ゲヘナ・ピンクアーカイブ   作:オサシミの化身

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性懲りも無く始まりましたゲヘナ・ピンクアーカイブ。

2作とは別世界線の主人公になります。

投稿ペースについては活動報告の方によろしくお願いします。




俺とヒナ

 

─────ゲヘナ学園には白河ゴウという男子生徒がいる。

 

 

噂によれば身長2m、体重180kg。ヤンキーの証であるようにポンパドール、所謂リーゼントヘアが特徴的で、くしゃりと笑えば泣く子も黙らせる笑みを浮かべ、胴や手足は樹齢1000年を越える屋久杉のように雄大で逞しい。

 

その恵体は十全に活かされており、身体能力はキヴォトスにおいて常軌を逸していた。愛銃の還り雲(M1897)を軽々と操り、走れば高速道路をかっ飛ばす車と競い合い、拳でアスファルトを砕き、蹴りで重戦車の装甲を打ち貫く。

 

そして戦闘能力の高さも確かなものである。それはかつて執り行われた万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)と風紀委員会の今年度2度目の合同演習が物語っていた。

 

食堂の食券100枚、遅刻見逃し100回を餌に集められた不良たちを、万魔殿と風紀委員会の合同部隊が鎮圧するという演習。今年度の第1回と前年度の全てにおいて、“単独の第3勢力”として参戦。何度かは風紀委員長と故障を理由に撤退した戦車1両を除くその悉くを単独で沈黙させたのである。

 

そんな彼について知るため、私はゲヘナへと赴き、様々な人物を当たることにした。

 

ゲヘナの最高権力、“万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)”議長、羽沼マコトは語る。

 

─────ホントにあれは同じ人類なのか、と。

 

ゲヘナ最強、風紀委員会委員長、空崎ヒナは語る。

 

─────なんで風紀委員会じゃないのかしら、と。

 

ゲヘナにおいて唯一本格的な医療知識を持つ救急医学部部長、氷室セナは語る。

 

─────“死体”になりそうにないので興味がありません、と。

 

ゲヘナ学園の胃袋を握る存在、真の最強と名高い給食部の愛清フウカは語る。

 

─────美味しそうに食べてくれるから好きだよ、と。

 

 

……話はそれてしまったが、一風変わっているとはいえ、ゲヘナにおいて珍しい平和的な部活に所属しながら、付けられる渾名は“凶器(リーサル・ウェポン)”。

 

本項では、表立った組織に所属していないが故に情報少ない彼について特集していこうと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────だ、そうよ」

「おいおい、勘弁して欲しいぜ。俺はいつからそんな化け物みたいな巨人になった?」

 

珍しく勤務中に破顔する白いもふもふ、空崎ヒナは雑誌を片手に俺へと微笑んだ。

 

見覚えがある。確かクロノスの生徒が自費出版したとかいうゴシップ誌だ。嫌気がさすような内容ばかりのその雑誌を床へと投げ捨てると、それを青い髪をした女子がすぐさま拾い上げる。

 

「委員長が貴方に渡した本だと言うのに、なんという扱いを……っ!」

「っるせぇ。その頭おかしいヨコチチしまってから話しかけてこいや、ぎょーせーかんどの」

「これは正装ですし、その舐め腐った態度を何とかしなさいっ」

「あー、乳牛がなんかほざいてら」

「……覚悟はできてるんでしょうね、この化石ヤンキー……っ!」

「誰が化石ヤンキーだ乳牛こらぁ……っ」

 

屋内だと言うのにセーフティをあっさり外した拳銃を片手に迫り来る青髪、天雨アコを見下しながら、俺は拳を打ち付ける。

 

上等だ。そう思っていると後ろからしなやかな褐色の指が俺の目を塞いだ。

 

「はいはい、アコちゃんもゴウくんもそこまでにして。ここ、風紀委員室だからね?」

「んだよイオリ、面白くねぇことすんじゃねぇよ」

「そうですよイオリっ、そこのヤンキーは1度痛い目に合わせないと─────」

「アコ、そこまでにして」

「はい委員長っ」

 

相変わらずの委員長第1主義だ。あっさりと拳銃を仕舞う音がした。

 

まぁ、そんな彼女に対して俺も俺だ。火薬と制汗剤の匂いに目を覆うしっとりとした感触、背中に当たるふたつの膨らみを、今はとにかく楽しんでいた。

 

彼女、クラスメイトの銀鏡イオリの手はどうにもしっとりしている。前線で戦う彼女の手には、小傷やタコ、マメといった硬い部分も当然ある。だが、それを加味しても吸い付いてくるような肌と暖かい体温が心地いい。

 

「……イオリ、そこまでにした方が良さそうですよ」

「チナツ?」

「背中に当たってますよ」

「ちっ」

「……ん?……あ、なっ!」

 

その瞬間、目を抑えられたまま背中を蹴られた俺は数歩よろめき、立ち直る。一般生徒ならそのまま地面に倒れるのだが、タフさには自信があるのだ。

 

振り返り、赤縁メガネの位置を直してため息をつく女子、火宮チナツを睨みつける。

 

「おいおい、余計なこというなよ。せっかくのボーナスタイムだったんだぜ」

「ボーナスタイム言うなっ!バカ!」

「あなたがスケベな顔をしていると、風紀が乱れるんです。イオリも、彼と距離が近すぎるのはダメだと言っているじゃないですか」

「そ、それは……」

「待てよ、俺はしゃーねぇーだろ?なんせ、イオリがおっぱい当ててくれてんだ。楽しまなきゃな」

「あ、当ててた訳じゃないんだけど!?」

「ふたりとも、風紀を乱すのは行政官の服装だけにしてください」

「……なぜそこで私の名前を出すのですか、チナツ」

「……お気になさらず」

「こっちを見なさい」

 

行政官から露骨に顔を背けるチナツの横で、顔を真っ赤にして胸をガードするイオリが俺に向かって中指を突き立てる。

 

「そんなことすんなよイオリ。俺は嬉しいぜ。お前から当ててくれるなんてな」

「だっから、当ててないっての!あた、当たっちゃっただけだって!」

「恥ずかしがんなよ。ま、俺はデキる男だ。そういうこと(・・・・・・)にしといてやんよ」

「ほんと、話が通じない……っ!」

「かわいいなぁ、イオリは」

「きもいっ!しねっ!」

 

近寄り、そっと抱きしめようとすると、鼻息を荒らげながらクラックショット(彼女の愛銃)の銃身を掴んでストックを振りかぶる。流石の俺も彼女の銃のストックに施された逆さ棘で殴られるのは痛いが故にここは身を引いた。

 

「私からは、なんとも」

「くぅ、ヤンキー、イオリ!あなたたちもそう思うのですか!?」

「何がだよ」

「ごめんアコちゃん。そっちの話聞いてなかった」

「私の服装が─────」

「─────隙ありだぜっ」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!」

「聞けっ!」

 

救急医学部に用があるので、そう言って飛び出して行くチナツから標的を移したアコが俺たちに詰め寄る。そして、それに気を取られて銃を下ろしたイオリを、俺は全力で抱きしめた。

 

「─────なにイチャついてるんですか……っ!」

「っおう。ラブラブだぜ俺たち。知らなかったのか?」

「ラブラブでもないし、イチャついてないからねっ!?ってか、汗臭っ。ギブっ」

「んな事ねぇだろ?ほら、前に俺の服に顔を─────」

「─────もう、黙れぇー!離せぇー!いっそ殺せぇー!」

「こうなったら……っ」

 

全力でもがき続けるイオリを抱きしめ頬ずりする様を見て、行政官は思い立ったように振り返り、黙々と書類を読み進めるヒナに向かって。

 

「委員長!私たちもイチャついて対抗を」

「しないから。したくもないし」

「そんな、委員長……。委員長ぉぉぉぉぉっ」

「うるさい。仕事中なの」

 

だがヒナはアコには一瞥もくれず、印鑑を押した小さな手を行政官を追い払うように2度3度動かす。そのショックからか、行政官はボロボロと大粒の涙を零し、フラフラと膝から崩れ落ちた。

 

「ほら、見ろよあの哀れなザマを」

「んぎぎぎぎぎっ」

「しゃーねぇ、俺たちの熱烈なハグ、傷心してる行政官殿に見せつけてやろうぜ」

「はーなーせー……っ!」

「つれねぇなぁ」

 

仕方なしにイオリを解放すると、彼女は素早く俺から距離を取り、来賓用のフカフカソファの裏へと隠れてしまう。寂しいものだ。

 

おいおいと泣くような真似をしていると、ことりとペンを置いたヒナが目を伏せたまま2人の名前を呼ぶ。

 

「ふたりとも、ちょっと席を外して欲しいの」

「え、うん。いいけど……」

 

ソファの影から顔を覗かせたイオリがチラリとアコのほうを見る。つられて見てみると、いつの間にやら立ち直った

 

「─────ダメです!絶対にダメです!それだけはっ」

「アコ」

「だって彼ですよ!?今はイオリですけど、イブキちゃんにだって劣情を抱く変態ヤンキーですよ!?」

「イオリはともかく、イブキと彼は兄妹みたいなものじゃない。見ていて微笑ましいわ」

「じゃああの万魔殿の戦車長はどうなんですか!?」

「……見ていて、気分はよくないわね」

「……あれ、なんか思ってた反応と違う……。と、とにかくっ、このヤンキーと委員長と2人きりだなんて私はっ」

「─────アコ」

 

そそくさと退室して行くイオリを見送り、熱弁する行政官を遮ってヒナが話す。

 

「アコが私のことを心配してくれてるのはわかるし、うれしいわ。でも、今日彼をここに呼んだのは2人っきりで話したかったから。そのことはわかってくれる?」

「……はい」

「それに彼はアコの思うような悪い子じゃないわ、それとも」

 

席を立ち、しゅんと顔を落とす行政官へと歩み寄るヒナ。そっと伏せられた頬に手を添え、上目遣いで小首を傾げ。

 

「─────アコは、彼に私が負けると思ってるの?」

「いえっ!そんなことは決してありません!」

「なら、大丈夫よね」

「何断言してんだ乳牛……っ!」

「乳牛はやめてください!……委員長がそこまで言うのであれば、私も席を外します」

 

行きますよイオリ、というアコにあいつならもう行ったぞと返せば、顔を真っ赤にしてこちらを睨みつけ、部屋を出ていく。

 

「……やっと本題か?」

「えぇ、そうね。座ってちょうだい」

 

そう言って部屋の鍵を閉めてカーテンを下ろすヒナをよそ目に、俺は1人ソファへとドカりと座り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────私はこうしたいだけなのに、なんでアコはいつもじゃまするの……」

「あー、あいつなりに心配してくれてんだろ」

「ほんと、余計なお世話……。私、みんなより強いもん」

「そうだな、つよいつよい。ヒナは強いよなぁ」

 

胸元に押し付けられた頭をグリグリと撫でてやる。癖のある見た目とは裏腹に、ボリューミーなその髪に俺の指が絡まることなくすり抜けていく。

 

その度に背中へと回された小さな手足が、きゅっと俺の胴を締め付ける。

 

「ゴウもひどい」

「ん?何がだよ」

「だって私が呼んだのに。ゴウはなんでイオリばっかり構いに行くの……?」

そっと顔を上げ、涙で潤んだアメジストの瞳で俺を見つめる。背から離れた手が、俺の頭へと伸びていき、そして。

 

「この髪型、やだっ」

「なっ、おい」

 

ぐしゃぐしゃと俺のポンパドールを崩してしまう。セットするのだって簡単じゃないのに、とは口が裂けても言えないが。

彼女の瞳にボサボサとした髪のオレが映り込み、しばらくしてその目を細めてひとつ頷き。

 

「やっぱり、そっちの方が好き」

「……そーかい」

「もう1回、抱きしめて」

「はいよ」

 

再びぽすりと胸に顔を埋めたヒナを、俺はしっかりと抱きしめる。

 

─────何時からだろうか。ヒナがこうして俺に甘えるようになったのは。

 

覚えているのは去年、俺が入学したばかりの頃だ。

 

去年の俺は、自分で言うのもなんだがかなりの不良だった。異常にタフな身体に周囲との圧倒的な体格差によるステゴロ。スケバンだろうとヤクザだろうと風紀委員会だろうと、何度も撃退した俺は向かうとこ敵なし、学園のトップに立ったような気分だった。

 

だが、そんな俺は、懐でシナシナになっている1人の女子に敗れたのだ。

 

いつもの様に利権を巡るヤクザと企業の抗争にカチコミをかけてその両方を殴り倒していく中、現場に現れたのは彼女だった。

 

『貴方が“凶器(リーサル・ウェポン)”ね』

『誰だ、テメェ』

『風紀委員長、空崎ヒナ。別に、覚えなくてもいいわ』

『上っ等っ!』

 

─────そうして拳を握りイキリたった俺は、あくび混じりの彼女に片手間で畳まれた。

 

ショックだった。悔しかった。だが、それと同時に、心に満ちるものがあった。

 

数ヶ月後、俺は“万魔殿(パンデモニウムソサエティソサエティー)”の議長からの誘いで、それ以降停止していた学籍の復活を条件に参戦した演習(・・)という場を借りて、彼女と再戦を果たした。

 

彼女はやはり強かった。取り巻きも不良もとにかく平らげて、以前よりうんと強くなった俺だったが、またもやあと一歩及ばず彼女の前で2度目の満足(・・)を得て、そして倒れた。

 

満足だった。満腹だった。だが、満たされたその腹は、そのうちまた減り始めた。

 

そこで学籍の復活した俺は一般生徒として彼女の元へ向かったのだが─────。

 

ぽすり、と頬に手が添えられる。ちいさくてぽかぽかと温かい、だが俺を易々となげとばせるヒナの手だ。

 

「考えごとしてるの?」

「昔を思い出してただけだ」

「昔って、去年のことじゃない」

「るせぇ、昔は昔なんだよ」

「……ふふっ、へんなの」

 

頬を撫でていた手が後頭部へ向かい、髪を撫でて首からシャツの中へ侵入する。なんとも言えないくすぐったさに、背筋がゾワリと震えた。

 

「約束、守ってくれるんだね」

「当たり前だろ。お前っていうご馳走を何度でも味わえるんだからな」

「そう」

 

─────なら、私はあなたに付き合ってあげるから、あなたも私に協力して。

 

その日、とんでもないクマをこさえた彼女から言われた条件は、俺を満足させる代わりに自分を満足させて欲しい、というものだった。

 

なんでまた、とは思ったが、相当疲れていたらしい彼女は、ついその日に聞いた“異性とのハグにはストレス緩和効果がある”という話を実行に移してしまっただけだったそうだ。

 

だが、どうにもコレが癖になってしまったようで、こうして時おり呼び出されては、彼女に付き合っているのだ。

 

「ん、なでなでもして」

「あいよ」

「背中もなでて」

「あいあい」

「あと上着、私に被せてほしい」

「汗くせぇかもしれねぇぞ」

「……それがいいの。なんでかは聞かないで」

「聞かねぇよ」

 

内心は不思議でいっぱいだったが、とりあえず彼女のお願い通りに上着、革ジャンを被せてやり、背中と頭を優しく撫でる。

 

一応消臭ケアはしているが、なんて思いつつ、ぽかぽかと温かいヒナをそっと抱きしめる。段々と俺が眠たくなってきた。

 

「ゴウ」

「んだ」

「眠く、なってきちゃった……」

「俺もだ……」

「ねぇゴウ」

「なんだっての」

「今度からイオリにはハグしないで」

「はぁ?」

「イオリの匂いがする……。なんか、やだ」

「そ、そうか?」

「あとチナツとアコは見ないで」

「無理だし、なんでだよ」

「おっぱいもおしりばっかり、見てるから」

「男だからな、仕方ねぇよ」

「………………そ」

「おう」

「ゴウ、おやすみ」

「おう、おやすみ、ヒナ」

 

 

 

 

 

 

 





ということで、感想とか評価とかよろしく♡

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