フリマサイトでお疲れ様本が2万〜3万ほどで転売されているの見て絶句ですよもう…。
お盆も明けてお仕事も落ち着き始める頃、色々世間は大変ですが、ここにいる間だけでも何も考えずに楽しんでいただければ幸いです。それではどうぞ!
「…いや、いくらなんでも色々ありすぎでしょ…。考えるのやめた。メイク落として寝よ」
ストーカーに暴行されかけ、神に等しい生物に助けられ、さらに同居することになった。
たった二行程度の言葉に、一体どれだけの情報と困惑が詰まっていることだろう。
彩葉は途中で帰っちゃったし、真実と二人でお茶をして帰ってきてしまった。
誕生日の最後の時間を3人で過ごせたから良しとしたい。
洗面台に向かう道中が暗く、目を凝らしてまだ不慣れ新居の廊下を通る。
リビングの椅子には、まだ彼がいた。
何を飲んでいるかは分からないが、それっぽいグラスを持って外を見ている。
射し込んだ月明かりが彼を恐れるように、彼だけを避けて地面に広がる。
でも私から見たそれは、怖いと言うより寧ろ神秘的ですらあった。
不意に目が合った。
「寝てなかったの?てか暗っ」
思ったよりも普通に声をかけてしまった。
あまりに、自分でも驚くほどに受け入れすぎている。
…魔術とは、もしかしたらそういうことも出来るのかもしれない。
「あぁ、芦花。もう寝るよ。君は?」
「私もメイク落として寝る所……ねぇ、一応確認なんだけど、私に魔術とか使ってないよね?」
目を丸くして私の疑問に答えを出そうとする。
正直その仕草だけでそういうことはしてないと分かるけれど、彼は深い答えを吐き出した。
「君は常日頃、その日常を退屈と思っていて、何処か虚を抱えていたんじゃないかな」
「…虚?」
「稀にいるんだ。私にはまだ解せないものだが……感情を発露させる人間が。そしてその者達はいずれも私との邂逅を自ら望み、拒まず、私はそれを叶えた」
「……その人達は、どうなったの」
分かりきっている答え。たった半日、彼を見ていたのはそれだけの時間だけど、私には彼が解った。
心理学【決定的成功/クリティカル】
「……死んだよ。過ぎた力は身を滅ぼすものさ。だから」
死んだ。殺したじゃなくて。
あぁ、やっぱり。この人は底抜けに優しい人(邪神)だ。
ピシッ……ヴァンッ
世界がひび割れたような音が脳裏に響いた。
この人は私に嫌われるように、けれど決して離れないように、"調整"している。
その感覚は知ってる。私もそうだから。嫌われないように、近づき過ぎないように。
その感情が私と同じじゃなくても、きっと苦しいはずだ
「君は狂ってはいけないよ。大丈夫、今日からこの這い寄る混沌は、世界で君だけの神様なのだから。願った通りに、望んだ通りに、虹を掴める力を君の為に振るってあげよう。HappyBirthday、My Dear」
カチンッ…
これでもかと見せつけてくる魔術や不穏な言葉が全部彼の仮面なんだと気付けた。
「……」
なんでこんなに、彼を気にしているんだろう。
勘違っているのだろうか。私は彼の言う虚を埋めようと、自棄になっているのだろうか。
──
あの日から少し経った。
まずもって新生活なのだから当たり前だけど、変わったことは色々ある。
心配していた彼だけど、家事スキルがとても高い。基本的に完璧で、私の部屋以外は埃一つなく、私の事情も鑑みてか栄養バランスが考えられた食事を作ってくれる。
洗濯に関しては私の意を汲んで進んでやらないけど、彼自身を不潔に感じたことはない。毎日薔薇みたいな匂いするし。
そして家に帰ればいつもやたら美味しい紅茶を出して私を労い、静かすぎす騒がしくない間の良い会話が待っている。
自己紹介の通り、好奇心がよほど強いようで私が適当に呟いた言葉を真に受けてツクヨミでライバーを始めたらしい。
特に見るつもりはないけれど、たまにそれっぽい噂を聞く。
日常になりつつある帰宅からの彼との会話。
彼の紅い瞳はいつも私を見つめてくる。
もうすっかり慣れてしまったけど、その瞳に魅了される人間だって少なくないだろうに。
「…芦花?」
「?」
「ハッハハ、そんなに見つめられると照れてしまうよ」
違うし、貴方がガン見してきてるんでしょうが。
なんて心の中で突っ込みながらも、最近気づいた彼がおちょくる癖の笑い方だから、無視してスマホに目を向けた。
「…ねぇ、これやってみて」
「ん?」
不意に目に止まったサイト、内容は単純なIQテスト。
スタートと共に彼は淡々と問題をこなしていく。というか、画面が切り替わった瞬間に問題を解いている。
「…何の意味があるんだい、これ?」
「IQテスト。ナイアって、"クトゥルフ神話"っていうものの、ナイアーラトテップ。っていうんでしょ?」
「まぁ、そうなるね」
「頭が凄い良いって言うから、なんとなく」
彼風に言えば好奇心。たった5分で宇宙生命体のIQなんて測れるとは思えないけど、IQ300くらいあるんじゃないかな。とか思ってたら、答えはその倍くらいはあった。
「あ、出たよ。450だって」
「すご…予想通りというかなんというか…」
「それは心外だ。こんな児戯で私の頭脳は測れないよ」
実際彼の吸収能力は異常だ。
どこから調達したのか分からない本の山は二万冊を優に超えているらしい。
たったの数日。それも、私と話している時間は決して本やスマホを見ないから実際はもっと短い。
どうやって覚えているのかと聞けば、触手で本を同時に開いて目を増やしているとか。
あまり綺麗じゃないから見せたくないらしいけど。
「あ、これ美味しい」
「それは良かった。京都の名物らしいよ」
「毎日ご当地お菓子が卓に並んでくのなんで?」
「?、君へのお土産だけど?」
はっきり言うと、居心地が良すぎる。
彩葉みたいな一人暮らしを想像していたけど、彼のサポートが完璧すぎて駄目になってしまいそう。
何故か私の本業関係にも強いから教えてもらってる始末だし。
「スパダリすぎー…」
「たまに言うけど、それはどういう意味なんだい?」
「スーパーダーリンだっけ、スペックが高い人」
「おぉ、褒め言葉か。ありがとう。それなら芦花はスパハニになるのかな?」
「私なんて…そうは言わないんじゃないかな」
「何を言う。私の奉仕に甘んじることなく君は自分を磨いている。勉強も欠かさず、将来も自分の手で掴み、自分で暮らせる程のお金も稼いでいるじゃないか」
あいも変わらず嘘のない言葉だ。
ムカつくほどに毎日毎日褒めちぎってくる。私は彩葉みたいに頭良くないし、真実みたいな自分の世界は無い。
容姿だって、恵まれているかもしれないけど、私より可愛い人も綺麗な人もいくらでもいる。
心理学【成功】
でも
「……ありがと…」
「君のその自己評価の低さはいずれ直さなければね。謙虚は美徳だが、過ぎると毒だよ」
こっちの考えを見透かしているような言葉を置いて、彼は台所に立った。
この間の失敗以降、彼は料理を教えてくれる。
まだまだ失敗続きだけど、彼は少しも残さず全部食べてくれる。
「美味しいかい?」
「相変わらずプロですプロ〜」
「ふふ、ありがとう。明日は君が作ってくれるんだろう?」
「あ、うん…ねぇ、ナイア」
「うん?」
先日。ヤチヨが言っていたツクヨミへの謎の侵入者。彼が地球で活動を始めたのは私の誕生日の数日前程度のはず。だから違うはず、人間が好きだという彼のことだ。不用意に危険は冒さないだろうし、私と協力関係にあるのも目立たないためのはず。
それ以外の目的なんて、彼にはないはず。
「…ううん、ごめん。なんでもない」
「そうかい?まぁ、気になることがあったら遠慮せずに聞いておくれ、君になら何でも答えるよ」
そうだ、優しいナイアが危ないことをするわけがない。私のプロテクトが破壊されていたのも、きっと偶然のはずだ。
──
今日は午前授業、新しい学校でも友達は作れた。
少し苦手というか、私とは価値観があまり合わない人たち。
彩葉や真実と出逢えたのは奇跡の産物なんだと改めて理解する。
「芦花ちゃん、楽しんでる〜?」
原宿で3人と歩いているけど、少し強張った返事をしてしまう。彼はやたら距離が近いし、後ろのアミさんは…言いたくはないけど、私の動画を真似て登録者を増やしてて良い印象はない。
やけに甘ったるくて大したことのないこの飴も、正直好きではない。
真実ならもっと美味しくてお洒落なお店を見つけてくれる。彩葉なら周りのことを考えた声量や歩き方をする。
ナイアなら、周りももちろんだけど私のことを考えて歩いてくれる。
正直不愉快だ。
でも、我慢しないといけない。こういう人達も、これからの人生にはきっと沢山いるはずだから。
選り好みなのはわかるけど、今日は二人やナイアと一緒にお茶でもしたかった。
ドンッ
「あっ、ナイア」
「えっ、君が言うのか?」
何か言って不都合でもあっただろうか。
まだ彼はそこまで有名な配信者でもないだろうし。
「てかめっちゃイケメンじゃん。芦花さん、私に紹介してよ〜」
「あぁ、いや。紹介はちょっと……」
紹介は出来ない。邪神を紹介とかしにくいし、ナイアは私の…私の?なんだろう、別にまずくはないはずなんだけど。
「は?なんで。別にいいじゃん。図々しくね?」
「いや、そんなつもりはなくて…」
「ね〜、ナイア君。今からあたしと遊びにいかない?」
そわなつもりはないんだけど、別にナイアが誰と遊びに行くのも構わないんだけど、なんだかそれが不安になる。目の届かないところで何しでかすか分からないし。
ていうか、そんなあからさまな猫撫で声で近づくのは彼にとって逆効果だと思う。あぁほら、嫌な顔してるし返事も素っ気ないって 。
「えっと、ナイアってそういうの興味ないんだっけ?」
「まぁ、無いね。そもそも彼女より芦花の方が綺麗だ」
「「「はぁ!?」」」
「!?」
本当に何処でも言うのこの人!?
こっち見ないでよ、そういう人なんだって。私だっていつも褒め殺されてるんだから。
「は?お兄さん見る目無いわ〜。ウチのこの商品レビューの動画見なよ、才能違うっしょ?」
「そうかい?その商品の投稿レビュー。どれも芦花が紹介した近日だ、テロップも似てるし。確かにファンも多いみたいだが、どれも過激な投稿によって増えたものにしか私には見えないなぁ」
私が言いたかったこと、全部淡々と言うのはさすがにびっくりする。後の二人もコテンパンにしちゃうし、目立たないでって言ったのに。
でも…ちょっとスッキリした。
「ふむ、どうする芦花」
「え、どうするって……?」
「別に、彼等とまだ一緒に遊びたいというのなら止めない。ただ、私はこれから軽食をとろうと思っていてね。電車で二駅程のところに、今話題のパンケーキを出す店があるらしい。一緒に来るかい?」
…さっき帰るところって言ったくせに。分かりやすく気遣ってくれてる。なんだか全部バカバカしくなってしまった。
「…奢り?」
「もちろん」
「ふっ…じゃあ、ついて行っちゃおうかな」
ナイアが差し出した手を取って三人を置いていく。
学校で何を言われるか分からないけど、彼が何とかしてくれる気がする。
「ねぇ、ナイア」
「ん?さっきの本当?」
「?もちろん」
当然のように答えてくる。
いつもキザで詩的なセリフなのに、こういう時は真っ直ぐで素直。ネットで見聞きしたような邪悪の権化とは思えない。
──
次の日から、彼らは学校に現れなかった。
ナイアが何かしたと言うよりは元々そこまで真面目じゃなかったし、飽きたのかもしれない。
私はというと、気にかけてくれていた少し歳上のグループから誘われて夕ご飯に行く予定。
親睦を深める目的で入った居酒屋。
この間よりもずっと楽しい。悪意や嘘がない人達だし、変に近すぎない。
「綾紬さんって、インフルエンサーのROKAなんだよね?」
「そう!私前から見てて凄いなって!」
「あ、ありがとうございます。私なんて全然ですよ」
「いやいや、そんなに謙遜しないでよ。将来はやっぱりモデルとか女優?」
「私には無理ですって。メイク好きですし、メイクアップとかできたらなって…」
けして悪い気はしない。確かに一時期目指していたけれど、やっぱり私では無理だ。
…こんな時に、ナイアのこそば結い言葉が思いつく。
やりたいことをやるべきとか、綺麗だとか可愛いだとか、傾国を促せるとか美しいとか。
「綾紬さん?」
「えっ、あっすいません!」
「あっちょ、それお酒…!」
「ふぇ?」
ごまかすようにいっきのみしたのはどうやらおさけで…わたしは…。
「──!!」
「──」
「──ー」
「ほら、こっちに」
きづいたらナイアがいて、おうちにつれかえってくれた。
ふかふかのクッションと毛布。彼の優しさが染みる。
だから…もう少しくらい、甘えても許されるはず。
「芦花、起きたのなら部屋に…」
「いやで〜す…今ナイアは私の枕〜…」
「…はぁ、考えるのも面倒だ。ほら、肩では寝にくいだろう、膝においで」
ほら、やっぱり。私の頼み事は断らない。
少し強張ったふともも。彼の特有の匂い、声。
凄く落ち着く。
この気持ちを、私は知っている。
でも、認めるわけにはいかない。
だって、こんなにすぐなんて、軽薄で、最低で、"前"の気持ちを嘘にしてしまいかねないから。
彼の顔も言葉も声も優しさも、惹かれたのは"私だから"じゃなくて、"私も"かもしれないから。
ごめん、彩葉。ごめん、ナイア。
謝るのも違うだろうし、我儘で酷くて、自分勝手だけど、もう少し…この気持ちを大切にさせて。
〈芦花ぁ…〉
〈ちょっ、彩葉も泣き虫になっちゃったの?〉
〈毎日毎日あぁも優しく囁かれたらまぁ…わからんでもないかなぁ〉
〈マジで、本当に芦花のこと大切にしてよ…〉
〈肝に銘じているとも〉
芦花の心情です。
まだ彼女は自分の気持ちにはっきりと色をつけておりません。
複雑ですね…哀しいですね…愛しいですね…