ゲヘナ・ピンクアーカイブ   作:オサシミの化身

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評価まじ感謝。


俺とイオリ

 

 

『○○地区東部市街地で複数のヘルメット団と企業所属のオートマタ兵が激しい戦闘を繰り広げているそうです。地域住民への被害も大きく通報が相次いでいます。イオリ、同行している分隊を率いて早急に対処を』

 

そんなモモトークがアコちゃんから地図データとともに送信された。

 

辟易としながらも仕事だからと割り切って確認すると、確かに私のパトロールルート上で、さらにここからなら大体走って10分といったところだろうか。

 

─────さっきから聞こえる銃声と爆発音はこれか。

 

心の中でそうぼやき、後ろを見る。そこには不思議そうにこちらを見る分隊の子達がいて。

 

「あの、イオリ先輩……?」

「どうかされましたか?」

「あー、うん。ちょっとね」

 

アサルトライフルが3人、軽機関銃が2人、ショットガンが1人、グレネードランチャーが1人にスナイパーライフルが1人。そして私を含めた9人の分隊。それも。

 

私以外全員1年か(・・・・・・・・)……」

 

仕方がない。火力は充分だ。前衛に押し出せるショットガンの子は近接格闘にも秀でていたはずだし、アサルトライフルの子達も連携はそれなりのもの。スナイパーの子がまだまだリード(狙い越し射撃)を訓練中なくらいで、行けなくはない戦力だ。

 

とはいえ、これじゃあ私が前線で頑張らないとダメそうだ。その後に控えている報告書のことだけでも頭がいっぱいだと言うのに、あまり戦闘で疲れたくないのだが。

 

「ちょっと行ったとこで戦闘起きてるらしくてさ、アコちゃんからちょちょっと鎮圧してきてって」

「えーっ!?」

「だ、大丈夫なんですか……?」

「んー、みんなの頑張り次第かな」

「そんなぁ」

「あの先輩が今日は楽な遠足だって言ってくれてたのにー 」

「3年のか?あの人前からどんな任務のことも愉快な遠足だって楽しんでる戦闘狂だぞ」

「うそぉー!?」

「だまされたぁ!」

「そもそもうち(風紀委員会)に楽な日なんてないからな。覚えとけよ新人共」

 

へにゃりぐにゃりと弱るひよっこたちの姿に、ふと昔の自分が重なった。正直いって、ここまでハードだとは思ってもみずに妙な正義感から風紀委員会の道を選んだ自分と。

 

そしてあの時は、そこでタバコをふかしながら歩くリーゼントヤンキーに何度も何度も─────。

 

「─────ゴウくん!?」

「ん、なんだイオリじゃねぇか」

 

甘ったるい煙を漂わせ、咥えタバコのリーゼント、白河ゴウが歩いてくる。

敵とみなせばその全てを拳で打ち砕き、未成年喫煙と飲酒の容疑で停学を受けていた元不良の規則違反者ではあったが、去年委員長に負けてからというものの雰囲気がガラリと変わって普通にすごすようになった男の子。

 

─────というか、街中で堂々とタバコを吸うな……っ!

 

そちらの学生が路上喫煙している、なんて通報が入るとまた面倒臭いんだ。そう頭を抱えていると、後ろに控えていた後輩の子たちがわらわらと彼の周りを囲った。

 

「ゴウ先輩じゃん」

「お疲れ様です。リーゼント先輩」

「おっつー」

「おう、お前らもお疲れさん。何してんだこんなとこで」

「お仕事ですよぉ、パトロールですよぉ」

「あと通報の対応であります!」

「今日はイオリ先輩からご指導受けてます」

「そーかそーか、ご苦労さん」

「いえいえ〜」

「そういうならジュース奢って〜」

「ナマ言うんじゃねぇぞ、こらっ」

「うぇぇぇ、イッタぁい!?」

 

─────ほんと、好かれてるよなぁ。

 

不思議なことにこのヤンキー、風紀委員会どころか“万魔殿”の1年生から慕われており、それもパトロール中どころか訓練の休憩中だろうと彼が通りかかれば彼の元へ向かう始末。

 

今も普段そんな素振りを見せない子が彼のことを揶揄って、その大きな手のひらでアイアンクローを食らっている。それを見て笑う全員、私と話す時よりもよっぽど自然体で話す後輩たちの姿に、少しだけ嫉妬してしまう。

 

「痛いです!離してくださぁい!」

「ばっかだなぁ。んで、先輩はこんなとこで何してんの?喧嘩?取り締まりいる?」

「いらねぇよ。ちょっと酒買ってただけだっての」

「はい逮捕ぉ!」

「イオリ先輩、犯人を確保しました」

「現行犯です、マム!」

「誰か手錠つけてー」

「やめろ、触んじゃねぇぞ」

 

アイアンクローは継続したまま、肘にかけたレジ袋から取り出したぶらぶらと琥珀色の液体の揺れるガラス瓶を手に笑う彼に、みんなが揃って手錠を取り出す。

 

やいのやいのと盛り上がるみんなを見ていると、スマホが再び唸り出す。そして、どかんばかんと大きな爆発音が2回。感覚的にここから500も離れていない場所からだ。

 

「くそっ、忘れてた……っ」

「銀鏡先輩のうっかりやさーん」

「うるさいぞそこ!」

 

忘れていたのはゴウくんのせいだ。後輩から取り上げた手錠を握りつぶす彼に心の中でそう冤罪を擦り付ける。

 

そんな彼は手錠の始末書に震えながら慌てる後輩を他所に、首を傾げるとショットシェルが並ぶスリングベルトに手をかけた。

 

「……なんだ、そういやさっきから騒々しいな」

「なんだって、なんかヘルメット団と企業のオートマタがやり合ってるらしくてさ」

「こんな街中でか?相変わらず呆れるほどに末世的だなゲヘナは」

 

嫌になるね、とかぶりを振るゴウくんだが、彼もまたかつては街中で暴れていた人物の1人である。それも、かなり大々的に。

 

我こそが最強とイキリだち。邪魔をするスケバンや企業は軒並み拳で平定。“凶器(リーサル・ウェポン)”なんてあだ名をつけられて、敵対者となれば拠点や事務所を殴り壊す(・・・・)こともザラという危険人物。それが彼である。

 

そして思い出した。あまりの凶暴さに停学をくらっていた彼が復学するにあたって取り付けられた条件、そのひとつを。

 

「……ゴウくん」

「ん」

「頼めるかな」

 

─────白河ゴウは万魔殿及び風紀委員会の協力要請を断らず、要請者に必ず従うこと。

 

「─────任せとけ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────死屍累々。

 

少し前に読んだ作品に使われていたそんな言葉が、目の前の光景によって脳裏をよぎった。

 

殴られ、蹴られ、撃ち壊されて。倒壊した建物に散乱する家具、倒れた電柱に砕かれたアスファルト、それらに重なるようにして、至る所に彼女たちは落ちていた(・・・・・)

 

「うっ」

「……大丈夫?」

「う、うん……」

 

分隊のひとりが怖気付き、力なく後ずさる。アサルトライフルをぎゅっと旨の前で抱える彼女は、恐らく私が知る限り特に彼に懐いていた子だった。

 

それ以外も見たことのある者とない者で反応が正反対に別れている。当然だろう、これほどまでの惨劇はなかなかお目にかかれないだろうから。

 

「おう、終わったぜ」

 

そして、その災禍の中心でニヤリと彼は笑う。リーダーと呼ばれていたスケバンの襟首を左手に。すっかり弾のなくなったスリングベルトを回してショットガンを背に。右手には、もぎり取られた企業側のオートマタの頭部があった。

 

「こいつらお互いのリーダーだから。こいつに関しちゃ電脳からデータ抽出できるだろ」

「そりゃできるけどさ、やりすぎ」

 

続々と到着する風紀委員会の増援や状況検分にきた万魔殿の生徒があまりの光景に絶句し、その間を縫って救急医療部が倒れた生徒たちを保護していく。しかしその目には、得体の知れないものを見るような恐怖があって。

 

「そんな顔で見るなよ。興奮してくるだろうが」

「怖いって。はーい、みんなそこのリーゼントから離れた方がいいよ〜」

 

危険だからね〜。などと笑ってみるが、空気が軽くなることはない。そんな中、1人の絶叫が響く。

 

「─────なんですかこの惨劇は……っ!」

「おっ、アコちゃんじゃん」

「来たんだな」

「事後処理の現場観察だね」

「項垂れてんなぁ。情けねぇ」

 

やってきて早々で余りの被害に膝から崩れ落ちるアコちゃんの前に荷物(・・)を置いた彼は邪魔な瓦礫や倒れたスケバンを蹴飛ばしながらこちらへと歩いてきて。

 

「おう、それくれ」

 

そう言ってあこで私の持っていたレジ袋をさす。そこそこ重たいそれを受け取り、そして中身が無事なことを確認した彼は、ガラス瓶をひとつ取り出して封を切り。

 

「んぐっ、んぐっ、んぐっ」

「─────は? 」

 

それを口にくわえ、当たり前かのように煽りはじめる。

 

突然の行動に呆然としていると、琥珀色の液体はみるみるうちに減っていき、半ばまで減ったあたりでようやく、息継ぎの為に彼の口から離れる。

 

ボトルのキャップを閉め、口元を雑に拭う彼は気持ちよさそうに笑い。

 

「─────いやぁ、美味い!本当はコーラで割るつもりだったが、こういうの悪くねぇなぁ!」

 

風紀委員を前に堂々と飲酒するなんていい度胸じゃないか、と言いかけてやめる。きっと、今更何を言おうと手遅れなのだろうから。なぜ注意しないのか、という万魔殿の子たちからの冷たい視線を堪えつつ、続けてタバコに火をつける彼を静かに睨んだ。

 

ふわりと風に乗って甘い香りが漂ってくる。だが、それはいつもの少し違う匂いで。

 

「……それ、前と匂い変わった?」

「お、わかるよな」

「なんか色も違うし」

 

ニコニコと笑う彼は懐へと手を突っ込み、ひとつの箱を取り出し、その中からタバコを1本引っ張り出す。そしてそれを私の鼻の下に近ずけると、優しく降り始める。

 

途端に、少しくらりとするほどに強いキャラメルのような香りが広がった。

 

「うっわ」

「どうだ、俺のお気に入りの新フレーバー、キャラメルマキアートフレーバーだ」

「なんだそれ」

「知らん。だがクセになる甘さだ」

 

ドヤ顔でそういうと、口に含んだ煙を私の顔目掛けて吐き出した。目に染みる訳では無いし変に臭いわけでもない。だが、どうにも妙な気分だった。

 

「やめてよ。副流煙とかいって健康に悪いんでしょ?」

「んな事言ったら爆発の粉塵の方が体に悪りぃよ」

「うっさいなぁ、それでもやめて」

「んだよ、つれねぇなぁ」

「……まぁ、いい匂いなのはわかるよ。なんか、カフェにいるみたいな感じかな」

「んだよ、わかってんじゃねぇか」

 

そう笑って取り出した灰皿に灰を落とす。建物やインフラは容赦なく破壊するし路上喫煙するしなんなら飲酒もする。だが携帯灰皿を持ち歩いているあたり、変に常識的なやつだ。

 

目を細めて美味しそうにタバコを吸うゴウくんの横で、私はぼんやりとこの惨状を眺めた。相変わらず、人力で起こされたものとは思えない被害である。

 

─────こりゃ、アコちゃんと経理が被害総額に泣くなぁ。

「委員長でもこうはならないのに、何してくれるんだ」

「そりゃ、パワーだけなら俺の方が強いからな。あと、ヒナ以外の全てが脆すぎる」

「ちがう、おまえがおかしいだけだからな。どんな馬力してるの」

「そうか?……ん」

 

気絶したスケバンをまとめて押し潰す中型トラックを数人がかりで揺り動かす姿を見て、ゴウくんは動き出した。

 

あーでもないこーでもないと奮闘する彼女たちに邪魔すんぜと一声かけて、裏側のフレームを掴むと。

 

「よっこらせっと」

 

一息で軽々と持ち上げ、少し離れたところに投げ飛ばした。

 

「わかったか?こうやってシャーシを掴めば壊れずに持ち上げられんだ。キャビンとかあおりとかは弱いからな」

「は、はい」

「よし、次からは頑張れよ」

 

負傷者の回収にはいる救急医学部すらも気に止めず、片手をあげて去っていくゴウくんの背中に、それぞれ顔を見合わせる。それもそうだ、なんの参考にもならない助言をされたのだから。

 

「んじゃイオリ、ちょっと行くぞ」

「─────へ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ、本当にいいんですか!?」

「おう、気にせずに飲めよ」

「やったっ」

「ごちです、リーゼント先輩!」

「1人1本だからな、あっちでやってるやつらにも声かけてやれよ」

「私行ってきまーす!」

「ならあたし、あっちのやつらに声かけてきます!」

「おう、頼んだぜ」

 

そう言って走っていく何人かを見送って、赤ら顔の彼は喉を鳴らしてコーラを飲んだ。

 

─────あぁ、こういうとこで好かれてるのか。

 

両手に提げたレジ袋を見ると、中には氷と炭酸飲料がある。全て、彼が差し入れだと実費で買ったものだ。

 

ワイワイと騒ぎながら各々が好きなドリンクを手に取り、時たま炭酸の苦手な子が微糖のコーヒーを手に取る。そのことごとくが甘いものばかりなのは彼の趣味だろう。

 

そしてひどく疲れた顔をしていた者も、恐怖に顔を強ばらせていた者も、後始末に頭を抱えていた者も、今は全員が所属の垣根を超えて笑いあっていた。

 

「……化石ヤンキー」

「ん、行政官殿じゃありませんか、ご機嫌麗しゅう」

「そう見えるのなら今すぐに眼科の受診を勧めます」

 

よろよろと目に光のないアコちゃんがやってきて、彼が差し出したコーヒーをひったくり、喉を潤すように飲む。そんな彼女に、新しくタバコを咥えるゴウくんは挑発的に笑い。

 

「そりゃ勘弁だぜ。医者は心底嫌いなんだ」

「それなのに喫煙にタバコに極度の甘党。あなた、長生きしませんよ」

「太けりゃ短くてもいいと思ってんだよ、人生なんてのは」

「……あなたのモノ(・・)とは正反対ですね」

「なにおぅ?太くて長いの間違えだろうが。それに、しょっちゅうひんひん言わされてんのは誰だろうなぁ?」

「なっ、余計なことをっ」

「お前から言い出したんだろ。ったく」

 

─────ほんとは、仲良いんだよなぁ。

 

顔を合わせれば喧嘩ばかり、だなんて言われているが、あの2人のやり取りは仲がいいからこそのやり取りというか。

 

だが、同時に思う。

 

─────ゴウくんの太くて長いモノ(・・・・・・・)でしょっちゅうひんひん言わされるアコちゃん……?

 

余裕の表情でタバコを蒸すゴウくんに赤ら顔でキッと睨みつけるアコちゃん。まさか、もしやと浮かんだそれらを忘れるように、私も自分のコーラを飲み干した。

 

 






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