 

 冗談混じりのナイアを褒めちぎった提案。先日出会った帝アキラを思い出して真剣に飲み込み、ナイアは準備をしようと必要なものを調べ始める。

 

 同居を押しかけた点を除けば、ほぼ完璧で模範的な人間である彼のことだから恐らく余計な迷惑はかけないだろうと、芦花はそれに当てる思考を放棄した。

 

 そんな会話をしながら二人は退屈を殺していく。

 

 ナイアは普段リビングで人間を学んでいるのかテレビと雑誌、小説をたくさん読んでいる。

 

 一方の芦花は明日から通う予定の学校の予習をしていた。不意なイタズラごころで、問題文をつぶやいてみると、それにあっさりと彼は答えた。

 

「……〇〇の管理について、〇〇を保管する時はどの状態であるべきか」

 

 薬学【成功】

 

「冷暗所にガラス類の容器にて保管。なぜなら36.5度、人肌以上の温度か空気との長時間接触によって性質が変化するおそれがあるため、内部が見えるガラス類の容器にて空気と遮断して密閉しなければならないから」

 

「なんで分かるの!?」

 

「まぁ……私、一度見たら忘れないんだ。容量無限の記憶装置が外付けされてると思うといい」

 

「ずっる〜、だからあんなに器用なんだ」

 

「これでも長生きしてるからねぇ。因みに、そこの問3の答えはBじゃなくてAだよ」

 

「えっ嘘っ……うわ、ホントだ。ここまで来ると凄いよりも怖さが勝つんだけど」

 

 軽口を叩いて笑っていると、不意にナイアのスマホから鳴った軽快なアラームの音に反応する。

 

「ツクヨミで気になるイベントがあるんだ、これから少し行ってくるよ」

 

「ん、オッケー」

 

「それじゃあ芦花。君の料理を楽しみにしているね」

 

 立ち上がって部屋に向かう際、振り向いて楽しげにウィンクをしながら、ナイアは芦花に先ほどの提案を確約させる。

 

 冗談かと思っていた芦花は慌てて今日のメニューを検索し始めるが、途中で気付く。

 

「……なんで私が気にする必要があるんだろう……いや、まぁ……なんだかんだお世話になったし、ね」

 

 しかし、それに対する回答が頭のなかで組み上がり、深く考えずに再び画面をスクロールし始めた。

 

 ──ー

 

 降り立つナイアの紅い瞳に飛び込むのは、昼夜問わず眩い電光と幻想的な風景に十人十色のアバター達。彼を受け入れる仮想の地、ツクヨミ。

 

 ナイアは興味本位でチュートリアルで会った彼女とは違う、本物の月見ヤチヨを見てみたいとライブイベントの近くへ足を運ぶ。3度目のツクヨミ、電子体による侵入とスマコンによる正規の方法での二重ログインによって、権限を損なうことなくツクヨミ内での自由を確立したナイアはほぼルール外の動きが可能となり、不可侵エリアの建物の屋根で、味のしないパフェを頬張りながらイベントの始まりを待っていた。

 

『今宵のツクヨミも歌姫ヤチヨが彩るライブイベントで大賑わい!今回も完全生中継で忠犬オタ公がお送りするぞぉ!!カウントダウンだ!』

 

 ツクヨミ内の人気ライバー、"忠犬オタ公"。彼女は主に情報を発信する、企画を運営する等で人気を博している。

 

 定期開催されるライブの同時視聴のための大型モニターの権限を有しており、彼女の送る10秒前のカウントダウンに耳を傾け、その時がやってくる。

 

 目星【成功】

 

 アイデア【成功】

 

 華やかで神秘的な演出。ヤチヨのアバターのモデルが海に由来することもあり、海洋生物がイルミネーションのように再現され、透き通る歌声と共にPL達を深く淡い夢へと導いていく。

 

 しかし、ナイアの中にはそれよりも遥かに大きな疑問がよぎる。

 

「……この星の技術じゃないな。ミ=ゴ(羽虫)が知恵でも貸したか?それか電子の海に猟犬(犬っころ)が来れないのを良いことに、イス人がタイムトラベルでも決行したか。随分馴染んだものだ……まぁいずれにせよ、安心するといい人間達……」

 

 自らの知識の中にでヤチヨの正体に疑問を持つナイア。

 

 人間を知ってから、地球に害をなす者を幾度となく駆除してきた彼の好奇と、敵意がヤチヨに向けられた。

 

「ヤチヨ、またいるよ」

 

「もー、またプロテクト全部抜けられてる。うぇ~ん……ヤッチョをイジメないでよぉ……」

 

「何が目的なんだろうね。監視か観察?」 

 

「う〜ん。ヤチヨはお役目終えたし、月人さん達じゃないとは思うんだけど。とにかく彩葉やツクヨミの皆に危害は加えさせない。いざとなったら正面衝突も覚悟しなきゃかも。ツクヨミ内ならKASSENのルールで対抗できる。念には念を……ブラックオニキスの皆と彩葉達には伝えておきましょう。このツクヨミは皆の為だけじゃない、かぐやと彩葉と、ヤチヨの大事な場所だもの。この身に代えてでも……」

 

 それと同時、ログイン履歴の情報でヤチヨも侵入者の存在に勘づく。アバターやナイアに気付いたわけではないが、明確な違和感にFUSHIが警鐘を鳴らす。 

 

 三十分程の小さなライブが終わった後に本体は管理部屋で泣きながら不正な侵入者の影を追っていた。ナイアとヤチヨ。姿の見えない敵を二人は追いながら、口から出た言葉がリンクする。

 

「「護ってみせる(あげよう)」」

 

 ──ー

 

 小一時間程、時刻は七時を過ぎていた。

 

 聞き耳(五感の判定)【成功】

 

 ツクヨミに魔術を行使して五感をダイブさせていたナイアだが、真っ先に嗅覚が反応する。

 

 鼻腔を刺激する炭化した臭いと特有の火の香り。人間の世界で初めて冷や汗をかいたナイアは大きな音を立てて扉を開け、リビングへ急ぐ。

 

「芦花!!!」

 

 台所に立っていた芦花はナイアの声に驚いてビクリと肩を震わせる。やってしまったという表情でフライパンを握る彼女と、整理されているとは言えない台所に、黒い煙。

 

 制作[料理]【致命的失敗/ファンブル】

 

「ご……ごめん。失敗しちゃった」

 

 アイデア【成功】

 

「……取り敢えずコンロの火は消して、口を押さえてこっちにおいで。窓は開けないで、黒煙は通報されてしまうかもしれないから、私が何とかするよ」

 

 ただの失敗(ファンブル)だと安堵したナイアは煙を吸わないように芦花を誘導し、台所の惨状を足元から出現させた小さなトカゲや蝙蝠が組み合わされたような怪物に片付けさせる。明らかな大失敗で動揺し、おぼつかない足取りの芦花を左手で抱き寄せ、右掌に口を作って煙を吸い始める。

 

「……何アレ」

 

「私の眷属だよ。見た目は優しくしてあるけどね。っと、勝手に食べるな。私が食べる」

 

 フライパンに乗っている黒焦げのオムレツと思しきものと、恐らくそれを乗せる予定だったであろうケチャップライス。オムライスを作るつもりだったのだろうと察したナイアは、それを食べようとしたシャンタク鳥を制止する。自分でもあり得ない程の失敗をしたと落ち込んでいた芦花だが、食べると言ったナイアに驚きを隠せない。

 

「食べるの!?」

 

「勿論だ。言っただろう、例え炭でも食べると。芦花はどうする?食べないならその分私が頂くし、代わりのものも作ろう」

 

「……食べる」

 

「ふふ、良い子だね」

 

 座っているように促し、お茶とランチマットに簡易的なサラダを用意する。オムライスを改めて皿に盛り付けて、おずおずとした様子で芦花がどうぞと小さく呟く。

 

 写真術【成功】

 

「ちょっ、撮らないでよ!」

 

「これも思い出だろう?うん、いただきます」

 

 ゴリッ……モソッ……

 

 火の通りきっていない野菜にムラのある味付け、ボソボソになって真っ黒に焦げてしまったオムレツ。下を向いて落ち込む芦花はナイアの表情を見るために顔を上げる。

 

 予想とは裏腹に、彼は無邪気な満面の笑みで食べ進めていた。

 

「神様って味覚ないの……不味くない?」

 

「ん?あるよ。そしてこれは不味い」

 

「うぐっ……表情と合ってないんですけど〜……なんで不味いのに食べるの。しかもなんで笑顔なの」

 

「……ふっ、ククッ……ハハハ!私はね、君が私の為に作ってくれた事実が嬉しいんだ。それも、ちゃんと私を考えて作ってくれている」

 

「そんなの分かんないじゃん」

 

 心理学【成功】

 

「分かるよ、君の表情でね。私は所詮、君にとって私は縁もゆかりも無い他人だ。さらに言えば神だの魔術だので不審極まりない」

 

「自覚あるんかい」

 

「そんな私に、美味しいご飯を作りたいという君の優しさで私の胸は一杯だとも。改めて、ご馳走様でした」

 

 言ってる間に完食したナイアの率直過ぎる言葉に思わず目を背ける芦花。照れ隠しなのか、台所で片付けを始めるナイアに背を向けたまま約束を取り付ける。

 

「ねぇ……今度料理教えてよ」

 

「……ハハ、勿論。三ツ星の料理人も舌を巻く程の腕前にしてみせよう」

 

「いやいや普通でいいから普通で」

 

 素の笑顔と、素直な言葉をストレートに贈るナイア。

 

 常識の外側にある彼の"普通"に釣られて笑ってしまう芦花だった。

 

 ──ー

 

 トップライバー、ブラックオニキスの3人、彩葉、真実、そして芦花。

 

 パンケーキ型の大きな大地であるツクヨミを一望しながらの空中鉄道の旅。などではなく、もっと深刻な話で、情報の漏洩を防ぐために特に厳重で不可侵エリアである鉄道の中へ、管理者権限で上空を定期的に回遊する鉄道の中に彼ら彼女らはヤチヨに呼ばれていた。

 

「なぁ彩葉。このメンバーってことは……かぐやちゃん関連か?」

 

「いや……あの話はあれ以上の悪化はないはず。でも、下手すればもっと深刻かも」

 

「ね〜、これってここからの眺めって投稿しちゃ駄目?」

 

「乃依、やめろ。秘匿だと言われたはずだ」

 

「み、みか、帝様……!」

 

「真実は相変わらず通常運転だね〜」

 

 6人がそう話していると、駅員のコスプレをしたヤチヨがマイクを持って機内アナウンスの真似事をしながら登場する。

 

「やおよろ〜。みなさん、ツクヨミぶらり空中鉄道旅、楽しんでますか〜?」

 

「ヤチヨ!」

 

「星空を駆ける鉄道の景色も結構だけど、良いのか?ほんなのんきで」

 

「いつでも心にゆとりは持たなきゃ駄目なのです。まぁ、あんまり良くないし、時間も遅いから早速本題に入っちゃおっか」

 

 ポムンと煙を立てた後にいつもの姿になり、本題に入る。

 

「実は、ツクヨミ内に何度も不正な侵入が確認されちゃってね〜……どれだけ厳重にしても量を増やしても突破されちゃうんだこれが」

 

「ツクヨミにハッキング?そんな凄腕のハッカー、世界にいんのかよ」

 

「それ、結構ヤバくない?」

 

「…………」

 

「芦花?」

 

 その言葉に芦花は僅かな不安を覚える。しかし、そのまま続けるヤチヨの言葉に安堵する。

 

「2ヶ月くらい前、2月のはじめ頃かな。最初はいたずら程度だったんだけど、どんどん出口が狡猾……というか、ツクヨミのシステムを学んできて、最初はプロテクトが自動で弾いてたんだけど、いまや対応が後手になっちゃってて。幸い中心部のデータバンクには到達されてないんだけど、どうしたもんかなぁって〜」

 

 2ヶ月前。ナイアの話を信じるなら地球での活動はつい昨日だ。ならば彼ではない何者かの仕業。そう判断した芦花は彼を怪しむ選択肢から外した。

 

「それで、なんで俺達?」

 

「それは、もしも相手が"月"みたいな力を持った人だったら、私達で迎撃しようって話じゃない?」

 

「俺達1回負けてんだけど〜」

 

「前回は公の場だったから手伝えなかったけど、今回の問題はヤチヨもいるわけだし、有利はこっちにある」

 

「お願いできる?ヤチヨは……皆が笑顔でいられる為にこの場所作ったの。どうしてもツクヨミを護りたいんだ」

 

 いつになく神妙な面持ちで深く頭を下げるヤチヨに、帝は立ち上がって答える。

 

「ヤチヨちゃん。その気持ちは俺達も一緒、当たり前だぜ。もしそん時が来たら全力で戦う。な?」

 

「無論だ」

 

「まぁね、俺も良いよ」

 

「わ、私も!」

 

「勿論私も〜」

 

「うん、勿論だよ」

 

「皆……うぅっ……ヤチヨは果報者なのです……こんなに思ってもらえるなんて……涙が止まらないのです〜!」

 

 満場一致。誰一人として拒むことのない前向きな言葉に、ヤチヨは涙を流したあと、いつものように明るく舞って見せ、それぞれの設定のウィンドウを出現させ、独自のプログラムを適用させる。

 

「ちょっと濫用になっちゃうんだけど、皆には特に厳重なプロテクトを貼らせてもらうよ〜」

 

「サンキューヤチヨちゃん。皆、何かあったらすぐに共有しよう。報連相は対人ゲーの基本だからな」

 

「見えない敵……これ以上好きになんかさせない」

 

 息巻く酒寄兄妹。皆も同様にツクヨミを護るという意志を胸にし、現実に戻るためにログアウトしていった。

 

 ──ー

 

 辺りに薫る数人の血の匂い。簡素に作られた地下の空洞に、台座に縛り付けられた女の子の傍らには銀のナイフ。

 

 "彼"を讃える賛美が、喉を潰されたであろう者達の掠れた声から紡がれる。

 

「お"ォ゙我が……がみ"……」

 

「ガボぉっ……ゲボッ……がじゃ……んなっ……」

 

「私を呼ぶのも結構だが、生贄など寄越すな。全く、処理に困るだろう。君も災難だったね」

 

「いやぁ!!いやぁぁ!!!死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない!!」

 

 ピッ、ガヂャンッ!

 

 ナイアは左手をポケットに入れたまま、不憫な女性に笑いかる。

 

 精神が崩壊しているのか、彼を見た彼女は戦慄き、ガチャガチャと鎖に繋がれた四肢を傷つけながら発狂を繰り返す。

 

 その様子をみた彼は右手を振るってあっさりと鎖を千切り解放する。

 

「失礼な。殺してなどいないよ。喉の内側を少し斬っただけさ。死なれると困る、まだ私は人を殺したことはないんだ、前科など作りたくない」

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 

「ふむ……普通の人間ならここで……そうだ。直してあげるものか。君、落ち着きたまえよ。治療してあげよう」

 

 魔術【精神鎮静(Calm Mind)

 

 ナイアは指を鳴らして納得し、自分の指を斬った血で呪符を描いて小さな符を作り、女性の頬を掴んで口を開かせ、舌の裏に貼りつける。

 

「あ……わた、私……」

 

「何本に見える?」

 

「えっと……いっぱい」

 

「ふむ、正常だ」

 

 発動した魔術は瞬く間に彼女の正気を取り戻させ、左手を多数の触手に変化させて魔術が効いたかを確かめ、答えの後に人間の手に戻す。

 

「君、家族は?帰る場所はあるかい?」

 

「……両親は……いません……家は、親戚の人の家で……」

 

「ふぅむ……災難という他無いね、ドンマイドンマイ」 

 

「あぇっ……軽い……」

 

 台座でへたり込み、沈みこむ彼女の隣に座り、問答を繰り返してナイアは笑いながら肩をポンポン叩いて雑に慰める。

 

「あの……神様……ありがとう、ございます……」

 

「……アハハハ!!君達聞きたまえよ、10代そこらの少女でさえお礼が言えるよ?晩御飯時に呼び出したあげく願い叶えろだの生贄だのと、無礼極まりない君達とは大違いだ」

 

 目の前の惨状を作った自分にお礼を言ってくるとは思わずに呆けるナイア。その後に足元に転がる黒いローブの男たちを、足を遊ばせながら嘲笑する彼は、無邪気で、邪悪な笑みを少女に向ける。

 

「気に入った。君、名前は?」

 

「わ、私……こちょう。お花の名前……」

 

「良い名前だ。さて、君は私と言う不幸を咀嚼し、嚥下した。失意に満ちた君の灰色の人生に、この這い寄る渾沌が、彩りをあげよう」

 

 パチンッ

 

 ナイアが指を鳴らすと、少女の頭に青いバラが咲く。

 

 驚いた表情の少女を見て愉快そうに笑い、銀のナイフで反射させて見せ、言葉を続ける。

 

「青薔薇。君達(人間)の作った不自然な花だ。意味は神の祝福、夢は叶う、奇跡。私の好きな花の一つだ」

 

「わぁ……可愛い……」

 

「君がどうしても困った時、何かをどうしても叶えたい時、この這い寄る渾沌が、ただの一度だけ力になろう。その花が枯れるかわりに、君を幸福に導いてあげよう」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「ただ一つ、これは約束だ。幸せになる努力は怠ってはいけない。もし怠れば、その花は枯れる。良いかい?」

 

 人差し指を立てるナイアに、少女は小指を差し出す。

 

「?」

 

「約束なら……神様、指切りげんまん」

 

「な、なんだいそれ?」

 

「こうするんです」

 

 二人は小指を絡め、少女は楽しそうに上下に振りながら童歌を歌う。

 

「ゆーびきーり拳万っ、うっそついたら、ハリセンボン飲ーますっ、指切った!」

 

「中々……悪辣な歌詞だ……でも、悪くないね」

 

 和やかなリズムとは裏腹のおぞましい歌詞に面を食らうが、楽しそうに笑う少女を見た彼はそれを胸にしまう。

 

「さて、晩御飯の時間だし、私は帰るよ。サービスだ。君はこの扉を通っていくといい」

 

 魔術【門の創造】

 

 ナイアは壁に大きな扉を作って開くと、少女をはいるように誘導する。足を止めた彼女は、最後に一つだけ聞いていく。

 

「神様のお名前はなんていうんですか?」

 

「私は■……いや、ナイアだ。ただのナイア。君の隣に、這い寄る渾沌だ」

 

 バタンッ!

 

 無貌の影の、稀によくある日常だった。




この物語書いてると油断するとTRPGのシナリオ書きそうになるのが困りものですね。
明日以降お仕事の関係で時間がずれるかもしれませんが毎日投稿は心がけますので、是非応援の程よろしくお願いします!
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