予定では芦花視点あと2話です。
次の次の話で重大発表(私にとって)を控えておりますゆえ、今しばらく、これからも何卒お付き合いをお願いします!
なんで走ってるんだろう。
雨のなかで、ぐちゃぐちゃな顔で。
寒い、痛い、冷たい、苦しい。
声にならない叫びが胸の中で木霊している。
「ぅっ…うぅ…あぁ…あぁぁぁあ…」
恋なんかしなきゃ良かった。愛なんか知らなきゃ良かった。ナイアになんて…出会わなきゃ良かった。
もうなんにもしたくない。考えたくない。
走って走って、泣いて、また走って。
何も考えてなかったはずなのに、気づけばいたのはあの公園。
私や貴方を曖昧にしていた斜陽はもう沈んでしまって見つからない。
全身雨で濡れて張り付いた髪や服なんて気にできない。
ベンチに座り、空を見上げる。
「……」
この雨雲の向こうから、空の向こうから、遥かな宇宙の果てから、この星に来た。
でもそれは、私に会いに来たわけじゃない。
解ってたのに、最初はただの私の気まぐれや自暴自棄だったのに。今ではこんなにも貴方の存在が私の中で大きくなってしまった。
酷いことばかり思ってるのに、こんなに貴方が嫌いになってしまったのに。
「でも…好きだったぁぁ…!」
冷たい頬が熱い。
止め方が分からない。だって初めてなんだから。
誰かに止めてほしい。涙を拭って欲しい。
でも、真実でも親でも、彩葉でも。やっぱり誰でもなくてその誰かはやっぱり、彼ならって──
「ろ"かぁ"!!!!!!」
「……ナイア……?」
なんで、どうして。
なんでそんな、ボロボロなの?
貴方ならいつも、笑って、指を鳴らして元通りに出来るのに。
なにかあったなら速く、手当てしないと、そんな痛々しい姿なんて。
そんなことを思考したのも束の間で、私の身体には彼の大き上着が着せられて、体温を移された。
「……っ…」
普段は意識していないけれど、この距離ではっきりと見た彼の身体は、人と変わらない。
細過ぎる腰とか、それに反比例した肩幅とか。気になるところはあるけど、やっぱり人と変わっていない。
速すぎる鼓動も、熱すぎる体温も、ちょっと痛いくらいの抱擁も。希望なんてないのに、私にまた期待させる。
そんな貴方が、憎い。
「芦花!!すまなかった!!」
…なんで、謝るの。貴方が謝る必要なんてない。
私の勝手な勘違いになのに
「私は誤解していた!いや、何を言っても言い訳にしかならないんだが…!とにかく、事情は二人から聞いた」
あの二人のことだし、怒ってくれているって、少し思ってた。
でも、それは私を惨めにするだけで、
「違う!私は……そう、私は嬉しかったんだ……!」
「…………?」
「ずっと……君が酒寄さんのことを好きだと思ってて……情けないことだが、彼女に嫉妬していたんだ……」
嫉妬?あのナイアが…?
ありえない。いつだって貴方は人の感情を理解したいと言いつつ理解できないと一蹴して、自分の興味の赴くままに狂気を弄ぶ…邪神でしょ。
ちっぽけな存在一人に、貴方が抱くべき感情じゃない。
「でも、ただの友人だって……」
「……君の幸せが、私の幸せだ。どれだけ苦しくても、嫉妬の感情にこの身を焼かれても…愛しい君だけは幸せになってほしかった。君が私を神と呼ぶたび…人ではない自分には不相応の感情だと、押し殺し続けていた。だから…嘘をついていた」
嘘をついた…?ナイアが?私に?嘘を?
感情に身を焼かれて、私をい、愛しいなんて呼んで、自分の存在の大きさに、苦しんでた?
彼にとって、神であることが、足枷になっていた。
私と、反対で、おんなじだった。
そんな、そんな簡単に信じられないよ……だって私がどんな……どんな気持ちで……」
我ながら面倒くさい、最悪な女の台詞。
もう、貴方が私に向けている感情に、理解が追いついていないわけじゃない。
でも、仕方ない。許してほしい。貴方にとって初めてのその感情は、私が一度、誰かに向けたものだから。
私が一度、捨てたものだから。
苦しいの、憎いの、愛しいの。だから、もう少しだけ、貴方の好きを、確かめさせてほしい。
「……言葉じゃ伝わらないし、伝えるべき場面があること…君が、君と過ごした今までの日々が教えてくれた。だから……嫌なら、後で殴っても、噛み切ってもいい。ただ今だけは、受け入れてくれ」
「ッッ!!?」
突然、向き直った彼が、私の唇に彼の唇を重ねた。
小鳥が啄むような、優しくて、柔らかくて、少しの悪戯もない、真剣な口づけ。
これが証明になることは、彼自身の基質が物語っていた。
色んな感情がごちゃ混ぜになって、もう分からない。思考が出来ないから、私は感情のままに言葉を紬いだ。
「……ナイアは……私でいいの……?ただ、偶然……貴方の前にいただけの……私で……」
「例え出会いは偶然でも、君と過ごした日々や重ねた思い出の中のこの感情は、嘘でも勘違いでもない。もう誤魔化すことも逃げることもしないと、君に誓う」
もう、貴方の策略でも暇つぶしでも本物でも、何でもいい。欲しい言葉をくれるから、欲しい感情を向けてくれるから。
ただ貴方が愛しい。もう…我慢しなくていいのかな。
「私は……この世界で一番、芦花が好きだ」
「〜〜ッッ!!」
「君で良いなんて君自身が言うな……!芦花が良いんだ!私には芦花しかいない!!君が宇宙一好きだ、芦花!!!」
宇宙一とか、私がいいとか。
貴方にしか出来ない表現と言葉。
…良かった。もう、遠慮しなくていいんだ。
ずっと喉に噛み付いて離れなかったこの言葉を言える。
「……私も…ナイアが好き、一番好き……!」
「…情けなくて、気づけなくて……本当にすまなかった。もう迷わない。もっと、もっと沢山、君にこの想いをこれからは伝え続ける。どうかこれから先も、ずっと私の隣にいてほしい」
膝をついて出された箱からは、四つ葉のクローバーをあしらった指輪。
いつだかにナイアが言った世界一の不幸の私と、最悪の存在のナイア。マイナスのかけ算でプラスになるみたいなこと。彼らしい。でも、それはもはやプロポーズなんじゃないかな。
…言ってあげないけど。
「渡せてよかった」
「……うん。大事にする……ごめん……私も、ナイアのこと、人じゃないなんて言葉で傷つけてて……っくしょんっ……!」
「ふふ……帰ろうか。2人が心配してる。それにそのことなら、私はもう気にしてないよ」
「うん……って、そうだよ、ナイアの怪我!」
そういえばなんでこんなにボロボロなんだろう。彩葉と真実に殴られた感じではないし、魔術を使えばすぐに見つけられたんじゃないのかな。
私自身、見つけて欲しいから多分あの公園にいたわけだけど。
「よっと」
「ん!?あ、歩けるから!降ろしてぇ!」
「これが最速だ」
私を抱き抱えて駆け足でナイアは雨の中を走っていく。
離す気はないだろうし、私も疲れたからちょっとだけ…休ませてもらおう。
戻ったら2人に話さないと、洗濯も、あと、動画のこととか、話したいことが沢山
「……」
────
ゆっくりと目を覚ますと、私は部屋にいた。変に温いと思ったら、隣では真実が寝息を立てていた。
部屋を出て、確かめて。ナイアの作ってくれたご飯を食べて。
追いつかないままの感情とは裏腹に、時間は走っていった。
部屋でガールズトーク。何度か今までしたけど、さすがにこの状況は初めてだった。
何があった、どうしたの、どうなの。質問攻めをされる。
「てか、ナイア君に聞かれてないよね」
「大丈夫だと思う。配信中も物音一切しないし、別空間とかになってるんじゃない?」
夜も深まってきて、話すこともなくなりかけた頃の会話。今さらながらの彩葉の疑問に答えると、真実が聞いてきた。
「さらーっと怖いこと言うじゃん…。それで?念願のナイア君と恋人になった感想は?」
「真実、直球すぎない?」
直球だけど、聞かれると思ってたし、これに対する私の回答は決まってた。
「…運が悪かったなって」
「「…?」」
「ん?逆じゃなくて?」
「え、うん?なんで…?」
2人の反応は最もだけど、今この時を表すならこの表現が一番合っていると思う。
「私は、彼と出会えて世界一運が悪かったよ」
そうでなきゃ、貴方に会えなかったから。
「最っ高の最悪だった。後悔なんて1ミリもないけどね」
「「えぇ~…?」」
2人の少し間の抜けた声が夜の静寂に木霊する。
約束を守る貴方には聞こえていないだろうけど、きっと聞こえていたらこういうんじゃないかな。
「〈流石だ、芦花〉」
〈…か〉
〈敵わない。でしょ?〉
〈………〉
〈すっげぇ〜…〉
〈宇宙一のトリックスターを手玉に取る女…〉
いぇぇ!いぁぁ!1週間以内の投稿だから短くてもセーフなんだよ!
はい、すいません。ようやっとスクリーンルームの準備が整い初めてテンションあがってます。
速く大画面で超かぐや姫みたいぜ!