感想でバレた通り、主人公くんは元々考えてたリーゼントヤンキー生徒に、最近見たとあるアニメの主砲がインストールされました。シカタナイヨネ。
カチッというこ気味のいいオイルライターの音がバルコニーに響く。吸い込んだ煙をふうっと吐くと、ふたつの紫煙が風に消えていった。
この瞬間は好きだ。吸って少しするとじわじわと
「─────げっほ、げほっ!うぇぇぇ、げっほ!」
「おいおい……」
だが、そんな俺のチルタイムは風にかき消される煙と同じようにあっという間に散らされた。
横を見ると、まだ灰さえできていないタバコを不慣れに摘み、激しく咳き込む女子がひとり。ボリューミーなストロベリーブロンドの髪を揺らす、大きく開けた胸元にタイトなスカートという、ぶっちゃけ目のやり場に困るヤツ。
1年の頃から付き合いのある同級生、夜桜キララである。
「うぇ、煙いし苦いし気持ち悪いし、なんなのこれぇ」
「だから言ったろ?吸うもんじゃないってな」
片手で携帯灰皿を差し出すと、どこで覚えたのかまだまだ長いタバコを灰皿の中でぐりぐりと潰す。タバコなんて稀少品、安いものじゃないというのに、なんとももったいないものだ。
なんてったってここは未成年の楽園キヴォトスだ。ご禁制のタバコワンカートンをめぐってブラックマーケットで強奪にきたスケバンとマーケットガード共相手にドンパチカマしてきたんだ。
ブラックマーケットに行く遠征費どころか
「だって、ゴウちゃんがおいしそーに吸ってるから」
「俺は慣れてるからな」
「なにそれー」
もう一度大きく、ゆっくり吸いこんで、そして吐き出す。横で切り替えたのかぼんやりとこちらを眺めていたキララが、うーんと唸った。
「なーんかすっごく甘い匂いするのに、けむりは甘くないんだね」
「そうか?こいつは相当甘いほうだぜ」
「全然そんな感じしなーい」
タバコ吸ってるからおかしくなった、なんて聞いてくるキララの顔目掛けて煙を吹きかける。するとぎゃーっとらしくない声を上げながら手を振り回して距離をとる。
「甘いだろ?」
「……たしかに甘いけど、やっぱ変な匂い」
「そうかよ」
「それに口の中変な感じするし、健康にも悪いんでしょ?やめたほうがいいってー」
わかってねぇなぁと肩をすくめると、わかんなくていいしとキララは眉を顰める。それでもまた隣りに寄り添って、一緒に星空を眺めた。
「キレイってか、めちゃロマンチックだよねぇ」
「なんてったっけ、
「そそっ。でもあたしのスマホじゃキレーに映えないんだよね」
「そうなのか?」
「やってみ?」
言われて懐からスマホを取りだし、カメラを起動して雲ひとつない星空へと向ける。しかし画面には、真っ暗な夜空が映し出されているだけで。
「あー、マジだな。真っ暗じゃねぇか」
「でしょー?ってか、そもそもゴウちゃんのスマホめちゃ古くなかったっけ」
「わかんねぇけど、キララが言うならそうなんだろうな」
「ならスペック的に無理系じゃん」
「型落ち扱いすんじゃねぇよ」
スマホなんて消耗品、買い直したところで直ぐに壊れてしまうのだ。耐衝撃性だの対弾性だの耐爆性だのと各メーカー、とくにカイザーなんかはそこら辺てんこ盛りの超高スペックなスマホを出していたりはするが、それは如何せん高すぎる。
それにそんなスマホでも
そんな事情は知らないで型落ち扱いをしてくるキララを小突きつつ、残り短くなったタバコを咥える。
夜空にスマホを向けて、今度は撮影方法を検索し始めて。オレが煙を吐き出す度に鼻をぴくぴくとうごかして、渋い顔をする。そんなキララを眺めているうちに、ついにタバコを吸いきってしまった。
殆どフィルターだけのタバコを灰皿で揉み潰して、新しいタバコを取り出す。再び夜空へスマホを向けるキララを横目にオイルライターを取り出してた。
その瞬間、ガラリと背後の掃き出し窓が開かれた。ゆったりと振り返るとそこには銀髪の女子がいて。
「まーた吸ってる。キララちゃん、臭いつくし離れた方がいいよー」
畳まれたエプロンを手に鼻をつまむジェスチャーをするのは旗見エリカ。キララの友達ということで知り合い、何だかんだで仲良くなった女子だ。
たしかに、なんて笑いながら距離をとるキララの姿に俺は咥えていたタバコを仕舞った。そもそも匂いが移るのなんざ今に始まったことではないだろうに。
「別にパクられやしねぇんだ。気にすんなよ」
「それ、ゴウちゃんが逃げ切るからじゃーん」
「むしろ匂いが気になるか、なんて言って取り締まりのふーきの 1年ちゃんいじめてたし」
「いじめてねぇよ。言いがかりはよせや」
校舎裏でぷかぷかしてたら突っかかってきたのはあっちだ。ちょっと追い詰めて壁ドンして顎掴んで、そんなに気になるなら嗅いでみろよ、と追い込んだだけである。
もっともしらばっくれたところで、事情を知っているキララとエリカは冷たい目で俺のことを見てくるわけだが。
「ほんとありえないから。かわいい年下女の子の性癖捻じ曲がることしちゃって」
「あー、かわいそー。そんでもって次会った時には、あっお前か、今日は匂わねぇだろ、ってさぁ」
「壁ドン顎クイでも役満なのに、特徴消してる子たちの中にいてもお前はわかるからなって。……この女の敵め」
「やーい、女ったらしー」
「っるせぇなぁ!?言いたい放題言ってんじゃねぇぞ!」
掃き出し窓に身を預けて泣き真似をするエリカと手すりに体重をかけてニヤニヤと笑うキララ。こいつらにからかわせるとどうにも勝てる姿が思いつかない。
「おら、飯できたんだろエリカ。腹減ったんだよ俺は」
「うん。今日はゴウちゃんの食べたがってたカレーだよ」
「肉とじゃがいもはっ」
「ごろっごろにしてあるから」
「─────愛してるぜエリカ」
「はいはい」
そっと半身になるエリカの横を通り過ぎ、サンダルを脱いでリビングに上がる。
まだ微かに残るタバコの匂いを上書きしていく強烈なカレーの香りに、よだれが溢れ出す口内で舌を舐めた。
△
「あー、エリカちゃん大丈夫そ?」
「ちょっと無理」
ルンルンでリビングへあがったゴウちゃんをやり過ごしたエリカちゃんは、そのままゴウちゃんのぶっかぶかなサンダルを履くと、よろよろとバルコニーを歩いて力なく私の隣に着地した。
「もーむり、ほんとむりだから。何考えてんのあいつ……」
「うわぁ」
手すりに肘を着いて顔を覆い隠す。だが、月明かりで照らされた顔は暗い中でもよくわかるほどに真っ赤になっていた。
「愛してるぜ、だって〜」
「やめて」
「エリカちゃんがいちばん言われてるんじゃない?愛してるって」
「っさい」
「あーあ、あたしも言われてみたいなー」
「勝手に言われてれば」
みるみるうちに耳まで赤くなったエリカちゃん。小声でバカだバカだと呟きながらどんどんとしなだれていく。
─────ほんと、そそられるなぁ。
エリカちゃんも、ゴウちゃんも、本当にそそられる。
「でもさ」
「……ん」
「ゴウちゃんってフウカちゃんにも言ってるんじゃないのかなーって」
「…………」
フウカちゃん、愛清フウカ。たぶん同級生でいちばんゴウちゃんに
「あとさ、ジュンコちゃんだっけ。あの子とかちっちゃい頃から言われてそうじゃん」
「あー……」
「今でも会う度にかわいいなぁ、かわいいなぁ。なんて言って、めっちゃナデナデギューってされてるしさ」
「まぁでも、妹みたいなもんだって言ってたし……」
「でも結婚はできるくね」
「うっ。…………はぁ」
赤みが和らぎ、本来の真っ白いキレイな顔に戻ったエリカちゃんはため息をついて空を見あげた。
そしてじとりとした目のまま、手すりに置き忘れているタバコとオイルライターを手にし。
「すぅ、ふぅー」
「あれ、なんか手慣れてきてない?」
慣れた様子で箱からタバコを取り出しオイルライター開き、咥えたタバコに火をつけた。その手馴れた様子に私は違和感を覚える。
以前、彼からタバコを貰って吸った時、さっきのあたしみたいに咳き込んで苦い顔をしていたのを覚えている。だが、今の彼女は涼しい顔でタバコを咥えていた。
ゆったりと大きく吸うゴウちゃんに対して短いスパンで吸っては吐いてを繰り返すエリカちゃんだが、その横顔はどうにも様になっていて。
「……そりゃ、真似したくなるじゃんか、やっぱ」
「好きな男の趣味は、ってことね」
「……うん。ま、そういうことになるのかな」
「へー、認めちゃうんだぁ」
「認めなきゃ、勝てないでしょ」
吸って、吐いて。吸って、また吐いて。そんなエリカちゃんはゴウちゃん曰く
それに、すごく大人びて見えた。タバコと言うよりも、すっと星空を見つめるその目が、そう思わせるのだろうか。
─────なんかちょっと妬けちゃうなぁ。
「ほんと、エリカちゃんも脳、やられちゃってるねぇ」
「その言い方やめて」
「だってそうじゃんかー」
「だとしても─────」
忙しいことにまたまた頬を赤くするエリカちゃんが反論しようと振り返るが、リビングから聞こえてきたゴウちゃんの声にかき消される。
「おーい、早く来いよぁ。そろわねぇと食えねぇだろうが」
「うっさいなー、今行くから待っててー」
「乙女の会話邪魔すんなー!」
「空気読めー」
「女ったらしー!」
「トーヘンボクー」
「揃いも揃ってなんだよぉー」
なおも聞こえてくる早くしてくれよというゴウちゃんのボヤく声にあたしはエリカちゃんと目を見合わせて、そして声を上げて笑った。
「私が作ってやったんだから少しくらいまってろっての」
「お、いうねぇエリカちゃん」
「言わなきゃゴウちゃんの相手なんてやってられないでしょ」
「それはそう」
むしろ自分の意見をはっきりと言うほうが好ましいと言っていたのだから、ほどよく言う程度にはケラケラと笑って終わる。というか、割と身内扱いというか、気を許している相手になら何を言われても許す気がしなくはないのだが。
「それじゃ、行こっか」
「うん。ゴウちゃんが飢えて死んじゃうかもだしね」
「─────そんなにヤワじゃねぇぞ」
再び掃き出し窓からひょっこりとゴウちゃんが顔を出す。先程と違って何時でも気合いマックスなリーゼントはどうやら崩したようで、少し長めの髪が雑に後ろへと撫でつけられている。
「うわっ、やっぱリーゼントないとイケメンじゃん」
「顔はいいんだよね。顔は」
「素行も口も悪いのにね」
「ゲヘナじゃなかったら孤立してそう」
「なんて言い草だよ、おい」
もう一度目を見合わせ、やいのやいのと言ってやると、やれやれだぜと首を横に振る。その動きがまたどうにも面白おかしくて、あたしたちは笑った。
△
「─────」
「相変わらずめちゃ食べるじゃん」
「ほんと好きだよね、エリカちゃんのカレー」
「んくっ。ったり前だろ。美味いからな」
そう言って再びカレーを口いっぱいに頬張るゴウちゃんにキララちゃんはからからと笑う。
ゴウちゃんにキララちゃん。私の大切な2人の親友で、創部予定の“キラキラ部”を立ち上げる予定のイツメン。
出会いはちょっと変わっていた。1年の夏の初めの頃、カツアゲにあっていた私に対し、カツアゲをしていたスケバンから金を巻き上げようとしていたゴウちゃんという対比で私たちは出会った。
その話をキララちゃんにすれば、それあたしの友達だから、なんて言って放課後には彼を連れて落ち合うことになってしまったのだ。
最初はちょっとビビったけれど、話していれば普通に良い奴だし、性格も真っ直ぐで男気があるというか、芯の通った良いとこもあるし、食のこだわりが強いのだが、その食べ方も行儀が良くてなんか微妙に育ちの良さ的なのが滲み出ているし。
それに─────。
「─────おい、エリカ」
「ん……?」
「さっきから呼んでんのに聞こえてなかったのか?ボーッとしやがって」
「どしたん?ゴウちゃんがなんかした?」
「なんで俺なんだよ」
どうやらボーッと黙り込んでしまっていたらしい。ふたりが不思議そうにこちらを見つめていた。
「いや、なんでもないって。それで、何の話?」
「ゴウちゃんがエリカちゃんのカレーだいすきってはなし」
「……まだしてたの?」
「キララがしつこくてな。ってかカレーだけじゃねぇぞ?エリカの作る飯はなんでも好きだ。毎日食いてぇくらいだぜ」
─────もう、このスケコマシは撃たれていっぺん死んだ方がいいのではないだろうか。
作った料理が好きだとか、毎日食べたいだとか、平然と言って素知らぬ顔で笑うゴウちゃんだが、もしこれを狙って言っているのならばとんでもないクズ野郎である。
とはいえ、そんな彼の聞きなれた言葉に反応して頬が熱を持つ私も、ちょろいというかなんというか。
「はいはい、変なこと言ってないで早く食べよ。お風呂、冷めちゃうよ」
「おーう、おふくろー」
「はーい、ママー」
「ふたりして何馬鹿なこと言ってるの……」
今度は3人でそれぞれの顔を見合せて、そして笑った。
ゲヘナ自治区の外れ。キヴォトス基準で行けば下も下だろうと、ゲヘナにおいては比較的治安のいい位置にある3LDKのマンションの一室。いつかはキラキラ部第1拠点となるこの場所が、紆余曲折を経て3人で契約した、私たちの帰る場所だ。
─────ずっと、この空間が続けばいいのに。
5杯目のカレーを平らげて膨れて腹を叩くゴウちゃんに、そんな彼を写真に収めつつ笑うキララちゃん。たとえどんな形になろうとも、この3人でずっといたい。そう思いながら、私はカレーを1口頬張った。
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