書きたいんですよ、なのにイカれたスケジュールの上、ベッドがないからマットレス敷いて毛布かけて寝てるっていうね…。
と、いうわけで第五話。芦花編の予定の半分が過ぎましたね!
この調子で、三度目の混沌を見届けてくださいませ!
最初は彼のプラン通りに映画へ。
少し前に私がネットで見て呟いていたミュージカル映画。自分でもいつ言ったか覚えてないような呟きを覚えてるのは流石というか、感心する。
「私はアイスコーヒーを。芦花は?」
「私はアイスティーで」
静かな映画を見るのにフードはいらない。本当はちょっと食べたいけど、食い意地が張ってるとは思われたくないから我慢する。
「芦花、足元が暗いから気を付けて」
細かい気遣い。こんな些細なことでさえ胸がきゅっとする。全部伝わっているのかもしれないのがまた怖い。
上映前の静寂、映画をちゃんと見れるだろうか。なんて思いは、意外とすぐになくなって楽しむことができた。
コメディもあるしミュージカルが中心ではあるけど、中身はラブ・ロマンス。身分違いの恋…形は違うけれど、私とナイアも身分違いではあるし、重ねてしまう。
全宇宙の狂気の根源と、少し平凡な学生。
壮大でフィクションが過ぎるような設定だけど、紛れもなく彼は私の隣りにいる。それにナイアはナイアで、私にとってはそれ以上でも以下でもない。
ーー
2時間弱の映画を見て、特有の満足感と疲労感でシアタールームを出て残っているドリンクを飲み干しながら感想を語らう。
「どうだった?」
「あ~…バッドエンドだったなって」
「おや、そうだったかい?」
正直な話、私の肌感には合わない映画だった。
手切れ金を貰って主人公は退散、ヒロインは望んでない人との政略結婚。しかも、物語的にはこれが一番二人がまっとうに幸せになれる道だった。
それはナイアも解っているようで、私の感想に疑問を抱いている。
運命すら掌の上の力を持っているのに、彼は変にリアリストだ。
「女の子はそういうの無視してでも好きな人と幸せになりたいんです〜」
ささやな抵抗の後、ショッピングが始まる。
私の住む場所からはちょっとだけ都心に寄ったモールのせいか、少し珍しい化粧品や目を引くローカル品が多い。
「あ、この色綺麗…あ、あれも」
「ふふ、喜んでもらえて私も嬉しい」
ずっと余裕の笑みで歩幅を合わせてくれる。服もメイク用品も私好みなものばかり。
しかし、ここで簡単に物は強請らない。
最初のプレゼントはやっぱり彼に選んで欲しいから。
少しくらい、ロマンを求めすぎても彼ならきっと笑ってくれるから。
「少し休もうか。飲み物を買ってくるからここにいてね」
「え、凄い、良くわかったね。それも魔術?」
「君から目が離せないだけだよ」
またそういうこと言う。本当に誰にでも言ってるならとんだスケコマシだけど、私にだけ言ってるなら許してあげる。
〈彩葉〜、スケコマシって何? 〉
〈悪い男の人のこと〉
〈じゃあ間違ってなくね? "邪"神だし? あでも神か〉
〈…酒寄さん、君も大概だからな。君の研究所ではクソボケ所長だとか全方位たらしのワーカホリックだと聞くぞ〉
〈ナイア〉
〈…すまない〉
〈芦花つよ〜〉
ナイアが離れる間、休憩にベンチへ座る。
履き慣れてはいるけど、やっぱり高い靴は疲れる。
「歩き方とかで分かるのかな…」
「あの…もしや、綾紬さんですか?」
「えっ?」
突然名前を呼ばれた。しかし、その相手は分かっている。鎌田さん、私のバイト先のいわゆる上司。
「鎌田さん、それに秋元さんも。こんにちは、お世話になってます」
「こちらこそ。それにしても奇遇ですね、こんなところで」
「そうね! すっっごく良いタイミングよ!」
「良いタイミーー」
急に視界が横へスライドする。
優しく、けれど力強く引き寄せられた。この加減が誰かは容易に察することができた。
「私の連れに、何の用だ?」
「「え?」」
「ちょっ、ナイア!」
「大丈夫だ。君には指一本──」
「違う違う! 二人共私のバイト先の人!」
「……え」
事情を聞くより先に彼が助けに来て、一言で察して落ち込んだ。私はというと、失言を繰り返して鎌田さんにナイアへの想いを気付かれた。
相変わらず勘が良すぎる。そして、トントン拍子に話が進み、今私は
「ウェディングドレス…」
想像してなかったわけじゃないし、いつかはなんて妄想もしていた。そして今回はソロの撮影のはずなのに、鎌田さんの思いつきで、ナイアまで真っ白なタキシードを着て横にいる。
「芦花? さっきから静かだけど、どうかしたのかい? 衣装が苦しいならスタッフに…」
「ちょ…近い近い近い! 強い強い!」
自分でもよく分からないまま変な言葉で彼から顔を逸らす。誰から見ても真っ赤なんだと分かるくらい顔に熱が集まってるしなんか変な緊張で手汗かいてるし。
なんでナイアはそんなに平然といられるんだろう。
私はこんなにも…
「ところで芦花、結婚式とは何をするんだい?」
変に納得してしまった。
そうか、そもそも結婚の文化を知らないのか。
正確には知っているんだろうけど、彼がしていた"観測"では中身が分からなかったんだ。
「えーっと、神様に、ずっと一緒にいますって誓うこと…? 説明するのは難しいけど」
「ふむ。なら私には不要か。誓う神などいやしない」
まぁ、確かにその通りだ。だって本人が神なんだから。
でもそれはそうとして、"不要"その意味はどういう意味なんだろう。私と一緒にはいてくれないのだろうか。
そんな不安を胸にしながら、ナイアは離れてソロの撮影になった。
離れたナイアが鎌田さんと何か話している。
「…いやいや、まさかね…」
でも、ナイアは言ってしまえば性別なんて関係ないし、面白かったり綺麗な人間が好きだし、まさかなんて。
「芦花さん。実はここなんですが、ダンスシーンを入れたいと鎌田さんから指示がありまして…」
「ダンス…? えと…ナイアとですか?」
「えぇ、せっかく二人揃っているならと」
不思議な提案を聞いていると、手を小さく振りながら、彼が駆け寄ってくる。せっかくの髪のセットが少し崩れている。
「なんか、広告映像にダンスシーン入れたいんだって」
「代役に頼むものではなくないか? でも…そうか」
「ゲームならまだしも社交のダンスなんて踊ったことないし、今ことわ…え、なになになに」
急に膝をついて私の手の甲に唇を重ねた。
急に近づいた彼との距離に、また心臓が高鳴る。
「私と踊ってくれるかな? お姫様」
続けて流れるように立ち上がり、そのまま右手を握って腰に左手を回す。下心もないし、不快さなんて欠片もない。
「答えはYESしか用意していない。合わせて、私に身を委ねるだけでいいよ」
「なんでこういう時だけ強引なのかなぁ!」
「ハハハハ! 上手だよ、ほら、次はターンだ」
「あっ、ちょっと、もうっ!」
声を上げて笑う心の底からの素の笑顔。
揺れる紅い瞳に、笑顔から覗く人ならざる者の牙。
手袋越しにさえ感じる体温に、ふわりと漂う宙の匂い。
人外の全部を置き去りにする、私にだけ向けられる笑顔。
「ふはっ…楽しいね、芦花!」
あぁ…好きだなぁ…。
楽しくて、静かなこの時はあっという間。
過ぎ去った余韻を残したまま、私達は次の目的地へ向かった。
「ふふ、中々新鮮な体験だったね。私も楽しかった」
「えっわ、私そんなに顔に出てる?」
「それはもう。よほどなんだろうと解るくらいには」
悪戯な笑み。さっき何か鎌田さんに吹き込まれたのか、態度がなんというか、甘い。
いやいつも甘いんだけど、そうじゃない。うまく言い表せないが、とにかく目に見えて楽しそう。
「さ、着いたよ。ここが私が働いてる…」
「あれ、ここ?」
「え…」
さすがに驚いた。まさかのまさか。彩葉のバイト先で、私と真実でよく通った場所。最近は環境の変化もあって来ていなかったけど、短い時間ではやっぱり少しも変わっていない。
「…まさか、君が知っているとは…」
「あはは…そういうこともあるよ。でもセンス良いね、ここ選んだのは正解。花丸つけてあげる」
ちょっとあざとかったかもと思いつつ、ナイアの手の甲をくすぐるようにくるくると丸をかく。
揶揄われるかとも思ったけど、2、3の会話で彼は静かになった。
目星【成功】
顔が、赤い。
え、本当に? あのナイアがまさか照れてる?
あのナイアが? 邪神なのに?
困惑と、自分でも分かり切れるほどの綻び。
無性に嬉しくなってしまった。
そんな時、私の心を揺さぶる人物が唐突に登場した。
「ご注文はお決まりですか〜? ナイア君、芦〜花っ」
「彩葉! 今日バイトだったの?」
「おっと…互いに紹介はいらなさそうだ。二人は友人だったのかい?」
「ナイア君こそ、女の子の友達って芦花のことだったんだ〜…」
「彼女とは少し複雑な縁でね、今日は1日、私の我儘に付き合ってもらってしまったんだ」
私との関係を濁しながら話す彼もだけど、本当に人生何が起こるか分からない。
この二人が目の前に揃うのは色々な意味で複雑な気持ちになる。
彩葉もナイアも凄くモテるしスペック高いし、私の見ていない所で惹かれ合ってても不思議じゃない。
思わせぶりなこと言うのも同じだし、頭もいいし。
〈こう見ると芦花ちゃんの好みって分かりやすいね〜〉
〈そして人生でそんなハイスペに二人も出会ってるっていうバグね〉
「にしてもナイア君、見事な慧眼だけど、芦花はレベル高すぎだよ〜?」
「ちょっと彩葉!」
「ハッハハ! それは君がいるからかい?」
「そのとーり! もし芦花を泣かせたら、その頬には花丸じゃなくて真っ赤なモミジマークつけるたげから」
「おぉ、怖い。愛されているね、芦…花……」
「?」
"あの時"以降、彩葉は壁をあまり作らなくなっている気がする。それにコミュ力お化けのナイアならすぐに親しくなれるのも分かる。
彼も気楽そうだし、私には見えていない顔も垣間見えた。
羨ましい。彩葉が、羨ましい。
ナイアの知らない顔を知っている貴方が、私が本気で惚れた貴方が、ナイアと親しくしているのが、少し…嘘、凄く羨ましくて、恨めしい。
〈待て…かかなにのやなさかく待て待て待て…芦花、君そんなこと…〉
〈あ~…ごめん二人共。ちょっとだけね? 嫉妬っていうか自棄っていうか…うん、そんな気持ちでした…〉
〈君が傷つくくらいなら別に見せなくても良かったんだよ? 〉
〈だって…心にトゲを残したくなかったから。すれ違いって辛いでしょ〉
〈…辛いよね、分かるよ〉
〈ヤチヨはそりゃあ確かに…八千年だもんね〉
〈かぐやなんてたった5年でさえ辛かったのに〉
「ナイア?」
「おっと……すまないね。酒寄先輩、話に花を咲かせるのもいいが、そろそろ注文してもいいかな?」
「あっとと、ごめんごめん。ご注文どうぞー」
話に花が咲いてしまったが、注文を済ませる。
待っている間も静かに、でも沈黙にならない会話を続けていく。
「今日のプランは気に入っていただけたかな」
紅茶を飲みながらの質問。
プランもそうだけど、私にとっては貴方と過ごす時間がとても大切で楽しかった。
言葉にしないと伝わらないのがもどかしいけれど、それでも少しもどれ一つもつまらないなんて思わなかった。
撮影も映画もショッピングも…
「…うん、最高だった」
「光栄だ…いい席だね。黄昏が君の瞳の中にある」
「そういうナイアの瞳は真っ赤だよね。輪郭だけ分かるくらい」
私が惹かれた深紅の瞳。この間気づいたのは、何故か全く反射しない目なのに、私が覗いた時だけ私が映る。
本当に細かい所で人外の生態してるのは気付くたびに新鮮で面白い。
「……ねぇ、どうかした?」
「…なにがだい?」
「なんか、笑った顔がいつもと違う…ような気がする?」
取ってつけた疑問だ。ナイアはいつも、私が外さない限り、視線をずらさない。なのになぜか今、私から視線を外して窓の外を見たのが気になってしまった。
気の所為だといった貴方の言葉と表情が、何故かすごく遠くに見えた気がした。
家へと帰る路も、貴方との会話も、いつのまにか好きになっていたこの時間(夕暮れ)も、いつもと変わらないのに、小さな違和感が胸の奥を刺す。
「君は私の…大切な友人なのだから」
大切なんて言葉が、言ってもらえて嬉しくなる言葉が、こんなに辛い言葉だなんて思わなかった。
でも、だから何。はい終わりなんて私が許さない。
「ねぇ、ナイア。ツクヨミ行こ」
「今からかい?」
「そう。ちょっとだけ、20分くらいだからさ」
「時間は大丈夫だよ。すぐにかい?」
「うん」
強引に彼を夜の都へ連れて行く。
誰にも知らせるつもりのないあの場所へ、秘密で、私が1人、泣いたあの場所の記憶を、貴方で上書きたい。
「ろ、芦花っ、このままはでは……」
私とナイアの体裁を守るために手を緩めようとする。
イヤだ。温もりも感覚もなくても、貴方が離れるのは私にとって耐え難い。
「……そんなの、言わせておけばいいじゃん。それより速く、こっち!」
長い階段を上った先。山奥で水もまばらな手水舎の神社。宇宙の邪神には似つかわしくない厳かさ。
恐らく没マップのこの場所。不思議と何度も足を運んでいた。
昼間のステップとは違う、静かでゆっくりな足取り。
でも、どこかやっぱり違和感はぬぐえない。
ひとしきり踊った後、裏へと回る。涼し気な水辺でずっと浮かんでいる月がよく見える。
神社の畳にごろりと横になり、ナイアも誘う。
予想通り、少し怒られてしまったけれど今日くらいはと強引に横になる。
「気持ちいいでしょ。やっぱ日本人だよね〜。ナイアはどう?」
「畳も悪くないね。身体を横にするのも気持ちいいものだ。それに、水面に揺れているあの花達…君の花だ」
私の花といえば、名前の花。
私のことだから彼は気づいてくれたのかもしれないけど、別に華やかなものでもない。
「あぁ、芦ね。地味でしょ? 誰も気に留めないし、華やかなんて言葉とはほど遠い…十五夜で飾るようなススキでもないし、なくてもいいような植物だよね〜」
しまった。自分自身で気付いている自虐の癖。
ネットの情報を鵜呑みにしたくはないけど、これは話題として間違ってーー
「な、ナイア…?」
「暗紫色の慎ましくも美しい花。時が経つごとに金色に移り変わり、やがて水面の月を揺らす風を吹かせる。夏には爽やかな新緑を芽吹かせ、次へ進む気高さをもつ素晴らしい花だ……どこが華やかじゃないと?」
「えと……」
頭が真っ白になった。いつの間にか握られた手が、押し倒された身体が強張って動かない。恐怖じゃない、喜びじゃない。 純粋な混乱だ。
「寂しいことを言うな芦花。君の心は綺麗で、強く繊細で…誰よりも美しい。知っているか? 芦の花の花言葉は、神への信頼。何処の誰が君を貶す言葉を吐いたのか知らないが、私だけは君の神であり続ける…だから、君は、君だけは自分を否定するな」
「は…は……い……」
「……ッ! すまない! 感触がないとつい……!」
「……うぅん……謝らないで、ありがとう。嬉しい、そんな風に思ってもらえたの…初めてだから」
嬉しい。嬉しいのに、貴方の瞳が私を映していない。
ツクヨミだからだし、きっと貴方に見てもらいたい私は、貴方の視界に映っていないということも理解してる。
「…ここさ、誰にも言ってないんだよね。別に秘密にしてるわけでもないんだけど、なんとなく話すことでも無いかなって」
心理学【失敗】
「だったら……何故私に?」
「……さぁ。自分でも分かんないけど……何故かナイアには言いたくなったの。凄いと思わない? 一億人を超えるユーザーの中で、私達たった二人だけの場所。なんて」
「…そうか……」
言うつもりは無かった。ドラマチックでもなんでもない。秘密なんて、二人だけなんて。そんな言葉は、ただの重荷でし、私のエゴだから。
そんな儚げな瞳で、声で言葉で肯定しないで。
だって知っているから。
その態度は、"諦めた時"のものだって。
私事を書き連ねます。
あんまり良いこと書いてませんので優しい人だけ慰めてください。
(泣)
私一応本職が料理人なんですが、修行というか職場が中々ハードなんですね。
まだ若い身の上ということもあってお客様方からは期待されてるんですが、たまにぜーんぶ投げ出したくなるんですよね。
結果、部屋に超かぐや姫グッズがあふれて口座残高が769円とかいう状態です(笑)