神に恋した芦の花   作:レガシィ

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1週間以内投稿出来なかったよぉぉぉ!!!
ま、いいか…。
ついに復活上映開始しましたね!4DX凄かった!!ガクンガクンしてびっしゃびしゃでバーンって感じ!
冷笑はお控えください(笑)
さて、芦花編最終話。温度差で風邪ひきそうな1話で、さらに重大発表が最後に控えております。ぜひ最後までご覧ください!



第九話 貴方に贈るハッピー・バースデー

「……」

 

 そこはかとない違和感を持ちながら目が覚めた。

 

 やってしまった、というよりもついにって表現が正しい。

 

 横をみると彼が眠っていた。思えば初めて眠っているのをまともに見た気がする。

 

 口を閉じて心底幸せそうに眠っている。

 

 悪戯心で頬をつついてみる。

 

「ん…ろ…か…」

 

 呼ばれてどきりと心臓が跳ねた。寝言を言うとは思ってなかった。

 

 〈寝てる時まで芦花のことっすか〉

 

 〈へぇ、私って寝言言うんだ〉

 

 〈ねぇ〜ヤチヨー。いつまで目閉じてればいいのー? 〉

 

 〈もうちょっと待っててね〜〉

 

 シャワーを浴びてご飯を作っていると、突然起き上がったナイアが大声をあげてびっくりしてフライ返しを落としかけた。

 

「び、びっくりした…どうかしたの? まだ焦がしてないよ?」

 

 匂いに反応したのかと思ったけどそうではないようで、なぜだかへろへろとしゃがみ込む。

 

 同じようにしゃがんで目線を合わせて笑ってみると、よく分からないことを言われて額にキスされた。

 

「ずっる〜…」

 

 今日の朝食は少しだけ焦がしてしまった。

 

 休日でもルーティンは変わらず、二人でソファに座ってネットを見ていると、昨日のことがずっとトレンドに上がっていた。

 

 ジューンブライドの雑誌は来週で、その見本も届くと連絡が来た。

 

 そして、彼に見せなければならないものがある。

 

「花火大会か…確かにあの時約束したね」

 

「確認なんだけど、ナイアって誕生日ある?」

 

「無いねぇ…あるのかもしれないけど、確認のしようも無いし、それがどうかしたのかい?」

 

「いや、ほら…私との出会いが誕生日だったんだし、祝いたいなって思って。でも、そういうのなさそうだから…その花火の日を、ナイアの誕生日にしない?」

 

「……私の誕生日?」

 

 7月11日。語呂合わせがナイア。彼にとってはどうでもいいのかもしれないけどやっぱり大切な日だし、名前だって、私にとっては邪神や怪物じゃなくてナイアはナイアだから。

 

 なんて思っていたけど、あまりに目を点にして呆ける彼を見て急に恥ずかしくなった。

 

 忘れて。そう言おうとした時、唇に彼のぬくもりが移った。

 

「「え?」」

 

「なんでナイアも驚いてるの!」

 

「いや…ごめ…なんだろう…感動してしまって…? …嬉しいよ、凄く……凄く」

 

 いつものような詩的じゃなくて、悪戯な表現もない。ただ、漏れただけのような言葉。彼の特徴の一つで、こういう時は大抵、感動している。

 

 それが、凄く嬉しい。

 

 下らない話しをしたり、二人で思い思いの時間を過ごして、ナイアが席を外した時。

 

 私はこっそり作ってたオーダーメイドの砂時計のデザインをお店に転送した。

 

 シンプルなアンティークに、自意識過剰が過ぎるかもと思ったけど、彼が美しいと言ってくれた、芦の花(私)。

 

 いつ見ても、いつまで見ても、私を想ってほしい。

 

「楽しみ…」

 

「何がだい?」

 

 背後から声をかけられてビクリと肩が跳ね上がり、スマホが落ちそうになってキャッチする。

 

「危なっ…」

 

「ははっ、ごめんごめん。随分熱心に見ていたね?」

 

「あ、うん。えとね、次の撮影の日程をね」

 

「…ふ〜ん?」

 

 見透かされている。恐らく嘘だと見抜かれているし、考えたら多分全部解っちゃうんだろうけど、それをしないことを私は知っている。

 

「撮影、頑張って。応援しているよ」

 

 いつもの、少しニヒルで穏やかな笑み。

 

 浮かれてるなんて自分で分かってる。それでも、こんなに世界が鮮やかだったって気づけたのは貴方のおかげだから。

 

 何気ない会話の一つでも、一口でも、この日々が愛おしくて、抱きしめる力を緩めることはない。

 

 ────

 

 7月5日

 

 幸せだった。

 

「ハッ…ハッ…ッ…ぅ"ッ…!」

 

 ナイアへのプレゼントを昨日お店で受け取って浮かれていた。

 

「あつっ…い…ぃ…」

 

 バイトも勉強も順調で、彩葉と真実も祝福してくれた。

 

「お…ぉ前が…悪いんだっ…!!」

 

 後ろから聞こえてくる私への罵声。お腹が凄く熱い。吐きそうなくらいの異物感と、反対の脱力感で壁に背中を預けて倒れ込むしかない。

 

 ゴトッ…

 

 その拍子に荷物を落として、ナイアのためのプレゼントを落として、手を伸ばして拾おうとした。

 

「あっ…」

 

 伸ばした手が赤黒く染まっているのを見て、ようやく理解した。

 

 ──死──

 

 調子に乗りすぎたかな。幸運すぎて、そのツケが回って来たのかな。それとも、これが運命? 

 

 だとしたら、早く壊してほしい。

 

「…な…んて…高望み…だよ…ね…」

 

 だんだん眠くなってきた。

 

 痛みもだんだんなく無って、夏も始まったのに寒くなって、酷い終わり方だけど、苦しくなくて。

 

 後は貴方が来てくれれば完璧。

 

「……ッ…? ナイ…ァ…」

 

 もう霞んで眩んでほとんど見えないけど、バイト終わりだからかな、貴方の甘い匂いがする。

 

 死ぬのは嫌なのに、こういう終わりなら悪くないかもなんて思う私はきっとどこかおかしい。

 

 なにか言わないと、貴方の泣いてる顔を見るとどうしようもないほど胸が痛くなる。

 

 だから最後はせめて、貴方に一番の感謝を。

 

 こんな終わりで

 

「ご…めん……ね……」

 

 私を好きになってくれて

 

「あ、りが……と…………」

 

 ✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕

 

 目が覚めて、私は病院にいた。

 

 数日間連絡が取れなくて心配してくれた彩葉と真実と、彩葉のお兄さんが通報してくれた。

 

 主な症状は疲労と貧血、それと一部の記憶の欠落。

 

 それが原因で入院と一緒に、ちょっとしたカウンセリングを受けている。

 

「綾紬さん。何か、変わったことは? 退屈じゃない?」

 

「両親や友達もお見舞いに来てくれますし、全然。それに…なんでか分からないんですけど、凄く満たされてるっていうか、不満なんて…」

 

 無いはずだ。

 

 将来の夢だってある。学校だって楽しいし、彩葉への思いもちゃんと伝えて、終わって、また始められた。

 

「…?」

 

 始められた? 違う。終わって、戻っただけ。

 

「綾紬さん?」

 

「あ…すいません…なんだか、ちょっと…」

 

「今日はもう終わりにしましょうか。ご友人のお二人も来てるみたいですし」

 

「やっほ、芦花〜」

 

「また来ちゃった」

 

 先生が向けた手の先に、彩葉と真実がいた。

 

 真実は少し前に言ってた美味しいお菓子を、彩葉は入院が長引きそうだから頼んでおいた私に合う化粧品。

 

 二人とも無理しなくていいのに、その不安そうな笑顔は見ててちょっと胸がキュッとなる。

 

 まだ車椅子で移動を強制されている。というのも、初日に歩こうとして膝から崩れ落ちて両親が泣きながら懇願したから。

 

「芦花〜、大丈夫? 押すね?」

 

「うん、大丈夫。ありがと、真実」

 

 心地よく吹く7月の初夏の風。

 

 特段夏が好きなわけではないはずなのに、待ち遠しかったような気さえする季節の香りと風。

 

 親友も親も、優しい先生もいる。

 

 満たされている。

 

 満たされているはずだ。

 

 ー何もしないのも贅沢だねー

 

 脳裏に過るこの言の葉は、誰のもので誰に向けたもの? 

 

 ーHappyBirthday、My Dearー

 

 ー君はなにより美しいー

 

 覚えのない言葉が脳内を駆け巡る。こんな記憶は無い。文字通りの透明な声も言葉も知らない。

 

 ー世界で君だけの神様だー

 

 ー約束だー

 

 ー好きだ、芦花ー

 

 言わないで、私は貴方のことを知らないの。

 

 伝えないで、約束しないで、そんな不誠実じゃ私はもっと自分を嫌いになる。

 

 ふらふら彷徨って誰も彼もに向けた八方美人な私に、優しくしないで。

 

 神様なんて、この世のどこにもいないの。

 

 壊れてしまった私の頭から、出ていって。

 

「ろ、芦花?」

 

「え?」

 

 気付いたら頬を伝っていた涙。

 

 それを、真実が拭おうとした。

 

 なのに、振り払ってしまった。強く、貴方じゃないと。

 

「え、あ…ごめん、違う、違うんだよ。哀しいわけじゃない、筈で…その…涙を拭ってくれるかなって…真実や彩葉じゃなくて、誰かが…きっと来てくれるんだって思えて…誰、かな…なんで…」

 

 駄目だ。自分で拭おうとも思えない。

 

 手が動いてくれない。

 

 頬を伝い、ぼたぼたと落ちる涙が病衣を濡らす。

 

 不意に滲んだ視界に、手作られた花束が広がった。

 

 子供の皆が渡してくれた花束。

 

 色とりどりで、どれも未熟な美しさがあって。

 

 でも、その中に一つだけ凄く心を揺さぶられた。

 

 四葉の、クローバー。

 

「…え…?」

 

「思い出して、お姉ちゃん。"神様"が泣いてるよ」

 

 女の子の青いバラのコサージュが枯れていく。

 

 彼の体温、料理、手の大きさ、姿、匂い、言葉、紅い瞳、優しい声、最高の贈り物、互いに贈りあった極彩色の日々。二人だけの思い出。私だけの、最愛の人。

 

「ナイア…!」

 

 辛い、息が苦しい。暑い、心臓が熱い。

 

 血液が沸騰しそう。吐きそう。でも、そんなこと言っていられない。

 

「ナイアは私の大切な人! ナイアは私を助けてくれた人! ナイアは私だけの…!!」

 

 神様。

 

「スマホっ…」

 

 ナイアと刻んだ日々が無い。

 

 最初から無かったなんてはずはない。空っぽの予定表。一緒に行きたいところとか、見たいものとか食べたいものとか、沢山メモしてったはずなのに。

 

「…嫌だ…嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ…まだ何か…っ、先生、退院します、今すぐ!」

 

「えぇ!?」

 

「…駄目だ、認められない」

 

「もう全部思い出しました! 今行かなきゃ絶対に後悔する!!」

 

 絶対、絶対に後悔する。今もし、彼に会うために動けないなら、こんな足なんていらない。

 

 懇願し続けて、先生に許可をもらう。

 

「…患者の心を真に救うのが一流だ。責任は全て私が取る。二人共、彼女のしたいことを優先させてあげてくれるかな」

 

「…でも…芦花の身体は…」

 

「大丈夫、絶対に。全部終わってから、ナイアとまた会ってから全部話すから。今だけは…」

 

 そう、全部。全部話すから。もう少しだけ待っててほしい。

 

 彩葉が呼んでくれたタクシーと、真実が最低限の荷物だけで無理矢理隊員手続きを済ませて家に戻る。

 

 二人が掃除してくれたのか、家は綺麗だった。綺麗すぎた。だって、彼の持ち物が何もない。

 

「無い…無い…っ…! 部屋…!!」

 

 空っぽ。ただ、まっさらな空間がそこにある。

 

「押し入れにも何もない…芦花、この部屋って…」

 

「…ナイアの、部屋だったのに…なんにもない…」

 

 そんなわけない。そんなことあるわけない。ここで配信していたはず。音も何も聞こえないけど、彼はここで。

 

「いる…ナイアは絶対にいる。約束したから。絶対に、いるはずなのに。なんで、私…何かしちゃったのかな…」

 

 呪文のようにも感じた。なんで黙って、記憶まで奪って私の前からいなくなったの。教えてほしい。せめて、せめて理由を聞かせてほしい。納得なんてしてあげないから。絶対に。

 

 四葉のクローバー…装飾品。

 

 彼の、銀の鍵。

 

 確か、あの道具はどこにでも行ける鍵だって言っていた。私でも使えるもので、いつでも身につけていたのに、"あの日"から。

 

「ッ…!」

 

「ちょっ、芦花、待ってそれ高いやつ!」

 

 鏡台の引き出しを文字通りにひっくり返す。確証なんてないけど、ここにある気がしたの。貴方が忘れていった。一つの希望。

 

 チャリンッ…

 

「…あった…!!」

 

 使い方はなんとなくわかる。でも、これでナイアのところに行ける保証もないし、そもそも私を…

 

 ー好きだ、芦花ー

 

 きっと、私じゃ一回だけで、今だけ。

 

「今この瞬間に頑張らないと…! また踏み込めずに終わるなんて絶対に嫌だ!」

 

 何もせずに終わる悔しさを、一歩踏み込む尊さを。

 

 私はもう、知っているんだから。

 

「意味が分からないと思うし…今からもっと意味の分からない事をするけど…お願い、信じて」

 

「「もちろん」」

 

 ガキンッ

 

 1捻り毎に頭が割れそう。これを平然と使えるナイアはやっぱりすごい。頭がぐちゃぐちゃで、私自身が誰かすら分からなくなってしまいそうな中で、彼が、私を呼んでくれる。

 

 電子の海への生身の侵入。二人も一緒に飛び込んだ。

 

「…ヤチヨ…!」

 

「うん…! もう一度、だね!!」

 

 ヤチヨは全部知っていた。

 

 黒鬼とチェインロッカーズを呼び、ヤチヨが記録していた全てを見た。

 

 私達の始まりは無かったけれど、私の知らないナイアが沢山いた。

 

 私の為に喜んで、怒って、泣いて嬉しそうにして。最後は、私が見たこともない顔で別れを告げていた。

 

「よかった…きらわれたわけじゃなかった…」

 

 二人が私を抱き締めてくれて、愛だとヤチヨが呟いた。

 

 でも、記憶を取り戻して事実が積み重なっただけで、それは解決じゃない。

 

「……何か…何かあるはず…きっと…」

 

 私は彩葉みたいな天才じゃない、真実みたいに物事を見れるわけじゃないし、ヤチヨ(かぐやちゃん)みたいに発想力があるわけじゃない。黒鬼みたいにゲームだって強くないければ、悪魔達みたいなカリスマなんてない。

 

 でも、彼との思い出が私にはある。

 

 考えろ。

 

「まだ…」

 

 もっと考えろ。

 

「何かあるって…!」

 

 まだ、もっと考えろ。

 

 ・ゲーム

 

 ・7月11日

 

 ・KASSEN

 

 ・神と人間

 

 ・花火

 

 ・魔術

 

 ・思い出

 

 ・時間

 

 私には解った。きっと、彼の大切なものが。

 

「…ヤチヨ」

 

「何か、思いついた?」

 

「うん…これで駄目でも諦めるつもりはないけど。でも、これなら大丈夫」

 

 荒唐無稽で、頭のおかしくなりそうな話。

 

 だから、無理に協力なんて頼めない。

 

 でも…終わらせたくない。終わったというのなら、また始めればいい。この、冒涜的な神話を。

 

 ────

 

 初めてデートした日。貴方が私を大切だと、何よりも美しいと言ってくれた場所。

 

 長い階段で、ひっそりと佇む神社。

 

 短く纏めた神に、ナイアの好きな薄い化粧、髪に合わせた淡い桃色の浴衣。

 

 皆にはナイアをゲームに参加させればいいってだけ伝えてある。

 

 こんな時までって思うかもしれないけど、この思い出は私達だけのもの。いつかは皆に言うかもしれないけど。

 

 今、この時だけはって我儘。貴方なら聞いてくれるよね。

 

「2時間かぁ…長いなぁ」

 

 一通目はなににしようかな。

 

 伝えたいことがありすぎて、とても6通じゃな足りない。

 

「あ、これにしよっと」

 

『初めて貴方にもらった、大切なもの』

 

 〈え、あれ全部そんな感じで決めてたの? 〉

 

 〈うん、わりと。最後以外は〉

 

 〈全部クリティカルヒットじゃん〉

 

「送っちゃった…どうしよ、大丈夫かな。でも、う~ん…」

 

 思えばナイアとは文通なんてしたことがない。

 

 返事がこないのは当たり前だけど、片思いってこういう気分なのかも。電子の空間で生身の身体がやたらと熱く感じる。

 

「あれっ、もう二十分経つの!? 次の文どうしよっ!?」

 

『貴方の温もり、確かに覚えてるよ』

 

「う~、最悪…文章も写真もテキトー…左手なら普通指輪の話でしょ…」

 

 頭の中でナイアの疑問文が見えるみたい。

 

「あ~もう次こそは…!」

 

『貴方がいつも私の為に淹れてくれるお茶。凄く良い香りで好きだよ』

 

「よ、よしっ、ちゃんと好きって言って…あっ、あっ! 紅茶って言ってない!」

 

 また間違えた、完璧だと思ったのに。

 

「う~、どうしよどうしよ。あと3通なのに! 彩葉と真実に…」

 

 駄目、私の言葉で伝えないと。

 

「……うん、そうだよね。よっし、次こそ!」

 

『貴方が好きな食べ物。こんなのが本心で好きなんて、笑っちゃう。けど…嬉しかった』

 

 我ながら下手すぎる。でも、なぜかあの人 にはこれが一番魅力的らしい。

 

「改めて見ても酷い…でも、文章としては効果あったんじゃないかな、うん」

 

 気を取り直して次の文を考える。意外と20分って短いことに今さら気づいたし。

 

「…実質、これが最後」

 

 何を伝えよう。どんな言葉にしよう。そんな疑問も言葉も両の手から溢れてしまう。

 

 それはどんな想いなんだろうか。

 

「…たくさん、好きって伝えたい」

 

『愛してる。大好き、ずっとずっと。貴方に届けたい言葉が沢山ある、だから…』

 

「待ってる」

 

 自問の末に残した数秒のボイスメッセージ。

 

 来てくれるだろうか、また想ってくれるだろうか。

 

 また…呼んでくれるかな。

 

「芦花っ…て」

 

 視界が歪んだ。いるだけで心臓が締め付けられて、自殺したくなるような衝動に駆られるこの感じ。生身で貴方の前に立つって、こんな感じなんだね。

 

 でも、ちっとも辛くない。この程度で、私の正気は削れない。

 

 今すぐ嬉しくて、泣いて抱きしめたいけど、それじゃ貴方を苦しめるだけ。だから、貴方から来て欲しい。

 

「ね、勝負しようよ。先に落ちたら負け。なんでも言うことを聞いてあげる」

 

 あの時と同じ線香花火。勝っても負けてもどっちでもいいけど、貴方から願ってほしい。

 

 この小さな夜空の花に、今私の持つ全ての願いを込めて。

 

 この掌に収まらない奇跡を、貴方に。

 

「あっ、落ちちゃった。私の負けかぁ…ねぇ、何して欲しい?」

 

 落ちてくれた。私の目には、願いを叶える流れ星みたいにそれが映った。

 

「……名前を……呼んでくれ……」

 

「ナイア…大好き」

 

 いつの間にかいつもの姿になっていた彼の両手をもう離さないって思いで強く握った。

 

 自分でいいのかとか、私を不幸にとか、彼の優しさを目の前で感じれる。でも、私にとってそれは全部些事。

 

「…私ね、ナイアとなら永遠を生きてもいいし、今すぐに死んでもいいと思ってる」

 

 本気でそう思ってる。それが嫌なら。

 

「私のこと、ちゃんと幸せにしてよ!!」

 

 あ〜あ、最後まで、優しくて綺麗な綾紬芦花でいたかったのに。ナイアのせいだ。

 

「必ず…君を幸せにする…そう、君に誓う」

 

「私だけじゃないよ。二人で、幸せになろうよ」

 

「あぁ…約束する…」

 

 小指を差し出して、彼もそれに答える。

 

 ゆびきりげんまん。優しくて、ちょっぴり怖い童歌。

 

 私とナイアの、大切な約束の合図。

 

「っそうだ、これを…」

 

 差し出されたのは翠の簪。着けてと頭を屈めて差し出して、差してくれる。私に似合いそうなんて理由で突然買うような人が、本当に自分から離れていこうとしたのかな。なんて思考はきっと余計だと思う。

 

 カチンッ…ドォンッ…!! 

 

 12時ぴったり。ようやくいえる。

 

 貴方に私があげられる、大切で最高なこの一瞬を。

 

「ハッピー・バースデー、マイ・ディア…なんてね」

 

 〈はい、ここから紆余曲折で〜、以下略っ! 〉

 

 〈あれっ、芦花もここまでなんだ〉

 

 〈意外とさっぱりしてんね〉

 

 〈ううん、逆。最初は三倍くらいあったんだけど、長すぎたから削ったの。一応ナイアにはそれ全部見せたよ〉

 

 〈〈〈多っ〉〉〉

 

 〈さて、感想戦も良いが…3人は明日、コラボライブなんだろう? 私も芦花と楽しみにしている〉

 

 〈そう! まぁじめっちゃ楽しみなの! ぜってぇ見に来いよな! 〉

 

 〈あぁ、もちろん。黒鬼たちも来るそうだしね〉

 

 〈楽しみ〜。最近忙しそうだったし、きっと最高のライブになるよ〉

 

 〈よよ…やっちょはとっても嬉しいのです〜。手塩にかけた…"妹"が華々しく育ってくれて!〉

 

 ──時は少し遡る──

 二人の結婚とかぐやの義体完成から半年。ヤチヨの義体もついに完成し、その発表も兼ねてかぐやの我儘から女性陣のみでイギリス旅行へと旅立つ5人。

 しかし、その旅路は未知によって閉ざされた。

 招かれたのは世界から切り離された絶海の孤島。

 そこには幼き領主とただ一人、忠誠を誓い続ける最後の騎士がいた。

 少女は何を願い。 騎士は何を守り続けるのか。

 そして彼女は何を知っているのか。

 その島に秘された美しくも残酷な真実とは。

 答えは…最初からずっと、そこにある。

 

 謎は謎としてあるのでは無い。

 真実に至るまでの暗闇を謎と呼ぶだけだ。

 言葉、仕草、絵画や時間、さらには登場人物さえ。

 全てを疑り暴き繋げれば、謎は謎ではなく事実となる。

 しかしてその真実は、誰かの救いになるとは限らない。

 暇潰しでも構わない、その目で真実を見届けられるか試して欲しい。

 私からただ一つ言えるのは

 そう都合よく、物語は願った結末を選ばない。

 神に恋した芦の花。正式続編

 第二章

 絶海祭り

 公開日 2026/09/30

 

 

 




はい!ということで、続編制作決定…というか。ほとんどかき終わっております。
私が作ったシナリオに少しスパイスを加えてかぐや組にシナリオを回ってもらいました。
二日置きごとに投稿する予定で、かなりミステリー、TRPG風味に仕立て上げられたかもと。
ぜひ、読者の皆様も謎解きしながら、隠された秘密を追ってほしいと考えております。
そしてよければ感想で予想や考察など書いていただけると私が跳ねて喜びます(笑)それでは、祝芦花編完結!&正式な2期決定という重大告知でした!ちょっとしたおまけも30日までに投稿予定なのでお楽しみに、それでは、さらばーい!
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