詳しい話は雑に省くと入院してました!
がっつり食中毒になりまして、結構な重症だったんですが、まあ今はだいぶ落ち着きました。
仕事の方が今かなり忙しいので、もしかしたらまた投稿ペースが落ちるかもしれません。そこだけはご了承ください。
それでは、だい七話、お楽しみくだい!
『キュキュぅぅっ!!』
「ッ…!」
岩肌に脚や腕をぶつけながらも、オコジョ君のサポートで芦花は無傷で着地する。
元々ナイアにかけられていた魔術のおかげで無傷だが、登るには厳しい岩壁、魔術で浮こうにも芦花はその手の魔術は未習得。
「鍵は無し、登るのも無理かな…」
遭難。かぐやの声も届かないほど深い崖。島の反対側はどうやら絶壁だったらしく、島の住民は近寄らないらしい。未開拓の様子をみて察した芦花は、一息をついて歩き始める。
「…無事かな。落ちてきてないってことは助かったんだろうけど」
『きゅぅ…』
「もしかしたら上れる所があるかもだし、取り敢えず歩こっか」
この事態を相談するべきか否か。4人への連絡手段は無く、今確実に救難を要請できるのはナイアのみ。ただし、彼は危険があれば全てを犠牲にして自分達を助けに来る。それは、彼女の思い描くエンディングではない。
「もう少しな気がするの…ごめん、ナイア」
──
幸運【決定的成功/クリティカル】
「ぐぇ〜っ!」
「ちょっ、ヤチヨっ。コケ過ぎじゃない?脚のパーツ変える必要があるなこれは…」
「ヨヨヨ、違うのです〜。普段浮いてるし触覚なんてツクヨミになかったからまだ慣れていないのです〜」
「あぁ…味覚と嗅覚最優先にしてたから実装は最近だしね…って、ん?」
ヤチヨがコケたのは庭の東屋の石床。綺麗に整えられたこの場所で彼女がこけたのは、そこだけ石版が"ズレて"いたから。
「なにこれ、地下への階段…?」
「進展あり…?」
「…行ってみようか」
意を決して階段を下りる二人。ヤチヨに搭載されたライトで暗い地下へと降りていく。特有の湿気た臭いに、ジメジメとした居心地の悪さと埃。非常に狭く、芦花でギリギリ、二人は少し狭いくらいの螺旋階段。
一番下へヤチヨが手を取って降りると、水の音がした。
「何ここ、牢屋…?」
壁はボロボロで、数個の鉄の格子の個室と木の机。
いわゆる、罪人を拘置する部屋だと二人は察する。
目星【失敗】
目星【成功】
「最近まで使われたような形跡はない。となると、サリアが使ってたとは考えにくいか」
「ねぇ、彩葉。これってもしかして…」
「それ…あ、魔術書!?」
「やっちょお手柄?」
「超お手柄!!さっそく…あ、いや駄目だ。これ系読めるの芦花しかいないわ」
「解読しよっか?」
「いや、ナイア君曰く正気が持ってかれるから電子生命体でも駄目らしいし…戻ろっか。一応サリアにもまだ秘密ね。記憶とか時間とかが関わってくると何がキーになるか分からないし」
「りょ~!」
──
同時刻、起きたサリアは隣で静かに眠る真実の横顔を見つめて呆けていた。
先刻の自らの行いと発言。恥じることはないと理解していても、数十世紀もの間感情を表に出したことのない彼女にとっては、それが抗えないほどの羞恥を生んでいた。
「…〜…〜ッ…!」
「んぇ、サリア?どうしたの?」
悶絶してジタバタと足を動かしていると、眠っていた真実がゆっくりと目を覚ます。
「い、いえ、何でもないのですっ」
起き上がって向かい合った二人。赤面して悶えていたサリアの頭を優しく叩き、背筋を伸ばす。
「いっぱい泣いてスッキリした?」
「は、恥ずかしながら…」
赤面して顔を背けるサリア。
真実は抱き締めて頭を撫でながら、そんなことはないと優しく否定する。
「どのくらい経ったんだろ。皆もう戻ってるかな?」
「もう日暮れですし、いるなら食堂か客間でしょうか」
二人はコツコツと音を鳴らしながら石畳の廊下を歩いて心当たりのある場所へと向かう。
「…ま、まみ様…」
「ん?どうかした?」
「えと…手…を」
サリアが何かを言いかけた時、エントランスから数人の大きな声が聞こえてくる。
「駄目だって彩葉!お願いだから落ち着いて!」
「落ち着いていられないよ!だって芦花が…!!」
遭難した。
膝を着いて絶句するかぐや。無理矢理にでも捜索に向かおうとする彩葉を、執事とメイドとヤチヨの三人がかりで抑える姿。
静かに、そして確実に届くように、サリアは声をかける。
「落ち着いてください。皆さん」
「お嬢様…!」
「サリアちゃん!ごめん今は──」
カツンカツンと音を立てて階段を降りながら、絶妙な音の取り方で一同の落ち着きを作り出す。
「落ち着いてください。まず、遭難した話…ろか様が、何処でですか?」
「か、かぐやの…かぐやのせい…芦花は、かぐやを庇って…!ごめんなさい…」
「…事情は察しました。旅人の皆様、今夜限り一切の外出を禁じさせていただきます。特に、彩葉様は」
「ッ!なんで!!芦花を助けにいかないと!」
「夜の森は危険です。特に、遭難したとなると未開拓の島の反対側。そこに女性一人で行くことは領主として認められません」
凛とした佇まいで彩葉に説明し、執事達に向き直って解決策を呼ぶ。
「至急アルコアに合図を、捜索に行かせてください。彼とアズルステラなら問題ありません」
失意に暮れかける彩葉の手を握り、使用人たちの前で弱気を見せまいとサリアは姿勢を崩さない。
「ご理解ください、いろは様。これが、最善で最短です。ろか様の…正確には使い魔の魔力は未だ健在。大きな事故にはなっていないはず。必ず見つけ出します。それまで不安でしょうが、どうか少しだけ辛抱を」
「っ……うん、ごめん…ありがとう」
「大丈夫です。アルコアなら絶対に見つけ出します」
瞬間、大きな音と共に扉が開く。
「お嬢様!!」
「静かに、アルコア。ろか様がこの島の反対側で行方不明です。至急捜索に向かってください」
「御意!行くぞアズルステラ!!」
簡潔すぎる指示。しかし、主への忠誠故か一切の雑念を排除し最速最短で反対へと向かう。
「…これで大丈夫。ですが…もしもの時は、覚悟だけでも…」
サリアなりの気遣い。希望にすがるだけではない、もしもの絶望も彼女は覚悟している。
それなのに、現実を受け止められずみっともなく騒ぐなど、大人である自分達には出来ないと、彩葉は歯を砕きそうなほど食いしばって引き下がる。
「……うん…」
────
森の中、偶然発見できた洞窟で身を休める、
『きゅぅっ?』
「ん〜まぁ…平気だよ、大丈夫」
今までの経験に比べればと思いつつ夜の森を見渡す。
気丈に振る舞いながらも身体は夜の寒さと恐怖で震えている。
『芦花?』
「うゎぁっ!?」
『おっと、すまない』
突然オコジョ君からナイアの声がしたことで文字通りに飛び跳ねて芦花が驚く。
『進捗はどうだい?星辰は順調に崩しているからこっちの心配はないよ』
「あ、うん、進捗。進捗ね…」
『…ん?一人なのかい?』
「えと、実は…」
先程起こってしまった事故を話し、ナイアは静かに耳を傾ける。
「……ごめん…」
『謝らないで良いんだよ。じゃあ早いところオコジョ君に自壊の命令をして。行くから』
まるで出かけた芦花を迎えに行くかのような気軽さで、全てを終わらせにかかるナイア。
それを焦って止めようとする芦花だが、約束だとナイアは拒否する。
「待って、本当にもうちょっとな気がするの…だから…」
『…仕方ないなぁ…とにかく、無事なんだね?』
無事と安全が確認できたこと、一度した約束は守り通す彼の気質から、思ったよりもあっさりと承諾したことに芦花は安堵する。
「うん、そこは大丈夫」
『ならいいんだ。それで、進捗はどうだい?知恵だけなら貸せるけれど』
芦花は今まで調べた情報を共有する。
同時にオコジョ君の視界も共有し、それらをすり合わせながらナイアも考察する。
「やっぱり、情報が少ないよね。でも」
『あぁ、言いたいことは分かるよ。恐らくだが』
根本的な原因は、サリアではない。
「やっぱり」
『まずもって、クロックバックには依代が必要で、破壊されればその時点でループは終わるはず。そこまで悩める聡明な彼女が依代を探さないはずがない』
「てことは…誰かが依代を持っている?」
『そう考えるのが自然だね。この魔術はいわば魔道具を作るものだから、術者が常に持っていなくてもいい』
「となると怪しいのは…」
『メイドや執事、そして』
「…アルコアさん」
『その線が一番可能性が高い。オコジョ君の記憶だけではノイズが多いから断定はできないが…ヤチヨやかぐやなら記録が残っているはず。合流してアルコア君の会話を遡り、そこを突いて依代を見つけ、破壊すればそのループは終わる。後は私が合流して、呪いでも何でも消し去ってしまえばそのシナリオは晴れてハッピーエンドだ』
「……うん…」
流石と言わざるをえない頭脳。例え過去や未来を知る術を持たずとも、その場にいずとも、答えを導くだけの知恵がある。しかし、芦花はどこか引っかかった様子で言葉を濁らせる。
『心配せずとも、そこまで分かっていればあとは早い。今日はもう休んだほうが良いよ。私が見張りを引き受ける』
「ねぇ、ナイア。これって…本当にあの二人だけなのかな」
『それはどういう意図の質問だい?巻き込まれた人間としては島全体だと思うが…』
「ううん、そうじゃないの。何か、ちゃんと言えないけど引っかかるの、何かを見落としてる気がする」
『…その感覚は大切にしたほうが良い。その場にいる者、その空気に触れた者にしか分からない何かがあるはずだ。一歩を踏み出す勇気を、私達は知っている』
「でも、もしそれで取り返しのつかないことになったらって思ったら…」
『大丈夫。何があっても、私は必ず君の隣にいる。たくさん迷って、でもけして躊躇わないで、そうやって君は私を救ってくれたんだ」
沈むほどに優しい声色。横に佇む使い魔に、最愛の彼の姿が重なる。近くにいないのに、会いたくて手を伸ばす。
「あ~もう…私をこれ以上駄目にしてどうしたいの?」
「おや、それは私のセリフだ。君なしでは生きていけないと身をもって証明しているつもりだがね?」
自分のほうが、私のほうが。そんな言葉と、他愛もない雑談が洞窟内に静かに木霊していく。
「あれはナイアのせいだって!」
「そうだねぇ。でも、愛する妻に沢山美味しいものを食べてほしいと思うのは自然だろう」
「自分はあんまり食べないくせに!」
「少食なんだ。君の作ったもの以外はどれも些事だしね」
「もう…沢山話したら疲れちゃった」
「そうか…やっぱり、もう休んだ方が良い。何度も言うが、芦花が私の第一優先。それに、これ以上話していると、無理矢理君に会いに行ってしまいそうだ」
静かに、寂し気に語るナイア。休むよう提案した彼は、珍しく自分の言葉を覆すように言葉を続ける。
「なんて…すまないね、疲れているはずなのに」
「ううん…私も会いたい。でももう少し待ってね。そっちに戻ったら、のんびり映画でも観て、昔の話を沢山しよ?ね、約束」
「あぁ、約束だ」
その後もぽつりぽつりと静かに話し、気づけば芦花は岩壁に背中を預けて眠っていた。
────
数時間後、ガタガタと地鳴りがすることにナイアが気づき、オコジョ君の身体で静音の魔術を使って洞窟の外を確認する。
「旅人殿!いるならどうか返事を!!」
サリアならまだしも、アルコアにこの姿で話しかけるのは難しい。ナイアはオコジョ君の指示を出してアルコアに呼びかける。
『キュキュウゥッ!!』
「むっ!?何奴!…なんだ、ネズミか」
『ギュギュキュッ!!』
「すまなんだ。今は旅人殿を見つけるのが先でな。餌は持っておらん。あと1時間もすれば夜が明けるのだ、急がねば」
ネズミと間違われたうえに言いたいことが伝わらずに地団駄を踏むオコジョ君。しびれを切らし、アズルステラに飛びついて無理矢理頭の毛を引っ張って洞窟へ誘導する。
「むぉっ!?アズ!何処へ行くつもりだ、そちらには何もないぞ!?」
馬身と合わせて3メートルを軽く越す巨体。茂みの中へガタガタと鎧を揺らし、木々を擦りながら向かっていく。
「っ…やっと止まったか…む?」
アルコアが洞窟を発見し、やっと見つけたとオコジョ君は溜息をつく。
近づいて膝をつき、甲冑の越しに芦花の額や心拍の上下を確認する。それを見たオコジョ君はキレて何度も殴打するが、アルコアはそれを掌で受け止めて簡易的な診察を続ける。
「旅人殿の同伴か、許されよ。儂はお嬢様に…」
「!!?」
騒ぎに気が付き、起き上がって飛び退く芦花。
寝起きに目の前に巨大な鎧が現れたことで、うっかり魔術を使ってしまう。
魔術【透明な触手の使役】
ボグォッ!!
芦花の持つ魔術のなかでも特に攻撃力の高いもの。
ナイアと違って一本しか使役できないが、その剛力でアルコアを攻撃する。しかし、鈍い音を立ててそれは叩き落とされた。
「落ち着きなされ。お嬢さん、儂だ。主の命で貴方を探しに来たのだ」
「あ、すいません。ちょっとびっくりしちゃって…」
「うむうむ、数時間も夜の森は恐かったろう。安心めされ、この儂が来たからにはもう安心ぞ」
アルコアは笑い飛ばし、しゃがんだアズルステラに芦花を乗せるために差し出し出された手を取った。
「戻りましょう、皆がお待ちですぞ」
不安定だからとはいえ、馬上で近づいたアルコアとの距離にナイアが嫉妬し、オコジョ君を通してずっと鎧を蹴っている。
「中々威勢のいい護り手よの。ろか殿も心強かろう」
「あ、あはは…えと、そうですね」
森を抜け、やがて海岸に出る。朝日が昇り始めることから方角的には東のようで、芦花は思わず目を細める。
「む…夜明け前には戻りたかったが、致し方あるまい。アズ、大丈夫か?」
ブルルッと喉を鳴らして返事をして加速する。
負けず嫌いで紳士な馬で、思わず芦花はアルコアにしがみつく。
『ギュギュゥッ!!』
「ちょっ、ごめんって、これは無理無理。大人しくしてて」
聞き耳【成功】
カチ…コチ…カチ…コチ…
「?」
アルコアのの鎧に近づいたことで、何かの音が芦花には聞こえた。聞き馴染みがあるようで、そうでないような何か。
「…アルコアさん、何か──」
「うむ!ついたぞ、ろか殿!急ぎ皆に無事を知らなければな!」
タイミング悪く、芦花の疑問は流されてしまった。
今回の情報
・魔術書発見
・芦花救出
・アルコアが真犯人…?