神に恋した芦の花   作:レガシィ

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セーフだから!今日中!!
酒寄紅葉
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耐久力14.MP17.DB無し
職業 弁護士
職業技能
法律90目星65心理学65信用60図書館55経理80説得60
趣味技能
芸術[音楽]35目星55言いくるめ65英語75
制作[料理]55


閑話 死にたがり電車(後編)

 先程と変わらず、この危険が満ちた車内を彼はポケットを手に入れて無警戒に前を歩く。私も少女の手を取ってその後をついていこうとする。

 

「お散歩?」

 

「…目、どうしたん? 痛くないんか?」

 

「うん? 全然痛くないよ! 起きたら真っ暗でなんにも見えなくなってたの。なんでだろう? でもお兄ちゃんがいるから平気!」

 

 兄への依存。どうしてこうなったのだろうか。そういえば、兄と一緒に来たと言っていた。巻き込まれたならまだしも、他の乗客と同じように殺されているのなら彼女の兄も、生を諦めた者ということになる。

 

 アイデア【成功】

 

 となれば、この少女は"心中"の相手だったんだろう。騙されて、一人の命と共に散ろうとする理由。

 

「…じゃあ…のぞみちゃん、なんか手紙とか、紙切れ持ってへん?」

 

「へ? う~んとねぇ…あっ、ポッケに入ってる!」

 

 くしゃくしゃの紙切れを手渡してきた彼女は、兄と信じ切ってる私にそれを渡してきた。

 

 綴られた内容は、予想通り遺書だった。

 

 父からの家庭内暴力の末の自殺。文をみるに、母を待っていたのだろうが待ちきれずに妹と心中を図った。

 

 当人の苦悩は、当人にしか分からない。そんなことは重々承知の上だ。

 

「紅葉さん。話の途中にすまないが、次の車両だ。子供もいるし、私が開けようか」

 

 提案に頷き、彼へ先導を任せる。

 

 聞き耳【自動決定的成功/クリティカル】

 

 聞き耳【失敗】

 

 聞き耳【成功】

 

 しかし、扉を開けようとした彼は手をかけて止まる。

 

「ふん、ならば、こんな所へは来なければいいものを。勿体ない」

 

「…?」

 

「あぁ、すまないね。私が先に入って安全を確保するよ。合図をしたら入ってきてくれ」

 

「…お兄ちゃん…?」

 

 足を止めて呟いた彼が、ドアを最低限開けた。直後、私の裾を掴んでいた少女が、勢いよく前に飛び出した。

 

「ちょっ、何やっとるん!?」

 

「お兄ちゃん!!」

 

 バタンッと、盲目の少女は触れたと同時に不器用ながら力強く扉をスライドさせた。

 

 否が応でも目に入ったその光景は凄惨の一言に尽きた。

 

 血まみれ、死体だらけ。

 

 見開いた目が映し出した情報はまだあった。左側の窓はひしゃげ、まだ血が流れているままの"腕"が転がっている。そしてその側には、槍を構えたヒキガエルのような白い化け物。

 

 34【成功】

 

 減少値【0】

 

 ソレは音のしたこちらを見かけた瞬間、その腕から槍を放った。

 

「っ! 嬢ちゃん!!」

 

「ーーえ?」

 

 投擲【決定的成功/クリティカル】

 

 ダメージ【2D4=8】

 

 ポケットに手を入れて棒立ちしていた彼。それを押しのけて少女を守ろうとした。

 

 あぁ、死ぬかもしれない。

 

 誰かを守って死ぬ。何かも分からない空間で死ぬ。

 

 悔いを残して死ぬ。そんなこと、許せない。

 

 私が、私自身を許せない。

 

 子供達は未来を見ている。やっと安心できたのに、やっと子供達と話をできるもと思ったのに。

 

 死にたくない。

 

 そう思った時、今度はしっかりと彼の腕を貫通していた。

 

「おや、やはり脆いな。だがこれ以上強度は…」

 

「なっ…何してはるんですか!?」

 

「それはこっちのセリフだ。なぜ前に出た」

 

 ズブリと返しのある槍を、鈍い音を立てて彼が無理やり引き抜いた。見ただけで激痛とわかるほどの出血量と傷跡。だというのに、彼は涼しい顔でこちらに向き直り、質問を投げかけた。

 

「生者かさえ怪しい少女に、人かも疑わしい私。それら二人を目の前にして、なぜリスクを冒した? 理解に苦しむ」

 

「いまはそんなこと言うとる場合じゃ…!」

 

「大事なことだ。私の好奇心は全てに優先する…奴が邪魔か?」

 

 彼が化け物へ指を向ける。あの白い化け物がびくりと身体を震わせ、最前列の車両へ逃げようとしている。

 

 魔術【時空の切断】

 

 88【失敗】

 

 減少値【3】

 

 そして、指を立てに振った瞬間、文字通りに真っ二つに化け物が静かに斬れた。

 

 どちゃりと、生きることをやめた肉が落ちる地に落ちる音。だというのに、彼はそんなことを気にもとめず腕から血を流して同じ質問をした。

 

「答えてくれ、知りたい」

 

「…理由なんて…あらへんよ」

 

「なに?」

 

 私自身、かなり厳格に娘を育ててきた自覚はある。

 

 自分の娘は少し前まで反抗一つしなかった。反抗するほど意思の強い何かを持たなければ、途中で挫折する。

 

 中途半端が一番駄目だと口酸っぱく言ってきた。

 

 でも、だからといって、それが出来ないから死ぬなどと私の矜持が許さない。

 

 死は、最大の敗北であり、生きる者の最大の憂いだ。

 

 ただそれだけの理由ですらない理由だ。

 

「……」

 

「ッ…!? ま、待て、なぜだ。な、泣かせるようなことはしていないはずだ」

 

「は?」

 

 オロオロとし始める彼に言われて気づいた。

 

 頬を一筋だけ涙が伝っていた。

 

 誰の前でも流したことは無かった、私の弱さ。

 

「…泣いてへんよ」

 

「へ、いや、でも…」

 

「泣いてへん、やかましいわ」

 

「えぁ、はい」

 

 質問の意図もどうでもいいし、もうこの男が何者かもどうでもよくなった。むしろ頭が衝撃によってスッキリしたまである。

 

「…いくで。何を鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔してはるのん。全部教えてもらうさかい。逃げなはるなや」

 

「……あ、あぁ」

 

 のぞみちゃんの手を引きながら先頭車両の扉へ向かう。

 

 ぽかんとした彼女は沈黙し、ナイアさんも後ろを静かに歩いてくる。

 

「開けるで、この先はなんかおるん?」

 

「何もいないよ。運転手だけだ」

 

「そうですか」

 

 扉を開ける前にこの車両を見渡す。

 

 目星【成功】

 

 車両内の死体は鮮血滴る新鮮なものばかりで、嫌な慣れだが相変わらず吐き気がするような酷い景色。

 

 窓に目をむけると、子どもの腕があった。

 

 その手には、くしゃくしゃの紙切れ。血で描かれたような震える赤い文字で「いきて」と書いてあった。

 

 この状況で、今までみた情報から照らし合わせると、文字通りにこの手の持ち主が分かってしまう。

 

「嬢ちゃん」

 

「のぞみだよ?」

 

「…そうやね、のぞみちゃん。ウチは酒寄紅葉。紅の葉、秋の山に咲く木々の、もみじや」

 

「……」

 

 この子はきっと辛かったはずだ。受けたのは教育や叱咤ではなく暴力や屈辱。それこそ、こんな状況で誰かも分からない者を、兄だと縋ってしまうほどに心に痛みを抱えている。

 

 ここが地獄やあの世だなどとは思わない。神のいたずらか、何かの試練だとも勿論思わない。

 

 これ以上ないというほど、"死"に触れて分かったこと。

 

「生きなあかんよ」

 

「…」

 

「辛くても苦しくても、生きなあかん。アンタを守ってくれる人はいなくても、縋れる人がいなくても、生きなあかん。アンタの大事な人との今までを思い出せるのは、アンタしかおらん」

 

「…の、のぞみ…やだ…お兄ちゃんが、いないと、のぞみ…」

 

「いややない、だってもなんでもない。やらなあかん。幸せや希望があるなんて無責任なことは言えへん。でも、裏切るな。アンタが大切な人間が…少なくとも、一人はおる」

 

 よその子に無責任を押し付けることは出来ない。

 

 私ができるから誰も彼も出来るなんて言わない。

 

 だから、この娘に委ねる。生きてることは当たり前でなくて、死ぬことは誰にでもありえること。

 

 この子は逃げていた。兄の死と、自分の生から。決まってしまった兄の死を覆せないのなら、せめて生きてほしい。死者を思えるのは、生者だけなのだから。

 

「…ナイアさん」

 

「ん…見事。こちらへ」

 

 私達を傍観していた彼を呼ぶ。正体など分からないが、きっと彼はここの出方を知っていて、私の考えと合致しているはず。

 

「君はどうしたい?」

 

「ここが何処かも知らんし、なんでこうなったかも知らへん。ただ…ここにいる仏さん達や、この嬢ちゃんも同じだったはず…生きたい」

 

「のぞみ…のぞみは………生きたい…だって、だって…お兄ちゃんがいなくても、お兄ちゃんはのぞまに…生きてって…いうはずだから」

 

 それを言える、前を向ける強さがあるのなら、もう大丈夫。

 

「…そうか。なら、どうぞ。先へ進むといい。代わりに私が言わせてもらおう」

 

 こほんと、彼は咳払いをして腰を曲げ、扉を示して口上のように告げた。

 

「…どうか、生きようとするお客様の前途に、幸あらんこ

 

 とを」

 

 彼に促されるまま扉を出ると、そこは真っ暗闇だった。

 

 間もなく背後で扉が閉まった。電車はどこかへと走り去ってしまった。

 

 足元はおぼつかなかったが、確かに道は存在してい

 

 るようで、当てもなく進んでいくと、どこからか光が見えてして、間もなく、私は光に包まれて意識を失った。

 

 喧騒に目を覚ますと、駅員たちが真っ青な顔で見降ろしていた。話を聞くと、どうやら自分はふらりと線路に飛び込んだらしい。だが奇跡的に電車とホームの隙間へ落ちたらしく、無傷だったとのこと。

 

 ナイアさんの話もしてみたが、そんな姿は監視カメラにも無く、背中を押した人物も同様に存在しなかった。

 

 少しして警察から連絡が言った子供達から電話が来た。

 

 なんでそんなことをした。

 

 悩みでもあるのか。

 

 死んでほしいとは流石に思ってない等。

 

 言い訳もないし、自分の意志ではない。あの出来事は無かったことにしかならない。

 

 そしてさらに数日後。

 

 一件の依頼が来た。

 

 相手は子持ちの女性で、内容はよくある離婚相談。

 

 証拠も揃っていて、勝算は充分。

 

「本当にありがとうございます、酒寄先生…」

 

「いえ、次の裁判、必ず勝ちましょう…その写真、お子さんですか?」

 

 手帳型のスマホに差し込んである二人の兄妹写真。

 

「はい…でも、上の子が…」

 

 口ぶりで察し、静かに口を閉じた。その時、事務所のインターホンが鳴る。

 

「あ、多分、娘と母です。すいません、ここまで来るように言ってしまっていて」

 

「構いませんよ、入口までお送りします」

 

 精神的に衰弱している苦しそうな彼女に、手を取って階段を降りて案内する。

 

 扉を開けると、そこにいたのは白髪のご老人と、隣で手を繋いでいる

 

「……」

 

 依頼人とその母がお礼を言い合って話している。二人が話しているその間、少女は私に向かって聞いてきた。

 

「もみじちゃん…?」

 

「…ふ……そうやね、のぞみちゃん」

 

「あっ、すいません。この子、事故のショックで目が見えなくて…」

 

 しゃがんで少女に問いかける。

 

「ウチの名前、分かる?」

 

「えと…秋のお山の咲く木の…赤い葉っぱ?」

 

「そう。紅葉の花言葉は、"大切な思い出"。忘れなはるなや。全部。約束やで」

 

「…うんっ…のぞみ、忘れない、忘れないよっ…」

 

 あの時は気が動転していたかもしれないけど、素の今でも、涙一つ零さない。強い少女だった。

 

 3人を見送り、事務所へ戻る。

 

 私は何も変わらない。でも…少しだけ、話す機会はあってもいいかもしれない。

 

 私は、二人の我が子に電話をかけた。

 

 ーーーー

 

「芦花、一つ聞きたいんだが…」

 

「何〜?」

 

「生死不明、行方不明の家族がいたとして、帰ってきたら嬉しいかい?」

 

「え、な、何その質問。何か試されてる?」

 

「いや、少し気になってしまってね」

 

「それは…嬉しいでしょ。ナイアは家族いないの?」

 

「私に近しい者というと、死んでもどうでもいい連中しか思い浮かばないなぁ」

 

「まぁ…確かにそれもそっか…」

 

「…!あぁ、でも…君がいなくなれば悲しいし、いなくなって帰ってきたら嬉しいな」

 

「え、あ、ありがと」

 

「なるほど、そうか。ふむ…勉強になった。感謝するよ、芦花」

 

「…よくわかんないなぁ…」

 

 20✕✕年◯月◯日

 

 行方不明だった少年が右腕に重傷を負うものの命に別状はない状態で発見。発見者の話によると、少年は海際のトンネル内の線路でーー




なんか…書いといてあれですけど、紅葉さんこんな感じかなぁ…?
ナイアは初期の方の感覚なんで結構冷たいですね。
ここでいなくなる寂しさは若干わかりかけてる感じはあります。
本当はもっと人外味を漂わせたかったんですが、こうなりました。
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