だんだんと部屋の改装も出来てきて、お仕事も絞られながらも楽しくやっております。
で!超かぐや姫の関連商品も買って飾れる環境までもう少し…!
それではどうぞ、お楽しみください!
昨日のデートのことを思い出しながら、私は朝食を口に運んでいた。
テーブルの向かい側に、彼はいない。
配信関係ではコラボや案件、カフェのバイトも忙しくなり、あまり一緒にいられないらしい。
それらが嘘なことくらい、私でも解る。
でも、必ず食事だけは一緒にとるという話だし、そこに不愉快さはない。
「飽きられちゃったのかな…」
相手は人知の及ばない這い寄る混沌。向けられる恋情を下らないと一蹴する可能性だってある。
いっそ彩葉みたいに最初から"無い"と分かっていれば。
「ッ…最低…」
また比べてしまった。自分の心の中の声だからといって、昔と今の状態や気持ちを比べるなんて最悪だ。
我ながら気持ち悪い。こびりついたこの感情の殺し方を、誰か教えて欲しい。
「はぁ…学校、行かなきゃ」
静かな日常。行ってきますも行ってらっしゃいも響かない。
明確に変わったこれは、果たして前進なのか、後退なのか、私には分からない。
心が読めたら、未来が見えたら、誰かの感情を文字通りに形にできたなら、この苦しさも何とかできるのに。
今ばっかりは、あの万能の魔術達が羨ましい。
「綾紬さん、何かあった?」
「…何も無いですよ、いつも通りです」
学校で先生や親しくなった人達からの心配。
「アラ?芦花ちゃん、何かあったのかしら。なんだか笑顔が暗いワ」
「……何も、無いです。すいません。もう一度お願いします」
上手く笑えない。
「今日…動画はいいや…」
新しいコスメや自分の趣味にも、心が躍らない。
指先の彩りも、目元の煌めきも、彼の褒めてくれた瞳や表情も、全部薄氷の張った水面のよう。
ほんの少し傷つければ割れて、本当の姿が現れるような、そんな脆い産物。
一日、また一日、たった24時間が繰り返される。
彼の永遠に比べれば、海の一滴や砂漠の一粒にも見たない時間。
そんな刹那が、とても苦しい。
「快勝〜、さっすがいろP!帝様の妹君〜!」
「関係ないって!」
「ごめんね、全然だめだった……」
「気にしない気にしない!参加権はもう貰ったも同然なんだから!」
真実と彩葉は楽しそうにKASSENをプレイし、先日参加券の為のランキングを上げ終えた。
私はここ数日全くと言っていいほど集中できていなくて、足を引っ張っている。何も上手くいかない、焦りと不安だけが募っている。
二人に申し訳ない、かといって補欠はナイアで決まっているから逃げることもできない。
「…ちょっと休も!ね、彩葉」
「そうだね、真実の家でいい?」
「え、まだ一試合しか…わっ、ちょっ……」
私たちは真実の家に似せたツクヨミの一カ所によく集まる。
ソファの真ん中に少し強引に座らせられる。
私を逃がす気はないと、二人が横に座る。私たち三人の誰かが悩んだ時、内緒にしながら支えたい時、この位置になる。
だから嫌でも分かる。二人が私を心配してることが。
「これは勘っていうか、そういう経験が少しあるっていうか……なんとなく分かるんだけど…」
「なになに?真実は心理学者志望だったりするの〜?」
「…誰かのせいだったり…?……ナイア君?」
誤魔化しなんて効かない。真実はこの話に置いては先輩で、一番成功していて、一番苦しんだことがある人。
だから、私の嘘が作った壁なんて、真実からすれば透明なガラスに等しい。
心臓が跳ねる、無いはずの心拍が音を立てて加速する。
普通なら誤魔化す必要なんてない、目の前にいるのは親友と呼べる人達なんだから。
ただ、次の一言はきっと私を戻れなくする。
きっと、もう止まれなくなる。
それでもやっぱり、私は進みたい。一歩を踏み出すことが、出来なかったから。
「……うん」
視界が薄っすらとぼやけ始めた。
このツクヨミには無い筈のものなのに熱い。喉が渇いて、身体を這うように不安が湧いて出る。
二人が擦ってくれて、幾分か楽になっても、苦しいことに変わらない。
「何かあったの……?ナイア君、実はDV的な……は、ないか」
「違うの……違うくて……ナイアは優しいし、かっこいいし……でも……分かんないの。私……私は……」
──彩葉が好き──
言った。
何年も何年も隠し続けて、これから先何十年も黙っていようと思ってたのに。
なんでこんななんでもない時に。
咲かせず、枯らして、埋めるだけの花の種が、最悪のタイミングで咲いてしまった。
そこからはもうぐちゃぐちゃで、覚えているのに覚えていなような。曖昧ででも確かなような。
ふわふわとした生き場のない感情と言葉だけで私は向き合っていた。
「芦花…私も……私は…………ごめん……」
その拒絶でも聞き流しでもない謝罪はどういう意味かくらい解っている。振られたら振られたでもうそこで終われてたのに、今の私はそんな心に余裕がない。
「…彩葉のこと、今も大好きなの……でも……もう違うくて……」
「……ナイア君のことが、好きなんだよね?」
「……うん…矛盾してるって……おかしいって分かってるのに……自分がこんな軽い奴なんだって……最低だって……!そう思ったら……!」
「「そんなことない!」」
半ばヤケだった自覚はある。自分を下げるのを美徳だと思うなとナイアに言われ続けた。謙虚と理屈は違うと分かってた。でもどうしても自分を簡単に認めて許せなかった。
なのに、こんな面倒くさい人なのに、二人は静かに優しさを分けてくれた。
「……私も、芦花が大好き、もちろん真実も。でも……その好きは、芦花のとは違う。私には……かぐやなの……ごめん……は違うか。なんて言えば良いんだろ……」
彩葉の気持ちを簡単に分かるなんていいたくはないけど、私が同じ立場でもきっと言葉に詰まる。
だから私はいつもと同じように、それでいて演じないように、笑ってみせた。
「……ううん、いいの。ありがとう。大丈夫……もう、とっくに気持ちに整理はついてたし。ただ…はぁ~……やっぱり私じゃ駄目だったか〜!……なんてね」
「ちょっ、ごめん、笑えない笑えない」
「良いんだよ彩葉。もう……私の2回目は始まってるから。全部、全部……二人のおかげで、忘れようなんて思えない、私の大切な思い出になったんだよ」
「うぅっ……彩葉、芦花〜!!」
私と彩葉をまとめて腕に収めようとする真実。
彼女がある意味で一番辛かったと思う。いくらしっかり者でもマイペースでも、不安が無いわけがない。
3人で集まれなくなるかも、また前みたいに。
なんて大泣きする真実をみているうちに、私と彩葉も声をあげて泣いてしまった。
こんなに感情が爆発するのは産まれて初めてで、収めるのに時間がかかった。
二人とこの感情は共有できないけど、一緒に悩んでくれて、悲しんでくれて、きっと笑ってくれる。
「ありがとう…真実、彩葉」
「じゃあここからは〜……芦花の恋バナの時間だねぇ…!」
「…へぇっ!?な、何にもないよ!?」
待ってましたと言わんばかりに真実が次の爆弾を落とした。
〈懐かし〜…で、5年越しの真相を知れて感無量ですかナイア君は〉
〈あぁ、まぁ…君達、私が泣くのを楽しんでいるのか?〉
〈涙脆いんだなって〉
〈数千億年分の感情を楽しんでいるだけだよ〉
その後はもう、なんか、色々凄かった。根堀葉掘り聞かれて、別の意味で頭がぐちゃぐちゃになった。
いつからとか、どこまでとか。全てあけすけにされてぐったりしてしまった。
でも、一つだけ…ナイアが人じゃないってことだけは、言えなかった。だって後が怖いし。
「かくなる上は…!」
真実がウィンドウを開いて彼の生配信へ裏垢でコメントを打ち込んだ。
「よしっ、私も!」
のらりくらり躱されながらも二人は諦めない。
私は彼の力を知っているし、万が一に備えて迂闊なことはしない。
「あーもう、もどかしいなぁ。じゃあこれでどうだ!」
〈ROKAは?〉
ガタガタタンッ!!
「「うぉっ」」
大きな音と共に画面から急にナイアが消え、二人が肩をビクリと震わせた。
たまに意味わからない挙動をするから不安になるけど、ナイアはこういう所がある。
『彼女とは…ただの友人だよ…それ以上でもそれ以下でも無いし、なれないよ。……私はなんといっても…邪神なのだから』
初めて見るナイアの葛藤の表情。それは、明らかに友人との関係を語る表情じゃない。
期待してもいいの、期待させてくれるの?
存在がどんなものかだなんて関係ない。私が惚れたのは、無貌の生物でも邪神の貴方でもなくて、"ナイア"だから。
二人に押され、彼の感情に期待を膨らませた。
そんな時、ウィンドウに映し出されたメッセージを見られてしまった。
『私は先に寝るよ。忙しそうだし、ご飯はテーブルに置いてあるからね。知っているとは思うけど、夜更かしは美容の天敵だよ。それでは、お休み』
「「……どっ、同棲……!?」」
明確に、けれど複雑な彼との関係を表す文章に二人は目を食らい、あれよあれよの間に明日私の家に来るのが決まってしまった。
──
彩葉と真実からは事前にリサーチした情報で慌てて隠したとはいえナイアを見つけられ、なし崩し的に4人で談笑していたのに、何故かかぐやちゃんの歌を知っていたナイアが疑問を持たれたことで自分の正体を明かした。
それが、今この状況の経緯。
「改めて、私は千の顔を持つ無貌の生物。ナイアーラトテップ。月人達とは少々異なるが、理外の外側に座する者だ」
初めて会ったあの時のように魔術で触手をうねらせて世界から音を奪い、"無貌"を覗かせる。
55【成功】
21【成功】
減少値【2】
減少値【4】
「嘘…ホントに神…?」
「待って…スケールが…スケールが大きい……」
そういう反応をするのは解る。私も最初は混乱していました。今更だけれど、ナイアは最初、自分から神だとは名乗らない。いつだったか、格としては神より下だけど神は下らないとか言ってたのを思い出す。
なんて、しみじみしてる場合じゃなかった。
「誰でも驚くよ。ていうか早くしまって、あとそのラスボスっぽい雰囲気もやめてってば。二人共びっくりしてるじゃん」
「ハハハ、すまない。ちょっと面白くて。それで、落ち着いたかい?」
呑気な表情で嗤うナイア。人をおちょくる時はいつもこんな感じで、退屈が嫌いで人が好きな彼の性なんだと思う。でも、私をからかう時はいつも困ったような顔をする。少し羨ましい…なんて。
そんなことを思っているうちに、二人はあっさりと受け止めた。流石というか、一度そういう経験をしていると飲み込みが早い。自分も大概だけど。
「……芦花の助けになれているのなら本望だ。約束したからね、私は芦花だけの神様だと」
また遠回しに彼は私との関係を否定する。
でも大丈夫、まだまだ時間はあるし彩葉へ僅かに残ってた恋心もスッキリ払拭できた。
貴方にとっては一瞬でも、私はゆっくりと貴方の
彼の言葉を受け止めて、今日はまだ…なんて考えていたそんな時。
「はーっ……スパダリすぎんね。にしてもナイア君〜、芦花は超超優良物件だよ〜?」
「そうそう!学校でもツクヨミでも話題沸騰、モデルなんかもやっちゃったりしてる大人気美人ライバー!」
「こんないい人他にいないって!芦花の将来の彼氏がうらやましいなぁ〜!」
「ちょっと、やめてってば。二人共〜……」
普段から結構そういうことを言う2人ではあるんだけど、タイミングがあからさますぎる。
でも、そういう所に勇気をもらったし、だから頑張ろうとも思えたのに。
「……そうだね、やめるべきだ」
「……え……?」
思わず言葉を失った。
「誰彼とお似合いだ。こんな良い人は他にいない。そう、友人を褒める行為を私は責めはしない。だが、言葉は時に言の刃となり、他者を深く傷つける。置かれている立場を見ない盲目さは、自分の足元を掬う結果になる。人間として過ごした2カ月で得た知見と、邪神として時を貪った者の意見だ。軽率にそういったことは口にしないことをお勧めするよ」
その言い回しは知っている。
怒っている。
なんで、なんて疑問が出る前に答えは出ていた。
彼は私を、そんな風に見ていなかった。
「…えっと……私はただ、ナイア君と芦花がもっと仲良くなればな〜って……」
「ハッハハ……!それこそ世迷言だ。これ以上は無い。私と芦花はただの良き友人で、互いの協力者だ。互いの世界に土足で踏み込むことは──ー」
カタンッ
「ろ……芦花……?」
「芦花、外は雨だよ、何処へ……?」
その直後に紡がれた言葉に言葉が詰まった。
思わず伸ばした彼の手を振り払った。音が出るほど力を込めて、拒絶の意思を込めて。
調子に乗ってしまってごめんなさい。
恥ずかしくて、恨めしくて、今はとにかく。
「ごめん……ついて……こないで……」
消えてしまいたかった。
あーあ、またナイア君泣いちゃうよ