神に恋した芦の花   作:レガシィ

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やっぱり書くの楽しいですね!
ちょっと期間が空いちゃったので、連続して投稿しようと思ってます!時間はバラバラですが…。



第十一話 狂えるほどに愛おしい

 帰り道、電車の中で彼女は何もないように笑っていた。

 

 私はこんなにも胸が締め付けられるほどの痛みに駆られているというのに。

 

 だが、それを考えているのも私だけで、彼女からすれば私はただの頼ることのできる邪神。いわゆる、都合のいい存在なんだろう。

 

 心を読む気にもなれないが、彼女を不安にさせるのは私の矜持が許さない。

 

 珈琲と紅茶。いつも通りのブレンドを淹れ、楽しげに語る彼女に耳を傾けていた。

 

「…ねぇ、ナイア。ツクヨミ行こ」

 

 急な提案だが、拒む理由もない。

 

 二人でツクヨミにログインし、最後のログアウト地点であるライバーの広場で目を開ける。

 

 気持ち人が少ないように感じるが、芦花はツクヨミで何をするつもりなのだろうか。

 

「芦花、どこ…へっ?」

 

 私の右手を握って先導し始める。

 

 生放送の直後だ、しかも私と芦花は注目を浴びている。そこかしこから私達を知る者の声が聞こえてくる。

 

 私はまだしも、君が良くない。

 

「ろ、芦花っ、このままはでは……」

 

「……そんなの、言わせておけばいいじゃん。それより速く、こっち!」

 

 いつになく強引に進める彼女。なぜだ、機嫌を損ねているわけでは無いだろうが、怒っているようにも思う。だとしたらなににだ?

 

 〈複雑な女心〜〉

 

 〈はぁ…ナイア君、気づいてる?〉

 

 〈ん?〉

 

 〈さっきから芦花の顔映ってないの。ナイア君ずっと目逸らしてんのよ〉

 

 〈……うそだろう…〉

 

 〈可哀想な芦花ちゃん、好きな人に急に見てもらえなくなるのは辛いよね〜〉

 

 〈ストップストップ。ナイア萎んじゃうから。もう終わったことだし、ね?〉

 

 〈すまない…〉

 

 〈そろそろナイア君で"すまないカウンター"作れそうだね〉

 

「芦花、ここは…」

 

「ようこそ、私のお気に入りの場所へ!」

 

 私の手を離そうとせず、そのまま人混みをかき分けて辿り着いたツクヨミのマップの端。長い階段を上り、辿り着いた一つの場所。

 

 人はいないし、特に目立つ催し物があるわけでもない。ファストトラベルのポイント指定にもされていない山の奥。屋根や手水舎などが作りかけの社。

 

 朽ちた神社。というのが適切な表現だろう。

 

 私の真似をしたのが気恥ずかしいのか、その言葉の後に照れる芦花。

 

 少しの会話、没マップだと予想する彼女はふじゅーを賽銭のように箱へ投げ、キラキラとしたエフェクトが彼女を祝福するように追い始める。

 

 綺麗だ。

 

 そう漏らしてしまった言葉は、恐らく彼女に届いていない。

 

 正式に実装されない不思議を嘆くが、私にはむしろこれが本当の姿にさえ見える。

 

 終わってしまった演奏を僅かに続けるためにツクヨミをハッキングしてループさせる。

 

 魔が差したといえばそうだが、彼女の手を取って小さくステップを踏む。相変わらず拒むことを知らない彼女も、慣れたように踏みながら会話に興じる。

 

「ツクヨミの人間は、"神々"と呼称されるじゃないか。廃れかけ、神すら逃げ出した社。それを見つけて復興させるのは、プレイヤー達の役割なんじゃないかな」

 

「なるほど〜…一理あるかも。さっすが神様。そういうのに敏感なんだね」

 

 彼女に神だと言われる度、何故か無性に悲しくなる。

 

 自分と違うと言われているようで、遠い存在だと思われているようで…隣にいられないと、暗に伝えられているようで。

 

「あ、終わっちゃった」

 

「続けるかい?」

 

「ううん。それより、裏に行こ」

 

 再び彼女は私の手を引いていく。

 

 拒む理由が思いつかない。一言、辛いと打ち明けてしまえばどれだけ楽か。

 

 そんなことを知らないまま、彼女は今を楽しんでいるのだろう。本当に…本当に腹立たしい。

 

 その笑顔を見れるのが私だけじゃないのが、それ以上の笑顔を、あの女が見ているのが。何より、その嫉妬に狂う私自身が。

 

 私は上手く笑えてるかい?君を大切にできているかい?

 

 疑問も不安も尽きない。

 

「ここさ、涼しく感じるし、月がよく見えるんだよね。ほらナイアも〜」

 

「こら、女の子がみっともないよ」

 

「ここには私達しかいないよ」

 

 またそういう事を言う。私も君に好意を寄せる男だというのに。だが、そう思われていないからこそ、君とこの距離感でいられる。もどかしくて仕方ないが、私に罰を当てる者などいないし。今だけは甘えさせてもらおう。

 

「気持ちいいでしょ。やっぱ日本人だよね〜。ナイアはどう?」

 

「畳も悪くないね。身体を横にするのも気持ちいいものだ。それに、水面に揺れているあの花達…君の花だ」

 

 アバターとはいえ、髪に触れても何も言わない。彼女の生来の性格でもないだろうし、安心している。"人間ではないから"そう思われている。私を人間と同一に勘違いなどされたら面倒だと刷り込んだことが、今更になって自分の首を絞めてくる。

 

 なのに、ただ名前が同じだけの花さえ愛おしい。

 

「あぁ…芦ね。地味でしょ?誰も気に留めないし、華やかなんて言葉とはほど遠い…十五夜で飾るようなススキでもないし、なくてもいいような植物だよね〜」

 

 心理学【決定的成功/クリティカル】

 

 …は?

 

 なくてもいいだと?

 

 誰だ、そんなことを言うのは。誰だ、君の心を傷つけたのは。何故そんな遠い目で、自分と重ねたその花々を愚弄する。

 

 私が君をどれだけ愛おしく思っているのか知らないくせに。私がどれだけこの感情に苦しんでいるか知らないくせに…!

 

 ギリリッ…

 

「ナ、ナイア…?」

 

 君はこの世の何より綺麗だ。私が言うんだから間違いない。誰かが君を、君が君自身を貶めるなら、私がそれを全て否定する。

 

「寂しいことを言うな芦花。君の心は綺麗で、強く繊細で…誰よりも美しい。知っているか?芦の花の花言葉は、()への信頼。何処の誰が君を貶す言葉を吐いたのか知らないが、私だけは君の神であり続ける…だから、君は…君だけは自分を否定するな」

 

 頼む。私が惚れた君を君自身がいらないなんて、言わないでほしい。お願いだ。

 

「は……は…い……」

 

「……ッ!すまない!感触がないとつい……!」

 

 自分の身体だというのに、感情や行動が制御できない。

 

 傷つけてしまった。今すぐにでも過去に戻って…いや、そんなこともしたくない、今この瞬間を人間は生きているのに、それをするのはルール違反に他ならない。

 

 君だけの神だなどと、それ以上を望んでいるくせに浅ましい自分が心底嫌いになりそうだ。

 

「……うぅん……謝らないで、ありがとう。嬉しい、そんな風に思ってもらえたの……初めてだから」 

 

 〈どうやら芦花には私達の愛が伝わってなかったみたいで悲しいなぁ…〉

 

 〈いや違っ、違うって、そうじゃないから!〉

 

 〈自己肯定感低すぎ〜〉

 

 〈てかナイア君も告れよ。押し倒してそこまで伝えてんのに。一言好きって言えば全部終わってたじゃん〉

 

 〈芦花もだよ。ここまでされてなんでナイア君が自分のこと好きじゃないなんて思ってたわけ?〉

 

 〈〈ごめんなさい…〉〉

 

 すぐに離れた。感触がないとはいえ、自分より遥かに大きい体格の男に押し倒されるのは彼女のトラウマを抉りかねない最低の行為。だというのに、感謝すら伝える彼女の優しさは、私の決意を鈍らせる。

 

 誰にも言っていない、秘密だというこの場所。

 

 何故かと聞くと、分からないと彼女は言った。

 

 そして何故か私には言いたくなったとも付け加える。

 

「…さぁ。自分でも分かんないけど……何故かナイアには言いたくなったの。凄いと思わない?一億人を超えるユーザーの中で、私達たった二人だけの場所。なんて」

 

 秘密など、二人だけなど。これ以上期待させるな。

 

 ただ辛いだけなんだ。今以上を私に望ませるな、それが出来てしまうから、嫌なんだ。

 

 …招かれざる客とは言ったものだが、覗かれるのは趣味じゃない。

 

 除きが趣味の管理者に、一瞥と皮肉をくれてやった。

 

「なんで私に気づいちゃったのかな?」

 

「いや全く?ただの勘だよ」

 

 心理学【成功】

 

 対抗心理学【成功】

 

「本当に〜?」

 

「本当だよ。疑り深いねぇ」

 

 だが正直助かった。

 

 このままもう少しこの時間が続いてしまったら、気持ちを全て吐き出していただろうし、それを拒否させることも出来なかった。

 

 私が呆けている間に話を続けている彼女達、彼女の問いに答えるヤチヨ。

 

「ノンノン!表立ってイチャイチャ出来ない若人達の甘酸っぱ〜い空気を助長する為の場所なのです!」

 

 彼女なりの気遣いなのだろう。AIではなく、彼女もまた私と同じ様に人間とは違うものの感情がある"生物"だ。

 

 この間の配信や普段の様子を見ているのなら、人間と同じ様に見えるのも仕方ない。

 

 だからこそ…今その話をするのは、私の心を抉るような行為だ。八つ当たることを許せ。それを聞き流せるほど、私は今穏やかじゃない。

 

「軽率な言葉は人の心を傷つけるということを知らないのかい?」

 

 〈…ごめんねぇ…〉

 

 〈謝るな。君なりの気遣いだと解っている。私こそ大人気なかったよ〉

 

 〈…この空間の平均年齢っていくつなんだろうね〉

 

 〈何千京歳とか?〉

 

 〈一人が独走しすぎなんよ〉

 

 〈人間年齢で換算すれば私はまだ一桁だけどね〉

 

 〈肉体って面を考慮すればヤチヨとかぐやもそんなもんだよね〉

 

 〈じゃあ平均もしかして15歳くらい?〉

 

 〈宇宙人が半分の空間で何をいまさら…〉

 

「あ、あら〜……手厳しいね、ナイア君。でも、折角見つけてくれたんだし、ゆっくりしていってね。これはやっちょからのプレゼント!じゃ、さらば〜い!」

 

 突然芦花と私のアイテムウィンドウに追加された線香花火。

 

 私の記憶の限りでは、花火とは空に咲く大輪だ。

 

「先に落ちたら負け。ほらほら、準備して」 

 

 なのにこれは小さい上に落ちる。

 

 儚く綺麗なもので、これで勝負することも多いらしい。

 

 芦花とはこういう勝負で勝てたことはない。

 

 電脳空間ゆえにランダムなんだろうが、彼女はまるで知っていたかのように勝利から私へのささやかな願い事を口にする。

 

「7月に現実で夏祭りがあるの、次は本物を見に行こうね、約束」

 

「…お安い御用だ。喜んで」

 

 いつからだったか、約束の際についていた癖。いつものように指を重ねて約束してしまった。

 

 これで、本当に最後だ。この約束を終えたら…全て終わりにしよう…痕跡も記憶もすべて消して、無かったことにしてしまおう。でなければ私の気が狂ってしまう。

 

 現実に帰って彼女と今の時間を語り合う。

 

 上手く平静を装えているだろうか、乾いた喉から出る声は彼女を不快にさせていないだろうか。

 

 もう夜も遅い。ドアが開いて閉まる、ただその一瞬でさえ彼女の表情を見ることが出来ないのがもどかしい。

 

 心臓に杭を打たれたようなこの痛さは、この先ずっと抜けずに残り続けるのだろう。

 

 こんな感覚を残して平然と笑う君が憎い…憎くて憎くて、恨めしい。

 

「…くそっ…渡せないだろ、こんなもの…」

 

 なのに、綻ぶ笑顔も崩れた泣き顔も優しさを孕んだ怒り顔も…全て愛おしい。

 

 指輪など、浮かれきって選んだ少し前の自分を殴り飛ばしてやりたいくらいに、やるせない。

 

 ──

 

 次の日の朝、もう彼女は私に素顔を見せることを全く躊躇っていない。信頼の裏返し…そう取れれば楽だが、実際は無関心に近いんだろう。神と人だ、そう思われるのは不思議じゃない。

 

「昨日は楽しかったね、ナイア」

 

「…そうだね、とても楽しかったよ」

 

「ふふっ、また行こうね」

 

「…あぁ、そのうちね…」

 

 我ながら情けない返事だ。君の一言に、一つの言葉でしか返せていない。

 

 変わらない日常を約束しようとしたのに、それが出来ない。不安な瞳で見られているのが見ずとも分かる。

 

「…楽しくなかった?」

 

 説得【成功】

 

「っ、そんなはずない!ただ、すまない。昨日が楽しすぎて、今日からまた平日になってしまうのが惜しかっただけなんだ」

 

「本当?」

 

「本当だよ。私は君にそんな嘘をつかない。知っているだろう?」

 

「…なら、良いんだけど…」

 

「学校に遅れてしまうよ。それとも…いや、何でもない」

 

 またバイクで送ろうか。その優しさを見せれない。

 

 彼女と風を切るあの刺激は、今の私には猛毒だ。

 

「…うん、行ってきます」

 

「行ってらっしゃい。気をつけて」

 

 上手く笑えない。騙すのではなく、隠すのがこんなに難しいものだとは。

 

「…私も、準備するか…」

 

 芦花のことばかり考えてしまう。それでも肉体と思考は分けることができる。要するに、全く問題なく仕事はこなせる。

 

 2日、3日、毎朝、毎晩食卓で顔だけは合わせる。

 

 どこかぎこちないような、それでも彼女の一言に一喜一憂して、落ち込んだり喜んだり普段の調子になったりできる。だから、少し忙しいなんて理由をつけて日常を減らしていたのに、食事の時間だけは一緒になんて我儘を通している。

 

「……」

 

 だがそれでも、人というのは私の予想を超えてくる。

 

 今日はバイトで、問題なく仕事をこなした。休憩室でミオさんと休憩の時間が被る。特にすることもない中、スマホの情報をスクロールしていると彼女が切り込んできた。

 

「ナイアさん…何かありました?」

 

「急だね。私はそこまで分かりやすかったかな?」

 

「いや…いつも通りに完璧だったんですけど、その…どこか、少し…」

 

「違和感なんてそんなものだよ。人を良く見ている証拠だ。でも、別に君が気にすることじゃない。私自身の問題だ」

 

「…私じゃダメですか?」

 

 〈〈〈え"っ…〉〉〉 

 

 〈えっ!?〉

 

 〈待ってくれ、一応最後まで見ればわかるから〉

 

「…その冗談は笑えない。取り消してくれ」

 

 言葉の意味を察せないほど、私だって馬鹿じゃない。

 

「ナイアさんは凄くかっこいいですし、完璧ですし、女の子から見たらもう理想!って感じなんです。それなのに、恋愛下手で、奥手で…だから、私が教えて上げます。どうですか?」

 

「……」

 

 ここで彼女に従えば、自分の肉欲は満たされるかも知れない。人恋しさも、もしかしたら芦花へのこの気持ちも、無理矢理誰かを好きになれば忘れられるのかも知れない。

 

 心理学【成功】

 

「そんなわけがあるか…!」

 

「…」

 

「私が好きなのは芦花だ。生涯愛せるのも芦花だけだ!この感情が勘違いや嘘なわけがない…!!」

 

「…ですよね?やっぱりそうですよね?」

 

「は?」

 

「言えたじゃないですかぁ、ちゃんと」

 

「…そういうことか…ハメたな、君…」

 

「だってだって…すっごくお似合いのお二人なのに!私二人とも推しライバーなんですよ!?なのにずっともだもだしてるからもどかしくってぇ〜!」

 

「確認だが、あれ本気じゃないだろう?」

 

「当たり前じゃないですか、だって私彼氏いますもん」

 

「私が首を縦にふったらどうする…いや、私の頬が真っ赤 になるだけだな」

 

「えへへ、彩葉先輩の直伝です!」

 

 あの女…どこまで私を貶めれば気が済む。いっそ記憶を全て消し飛ばしてやろうか。

 

 …そんな冗談が浮かぶほど、心がいくぶんか軽くなった。

 

 不思議なものだ、人と話すと言うのは、こんなにも救われる。私に相談しに来るファン達の気持ちも理解出来る。

 

「大丈夫ですよぉ〜。女の子は常に待ってるんですから、ナイアさんが覚悟を決めるだけです!」

 

「……参考には、しておくよ」

 

 だが、何処まで行っても私は人外だ。

 

 礼は言っておく、しかし現実が優しくないことくらい知っているんだよ。

 

 〈分かったら4人とも私の頬に照準を定めるな。乙女の覚悟を踏みにじったわけじゃない。どちらかといえば遊ばれたの私の方だ〉

 

 〈つか、ここまで言葉にしてて日和るなよ〜〉

 

 〈諦めて一度月に帰った女が何をほざく〉

 

 〈彩葉〜、ナイアが意地悪言ってくる〜!〉

 

 〈それに関してはねぇ…ナイア君の協力無ければ今も月にいますからねアンタ〉

 

 〈かなりの無茶をしたからねぇ。あればっかりは理外の業だ。まぁ、地獄行きってほどじゃないだろう〉

 

 




やーっぱこの時のナイアって鈍感ボケナスなんですよねぇ…。
人間赤ちゃんだからまぁって部分も。
自分の中では芦花ってかなり自己肯定感低いので、勘違いしないようにしてるっていう感じなんですけど、合ってますかね?
彩葉と真実が私や読者の気持ち代弁してるんですけど。
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