作者名 ごんずい様制作
本作は、「作:ごんずい」様によるクトゥルフ神話TRPGシナリオ『死にたがり電車』の二次創作です。原作者:ごんずい様
シナリオ元リンク:pixiv.net
本作は、「株式会社アークライト」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』の二次創作物です。Call of Cthulhu is copyright ©1981, 2015, 2019 by Chaosium Inc. ;all rights reserved. Arranged by Arclight Inc. / KADOKAWACORPORATION
ということで、この世界で巻き込まれたナイア周りの人間の話、二作目です。ネタバレ注意!!
今日の仕事はそこまで難しいものでもなかった。
しかし自宅からそこそこ離れた場所で相談の席を設けられたこともあって、すっかり日は暮れて電車を待っている。
遅延を知らせたホームには、長身で茶褐色のスーツを着た、深紅の瞳が特徴のナイアという男と私のみ。
「予告もなく遅延とは…電車とは不便なものだねぇ」
「そないなこと言うとるとバチがあたるで」
つい先程、人助けのタイミングが被ったことで会ったばかりだが妙に砕けた印象がある。
言いたいことをはっきりと言うし、紳士的な態度も嫌いではない。真っ赤で誰彼を欺くような瞳だけは好ましくないが、一般的に見ても彼は美形だということくらい分かる。
互いの生活に踏み入らない程度の話題選びとテンポの良い会話。まるで精神科医やメンタリストと会話をしている気分にさえなる。
そうこうしているうちに、遅延していた電車が先頭車両のライトで私達を照らしながらやってくる。
──命は粗末にするものではありませんよ──
「なんや、今の…?」
「全くもって、その通りだと私も思うね。酒寄さん。家までは私が送ろう。引き返…おや、手遅れか」
は?
彼の言葉より先に、私の身体は意志に反して線路に放られた。そんなつもりはなかった。死ぬ気なんて毛頭ない。子供達も先を見れるようになった頃なのに、まださっきの仕事だって全ては終わっていないのに。
魔術【コガナマの瞳】
「死の間際に思うことは、仕事と我が子か。実に人間的だ」
ポケットに手を入れたまま、彼が私の前に重力を無視したかのようにふわりと降り立った。
私の気が動転しているのか、赤い瞳の中には白い十字架が見えた。
私を助けるため?
だとして、その言動が一致しない。
だが、共倒れになる必要なんてない。
DEX×5【成功】
「え?」
力を振り絞って身体を起こし、彼を線路の側溝に突き飛ばそうとする。なのに、逆に彼は私の手を取って嗤った。
「ククッ…折角だ、少し楽しもう」
「ふざけっ──!!」
光に飲み込まれた。そんな感覚と脳裏によぎった言葉で、私の意識は暗転した。
次に目を覚ましたのは、電車の中。
慣れ親しんだ揺れと、隣で本を読んでいる彼。
そして
「ッ…!」
22【成功】
減少値【2】
目の前に広がっているのは、恐らく"人だったはずのもの"
達。酷い臭いと、普通なら目を開け続けるのも憚られるような惨状。職業柄殺人等に全く縁がないわけではないが、ここまで直接的なものは見たことがない。
「…酷い現場やね。仏さんがこないに…」
「そうだねぇ」
何故、これを前に悠々と小説など読んでいられたのかこの男は。一周回ってこっちの頭が冷えてしまった。
そんなことを思った直後、アナウンスが鳴った。
『本日は当列車をご利用くださいまして、誠にありが
とうございます。途中、終点までに、3駅を通過致します。お乗り間違えのお客様がいらっしゃいましたら、至急、
乗務員にその旨をお伝えくださいますよう、お願いい
たします』
「乗り間違え…そうや、ウチら、轢かれたんとちゃうんか…?」
「そうかも知れないし、そうじゃないかも。現にこうして五体満足でいるわけだし」
「要するに分からんっちゅうわけやね。分かんないならそうはっきり言いや」
「おっと、それはすまない。私の悪癖だ」
誰かへの印象や好み等をはっきりと言う彼にしては、曖昧な物言いが引っかかる。
しかしそこを気にして止まっているわけにはいかない。目の前の明らかな異常を脱しなくては。
「足止めてても始まらへん。さっきのアナウンス通りやと、乗務員を探して乗り間違えってこと伝えるとええんやろ?」
「そういうことになるね。貴方が起きるまでに少し確認したけど、ここは前から3両目、後ろから2両目らしい」
「どっちかにはいかんかったん?」
「こんな所で女性を1人目覚めさせるのは忍びないからね」
だからといってこの異常事態に小説を読んで待つなんてことするか?
そんなツッコミは胸にしまい、行くなら後続車両から。
その前に、この車両もよく探索しなければならない。
「これ、もしこの仏さんの中に乗務員おったらどないしよか」
医学【失敗】
自分で言っててゾッとする。一人一人彼と確認していくが、どれも無惨なもの。服装も性別もてんでバラバラ。スーツやジャージ、学生らしき人間までいる。
手足は千切られ、肉体を滅多刺し、酷いと臓物が撒き散らされている。
これが幻覚でなければ、こんな意味不明な状況に巻き込まれてさぞ無念だったろう。自然と、手を合わせてしまったのを彼が不思議そうに聞いてきた。
「何をしているんだい?」
「何て…祈っとるんよ。少しでも安らかにって」
「…届くといいねぇ」
他人に興味が無いということは無いだろうに、彼は手を合わせることはせずポケットに手を入れたまま車窓を眺めている。まるで、早くしろとでも言いたげに。
「…いこか」
目星【成功】
立ち上がった瞬間、彼の視線の先の車窓に文字があることに気づいた。
「なんや、これ…」
我ながら、なんでこんなものを見落としていたのだろうと嘲りすら出てくる。
車窓にはびっしりと"死にたくない"と血の文字で書かれていた。
どうしようもない不快感。やはり彼らも巻き込まれた哀れな被害者なのだろう。何故私が生きているのかは解らないままだ。
文字列の中に、一つだけ違うものを見つけた。
「…"奴らは死に寄ってくる"…?」
SD【77】
不意に、言いようのない恐れが湧いて出た。不快感とも違う、とにかく気持ち悪い感覚。
「どうかしたかい?」
「…いーえ、なんでもあらへん。はよいきましょ」
弱みなんて見せない。この事象の黒幕にしろ、目の前の男にしろ、私は誰にも弱い所は見せない。そうやって生きてきた。
そう自分を鼓舞し、先に目指すは最後尾、隣の車両。
扉の窓は塗りつぶされたように真っ黒だが、進まないわけには行かない。
「私が先に開けよう」
「気ぃ使わんでもろて結構」
この程度のことで音を上げるような精神性は私はしていない。
彼は、元はといえば私が落ちたことで巻き込まれたのだ。異常事態とはいえ、巻き込んだ他人を危険に晒すのは私の矜持が許さない。
ガラリと、勢いよく扉を開ける。呆れたように嗤う彼だが、この車両も似たような光景が広がっていた。
いや、先程の部屋に比べれば随分マシだ。多少の血痕や仏はいるものの、まだ足の踏み場くらいはある。
それに何より。
目星【成功】
「私らの他にも生きてる人おったんやね」
スーツの男性が座っている。ずっと俯いているものの肩が上下していることから生きているだろう。
「すいません、少しお話よろしいですか?」
「君、標準語喋れるんだね」
今はそんなことどうでもいいだろう。そんなことを考えて無視する。が、私の言葉も聞こえていないのか、無視された。
「?」
近づくほど、彼が生きていることが分かる。しかし、聞くほど呼吸のリズムが乱れていることも同時に分かる。
まるで空気が抜けているかのような。
51【成功】
減少値【1】
「…えぇ趣味してはる…」
顔を上げた目の前の男。私の視線は、嫌でも首に集まった。喉が水平に切られ、ドクドクと血が流れ出ている。
さらに最悪なのは、その流れ出る血の場所からは、引きずり出されたであろう舌がぶら下がっている
「…アンタ、よう見れるなぁ…」
「私からすれば君の方が不思議だがねぇ。普通ならもっと絶叫したり腰を抜かしたりするものだと思うが?」
「あら、それはアンタが普通じゃないっていうとるんとちゃうん?」
「おっと、これは一本取られた。ま、私自身、大分人の感覚とは違うというこうとくらい知っているさ」
探り合うような言葉の応酬。考えたくはないが、この異常事態に彼の存在は明らかに浮いている。
そう考えていると、彼は目の前の男の様子を説明し始める。
歴史【成功】
「コロンビアネクタイという一種の拷問だ。見た目の惨さと本人の耐え難い苦痛から、戦時中に戦意を喪失させる目的で使用された処刑法だね」
「処刑法…」
改めて実感する。そもそもこんな状態ではどんな名医がいたとしても、今この場での治療は不可能だろう。生きていると認識できたのは、辛うじて浅く口をパクパクと動かして呼吸しているからだ。
「いっそ楽にするというのも一つの手だが…君にオススメはしない。どうしてもと言うなら、私が彼を安寧に導くが」
「…いえ。私らが触れていい事じゃあらへん。先、進みましょ」
「……ころ"して…」
彼は意外だといった表情を見せる。正直な話、私だって普通の人間、震えを抑るのだって楽じゃない。
そう、私は俯く彼から目を逸らして離れようとした、その時だった。
男の背後の車窓が突然割れた。同時に目の前の男の頭が、鋭い鋭利な何かで貫かれた。しかし、正面にいた私には血飛沫がかからず、その凶器は私に届かなかった。
「なっ…ナイアさん…!」
「女性を彩るのは、血飛沫よりも花や宝石だと思ってね。怪我は?」
今理解した凶器の正体は槍。私を庇って血飛沫を被り、槍を片手で掴み止めた彼の掌からは切り裂かれたレザーの手袋越しでも分かるほどの血が滴っている。
「私よりも自分の心配をするべきとちゃいますか!?動かんといて、今止血を…!」
「この程度、問題ないよ」
彼は腕を絞るようにして血を地面に滴らせてそのまま腕を払う。
「ほらね」
「そんなわけ…」
言葉の通りにもう血は流れておらず、いたがる素振りもない。彼は手袋を外して無事をアピールし、予備の手袋をはめ直す。
「あぁ、どうやら全て返り血のようだね。この通り、掠り傷一つない」
「……なら、ええわ」
そんなはずはない、あり得るはずがない。頭蓋骨は人体で歯を除き最も強固とされる骨。それを軽々と貫く槍と力を素手で止めた挙句に無傷。特殊部隊やアスリートならこの話も信じたかもしれないが、目の前にいる彼にそんな気配はない。
背筋に嫌な汗が伝っていく。そんな時
『一駅目、ただいま通過いたしました』
「アナウンス…嫌な感じやわ」
急かされている。そう感じてしまうようなアナウンス。
探索を始めてからおそらくは20分ほど。電車は停車しないということは、特快の扱いで、終点は恐らく"死"。
確証はないものの、そう考えた方がいい。
「急ごうか」
彼も同じ考えのようで、最後尾の鍵のかかっていない乗務員室の扉を開ける。
中は薄暗く、運転のための機器類や放送機材がある。
ほっとしたのも束の間、そこには文字通りに"人影"がいた。車掌の服を纏ってはいるものの、顔は無く、真っ黒いモヤのようなものになっていて、その上に帽子がまるで浮いているかのように私には見える。
22【成功】
減少値【1】
しかし、乗務員に伝えればこの悪夢を終えられる。
彼も同じ感想のようで、顔を見合わせて声をかける。
「あの、乗務員さんであっとります?」
どうかなされましたか、お客様」
声をかけて振りむいた乗務員の顔に赤い口が現れ、そこから声が発せられた。若い男性のようでありながら、くぐもった声で判断はつかない。
「アナウンスで言ってた通り、間違って乗車した者ですが…」
「申し訳ございませんが、わたくしは見ての通り"車内放送のためだけ"に乗車しております。お手数ですがなにかご用事がございましたら、他の乗務員にお伝えくださいませ」
そういってすぐに窓の外を向いてしまった。
「この様子だと駄目だね。時間もないし、反対側に行こう」
「…そうやね」
彼の言葉の通りだと、先程までの車両を横目にして前に向かう。私達が目覚めた車両から前へ。
座席を埋め尽くす人数の人々が座っていて、全員深く俯いたままさっきのように首を裂かれて当然、動かない。
性別、服装、年齢層に統一感は全くない。もちろん、自分も彼も共通点などない。
先程よりは残酷な様子など無いものの、それぞれの人影には血がついていたりもする。
相変わらず少し前を動揺も無く彼は歩く。
目星【成功】
一席だけ空席なのが目に入った。血まみれで、そこから引きずられたように次の車両の扉へ続く血の跡
があるようにもみえる。そして何より、その席の隣には幼稚園くらいの小さな女の子が俯いて座っている。
怪我も血の跡も無い、自分達と同じだ。
「ちょい待ちぃ、ナイアさん」
「ん?」
「ウチらとおんなじかも知れへん」
近づくと、他の仏さん達と違ってさっきのような処刑法は施されていない。すうすうと寝息を立てている。
この事態に気づけていないのは非常に危険極まりない。
「嬢ちゃん、起きぃ」
「……んぅ…?」
「!」
肩を揺すり、顔を上げた少女の両目からは血が流れていた。
しかし、痛がる素振りを見せずに目を擦って眠気を覚ますと、私の手を小さな手で掴んでくる。
「お兄ちゃん?」
「嬢ちゃん、私はアンタのお兄ちゃんじゃあらへん」
「お兄ちゃん、まだ着かないの?のぞみ、疲れちゃった」
「せやから…」
いや、否定を重ねても今の少女には響かないだろう。
自分の子達に厳格だった自覚はあるが、他所様の子にまで、ましてやこの状況でその態度でいる理由はない。
「…アンタ、今なんでここにいるか分かる?」
「えとね〜、久し振りに、何処か遠くに遊びに行くんだよね?何処に行くのか決まってないなら、のぞみ、海が見たい!」
「…そうやね、まずはここ出ましょか」
「意外だ。置いていかないのかい?」
「失礼やね。子供置いて自分だけ助かろうなんて考えるほど落ちぶれてへんよ」
「…へぇ…噂に聞く、無償の愛とやらかい?」
「それは自分の子に注ぐもんやろ」
心理学【??】
どこかズレていると感じてはいたが、彼はこの少女に興味が無いのだろうか、殆ど関心が無さそうだ。私がいなければ放置していたのだろう。だが、その態度にどこか確信はないが、彼はどこか欠落しているようにも思える。
「お兄ちゃん?」
「嬢ちゃん、目見えへんやろ?手つないどこな」
「のぞみだよ!」
「…のぞみちゃんな」
その言葉は、"本物"の兄に向けられたもの。だが、この状況に、不自然に空いた彼女の横の席。おそらく、兄はもういないのだろう。
それを伝えるのは、ここを脱出してからでも遅くはないはずだ。
目星【成功】
「…」
一人の、恐らく女子高生が血まみれの可愛らしい便箋を握っている。手を合わせ、少しでも何かのヒントになればと便箋を開けるが、中は血が滲んでしまっていて読みづらい。辛うじて解読できる文字は総じて励ましのメッセージのように思える。
特にはっきりと書かれた最後の文には"死ぬとか簡単に言っちゃ駄目だよ"
「……っ!」
アイデア【成功】
もしかして、そう思って席に座っている人達の袖や首筋に目を凝らす。赤い痛々しい首傷や、リストカットの痕跡、このメッセージを持った人間。そして、この電車に乗る前に頭に響いたメッセージ。
「まさか…!」
「そのまさかだねぇ。ま、私達は間違い乗車だろうけど」
「…アンタ、知ってたんか」
「正しくは、予想はついていた。かな」
本当に、この男はどこまでも欠落している。
「…ナイアさん」
「うん?」
「まどろっこしいのは性分じゃあらへん。まして、人を疑ってかかるのは私の仕事でもない…アンタ、何者や」
「…ここを出れたら、全部教えよう。私の正体や、この電車のことを。ただひとつ、明確にしておきたいのは。私は君達の味方だ」
心理学【??】
嘘じゃないと、そう思いたい。疑うのは自分の仕事ではないと言いながら、弁護士というのは、依頼人の嘘さえ本当にする仕事だ。
だから、人を見る目は自然と育っていき、それを活かしたつもりだった。
私の考えは浅かった。
一言でいえば、彼の内情は"混沌"。そう例えるのが正しい気がする。血の臭いとこの状況に頭がおかしくなってしまったのかと自分でも思うが、この男を信用するしか今はないのだろう。
「終わったら…全部、聞かせてもらうで」
「もちろん」
彼は、紅い瞳を逸らさずに答えた。
今日中に後編もあげたいっす