神に恋した芦の花   作:レガシィ

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ナイア視点、延長戦が決定しました。
イェー!まぁ別に誰に止められるもんでもないですしね。
まだまだ楽しませてもらいますよ、超かぐや姫!さんよぉ…。
PS
主は只今人生最初で最後の馬鹿な冒険中です。
具体的には450kmを10日で歩いてお家に帰る企画を家族の反対を押し切って断行しています。(三日目)超かぐや姫のカラビナポーチつけてカメラ胸につけてデカいリュックで歩いてる人がいたらそれは私です。まぁ、何が言いたいかと言いますと、投稿期間は少しまばらになるかもとだけ。地獄の一ヶ月ほどじゃないので、あの時よりは早いです。


第十三話 誰そ彼に笑う君の為

「ナイア、言っちゃうの?」

 

 不安気に問いかけてくる芦花の疑問は最も。しかし隠す必要は無い。

 

 月人という、地球の日常にはない異物を取り込んだその腹。同格とは言わないが、私と同じく狂気を孕んだ理外の存在に彼女達は触れている。

 

「何…なになになに!?」

 

 言葉を失うのも必然。視覚的に分かりやすいように触手を見せ、それ以外はそのままに正体を明かして見せる。

 

「改めて、私は千の顔を持つ無貌の生物。ナイアーラトテップ。月人達とは少々異なるが、理外の外側に座する者だ」

 

 邪神。君達の日常に這い寄ったことは申し訳なく思う。言葉を失い、狂気に触れ、いささかながらその正気を蝕んだことはいずれ謝罪しよう。

 

 最もダメージの少ないタイミングで明かした私なりの誠実さだ。

 

「…色々聞きたいんだけど、まず一つ」

 

「なんでも答えよう」

 

「芦花は承知の上?洗脳とかしてない?」

 

 酒寄彩葉。その質問はとても複雑な気持ちになるよ。君がどれだけ彼女のことを大切に思っているかが透けて分かる質問だ。

 

 だが、答えはNO。私が愛する"人間"は私の予想を超えてくるからこそだ。

 

 開こうとした口より先に、芦花がそれを弁明した。

 

 確かに、得体のしれない馬の骨より彼女自身で説明するほうがより明瞭で信頼に足る。

 

「ナイア君って宇宙人?」

 

 諫山さんの質問。これはシンプルだが、解釈による。

 

「そう言い換えても良いけど、身体は人間だよ。五感もあるし、感情も…日々学んでいる。再三になるが、君達に危害は絶対に加えない」

 

 絶対の約束だ。私が力を振るう時は人間に危機が迫った時、もしくは…芦花の頼み事だけと決めている。

 

 だがそれでも、どれだけ約束を口にしようと所詮は得体のしれない怪物。正気をわざわざ削る必要もないし、覚えて得もない。

 

 記憶を──

 

「「別にいいかなぁ……」」

 

「壊れ…え?」

 

 別にいい?正気か?正気だな。ならば狂気だろう何を考えているのかといえば、私の作る料理が美味しいとか、月人がいるからとか。私とアレの危険度を同じに見るなよ、こっちは星を再創するのも指先で出来るんだぞ。

 

「図太すぎないか?私の記憶の限りではこんな反応されたことないんだが?」

 

「慣れって怖いよね〜」

 

 慣れとは確かに怖い。私からすれば君が横で普通に紅茶を飲んでいるのも中々な精神性だとは思うよ。仮に邪神体を現してしまえば君達全員戻ってこれなくなるというのに。

 

 それに…私に感謝だと?諫山真実。彼女とは初対面な上、これと言った接点すらないはず。

 

 そんな疑問を払拭するように二人は私に語った。

 

「芦花がさ〜…また、ちゃんと笑ってくれるようになったんだもん。もちろん、いつも嘘の笑顔じゃないんだよ。でも、心の何処かで…魚の小骨がちくっと引っかかってるみたいな、そんな笑顔だったんだ」

 

「…うん。私は気付いてあげられなかった。むしろ、気遣わせてばかりで、申し訳なかったなぁ…。でもさ、ナイア君の話する時楽しそうで、似たような人に助けられた経験は私もあるからさ。責める気にはなれないんだよね」

 

 隣で涙をこらえる芦花。彼女を心の底から信頼し、心配している。美しい友情で、実に私の心を削る。

 

 なのに、君達の悪意なき言の刃が嬉しくて仕方ない。

 

「でも男と同棲か〜……もっと最初の段階で言われてたら全力で否定してたかも」

 

「そうされてたら女の姿を取るだけだがね」

 

 今でこそ男だと断言するし、生物的にもこの姿を取っているが、私には元より繁殖などの機能は備わっていない。故に、化身の姿を取れば女になることも容易だ。

 

「さて、いかがかな?」

 

「「「ええぇぇぇ!?」」」

 

 正体を明かした時よりも複雑だ。

 

 男が女になっただけだろうに。なんて、前の私なら考えていた。今にしてみれば、芦花が男になったり帝君が女になれば驚く。でも、流石に邪神の存在証明の方が驚く事実だと思うがね。

 

 私自身の化身は人間から見て美形が多い。初対面時の芦花の警戒が緩んでいたのもそれが大きいのかもしれない。

 

 〈どうなの?〉

 

 〈いや、なんか強い浮世離れしたイケメンがストーカーから救けてくれたってのは普通に怖かったよ〉

 

 〈えっ、そうだったのかい?〉

 

 〈いやほら、なんというか…まぁ、その…次の私のやつで分かるから、今は黙秘で〉

 

 〈えー、気になる〜〉

 

 芦花の頼みだから承諾した。化身、赤の女王の姿は見る影もない。彼女のメイク技術に、彼女の指定した服への換装。羞恥とはこういう感情なんだろう。

 

 女子会…と呼べばいいのか分からないが、二人が用意したジャンクな菓子や飲み物を口にしながら話し込む。

 

 意外にも私達の関係への口出しは少ない。信用と言っていいのか、楽観的なのか、その両方か。

 

 不意に、酒寄さんが聞いてきたかぐやという存在。

 

 知ってはいる。ただ、記憶の引き出しにいるだけで、詳細は知らない。なぜなら月人に興味はないから。

 

 人間のような美しい感性を持たない連中に毛ほどの興味もない。

 

 そして、続く会えるのかという問いかけ。

 

 答えはYES。だが、時空を超えるとそれに反応する生物が彼女を殺しに来る。それすらどうとでもなるが、彼女はそれをきっと望まない。

 

 そうだろう?

 

「……分かってる、良くないよ。かぐやは…自分でハッピーエンドにするって言ったんだから、私も頑張らなきゃ。未練はあるけど、約束だから」

 

 強い。その精神性は愛ゆえなのだろう。

 

 その感情を少しでも、彼女に向けていれば君ならこの国の法やそれに準ずるしがらみさえ踏み越えられただろうに。違うんだろう、解っている。魔術で手に入れられない感情だからこそ私がここまで惹かれ、翻弄されているのだから。

 

 応援するというのは本心だが、同時に好きにしろというニュアンスでも話してしまった。全く、嫉妬とは醜い感情で、全てを理解出来る自分が嫌になる。

 

 魔術について彼女が踏み込んできたが、別に教えても支障はない。彼女が人生を費やしてまで魔術に固執することはないだろうし。

 

「…記憶?」

 

 ぴたりと、あの莫大な魔力を得られる可能性を言い当ててくるのは純粋に驚いた。

 

 生物が"枠"から外れる理由はそれなりにある。

 

 私のように存在そのものが理外にある者、長い信仰や修行の末に成る者、与えられる者など。

 

 彼女の魔力の容量は"'後付け"。魂に誰かの記憶を刻み込める稀有な技術に、8000年となると正体は1人。

 

 が、彼女を害する理由もない。もはやあれは現人神の域、リスクもリターンの天秤も釣り合わん。

 

 彼女も、私が嫌いな魔術師共のようにはならないだろう。多少狙われる危険はあるがその程度だ。

 

「そういう輩が何かしでかす前に、私は化身を使って先回りして潰していた。この地球だって何回滅びかけたことか」

 

「怖っ。こんなところでお茶してていいの?」

 

 あまり世界の構造をいじりすぎるとバグが起きかねない。滅ぶ前には確実に止めるが、過干渉はしない。

 

「…邪神っていうか、正義の味方みたい」

 

「ハッハハ、お褒めの言葉なら光栄だ。お茶のおかわりは?」

 

「欲しい〜、これ美味しいけど何の茶葉?」

 

 お茶のブレンドはいつもの紅茶と少しのハーブ。

 

 マンドラゴラなんて適当な事をいうと面白いくらいに酒寄さんが引っかかる。

 

 騙すつもりはあったが、そこまで反応するとは思わなかった。睨まれるが、知らないふりをしよう。

 

 そんな時、彼女達は露骨に芦花を褒めだした。

 

 芦花は超、超優良物件。

 

 知っている。

 

 学校でもツクヨミでも話題沸騰

 

 当然だ

 

 モデルなんかもやっちゃったりしてる美人ライバー!

 

 綺麗だったとも。

 

 将来の彼氏が羨ましい。

 

 私もだ。

 

 パキッ   

 

 …そろそろ黙ってくれ。その言葉達は、私じゃなくて芦花を傷つける。

 

 時として、悪意のない言葉は人を傷つける。

 

 知らないんだろう。知らないんだ、だからそうやって誰かを傷付ける刃を振るうことに躊躇いがない…!!

 

「えっと…わ、私はただ、ナイア君と芦花がもっと仲良くなればな〜って…」

 

「ハッハハ…!それこそ世迷言だ。これ以上は無い。私と芦花はただの良き友人で、互いの協力者だ。互いの世界に土足で踏み込むことは──」

 

 諦めたんだ。その感情とは決別したんだ。それ以上は、彼女の気持ちの侮辱と捉えかねない。私はいい、忘れられないが、それを風化させるだけの時間がある。

 

 でも君達は、芦花は違う。

 

 彼女の刹那の一生に、これ以上深い傷を残すわけには…

 

 カタンッ

 

 ぞくりと、背筋が凍った気がした。

 

 怒っていない、それは分かるのに、芦花のその表情を私は知らない。

 

 外は雨だ、見ればわかる。お菓子の補充じゃないのも。

 

「芦花、外は雨だよ、何処へ…」

 

 パシンッ

 

 弾かれた。

 

「ごめん…ついて……こないで…」

 

 続く無機質に閉まる扉の音が、確実に私を拒絶したことを伝えた。泣いていた…泣いていた。私が彼女を傷つけた?今の会話の応酬で、なんで泣くんだ。…なんで、君を傷つけるつもりなんて…

 

 組み付き【成功】

 

 ゴンッ!!

 

「…酒寄さん、何の真似だい…?」

 

「何の真似…?何の真似やって!?アンタホンマにそれ言うとるんか!?」

 

 彼女の地元の言葉。怒りで素が出ているということくらい分かる。

 

「なんであんなん言うた!?芦花のことホンマに考えたんか!?」

 

 芦花のことを考えたのか。だと?

 

 偽物の心臓が、血管が、血液が。

 

 沸騰しそうな程に怒りが湧いた。

 

「…ふざけるな…」

 

 ふざけるな…ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな!!! 

 

 彼女の思いを知らないのはどちらだ!?

 

 唯一無二の貴様の存在が誰かを不幸にしたのは明白だろう彼女の想いを永遠の風化に晒すばかりかあまつさえ心を抉り続けそれで尚足りないとこの私をだしに使い仮初めの幸福で最悪を享受させようとのたまうその愚行と下等な脳に腹が立つだけでは済まず──

 

 〈ごめっちょ、待って待って待って〉

 

 〈内心すっげぇキレてる…〉

 

 〈見せるか迷ったんだけどね、ここの独白長いし、この時の感情を一言でまとめると…〉

 

(中略)殺すぞ、酒寄彩葉

 

 …駄目だ、駄目だと解っている。この脳も肉体も本体の持つ莫大な容量の記憶媒体も、彼女を害するのは本望ではなく悪手中の悪手だと。しかし、友のためと紬ぐその言葉は言の刃だ。君は…!

 

「分かっていない!!芦花は……!」

 

 この先を言えばもう何度目か分からない絶望だ。すまない芦花、君の心を勝手に語る身勝手を、愚かさを、一人の邪神の失恋を、どうか赦してくれ。君の笑顔を奪うことだけはしたくなかったのに。

 

「芦花は……君のことが好きなんだぞ!!?」 

 

 初めてだ。悲しくて涙が出るのは。

 

 情けなくて、世界が滲んでいくのが分かるのが辛くて。 

 

 助けを乞うことも出来ないなんて。全身の力が抜けていく上、もう何もやる気になれん。

 

 酷く不便だ、人間なんて…嫌いだ。

 

「待て待て待て待て!!!とんでもない誤解してるでアンタァ!」

 

「…何の話だ」

 

「芦花が好きなのはナイア君だよ!?」

 

 いまさらくだらん嘘を吐くな。

 

「……私を騙すつもりか?」

 

「本当に!芦花が好きなのはナイア君なんだってば!」

 

 そんなはずがあるか。

 

「…そんなはずはない…君に、彼女は…」

 

「あーもう!記憶でもなんでも覗けばいいんじゃね!?多分出来るでしょ!?昨日の夜!!」

 

 深淵に覗かれるのに一切の躊躇がない。

 

 そこまで言うのなら、見させてもらおう。私のこの気持ちに、決着をつけてしま──

 

 "ナイア君のことが、好きなんだよね?"

 

 "……うん……"

 

 …は?は、まて、今なんと?いや、彼女は、私のことを邪神としか見ていないはずだ、今のも、友人として…

 

 "ナイアって誰にでも優しいし、スパダリだし、勘違いしちゃうくらいエスコート上手いし"

 

 君にだけだ!そんな、誰も彼もにやっていない!!

 

 "だって、あんなに頑張ってアピールしたのに、最後に友達だなんて言葉で締めようとしてくるから"

 

 あぴーる…?あの日は…君の計画的な…?

 

 "ナイアは恋愛経験あるの?"

 

 あのコメントは君達か!?

 

 "どう考えても脈ありじゃん!?"

 

 "ほら、やっぱり芦花の時だけ違うって!"

 

 "そ、そうなのかな"

 

 知らない…知らない…そんな、そんな顔、私には見せてくれなかったじゃないか、そんな言葉も、くれなかったじゃないか。

 

 …いや、見ていなかったのも、聞こえないふりをしていたのも。全部私だ。今日まで彼女の瞳も、声も、強引に離れようとしていたのは、私だ。二人が叱咤するのも当然だ。こういう時…

 

「…わ、私は、どうすれば……」

 

「「追っかけろ!!」」 

 

 魔導具【銀の鍵】

 

 これで、彼女の元まですぐに──

 

「ズルすんな!男なら走れ!!行けぇ!!!」

 

 2人の叱責。

 

 そうだ、邪神を逃げ道にしてはいけない。

 

 人間として、私は彼女に向き合わなければ。

 

「はっ…あぁ!!」 

 

 〈え〜、彩葉と真実超かっこいい〜!〉

 

 〈この時無我夢中でギャーギャー言ってた記憶しかないなぁ〉

 

 〈二人とも…ありがとう。私の知らないところで〉

 

 〈………〉

 

 〈当然っ〉

 

 〈ほら、旦那が寂しがってるよ〉

 

 〈ナイアも、ちゃんと言ってなくてごめんね〉

 

 〈…察しの悪い邪神で…すまない…〉

 

 〈うぅん。今にして思えば、この時のすれ違いも大事な思い出だよ。私を選んでくれてありがとね〉

 

 〈泣いてんの?〉

 

 〈…見るな〉

 

 雨が降っている。

 

 だからなんだ。

 

 靴を履いていない。

 

 だからなんだ。

 

 服も髪も乱れている。

 

 だから、なんだ。

 

 自制など知ったことか、なぜ直さないという疑問に答えてる一瞬すら惜しい。

 

 心から謝罪がしたい。その一心で肉体を動かす。

 

 長く走れて良かった、丈夫で良かった。

 

 どこにも居ない彼女の面影。まるで世界から消えてしまったんじゃないかと、あり得ないはずなのに妙な現実味があるのは、私自身が異常だから。

 

 足を止めるな、そんな暇が…。

 

 思考が回った。いや、そんなでも、意外と彼女は、ロマンチストだったかもしれない。

 

 そんな場所に?そんな、映画やドラマのような場所に。いるとしたら、何故。もしかして。

 

 私を待っている?

 

「ろ"かぁ"!!!!!!」

 

「…ナイア…?」

 

 酷い声で、乱暴で、格好良くない私なのに、そんな顔で見られたら…さっきの言葉や光景が私の幻ではなく全て真実だと、受け止めざるを得ない。

 

「血?怪我してるの?速く手当てしないとっ…!」

 

 バサァッ…

 

 違うよ、君は私に対して怒るべきなんだ。最低だと、嘘つきだと、神のクセにと、怒っていいんだよ。

 

 こんなに冷えて、そんなに悲しそうな顔で私を呼ばせてしまったんだから。

 

「芦花!!すまなかった!!」

 

「な…なんで、謝るの…ナイアが謝る必要なんて…」

 

 呆れ…いや、諦められてしまっている。自分なんてと、自己肯定の低い彼女の声色だ。

 

 伝える。全部、余すことなく。君が駄目な理由なんてなくて、君でなければ駄目な理由を…!!

 

「でも…ただの友人だって…」

 

「愛しい君だけは幸せになってほしかった」

 

 酒寄彩葉への嫉妬も、君を頑なに友人だと突き放してしまった理由も、全で伝える。誤解なんてさせる余地など与えない。

 

「……言葉じゃ伝わらないし、伝えるべき場面があること…君が、君と過ごした今までの日々が教えてくれた。だから…嫌なら、後で殴っても、噛み切ってもいい。ただ今だけは、受け入れてくれ」

 

 重ねた唇が酷く熱を持つ。そこから全身に広がるように、温かな気持ちになった。

 

 どんな結末でも、私が望めないバッドエンドでも、全て受け入れる。愛の証などと呼ぶには足りないだろうし、受け入れろなどという、私の最大の罪(傲慢)を赦してくれ。

 

「……ナイアは…私でいいの…?ただ、偶然、貴方の前にいただけの…私で……っ」

 

「例え出会いは偶然でも、君と過ごした日々や重ねた思い出の中のこの感情は、嘘でも勘違いでもない。もう誤魔化すことも逃げることもしないと、君に誓う」

 

 すまない、ただの傲慢なんだ。ただ、今私が君に伝えたい言葉を繋げることしか出来ないんだ。こんな雨の中は君の望むシチュエーションじゃないだろうし、勢いのままの言葉も薄っぺらいし、もっと君が幸せだと笑って言える日の思い出にしたかった。でも、お願いだ、言わせてくれ。

 

「君が宇宙一好きだ、芦花!!!」

 

 涙が溢れて、君の顔が見えないんだ。

 

 君は笑ってくれているのか?それとも、泣いているのか、驚いているのか。あぁ…頼むよ、役に立たない視界の代わりの、何か証明が…

 

 ぽすっ…

 

「……私も……ナイアが好き……一番好き……!」

 

 胸に飛び込んだ温もりが、証明してくれた。

 

 ありがとう。もっと…もっともっと、君にこの感情を伝え続けると誓う。だから

 

「どうかこれから先も、ずっと私の隣にいてほしい」

 

「……綺麗」

 

 四つ葉のクローバーを誂った指輪。あの日木に渡せなかったプレゼント。君の右手の薬指に嵌めることが出来て良かった。大丈夫だ、もう迷わないよ。

 

 ────

 

 〈…以上が私と芦花の恋幕だ。ご満足いただけたかな、かぐや姫殿〉

 

 〈すっご〜!!ドラマチック!やるじゃん、ハッピーエンド!!〉

 

 〈〈〈……〉〉〉

 

 〈さて、次は…〉

 

 ナイアが同じように芦花の心情を綴ったビデオを再生しようとする。しかし、その袖を掴んで彼女は止める。

 

 〈まだ…全部じゃないよね〉

 

 〈わざわざ、彼女に見せるものでもないよ〉

 

 〈違うよ。"私"が見たいの〉

 

 〈どゆこと?〉 

 

 〈…まぁ、私達も、賛成というか〉

 

 〈隠しごとはしないで欲しいな〜〉

 

 〈かぐやも全部見たいよね〜?〉

 

 〈続きあんの?じゃあ見たい!つか、約束じゃん?〉

 

 ナイアの見せた物語はいわば前編。事情を知らないかぐやにそれを見せるものじゃない。そう言うナイアの心理を見透かしたように、芦花は真っ直ぐ紅い瞳を見返す。

 

 〈君に…傷付いて欲しくないんだ〉

 

 〈その優しさは知ってる。でも…教えて。私、ナイアの全部を知りたい〉

 

 〈…白状するが…私が耐えられないかも知れないんだ。あの瞬間が、今でも脳裏に焼き付いていて離れない〉

 

 〈うん。でも、離れないって約束したよ。ナイアが私に誓ったように、私もナイアに誓ったの。だから、ね。それに、私だって全部見せるんだから〉

 

 〈…敵わないなぁ、君には…〉

 

 握られた手を固く握り返して芦花を抱きしめる。

 

 本当は見せるつもりが無かったであろう記録を魔術で脳から取り出し、ヤチヨがプロジェクターへと読み込ませる。その間に芦花を後ろから抱きしめ、ナイアは動かないも宣言する。

 

 〈先に言っておく。流れてる間は私はここから動かん〉

 

 〈誰も取らないから〉

 

 〈何があったの?〉

 

 〈色々〜。ほら、始まるよ。後編が〉




2ヶ月前。
かぐやの義体完成と、ナイアと芦花の結婚を祝っていたあの日。ナイアは世界の理に触れた。
ー5年前ー
竹取物語には、実は後日談がある。
愛情に触れ、感情を知ったかぐや姫は月へと羽衣を着せられ地球の記憶を無くして帰ることになる。
しかし、かぐや姫は不死の薬を手紙と共に悲しみに暮れる帝に渡した。売れば巨万の富を、飲めば永遠を。
しかし帝はそれらの選択を拒否し、家来に天へ最も近い火山へ手紙と共に捨てるように命じ、姫に会えないならば金もこの命も惜しくないと、永遠を捨て去った。
ここで矛盾が生まれる。
かぐや姫は地上での記憶が無くなるのに、愛する人に会えない気持ちを分かち合おうとした。
おかしな話だ。月の姫がそこまで賢くないわけがあるか?
かぐや姫が本気で帝に会いたいと、もう一度会えばきっとまた恋をすると、そう考えたならば。
薬を飲んで、何千何万年もの未来に、"私に会いに来て"と、一抹の小さな思いを込めたのなら?
「ククッ…君はどう思う?弱竹の、"本物"のかぐや姫」
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